神託の御子と終焉の悪魔 第2話
コハルちゃんは救い出せたのでしょうか?
大魔王から人質を奪還出来たのなら・・・
決戦になるでしょう!
蒼く光るネックレス。
小春神となった娘に贈られた魔法のネックレス。
その中には今、大切な魂が宿っている筈でした。
「コハルちゃん?!居るのなら返事してよ!」
美晴さんが呼びかけます。何度も・・・何度も。
ですが、返事は帰っては来なかったのです。
「おぉのぉれぇ~!」
奪われた大魔王が唸りをあげて震えていました。
小春神の異能を吸収して世界を闇に埋め尽くそうと企んだ大魔王が・・・です。
震えて怒る大魔王を観れば、ノーラさんの行為は成功の筈なのですが?
「どうして何も言ってくれないの?コハルちゃん居るんだよね?」
呼びかける美晴さんの手の中にあるネックレスは、蒼く光るだけでした。
・・・?蒼く光る?
「美晴!どうやら成功みたいやで!」
蹲っている美晴さんに、マリアさんが教えて来ました。
「アイツ、苦しんでるんとちゃうか?」
指し示された大魔王は、確かに震えているのです。
怒りに震えるのとは違うとも言えますが?
「ぐはぁッ!おのれぇ~小癪な真似をォ~ッ!」
歪んだ表情は怒りを見せ、呪いの言葉は恨みを溢して。
「皆殺しにしても飽き足らぬ。人類全てを駆逐しても治まらぬぞ!」
完全に大魔王は歯止めを失ってしまったみたいです。
それが意味しているのは・・・女神コハルが居なくなった証。
「コハルちゃん?!居るんだよね?」
確かめたいのは山々でしたが、コハルからの返事は戻って来ませんでした。
「美晴!そろそろヤバイで!奴の雰囲気がまるで別モンに成りやがった!」
マリアさんの切迫した声で、事態が急変した事を教えられました。
・・・それに。
「観てよ二人共!結界の色が変わり始めたよ!」
ぶっ飛ばされたノーラを介抱しているローラ君が上空を指差しました。
遥か天井に位置している結界の頂点が更に高くなり始め、澱みを含んだ怪しげな黒色に変わっていくのです。
「美晴!奴が本当の魔王になろうとしてるんちゃうか?
コハルを奪われた怒りと、ウチ等に対する・・・いいや。
人間に対する呪いが増幅したんちゃうのか?」
マリアさんの考える通りなのかもしれません。
今、コハルを奪われた大魔王は、真の悪意の塊と化そうとしているのです。
「これが。これが本物の大魔王?光を無くした巨悪の空間?!」
大魔王の結界には、光が薄れて行き色が無くなって行くのでした。
全てがモノトーンになり、墨絵を描く様にぼやけて行きます。
白と黒。
全ての物体が持てる光を奪われていくようでした。
「このままほって置いたら、みんなアイツに飲み込まれてしまう。
輝を奪われて、闇に染められちゃう?!」
美晴も、それがどういう末路を辿るのかが分かった気がしました。
「みんな!大魔王を倒さなきゃここから出れないよ。
アイツを停めなきゃぁ、世界が闇に染められちゃうかもしれない!」
自分達に因って大魔王が覚醒してしまった。
このまま放置しておけば、人間界全体を闇に巻き込みかねないと美晴は思うのでした。
「そうだね、美晴さんの言う通りかもしれない」
ローラ君も、急変した大魔王の結界を見上げて同意するのです。
「せや!奴をぶっ飛ばさんことにゃぁ、帰れへんで!」
マリアさんが眼を廻したままのノーラさんに手を伸ばして断言します。
「うん!アタシ・・・アタシは皆を守りたい。
結界の外に居る人達も、この世界中の人達も・・・みんなを護りたい!」
美晴さんは紅鞘を手にして、大魔王を睨みました。
「だから・・・みんな。アタシと一緒に闘って?アタシ達の未来の為に!」
剣を握り、眦を決して・・・
「アイツに人間の強さを教えてやるんだ!大魔王なんかに負けない正義の力ってモノを!」
敢然と立ちあがったのです。
「ああ、美晴の言う通りや!奴に戦闘を教育してやるんや!」
ニヤリと笑顔を魅せ、指を立てるマリアさん。
「了解キャプテン!僕が弱点を見つけるよ」
異能を使って大魔王を探るローラ君。
「・・・すやぁ・・・」
目を廻して・・・寝てるのはノーラさん。
ここに、大魔王との最終決戦の幕が開かれたのです。
替えられた歴史を、光溢れる未来へと導く為に。
渦巻く暗黒。
上空遥か彼方まで伸び上がる結界空間。
強大な悪意は、光を持つモノ全てを覆わんとするかのよう。
「う、うふ。うっふふふっ!あ~はっはっはっ!」
突然大魔王が哂い始めました。
「良いぞ・・・我に力を与えてくれた・・・堕神が」
何を言っているのでしょう?コハルさんは既に虜から解放された筈ですが?
「もはや小娘など必要ない。虜に戻す必要もない。
お前達人間諸共・・・全て喰らってやればいいだけのなのだ!」
闇の大魔王が吠えます。
コハルが身を挺して押さえていた箍が外れたのでしょう。
光を喪った、本当の大魔王へと覚醒したようです。
「お前達には感謝せねばならんのかも知れんな。
なまじ堕神の娘を秘めていたばかりに、中途半端な魔王であった余を解放して貰ったのだ。
感謝の印に、いの一番に喰らってやろうぞ!」
完全なる悪に成った大魔王。
まだコハルの姿のままではあるモノの。
「さぁ・・・誰から消滅したい?どいつが一番最初の贄になりたい?」
全くの別人・・・いいえ、悪魔と化していたのです。
「余は終焉を齎す者なり。この世に生ける者全てを闇に換える者なり」
自らを終焉を齎す悪魔と呼ぶ。
自らが世界を終わりへと導かんとする者と云う。
恨み、呪い・・・そして終わりを振り撒く者だと言ったのです。
コハル神を奪われただけだというのに、どうしてこうまで悪の権化に成れるのでしょう?
大魔王の結界の端で。
こうなるように仕組んだ者が観ていました。
それは・・・
「くくくっ!天使長め。まんまと騙されおって」
嘲るのは堕神。大魔王に悪意の力を与えたのもデサイアだったのです。
「小春神を獲られたのは意外だったが、手間が省けたというモノ。
大魔王を倒した暁には、纏めてなって貰えば済むだけだ。私の傀儡に・・・な」
ほくそ笑むのは、闇の墜ちた堕神。計画は何も変わないと嗤うのでした。
変わらない?そうでしょうか?
もう一柱、居るのを忘れちゃいませんか?
「やはり・・・粛罪しなかったのねデサイア」
悲し気に零す女神の声が聞こえます。
「ミハエルさんの勧めに耳を貸さず・・・とうとう始めてしまったのね」
未来から訪れた女神ミハルの声でした。
歴史上ではこの後大魔王が滅ぼされ、新たな大魔王が生み出される・・・筈なのです。
ですが、既に歴史は替えられつつあったのです、女神の計らいにより。
「あなたが計画を実行するのなら、私は阻止するだけ。
あの子が為せる業を見守り、力を貸すだけ・・・なのよ?」
真・理の女神ミハル様は、堕神と化した過去の成れの果てに呟くのでした。
堕神デサイアと未来の女神ミハルが見詰める中、魔鋼少女の闘いが始まります。
「見つけたよ!あそこ・・・大魔王の上にある黒雲!
アレの中にウィークポイントがあるんだ!」
ローラ君が、指差したのは、大魔王の魔力の元。
「あれはきっと大魔王が力の拠り所にしてる集約点だよ!」
闇を集うってことでしょうか。
黒雲から降りて来る力で強大化しているのでしょうか?
「雲との間を断ち切ったら、きっと大魔王の異能は維持できないよ!」
なるほど・・・でもどうやったら出来るのですか?
「美晴!ウチ等がソコを攻撃するさかいに、なんとか奴を釘付けにしておけんかいな?」
「うん!やってみる」
マリアさんの射撃術に、絶対の信頼をおいている美晴さんが即断しました。
「この剣に賭けて!奴を斬るっ!」
「よっしゃぁー!ほな・・・いっちょうやったるで!」
ローラ君の見つけた弱点目掛け、魔鋼少女達が戦端を開きます。
美晴さんが剣を翳して突っ込みます。
マリアさんは魔鋼銃を構えて援護にかかります。
ローラ君は黒雲の動静を伺いつつ、二人のサポートに廻るのでした。
「ふんっ!何をしようが結果は同じだ」
大魔王は突っ込んで来る美晴目掛けて魔砲をぶっぱなし始めました。
手にした魔王剣の先から、紅いレーザーのような光を連射するのです。
真一文字に突っ込む美晴さん目掛けて跳んでくる紅い光線。
「させるか!」
マリアさんが光線目掛けて魔鋼弾を発砲します。
狙った的に必ず当たる魔鋼弾の特性が、ここで遺憾なく発揮されたのです。
ドンッ! バシュン!バム!
紅き光線と蒼き魔鋼弾がぶつかり、弾けては消えていきます。
「おのれ!猪口才な!!」
苛ついた大魔王は更に強烈な魔砲を放とうと、一旦射撃を止めました。
それは美晴にとっても大きな意味を持つ瞬間となったのです。
周りを飛び交っていた光線が途絶えた・・・つまり。
「うわあああぁっ!」
雄叫びをあげて距離を一気に詰めたのです。
「うぬっ?!」
大魔王が魔砲を発射しようと美晴さんへ剣を向ける刹那。
「シャイニング・スラッシュ!」
紅鞘を突き込んだのです!
キンッ!
瞬間でした。瞬間・・・大魔王の剣が?
「愚か者めが!」
大魔王の剣が美晴さんの剣と交わり、魔砲を放つまでもなく弾かれたのです・・・が。
「破裂弾!」
剣を持っていない左手からの魔力弾が。
ドンッ!
「きゃぁああっ?!」
もろに美晴さんへと叩き込まれたのです。
爆裂した魔力弾に因って、吹き飛ばされる美晴さん。
「美晴ッ?!」
仲間が必死の声を上げます。
吹き飛んでしまった美晴さんは地を転げて倒れてしまいました。
美晴さんが身を挺してチャンスを造ったのでしたが、マリアさんは気が気でなかったのか黒雲を狙い損ねてしまいました。
「だ・・・駄目だよ・・・マリアちゃん。撃ってくれなきゃ・・・」
倒れた美晴さんはゆるゆると起き上がり。
「もう一回・・・やるね」
腹部が焦げた魔法衣を着た美晴さんがマリアさんに言ったのです。
「や、辞めるんや!同じ手に奴が乗るとも分からへんのやで!」
停めようとするマリアさんへ返されたのは、美晴さんの特攻でした。
「あかん!辞めるんや美晴ぅ~ッ!」
魔鋼銃を構えつつも叫んだマリアさんの眼に映ったのは。
「なんや?!美晴の剣が・・・輝を放ってる?!」
飛び掛かる美晴さんの紅鞘から、溢れ出る金色の輝。
そう・・・女神ミハルから贈られた・・・輝の剣。
美晴を守護する魔鋼が籠った・・・
「お願い力を貸してよ・・・レッド!」
突き進む美晴さんが願った時。
「「ユーザー承認・・・アプリ起動」」
魔鋼機械の発動音声が流れ出ました・・・紅鞘から。
剣に輝が燈り、魔鋼の異能が発動したのです。
聖なる魔鋼が、闇を斬る魔法の剣へと昇華させたのです。
「「我、レッド。主の討つべき相手を斬る者なり」」
金色の光が刀身から放たれたのです。
遂に大魔王に斬りかかる美晴。
未来から来た女神の贈った異能は、闇を斬れるのでしょうか?
次回にはきっと・・・
光を纏う者・・・美晴さん。
闇の力と光を纏える女神コハル様。
今、2人の宿命が切り開かれるのです。
イザ往かん!宿命の娘達!
大魔王戦は決着をみるのか?
次回 神託の御子と終焉の悪魔 第3話
大魔王に組する者・・・堕神。大魔王を操る者・・・堕ちた女神。
今、1000年の恨みを募らせた女神が介入しようとしていたのです・・・・