<序奏>Over Ture 残された名
嘗て・・・世界は戦乱に見舞われ、殲滅の時を迎えんとしていた。
彼の地から放たれた光は世界を造り替えた。
そう・・・
古から存在していた魔砲の力がリセットされた。
物語は神と悪魔が消滅した時から始る・・・
新たな御子が生まれたことにより始ろうとしていた・・・
此処ではない場所・・・
我々の歴史とは違う・・・時空の狭間で・・・
数千年前・・・
この星には高度の機械文明が存在していたという。
人類は己が生活域を機械に託し、自らの発展をも放棄してしまった。
人類は幸福を享受して、堕落していく。
他人の幸せを嫉む者達は、支配下の機械に命じた。
他人より、もっと幸せになるように・・・と。
今以上に。
他人よりもっと裕福に・・・全てのモノを手にしようとして。
機械は命じられた通りに破壊を振り撒いた。
機械は機械を生み出し、奪う相手に襲い掛からせた。
人工頭脳は闘うのに一番適した容を造った。
それは人造人間。
人の形を採った殺戮機械。
人類の代わりに戦う者として、人造人間は代理戦争を一手に担った。
やがて・・・人工頭脳は仲間同士で闘う愚かさを知った。
自分の意志を持つ迄になった戦闘機械は、人類に反乱を起こす。
機械は人類こそが害毒だと認識してしまった。
機械は人類に牙を剥いた。
人類を星の害毒と認識する意志を持った機械に因り、人類は殲滅されようとしていた。
戦争という愚行を繰り返す人類に、戦闘という形で。
星の未来は機械に決定させられるまでになっていく。
殲滅を司る機械に因り、抗う人々は滅び去って行った。
最期の審判が下された時、人類は全て魂を消去されることになる。
それが数千年前に起きた、最初の殲滅。
地上の人類は滅び去る前に、一つの希望を残して行った。
人類を殲滅させた機械に、一つのプログラムを残して行く事に成功した。
破滅する人類を、更生させる方法として。
人類の再生を目指す、唯一つの希望として。
人類は千年毎に審判の時を迎える事になった。
殲滅の機械が発動するかは、審判の女神が判断した。
審判の女神に因り、そこに息衝く者達が星に存続するに相応しいかを量られた。
だが・・・
時の女神達は全て、悪魔の機械を発動させた。
人類は・・・戦争を繰り返した・・・
千年毎に悪魔の機械は人類を殲滅し、新たな人類を創造した。
一体何回、人類は文明を造り直したのか。
一体何回、殲滅の時を迎えたのか。
滅び去る人類は、己が行為に恐怖の時を迎えるだけだった・・・
殲滅を司る機械を監視する者が居た。
人類がファーストブレイクを迎える前。
人類は地上に飽き足らず宇宙をも手にしようと目論んだ。
初めは宇宙ステーションに。
次には、一番手近な衛星へと。
地上における戦闘に因り、宇宙ステーションは撃滅された。
地上を監視していた人工物は、機械に因って粉微塵に消し去られた。
だが、電波が直接入らなかった月の裏側に、生き残った者達が居た。
最初にして最期の生き残り。
彼等は地上へ帰れる日を待ち望み、永劫に近い眠りへ入って行った。
肉体は眠りに就いていたが、何名かの意識は眠りに就かなかった。
地上を監視する為、帰還が叶う時を待ち望んで。
数千年が過ぎ、何度目かの破滅を迎えた時。
月の住人は一つの賭けに出た。
帰還する夢を叶えんとして。
人工頭脳に一つの選択儀を与える為に。
選ばれた子は、始まりの御子として月から送り込まれた。
肉体としてではなく、意識・・・いや。
プログラムとして、悪魔の機械に入り込むべく。
地上に降りた御子たる魂は、なぜか動けなくなった。
そして、その千年周期が終えられた時、またしても破滅が繰り返された。
失敗した・・・月の監視者達は落胆した。
もはや、戻る事は叶わないのかと。
新たな千年周期が始る時、これまでとは違う世界に気付いた。
悪魔の兵器は創世する際に、人類を造り変えたのだ。
星に新たな力を造った。
人に変化を与えた理由・・・最期のチャンスを与えたのか?
月の観察者達も気が付いた、その訳に。
星がもう、耐えれなくなったのだという事に。
繰り返された殲滅光線の影響は、星自体を崩壊させるのだと。
もはや、残された道は一つ。
月の住人達が帰還出来るのは、悪魔の機械を停めるしかないと。
人類を創造した悪魔の機械に、対抗するより他には無いと。
破滅を司る機械。
神にも等しい力を持つ兵器。
地上に居る人類は、その存在さえも知らなかった。
唯、希望は託される事になった。
選ばれし者に・・・破壊を司り、創造をも司る機械に造られた者に託される。
悪魔の機械は前の千年周期に月から降りて来た者が居るのを知っていた。
自らを破壊、若しくは停止させようと送り込まれた者が居る事を知っていた。
人類を殲滅するだけになっていた悪魔の機械は、月から送り込まれた者を利用しようと目論んだ。
自らを停止させる事が出来ないのだと分らせ、二度と手出しをさせない為に。
そして、自らを完全体にする為にも。
停止プログラムを手にする事が出来れば、月の住人は戻る事が出来ない。
機械を停止出来なければ、戻れたにしても千年後には人類は今度こそ完全に消滅する事になる。
悪魔の機械は月から降りた御子を捕えんとした。
プログラムを開示させ、自らを完全体にしようと目論み。
これが最期の闘いになる筈なのだと。
人類と機械・・・残るのはどちらなのだと決定付ける為に。
前の千年紀に降りた御子は動けなかった。
失敗を繰り返さない為にも、月から新たな住人が降りる事になった。
新たな住人は、機械によつて造られた人に願いを託す事になる。
月の意志は、運命の時を待った。
運命の子が持つ事になった石に眠り。
審判の女神を探し出し、己がプログラムを手渡す為に。
石は前任者であるもう一人の意志の存在を求めた。
この世界に未だ存在し続けているであろうプログラムを。
二人が揃えば、悪魔にも対抗出来ると考えて。
月の住人でもある彼女は、目覚めの時を待った。
この世界で生きる少女に希望を託し。
戦争という愚行を続ける人類を、悲し気に見守りながら。
審判の日が近づく中、石を持った御子に子が授けられた。
新たに産まれた希望・・・新たに目覚めんとする力。
月の住人は新たなる希望を芽生えさせた。
産まれ出た子へと宿り直して。
成長する子に石を託した御子から、その子へと。
希望を託された娘。
新たな希望は、世界を救わんと願った。
自分達が存在する世界を悪魔から救いたいと願った。
それは月の住人と重なる願い。
希望の娘は悪魔から世界を取り戻そうと闘った。
自らの力で。
自らに託された希望を果たさんが為にも。
やがて希望は闇を打ち消した。
自らの肉体と引き換えに・・・
月の住人は役目を果たした。
代償は希望の娘を喪う事となった。
悪魔の機械は新たなプログラムに因り世界を滅ぼさなかった。
人類を変え続けた機械は、人類を一部リセットするだけに留めた。
人類を地上に留め続けた空の壁を消し、人類に与えた力を消した。
希望の御子達が手にしていた魔法を打ち消した。
人類に与えたIFとしての力・・・魔法。
闘う魔法使いに与えた魔砲の力も、同時にリセットされた。
創世の光が世界を照らし、今迄魔法持っていた者達から異能が消えた。
機械との闘いに終焉が訪れた時、神も悪魔も同時に殲滅の時を迎えたのだ。
月の住人は役目を終え、帰還の時を夢見て戻って行った。
二人の使者は、月の裏側に居る同胞たちの元へ帰った。
月の住人に選ばれし者は、役目を終えれた。
人として生きる道を与えられた彼女は、しかし希望を見失う事になった。
自分の代わりに、我が子が運命を背負ったのだと思い。
身を挺して救った娘を想い、悲しみに暮れた。
この世界にまだ魔法が存在するのならば、取り戻したいと願いながら。
最期に逢った時に交した言葉を信じ続けて。
魔砲の力で髪を蒼く染めた娘を思い起こして、流れ去る時に身を任せていた。
時は流れ・・・時は廻り・・・
新たに産まれる子達を観ては想う。
ー 必ずあの子は約束を守る・・・きっと私の元へ帰って来る・・・
人類殲滅戦を超えた人類は、再び文明を築き始めた。
折角生き残ったというのに・・・間違いを繰り返そうとしていた。
生存した者達は、一人の女神を忘れたかのようにお互いを牽制し合うようなる。
それは始まりの人類が執った行為と似ていた。
自分達が幸せであれば他人はどうでも善いのだと・・・言うかのように。
嫉み・・・憎しみ・・・奪う。
~ 戦争 ~
各国は生き残った者同士、同盟を結んだ・・・名ばかりの。
有志連合軍として闘い終えた筈なのに・・・利権を争う事になった。
あの闘いは過去になり、人類は新たな脅威を招く事になる。
人類同士の闘い・・・戦争を。
世界を救った娘は、どう思っているだろう?
悲しむべきは希望を見失った世界。
理の女神を失った星。
娘を知る者達は、現実世界に新たな希望を探す。
娘たる理の女神が再び降臨する事に希望を委ねるのか?
新たな希望が芽吹く時、女神も目覚めの時を迎える。
そう・・・
再び。
世界に闇が蠢く時、希望もまた照らされる。
悪魔が蘇らんとする時、古の力も目覚める。
悪魔と闘える力・・・魔法。
創世を司る機械に因り、封じられた筈の力・・・魔砲。
蘇るのは闇だけではない。
復活するのは悪魔だけでは無かったのだ。
リセットされた世界に芽吹いた新たな命。
審判の時から後、新たな運命を背負った子も産まれた。
再び混沌へと導こうとする者が現れた時、新たな希望も産まれた・・・
悪魔と闘う女神を希望というのなら、再び彼女は目覚めるだろう。
彼女こそは人類の希望・・・理を司る女神。
女神の魔法衣を靡かせて闘う娘・・・
碧き瞳に優しさを湛えた人の子だった女神・・・
今はまだ目覚めの時を迎えてはいない。
女神を知る者は復活を願った。
女神としてではなく・・・魔砲の乙女として。
神としてではなく、唯一人の魔鋼騎士として。
「「魔鋼少女ミハル」」
そう呼び讃えて・・・
__________
日の本へ帰って行った。
一人の娘以外。
この世界に居ない娘以外は。
「そう・・・ソレでよかったのね?」
女王が娘に訊ねる。
「ええ、お母様。そうしてって・・・仰られたの」
まだ歳若い皇女が頷いた。
目の前に居るのは今は愛称で言えばリィーン。
娘のルナリーンの姿、声。
「そう?本当に良かったのね、あなたも・・・」
蒼き瞳で女王が訊き返す。
「あなたも・・・あの石を贈って良かったのね、リーン?」
その名は・・・嘗ての妹を指す。
その名は審判を司る女神を意味する。
名を呼ばれた娘から蒼き光が噴き出す。
「そうね・・・そうするのが一番良いと思ったのユーリ姉様」
姿が替わっていた。
金色の髪。蒼き瞳・・・そして。
「あの魔法石はミハルの証。
ミハルが持つべき魔法石・・・だから、授けたの。
帰るべき所へ・・・あの子が帰らねばならない場所へと」
嘗て女神と云われた頃の姿に似た衣装を纏い。
光の中に佇むのは・・・
「リーン・・・あなたも。
やがて復活出来るでしょう・・・あなたの年齢になれば。
それまではリィーンとして過して。
目覚めの時が早まらなければ・・・お願い」
ユーリ王女に頷いた、嘗ての女神が光に溶け込んでいく。
間も無く時が満ち・・・
間も無くやってくると確信して。
「ミハル・・・あなたはきっと帰って来る。
あなたとあなたが宿る者に因って、また世界を救う為に。
魔鋼の力を甦らせ、魔砲の力で闇に打ち勝つ為に・・・」
光となってリィーンの中へ宿る。
女神として目覚めの時が来るのを待ち。
人として目覚めれるのを夢見て。
「私はリーン・・・月の女神を恋焦がれる女神。
世界に平安を・・・安らぎの中で目覚めるのを待つ者・・・」
フェアリア皇女ルナリーン。
娘に宿る女神を知る者・・・ユーリ女王。
いつの日にか訪れる・・・約束の時を待ち望み・・・
輝く月を見上げていた・・・・
魔砲・・・人の子が放った魔法の力。
闇を打ち破る事の出来た魔法。
世界が変えられた瞬間、一度は消えたと思われた異能。
だが、再び世界に闇が現れた時、復活を迎える。
世界が再び闇に支配されるのを防がん為に・・・
次回 <第1章 甦る魔鋼> ファースト!甦る魔鋼 Act1
君は新たな運命の子を見つけられるか?
ミハル 「あなたは大切な人を護れますか? 魔鋼少女の物語・・・始まります」