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魔鋼少女<マギメタガール>ミハル・Shining!  作者: さば・ノーブ
第2編 <魔鋼学園>
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新たなる旅路 第4話

2人の別れが齎すものは。


2人だけの物語ではありませんでした。


今、旅立つ娘へ。

美晴はさよならを言えなくて・・・でも

その日は二人にとって特別な意味のある日になる・・・


別れと再会を期す・・・旅立ちの日になる筈でした。




良く晴れた朝。


旅立ちにはこれ以上ない日和でした。


一人の少女が母国へと帰る日。

その日も学園は通常通りに登校が始っていました。


ぽつねんと歩く美晴は、とある場所で立ち止まります。

そこは小学生だった頃の思い出が詰まった所。


記憶の中で、赤毛の少女が笑いかけて来ます。


「「おっそ~い!待ちくたびれたでコハルぅ~!」


幼き時の徒名で呼ぶのは・・・


「・・・マリアちゃん」


蒼い済んだ瞳で呼ぶ幼馴染。

面影はどんどん成長して・・・


「「なんや、今日も遅刻寸前かいな!」」


笑顔は変わらず、声はどんどん麗しく思えて・・・


「マリアちゃん・・・」


ふと、目を見開くと。そこには彼女の姿はありません。

走馬燈のようにマリアさんの思い出が流れては消えていきました。


「もう・・・港に着いてるかな?」


今日の昼前には船に乗って旅立ってしまう親友に別れを告げる気になれなくて。

美晴さんは学園に来てしまいました。


でも、葛藤は未だに続いていたのです。

心の奥では愛する人の旅立ちを見送りたいと。

もう一人の自分は見送ってしまえば、泣いて呼び止めてしまうと諫めるのでした。


「さよならは言いたくないから・・・また逢えるんだから」


口に出してはやる心を押さえようと、何度目かの自制を呟きました。


「学校に行ったら・・・もう考えずに済む・・・から」


思い出の公園前を一人で登校して行こうとした時。

前に居る二人に気が付きました。


「あ・・・ノーラちゃん、ローラ君」


美晴さんを待っていたらしい二人が立ち塞がるのです。


「遅刻しちゃうよ?」


二人に構わずすり抜けようとしました。

この二人が何故、自分を待っていたのかが分かったからです。


「行くノラ美晴ン!」


ノーラさんが口火を切りました。


「行くって・・・早く行かなきゃ遅刻だよ?」


敢えて美晴さんは惚けるのです。

言われる前に・・・どこへ行くかを。


「きっとマリアちゃんは待ってるから」


今度はローラさんが言い切りました。

港へと。波止場へ行け・・・と。


「彼女には・・・もうお別れを言った」


絞り出すように美晴さんが答えます・・・が。


「ちゃんと顔を見せて、最後の挨拶を言わなきゃいけないノラ」


「次に会える日まで、記憶に仕舞っておかなきゃいけないよ美晴さん」


二人は今直ぐ向かうべきだと言う為に、ここで美晴さんを待ち伏せていたようです。


「・・・そんな事言われたって」


背中を押された美晴さんの心は揺さぶられてしまいます。


「きっと美晴ンのことだから、マリアちゃんとの別れが辛過ぎてこうするだろうと思ったノラ。

 だけど、二人が心残りのままで別れる姿を観たくなかったノラ」


ノーラさんが美晴さんの手を取ります。


「後になってどうしてあの時逢わなかったんだろうって、後悔して欲しくないノラ!」


ジッと美晴さんを見詰めて説き伏せて来ます。


「ノーラ姉さんの言う通りだよ美晴さん。

 後から後悔したって取り返せないよ?」


取り返せないのはマリアさんとの想い出。

最後の最期に・・・哀しみだけが残るなんて、あまりに辛いから・・・と。


「だから!美晴ンには後悔なんてして欲しく無いノラ!」


ノーラさんの手が、瞳が、言葉が訴えかけていました。


「美晴さん!今から向かえば間に合うよ!」


ローラさんの声が心の背中を押します。


「ノーラちゃん・・・ローラ君・・・アタシ・・・アタシは」


揺れ続ける美晴さんの気持ち。

後一言・・・言われてしまえば。


「あら?!まだ行っていなかったの?」


3人の背後から太井女史の声がかけられたのです。

振り返った3人に、担任が微笑みます。


「太井先生?!あ、あのっ!」


ローラさんが訳を話そうとしたら、


「何をのんびりしてるのかしらね、この鈍感娘達は」


てっきり遅刻してしまいそうなのを揶揄して来たかと思えば。


「今からなら間に合う筈でしょ?港行きの電車もある筈だから」


「えっ?!」


にっこり笑う太井先生が、とびっきりのウィンクを贈ってくれました。


「じゃぁ太井先生は美晴が港へ行くのを許可してくれるんですねノラ?!」


喜ぶノーラさんに太井先生は首を振ります。


「?」


微笑んだままの太井先生が言うのは。


「なにを言ってるのよノーラさん。

 あなた達3人で行けって言うの!みんなの大切な友達なんでしょう?」


「!!えっ・・・はいっ!」


ローラさんの顔が晴れます。勿論ノーラさんも。


「そう!あなた達3人揃って見送りに行きなさい」


「太井先生・・・」


美晴さんの優柔さを一笑に伏すように、先生が言って除けます。


「島田美晴さんは今から直ぐに港まで赴き、絶対に笑顔で見送る事。

 いいわね、これは担任としてではなく、愛を知る魔鋼部隊の先任として命じるわ!」


命じられたのは美晴さん・・・島田美晴として。

命令は別れを迎える親友としてではなく・・・真に愛する者達への手向け。


「はいっ!了解ッ!」


美晴さんは決心しました。

逢って必ず笑顔で見送ろうと・・・愛する人を。


「急ぐノラ!急がなきゃいけないノラ!」


美晴さんの決心と共に、ローラさんが掴んだ手を曳きます。


「次の電車に間に合わなくなるよ!」


ローラさんも背中を押して急かすのです。


「気を付けて行くのよ3人共!」


駆けだした3人を見送る太井先生が笑顔のまま送り出してくれました。

そう・・・太井先生は何も気が付かなかったのです。

美晴さんを送り出した今は。


彼女を監視ている者が居たなんて。







「美晴さんは来ていないみたいね」


乗船タラップを登るマリアさんへミリアお母様が訊きました。


「うん・・・」


まだ心残りなマリアさんが何度も立ち止まって振り返ります。

見送り客の中に、親友を見つけられず。


「まだ、出航迄時間があるから。デッキで待つと良いわ」


残り1時間に迫った出航に、マリアさんの心は塞いでいくのです。


「うん・・・」


上の空の返事を返す娘を措いて、ミリアさんはキャビンへと向かっていきました。

それは娘に待ち人が現れたのなら、そっとしておこうとする親心からだったのです。


「美晴・・・来てくれへんのか?」


最後に話した時、見送りには行かないと溢した美晴さんを思い出して。

それでも、微かな期待を寄せている自分が此処に居るのだと。


「せめて・・・泣き顔だけでも善いから・・・」


笑顔でとは言えませんでした。

自分だって泣いてしまうかもしれなかったから。


「なぁ美晴。辛いよな・・・別れって」


船着き場の見送り客を見回して、想い人の影を探すマリアさんが呟きました。





「急げ急げ!ほらほらっ!」


ノーラさんが背中を押してくれています。


「あの角を曲がれば港ですよ美晴さん!」


先に立ったローラさんが指し示します。


もうここは海辺の近く。

潮の匂いが鼻についていました。


「マリアちゃん・・・マリア!」


心の中で、口にも零れ出て。

美晴さんは別れ時を待っている想い人を呼び続けていました。


「この角を曲がって・・・一直線なノラ!」


不意にノーラさんが手を曳くのを辞めます。


「アタシ達はここからゆっくりと行くノラ。

 真っ先に駆けつけるのは美晴ンの役目なノラッ!」


気配りが出来る子なんですねノーラさんは。

前を走っていたローラさんに目配せして、気を利かせと配慮してくれました。


「アタシ等が着くまで、ゆっくりと愛を語らうが善いノラ」


「そうですよ美晴さん。心残りなんて後から言わないでくださいね」


二人は美晴さんを押してくれました。

二人っきりにしてあげるんだからと・・・


「ありがとうねノーラちゃん、ローラ君!」


走り続けて荒い息を吐いている美晴さんがお礼を言いながらも駆けて行きます。


「しっかりなぁ~、なノラ」


なにがどうしっかりなんですかノーラさん。



 ゴオオオオ・・・・



笑顔で送る二人の耳に、突如異変が聞こえたのはこの時でした。

騒音・・・重い加速音・・・それは?


「ミ・・・美晴ンッ?!」


気付いたノーラさんが異変を知らそうとした・・・のですが。






 闇は消えていなかった。

 いいえ、邪神王を倒した後も、邪操機兵は襲撃を続けていました。

 その事実を、もっと真剣に考えるべきでした。

 大人達は・・・教えて警告するべきだったのです。


 光の神子へ。輝を受け継ぐべき少女達へと。


 その償いが誰に訪れるかを・・・知らせておくべきだった。


 せめて・・・美晴(ミハル)にだけは。




波止場へと荷を運ぶ大型バンの運転手が、宿って来た者に乗っ取られていました。

紅き澱んだ瞳で、狙う者を見つけ。

邪なる者によってアクセルを踏み込まされ、猛然と走らせたのです。


それ自体が凶器と化す・・・自動車。

大型バンは、細い道を突き進んでいきました。

逃れる術もない歩行者を撒き込み乍ら・・・悪魔の如くエンジン音を響かせて。



「マリアちゃん!今行くから」


曲がり角へと辿り着いた美晴さんの前によちよち歩きの幼子が観えます。


道路の端を歩く男の子に気が付いた時・・・


「あ・・・」


不意に眩暈が襲って来たのです。

それは最近良く起きる異変だったのです。

父マモルを見送った時にも、覚えが無くなる程の眩暈に見舞われた事があったのです。


「なぜ・・・こんな時に?!」


マリアさんとの別れを前に・・・と、美晴さんは臍を噛む思いでした。

ですが、意識を喪う訳にはいかなかったのです。

倒れてしまいそうになる程の眩暈にも屈せず、なんとか走り続けようとしました。


もし、ここで倒れていたら。

もし、走れなくなっていたら・・・


運命は変わっていたのかもしれません。

歴史は3000年女神の言った通りに替えられたのかもしれません。


ですが、愛する人の元へと向かう美晴さんの躰が拒んでしまったのです。


突然襲い来る不幸を、自ら招いてしまうのでした。




 オオオオオォッ!



暴走車に気が付いたのは、撒き込まれた歩行者からの叫びに因って。

撒き込まれそうになっていた子供を呼ぶ母親の声。



「あ・・・」



美晴さんは鞄を放り投げて飛び出しました。



「ぶ・・・」



一歩が数十メートルに感じます。



「な・・・」



指し伸ばした右手には、蒼き宝珠はありませんでした。

守護神が宿るとされた蒼き石は、父の元へ贈ってしまったから。



「いぃッ!」



飛び出して男の子を突き飛ばす・・・刹那。




    ドンッ!




守護者(ガーディアン)レッドを左手に持ったまま。


変身する事も出来なくて・・・









挿絵(By みてみん)







   ガシンッ!



美晴さんは狂気の大型バンに。



  ドドドッ!!




撥ね飛ばした大型バンはそのまま壁へと。





  ガッシャァアアァンッ!




突き当たって運転手諸共大破炎上してしまいました。







「あ・・・あ・・・?!う・・・嘘ッ?!」



異変に気付いたローラ君とノーラさんが駆けつけた時には。



「嘘・・・だ、嘘に決まってるノラ・・・」


絶望感に圧し潰された二人が眼にしている光景。

美晴さんに因って間一髪、惨劇から回避できた男の子が泣く声。

駈けつけて来た母親が泣き叫ぶ声。



そして・・・・



倒れて動かない美晴さんの・・・無残なる姿。



握られた魔鋼剣レッドからは光も観えず。

乱れた黒髪は塞がれた瞼を覆い隠し。


乱れた制服には・・・・



「嘘ッ!こんなの嘘だぁ~~~~~ッ!」



ノーラさんの絶叫が惨劇の現場に木魂しました・・・・


狂気はいつも突然に!

凶器の自動車に轢かれた美晴。

果たして無事に済むのでしょうか?


気になるのは3000年女神の残した啓示。

女神の帰還を齎す方法が、美晴さんにあると言いましたから。


果たして?

いよいよ次話が本編ラスト!


最終話になります!!


次回 最終話 新たなる旅路 第5話

君はラストに何を観るのか?

光の御子が最期に見るものとは?! 美晴フォーエバー・・・

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