黒の魔鋼 シキ Act3
戦い終わった次の日は・・・
体が重く感じるのです?!
月曜日の朝は気が重い・・・
休み明けだから、学校があるから?
遊び疲れたから?
それとも・・・
登校する小学生の中で、肩を落としながら歩く一人の少女の姿が目立った。
どんよりした顔で歩いて来るのは・・・
「おはようさん・・・って、コハル・・・何やその顔は?!」
校門迄あと僅かな処で待っていたマリアが声を掛ける。
「なんかあったんか?
そないに目の下一杯に、隈さんなんかをこさえて(注・作って)?」
どんよりした目で歩いてきたコハルに訳を訊いた。
「はぁ~っ、睡眠不足ってやつなの・・・」
マリアの前まで辿り着いたコハルがマリアの肩に手をかけて。
「おまけに怖い夢なんかを観ちゃったから・・・すやぁ・・・」
マリアに掴まったまま、立ち寝をするコハル。
・・・・
・・・
「すやぁ・・・」
「アホかぁ!コハルぅわぁっ!」
(( ボコッ ))
マリアの会心の一撃がコハルを吹っ飛ばした。
・・・・・・・・・・・・・
で。
給食タイムまで、うたた寝しながら授業をこなしたコハルに。
「どないしたん?コハルらしゅーないやん?」
向かい合って給食を食べているマリアが、心配そうに訳を訊いた。
「うん、実はね。一昨日辺りから同んなじ夢を観るようになったの。
なんだか得体の知れない影に襲われる夢なんだ・・・」
コッペパンを齧りながら、ぼつぼつと話し始めるコハル。
「ふむふむ。それから?」
おかずの餡かけ焼きそばを一飲みして、マリアが続きを促す。
「でね、その夢を観てると決まって最後には・・・ベットから落っこちるの」
「・・・・それが・・・寝不足の理由か?」
寝不足で食べながらもポワンとしてるコハルを、ジト目で観るマリア。
「そう・・・でもね、本当は夢の内容が問題なんだ。
ベットから落っこちる前に見ちゃうのは、決まってアタシがやっつけられちゃうの。
影に・・・酷い目に遭わされちゃうの」
コハルが俯き加減で教えてきた理由に。
「コハル、そりゃー悪夢って奴やな。
多分、魔砲を始めて使った影響やないかな?
コハルの心には、まだ疲れと怖さが残ってるんやろーからな」
気安い感じでマリアが即答したのだが。
「そうかなぁ・・・そうかもしれないね?」
納得しかね、小首を傾げて目を瞑るコハルを観て。
「そうやて!間違いないわ!」
笑い掛けながら肯定させる。
しかし笑い顔とは反対に、マリアの眼はコハルに向けられたまま笑ってはいなかった。
ー もし、その悪夢って奴が、なにかも前触れというのなら。
悪夢に出て来た影って野郎が、コハルを襲うというのなら。
気を付けておかにゃーあかんな・・・・
寝不足でポワンとしたままのコハルを観て、
その時は必ず護ってやると誓いを新たにするマリアだったが。
「すぴよ・・・すぴよ・・・すやぁ・・・」
「え?!コハル・・・マジかいな?!」
脳天気に居眠りするコハルに、開いた口が塞がらなくなる。
「あ~あっ、ウチはなんでこないな親友を授かってもうたんやろか?
これが女神様の宿り主だとは・・・なんちゅーこっちゃねん?!」
舟を漕ぐコハルに、天を仰ぐマリアだった。
・・・・
なんとか、一日を乗り切った?
下校のチャイムが鳴り続けている校庭を、二人が歩いている。
一日中居眠りし続けたコハルの肩を持って、マリアが宥めていた。
「運が悪かったなぁ、コハルゥ」
「しくしく・・・」
うな垂れるコハルの肩を掴んで、宥め賺そうと声を掛け続けるのだが。
「まさか、太井女史の機嫌がああも悪いとは・・・運がなかったんやろ?」
うな垂れ続けるコハルを覗き込んで、マリアが宥め(?)る。
「しくしく・・・マリア、他人事だと思ってるでしょ?」
ジト目で返されたマリアが、思いっきり退く。
「い、いや、なに。太井女史の眼に留るくらい、寝てたコハルも・・・」
悪い・・・とは、口が裂けても言えない・・・事もないか。
「いいもん・・・倍の宿題なんかに負けないもん・・・しくしく」
だぁ~っと涙を零す、損なコハルに。
「あははっ、まぁ・・・頑張れ?」
手伝う気は毛頭もないのか。
肩を軽く叩かれたコハルが、却ってしょげる。
「コハル、今日はご両親が遅くなるからって言ってたよな?
これからどうするんや?一人で家に居るんか?」
宿題手伝ってくれる気があるのか?
一瞬コハルの顔が輝いたのだが。
「ウチは、今晩オカンと一緒に領事館まで行かなアカンのやけど。
一人でも、宿題出来るやんな?」
・・・がっくし。
マリアはこれから直ぐに帰宅するという。
コハルは落胆の眼差しを親友に向けるのだったが。
「そや、コハル。
明日、フェアリアから届いてるお土産を持って来るわ。
楽しみに待っとくんやで?ほならな!」
片手を挙げて走り出すマリアを見送ったコハルだったが。
「この!薄情者ぉっ!」
独りで倍の宿題をする事になって(自業自得)、やけっぱちの声を上げる。
「はははっ!コハル残念!」
振り向いたマリアが茶目っ気一杯の、あっかんべぇを贈って来た。
「イーッだ!」
コハルもお返しにベロを出す・・・笑顔のままで。
「さてと・・・マリアの言った通り。
運が悪かったのかなぁ・・・でも。
今日はミユキお婆ちゃんのお家に行けるんだから・・・気が楽だよね」
コハルの頭では、宿題を手伝ってもらう算段が出来上がっていたようだ。
「それに、お婆ちゃんのお料理って美味しぃんだよね。
御菓子もちゃんとあるし・・・にひひっ!」
少しは元気が出たコハルが、駆け足でお婆ちゃんの家に向かった。
その後ろ姿を睨み続けている影に、気付きもせず・・・
「「ちょっとだけ待ってね」」
道場に来たコハルへ、ミユキお婆ちゃんが頼んだ。
少年達に稽古を就けていたミユキへ、逆にコハルが頼んでみた。
「アタシも観ていたい!」・・・と。
道場の隅っこで、コハルはチョコンと座って観せて貰えた。
数人の男子達が稽古着を靡かせて剣術を指南して貰う姿に、心が躍った。
打ち振られる竹刀の音。
撃ち込む度に気合の声が道場に響き渡る。
数十分間があっという間に過ぎてしまった。
「ありがとうございました!」
稽古着をしまった男子達が、ミユキお婆ちゃんに終了の挨拶をする様を観てから。
「いいなぁ男子は。アタシもおばちゃんみたいにカッコ良くなりたいなぁ」
私設道場を営むミユキの姿に憧れを持つコハル。
「だって、皆お婆ちゃんに勝てないんだもの。
お婆ちゃんに男子が教わっているんだもん・・・」
ぽぉーと観ているコハルに。
「お待たせ、コハルちゃん。
じゃあ、お片付けするから・・・」
ミユキが道場を閉じようと正門を締めて、コハルに微笑む。
「あ、ミユキお祖母ちゃん!
コハルも剣術が観たい!お祖母ちゃんの剣舞が観たい!」
昔はちょくちょく預かって貰っていたから観ていたのだが、
「日の本に帰ってからは、見せて貰ってなかったから!」
小学校に行くようになってからは、時間の関係もあり観ていなかった。
「そう?じゃ・・・ちょっとだけよ?」
居住まいを正したミユキが、木刀を腰に宛がって道場の真ん中に出る。
ミユキが瞼を閉じる。
コハルが息を呑む。
道場の中の空気が替わった・・・音が無くなった。
「はっ!」
気合の声と共に、一太刀振り抜かれる。
木刀だったのに、道場の空気が裂かれた様に思えた。
<わぁっ?!やっぱりお祖母ちゃんの剣舞って、誰よりも凄いや!>
目を輝かせてコハルが観るのは、元神官巫女ミユキの剣舞。
孫であるコハルに見せるのは、本当の剣薙たる姿。
太刀筋は、闇の者でさえ斬り祓える。
太刀裁きは、悪魔たる者でさえ怯ませる。
一舞し終えたミユキが剣を腰に戻すと。
「お祖母ちゃん!やっぱり凄いよ!アタシも習いたいな?!」
思わず軽口が出てしまう。
微笑んでいたミユキが、ちょっとだけ考える姿を見せてから。
「コハルちゃんに出来るかしら?剣術って我慢比べみたいな物よ?」
竹刀を片付けて、
「もし、本当に習いたいと思うのなら。
私の極意を伝えてあげる・・・コハルちゃんが我慢出来るのなら」
真剣な面持ちで伝えてきた。
「うん、やりたい!剣術を習いたい!」
輝く瞳でミユキに乞うた。
少女の純真な心で・・・コハルが剣を習うと言った。
「そう・・・じゃあ。先ずは・・・」
ミユキが腕を組んで考えるポーズを執ると。
「ご飯をしっかり食べる事!さぁ、夕ご飯にしましょうね!」
微笑みを浮かべて・・・いいや。
心からの笑みをコハルに向けて、門下生となったコハルに命じた。
「はいっ!よろしくお願いします、ミユキ先生!」
促されたコハルも嬉しくて、おどけるようにミユキお祖母ちゃんに頭を下げた。
小躍りして母屋に向かう、コハルの後ろ姿を見詰め。
ー ミハル、あなたには教えてあげれなかった・・・けど。
もう一人のミハルに、しっかりと伝える事が出来そうよ。
あなたと、あなたの姪に・・・この剣薙の術が・・・ね!
居なくなった娘に想いを馳せて、ミユキは嬉しく思えていた。
我が子には教えてあげれなかった・・・だけど。
ー あらたな運命が開かれるのなら、私の剣も必要になるでしょ、ミハル?
無邪気に喜んでいるコハルと重ねるように娘を想った。
ミユキは微笑んだ。
孫の後姿に、娘を重ねて。
コハルは剣術を教わることにした。
それが自分にとって初めての習い事でも有るのだが。
ミユキという神官巫女に習えるのが後にどう係わるのだろうか?
次回 黒の魔鋼 シキ Act4
君は届かぬ声をかけ続けているのか?伝わると信じ続けているのか?
ミハル「おかあさん・・・届いてる?私の声が、女神の声が?」




