チェンジ!魔砲の少女 Act4
マリアが振り向いた時には、魔鋼の少女は半べそを掻いていた。
手を振る母親に耳を抓られて。
「堪忍やでコハル。ウチも帰らにゃアカンからなぁ」
心の中で両手を合わせるマリアに、手を振る母と子。
ルマに怒られ続けるコハル。
「まぁ、無事に目が覚めたんやから良いとしようや?」
含み笑いを浮かべて帰路に着いた。
家の目前で襲われた事は黙っておいた。
唯、道場から帰るにしては時間がかかり過ぎた事で怒られているようなのだが。
「まぁ、こんな戦闘なんかもう起こらないやろ」
家の前で起きた闇との闘い。
こんな場所で発生するなんて思いもしていなかった。
ましてやコハルが初めて自分の意志で変身する事態になるなんて。
「コハル!いらっしゃいっ!!」
耳を摘ままれたまま、ルマに連れ込まれるコハル。
「ごめんなさいっ、ルマおかあさん」
謝るコハルをダイニングまで連れて来ると、
「コハル!あなた解ってるの?!
お義母さんから電話があってからどれだけかかってたのよ!」
確かに途中まで送ってくれたミユキと別れてから、時間にして数十分経っていたのだが。
「そんなに怒る程掛かってないじゃない・・・」
怒られるコハルが壁掛け時計を見上げてぶつくさと文句を返すと。
「お義母さんから帰宅したかって訊かれた時に、何て答えれば良いと思ってるのよ!」
心配したミユキがお節介を焼くのはしょうがないだろう。
神官巫女として感じていた気配を心配しての事だから。
「そんなの・・・適当に言っておけば・・・」
良いじゃない・・・そう言おうとしたコハルに。
「あなた!自分が何を言っているのか分かっているの?
あなたはあなたの身体だけ考えていれば良い訳じゃないのよ!」
気が立っていたルマが口を滑らせてしまった。
「コハルはもうコハルだけの身体じゃないのよ!
コハルが闇に染まれば宿る力を悪用したがる輩が喜ぶだけよ!
どうしてコハルにはそれが判らないのよ!」
コハルが魔砲の力を宿したのを知っているのだと。
「ルマおかあさん?」
話した事もないのに、なぜ知っているのかと問いかけたかった。
「コハルは狙われているの、新たな闇に。
もし、捕らえられてしまえばどんな目に遭わされちゃうのかも判らないのよ!」
伝承にも書かれてあった。
新たな闇が産まれた時に、双璧の魔女が蘇ったと。
闇が産まれたから魔鋼も蘇ったのだと。
そして今、自分に魔砲が授けられた。
という事は、闇は必ずどこかに潜んでいる。
いいや、既に何度も目の前に現れていたのだから。
「捕まったりしないよ!だってアタシには魔砲が・・・」
授けられたのだから・・・そう答えるつもりだった。
「いくら女神を宿したと言っても、コハルは魔鋼の術に耐えれないじゃない。
放てたとしても僅かだけの筈でしょ?相手が強力だったらどうするつもりなのよ?!」
確かにその通りだった。
コハルはまだ経験も実力も備わっていない。
心の準備さえも、幼い少女のままだから。
言い募られたコハルだったが、考え方は違った。
「相手が強力だとしても、アタシには女神様が居てくれるんだもん!
どんな化け物が来たって一発で吹っ飛ばして見せるモン!」
ルマの忠告を履き違えてしまったコハル。
こんなにルマが怒った事も無かったから、余計に動揺してしまい。
「だったら今直ぐ闇の者を退治してくるから!」
ルマの制止を振り切って飛び出してしまう。
「ルマお母さんの馬鹿ァッ!」
反抗期にはまだ早いが、怒られた事で心のタガが外れてしまった。
「待ちなさいっコハル!」
続けて飛び出したルマだったが、コハルの姿は闇夜に隠されてしまう。
「コハル?!待ってコハルッ!」
既に姿は道には観えず、ルマの焦りは頂点になる。
「どうしてなのよ!どうして勝手な事ばかりするの?
あなたにはとんでもない呪いが掛けられているというのに!
マモルの代わりに受けてしまったというのに、ミハルぅっ!」
差し伸ばす手が空を切る。
留めたいと願う母が、声を嗄らして叫ぶのは。
「ミハル!あなたはマモルが受けた呪いを受け継いでしまったの!
闇があなたを奪いに来るのを防ぐ為にコハルと呼び続けていたの!
だから、お願い。帰って来て、私の元に。あなたを産んだ私の元へ!」
運命を受けて産まれて来た娘コハル。
そう呼び続けてきた理由、ミハルと呼べなかった理由。
「産まれて来た時に知ったのよ!
ミハルの身体へ呪いが掛けられている事に。
あなたには宿命が与えられている事に。
再び闇が蘇えろうと、ミハルに宿っているの・・・サタンが。
あのケラウノスを再起動させる鍵として大魔王が眠っているのあなたの中に!」
ルマがどうしてそれを知ったのか。
誰から告げられたというのか。
観えなくなった娘を追いかけて、ルマが途方に暮れる。
「ああ、私は何て事を言ってしまったの。
可愛い我が子になんて酷い運命を授けてしまったの?」
段々奔るスピードが鈍る。
徐々に足が停まり、やがては頽れ膝を着く。
「ああ、マモル。ごめんなさい・・・あなた。
私は駄目な母だわ、どうしようもない位の・・・」
せめてマモルが帰って来てから窘めれば良かった。
マモルに注意して貰えば、こんなことにはならなかった筈だとも思ってしまう。
「お願いコハル・・・いいえ、ミハル。
謝るから、お願いだから戻ってきて・・・」
心配が募り、心が塞がれてしまう。
「お願いミハル姉、コハルを。
あの子を護って・・・ミハルを私の元へ返して」
ルマがもう一つ気にしていたのは、闇の王たる者を宿した姪を女神がどうするかという事。
目覚める前に滅ぼしてしまわないかという心配。
だから・・・そう思う。
「ミハル姉が女神のままで帰ってきたら、コハルをどうするかが怖かった。
宿った闇を滅ぼそうと思うかもしれないと考えたから。
私達家族だけでもミハルをコハルと呼ぶ事にしたのよ。
闇の者から遠ざける為にも、ミハル姉に滅ばせたりしない為にも」
全ては始まりの時から。
全ては女神が姿を消した瞬間から。
何故なのかは知らない。
どうしてマモルに初め宿り、産まれてきた子に宿り直したのか。
訳は判らない、判らなくて済むのならその方が良い。
・・・そう・・・思ったから・・・
ルマは、落胆と失望に暮れて泣いていた。
「馬鹿っ、お母さんなんて大っ嫌いっ!」
奔るコハルは知らない内に公園まで来ていた。
走り疲れたコハルはブランコに座り込んで俯いた。
「どうしてあんな酷い事を言うの?アタシがそんなに信じられないんだ」
一人でいると涙が零れそうになる。
袖で涙を拭うと、まだ自分が道着を着たままなのに気付く。
「お祖母ちゃんにも・・・怒られちゃうかも。
でも、アタシだって魔砲少女になったんだもん・・・」
うな垂れたコハルがブランコに座っている後ろから、影が近づいて来る。
気付かないコハルが尚も愚痴を溢していると。
「そうか、君も魔砲使いなんだね?」
コハルの背後から少年の声が掛かる。
「だったら、僕と遊んでくれないかなぁ?」
無邪気・・・だが、悪意が見え隠れする声に振り返る。
「ねぇ?魔砲少女コハルさん?」
赤黒い闇を纏った、黒の魔鋼シキがコハルに嗤っていた・・・
コハルは塞ぎこんでしまいました。
いえ、家出してしまったのです。
心が病んでしまったコハルの元に現れたのは?
次回 チェンジ!魔砲の少女 Act5
君は心に巣食った闇に飲まれてしまうのか?!
ミハル「君にも残っていたのね、輝の欠片が・・・死鬼と呼ばれても」




