新たなる旅路 第3話
幼馴染の2人。
今、一人の少女が旅立とうとしていました。
帰郷・・・それは別れを齎し、二人の絆を試すのでした。
出航を終えて公海に出た調査船<浦島>。
手空きとなったマモル艦長補佐が、自室に戻りロッカーを開いた時でした。
コロン・・・
チェストの中から零れ出た物が。
「なっ?これは?!」
蒼く光る石が・・・
「美晴の大切な宝物?!
いいや、フェアリア皇女ルナリィ―ン様から授かった石じゃないのか?」
拾い上げて観る迄もなく、間違いなかったのです。
「美晴はどうして?」
こんな大切な物を・・・と。
レンズ越しに見たあの微笑みを思い浮かべて、マモルさんの思考は思いついたのです。
「また・・・逢えるのを誓う為?
僕が果たすと信じているからこそ・・・なんだね美晴」
必ず帰って来るからと。
娘に誓ったのを思い出します。
「ははは・・・なんだか昔を思い出してしまうよ姉さん。
僕は姉さんと同じ事を繰り返してしまったのかもしれないね」
マモルさんには辛い過去がありました。
生き別れになる姉、美春さんに誓わせた過去があったのです。
それも戦争を行っていたフェアリアで。
死に別れてしまうかもしれない姉に、約束させてしまったのです。
「ミハル姉、僕の番だってことかな?
今度は僕が帰らなきゃならないんだよな・・・美晴の元へ」
今は居ない姉に向かい、マモルさんは訊ねたかったのです。
「辛いかもしれない。だけど約束は守らなきゃならないよな・・・姉さん」
果すのは強き想いの果てにあると、姉から教わりました。
約束の意味がどれほど重いのかをも・・・
だから・・・今度は自分が果たさねばならないとも。
「僕は必ず帰るよ・・・ミハル」
マモルさんが言った名は・・・どちらのミハルだったのでしょう・・・
出航日が決まった時、美晴さんは心の中で泣きました。
でも、仲間の前では気丈に振舞いました。
特にマリアさんの前では。
父であるマモルさんとの別れだって、気にしてないフリをしたのです。
「マリアちゃんのお父様はね、きっとマモル君達が連れ戻してくれるよ!」
長い間行方不明のマリアさんの父ジョセフ大佐を気遣って。
「美晴・・・寂しくはないんか?これから暫くは逢えへんのやで?」
「う~んん!大丈夫。だってマリアちゃんのお父様を見つけるって約束したから」
マリアさんは気が付いていました。
美晴さんが大丈夫とは答えても、寂しくはないとは言っていませんでしたから。
「だからねアタシ。マリアちゃんに帰郷して貰いたいんだ」
「なっ?!美晴・・・なにを言うんや?」
この時点ではマリアさんは母国へ帰る話を言っていなかったのです。
「知ってるんだから。
ミリアお母様の任期が終わるって。
公使の役職を交代する日が来たのも、帰国を促されているのも。
それに・・・ね、その方が良いって聞いちゃったんだ」
美晴さんのルマお母さんはフェアリアの武官でしたから、聞いていたのでしょう。
「そやけど・・・美晴?」
マリアさんは親友である美晴さんに止めて貰いたかったのかもしれません。
<<帰らないで>>・・・と。
だから、美晴さんからの帰郷の勧めが信じられなかったのです。
いいえ、我が耳を疑ったみたいです。
「あのねマリアちゃん。
まだ逢えたばかりの時を覚えてるかな?」
「逢えたばかり・・・小学部だった頃?」
マリアさんの返答に、美晴さんは頷くと。
「そう!出逢えたばかりの頃。
マリアちゃんは転校ばかりしてきて友達が造れないって悩んでいたよね。
分かれるのが辛いからって。友達を作らないってアタシに言ってた」
「そやったっけか?」
本当は覚えてるのですが、美晴の言う事が分かって来て。
「でも、アタシと親友になってくれたよね。
分かれてもずっと繋がれる・・・親友に。
一番最初にアタシと親友になってくれたよね?」
「・・・・」
この後美晴さんが言う言葉を、マリアさんは拒みたかったのです。
敢えて何も返さずに言葉を待ったのです。
「だから・・・別れることになっても繋がったままで居られるよね?
大の親友なんだもん、心は繋がったままでしょ?」
「言わんといて!それ以上ウチに言わんといてぇ~な!」
告げられた別れ。
それは今迄で美晴から聞いた一番怖い言葉にも思えたのです。
「ううん、今だからこそ言うんだよ。
ここまで一緒に居てくれたマリアちゃんにだからこそ言えるんだよ?
どんなに離れたって繋がれる親友だから・・・大好きな人だから言うの」
そこまで一気に話した美晴さんが髪を結わえてあったリボンを解きました。
「これ・・・アタシだと思って」
差し出して来たのです。
「アタシの想いが籠められているの」
別れに際して手渡すのは・・・・
「このリボンはね、美晴なの。
ちっちゃな時からずっとアタシと一緒だったんだよ?
アタシの分身みたいな物なんだから・・・持っていて欲しいの」
魂の込められた物を別れに際して渡すのは・・・・
「もう一度逢える時まで・・・マリアちゃんに持っていて欲しいなって」
手渡した美晴さんは背を向けました。
「美晴・・・こんな大事な物を・・・ウチに?」
ベンチに腰掛けていたマリアさんが美晴さんを見上げた時。
「マリアちゃん・・・アタシはね。
美晴は・・・マリアちゃんが好き、大好き。
ううん、愛しているから・・・これからもずっと!」
涙声で告白する美晴さん。
「だから・・・一つだけお願いを聴いて欲しいの」
くるっと振り返った美晴さんがマリアさんに。
「ごめんなさい・・・」
湛えた涙が一気に頬を伝いました・・・マリアさんへも。
スッと・・・二人の影が重なり合いました。
唇に感じるお互いの温もり。
美晴さんの涙がマリアさんの頬にも流れ落ちて行きました。
一つの影が二人へと別れると。
「ありがとう・・・マリアちゃん」
薄く笑った美晴さんからの感謝を、マリアさんは受け取って。
「美晴・・・ウチも・・・」
好き・・・いいえ、愛してるという前に。
「いやっはぁ~!告白しちゃいましたよアタシってば!」
お道化る美晴さんが背伸びして。
「これでもう・・・思い残すことはないから」
少しだけ声を落として笑うのでした。
「美晴・・・・」
夕焼け空を背景に。
二人の娘は幼き日々からの想いを、打ち明けたのでした・・・
ミリア公使の退任式が終わり、帰国の日程が決められました。
それは深海調査船が出航してから半月の後。
慌ただしく帰国の準備にかかるミリア母を手伝って、マリアさんは仲間達との別れを惜しむ暇もなく。
「明日はフェアリアに出立されるんでしょ?」
ルマままが美晴さんに訊いたのです。
「うん・・・・」
悲し気な娘から、元気な声が返っても来ず。
「船便でしょ?見送りに行かなくても良いの?」
皇都から離れた貨客船埠頭に行くには、早めに向かわねばいけませんでしたから。
「学校があるし・・・遠いから」
美晴さんは元気なく答えて来ます。
「でも・・・最期に一目くらい」
逢ってあげなさい・・・と。
「良いの!もうお別れはいったもん!」
怒ったように叫んだ美晴さんに、ルマままは言い返す事も出来ませんでした。
美晴さんの眼に光った涙を観てしまったから。
「しょうの無い娘ねぇ」
自分にも経験のある辛い別れ。
死別する訳ではないのだからと・・・強く言うのを躊躇ってしまったのです。
自室に駆け込んだ美晴さんは、机に載せられてある額を握り締めていました。
「マリアちゃん・・・マリアちゃん・・・マリアちゃん」
愛する人の名を繰り返し呼び続け、泣き続けていたのです。
微笑む彼女と2人だけで写された・・・大切な思い出を握り締めて。
ボォーゥツ!
霧笛が鳴り、甲板が震えだしました。
それはスクリューが回転を始めた証、船が出て行くのを知らせていたのでした。
「マリアどう?見当たらないの?」
見送りの人々の中に美晴さんの姿は見られませんでした。
「うん・・・わからない」
どれ程待ち望んだか。
どんなに探しても・・・
「辛いから・・・来てくれへんかったんやろ」
最後までマリアさんは乗船を遅らせました。
もしかしたら美晴さんが駆けて来てくれるかもしれないと思ったからです。
でも・・・
「美晴はまた逢おうと誓ってくれたんや・・・また逢う日まで待てばいいんやから」
哀しみがマリアさんを圧し潰そうとしていました。
「そうね、姪っ子だから・・・あの女神の」
ミリアお母様は娘にウィンクをすると甲板から立ち去りました。
「そうや!美晴は女神様の姪っ子なんや。
約束を違えるなんて絶対にせやへんのやから!」
観えなくなる埠頭に、マリアさんは大きく手を振って叫ぶのです。
「美晴ぅ~ッ!また逢おうなぁ~ッ!」
船が埠頭を離れていく時、どこかから救急車のサイレンが聞こえて来たのでした。
埠頭の近くで・・・誰かが?
その時、マリアさんは知る術もなかったのです。
この世界の歴史が変わらなかった事に。
未来から来た女神が言い残した啓示の意味も。
それは・・・いつも突然に舞い来る。
それはいつの時代にも起き得る・・・不幸。
次回!物語は一人の少女を終焉へと向かわせてしまうのです・・・
別れは次々と。
彼女達の前にあるのは希望あふれる未来なのか。
それとも・・・
絆を永遠とするのは?
彼女は美晴の中で何を待っているのでしょう?
次回・・・ラストにして最大の悲劇が襲う?!
次回 新たなる旅路 第4話
あなたは光の先にあるものを求める・・・その目で観た悪夢と重ね合わせて・・・