もう一つの未来<<きぼう>> 第8話
悲劇を回避できるのか?
3000年女神は美晴の元へ・・・
遂に邂逅する美晴と女神!
女神の後ろ姿は、見慣れた伯母の筈だったのです。
白い魔法衣に、蒼髪。
そして紅いリボンを左サイドポニーに結った姿・・・
「蒼ニャンじゃないとしたら、ミハル伯母ちゃんって言えば良いの?」
美晴は理の女神を、そう呼び習わして来たから。
「おばちゃんって呼ぶんじゃないわよ」
振り返った女神の顔には、微笑みが浮かんで観えたのです。
その微笑みは、今迄観て来た女神とはどことなく違う様に観えました。
心の底からの微笑み?!今迄の女神とは違う?
美晴はハッと目を見開きました。
微笑みの中に光る瞳の色に、気が付いたのです。
見詰めていると吸い込まれてしまいそうな、深く・・・蒼く・・・優しさを湛えた双眼に。
ー 誰?!アタシの知ってるミハル伯母ちゃんじゃ無い?
間違いなく、姿は女神ミハルのモノ。
だけど、言葉の端からも感じられる優しさが、今迄とは別人に思えたのです。
「あ・・・あの?ミハルの伯母様ですよね?」
確かに感じ取れる雰囲気の違い。
声や姿は前と同じなのに、どこか違う女神だと思ってしまう美晴でした。
「またおばちゃんって言ったなぁ~」
にっこり微笑んだ女神が爆焔が揺蕩う中、ゆっくりと歩を進めて来ました。
いいえ、まるで階段を下りてくるように、空間に浮かんだ身体を美晴の元へ降りてくるように。
「でも・・・理の女神でしょ?その魔法衣は?」
白き魔法衣を身に纏う太陽神、女神ミハルだとしか観えないのです。
「ふぅ・・・話がややこしくなるから1000年女神の魔法衣に代えているんだけど。
逆にややこしくさせちゃったかな、この時代の美晴には?」
「え?えっ?!ど、どういうことなの、伯母ちゃん?」
つい、言いなれた呼び方を繰り返してしまった美晴さんに、女神が瞬きするより早く近づくと。
つん・・・
軽く美晴さんのおでこを突いたのです。
めきょっ!
「痛ッ!だだだぁ~~~~~っ」
突かれたおでこに、女神の指先がめり込んでしまったようです。
「ひぃっ?!痛ったたたたたぁ~死んじゃうよぉ!」
魔鋼少女のおでこを陥没寸前にするとは・・・恐ろしい。
「ちっちっちっ!デコピンじゃなかった事に感謝しなさい美晴」
・・・恐怖しかありませんね。
突かれただけでこれですもの、デコピンなんて喰らったら・・・異世界にまで飛ばされそうです。
「ひぃいいいぃっ?!もう言いません許して!」
流石の美晴さんも怯えてしまったようです。
「分れば宜しい。あなたにとっての伯母ではないとだけ教えておくわ」
「ほぇ?でも、マモル君のお姉さんでしょ?」
父であるマモルの姉、シマダ・ミハルではないのかと言いたいのです美晴さんは。
「そう。人間だった時にはね。
でも、マモルは人であり、私は神。
もう姉弟ではなくなっているのよ・・・悲しいけど」
「でも!マモル君のお姉さんだったんでしょ?だったらアタシのおば・・・うぷ」
咄嗟にさっきの痛い目を思い出して口を塞ぐ美晴さん。
「ふふふ・・・おりこうさんね、ちゃんと言わなかったじゃない。
そうね、伯母であって伯母ではないのよ。特にあなたにとってはね」
「?意味がわかりません」
現れた女神に救われた美晴さんでしたが、いきなり違和感があるミハルと遭遇してしまいました。
今迄だと伯母と呼んでも否定して来なかったのに、今は完全に否定するのです。
「あのぉ?女神様。もしかしてアタシの知ってる理の女神ではないのですか?」
あまりに違和感を覚えて、訊いてしまうのです。
「もしかして、ミハル伯母ちゃんの双子さんだとか・・・ないですよね?」
「ぷ・・・なによそれ?私が理の女神だったのを疑ってる訳?」
?
なにか引っ掛かる返事でしたね・・・って?
「だった?!やっぱり別人なんですね?!」
「・・・別人ちゃう。本人です」
??
またまたややこしくするぅ~。
「えっと。理の女神様が理の女神様じゃなくて・・・ああっ、もう何が何だかさっぱり」
ほらね、美晴さんが錯乱しちゃいましたよ?
「ふっ・・・仕方がないわねぇ~。正体をバラしちゃうか」
そう溢した3000年女神さんが。
「ちょっと待ってね。誰にも観えない空間を貼るから」
え?!ここは大魔王の結界の中では???そんな魔法が使えるんですか?
美晴さんも眼をまん丸くして女神様を観てますよ?
「フッ・・・これだから素人は」
・・・すみませんねぇ~、素人で。
「次元の狭間!出でよアーネヘン!私と美晴を覆い隠せ!」
女神ミハルさんが誰かを呼び出します。
「はいは~い!ミハル様ぁ~」
どこかから女の子の声が聞こえた気がします。
しゃうんッ!
聞こえたと思った次の瞬間。
「わっ?!どうなったのこれ?!」
美晴さんが驚愕の声を漏らしました。
辺りの景色が歪んでぼやけ、自分がいる場所が魔王結界とは違う所になったのです。
「フ・・・これがアンネ、いいえ今は式神アーネヘンと呼ぶ術師の為せる技よ」
「ミハル様ぁ~、ご紹介ありがとうございますぅ~」
何処に居るのか分からない少女の声が、女神ミハルに謝意を告げました。
「あわわわわっ?もう・・・きゅぅ~」
目を廻す美晴さん。
「目を廻す程の事じゃないでしょ。大魔王と闘う魔鋼少女なら」
「ハッ!そ、そうだ。みんなを助けて・・・コハルちゃんを救い出さなきゃ!」
おお?!いきなり現実を直視しましたね。
善い傾向です。
「ふふふっ真っ正直な所なんか間違いなくマモルの血を受け継いだんだねぇ。
ルマの熱い心なんかも・・・人の子として、受け継いでるんじゃない?」
女神ミハルさんが、微笑みながら美晴さんを見詰めます。
「昔の私にも・・・人だった頃の私にも。似てるのかもしれないわね」
蒼く済んだ瞳の奥に秘められているのは、女神になってしまった悲しみ?
「命が授けられ育まれた。
いくら神の子だといえど、親が居なければ育つ事は出来ない。
それが人間界の理。命を授けられし者の宿命・・・」
3000年女神ミハル様が仰られた通り。
父と母が居てこそ、子に命が授けられるのです。
喩え神の御子であっても、母親だけでは子は産まれないから・・・
「あなたが産まれた時。同じように生まれた子が居る。
女神を宿し、堕神を宿して・・・二人は産まれたの。
一人は人として輝の中へ。もう一人は闇の中で育つ事になった。
二人はたった一つの宿命に翻弄される・・・一人を蘇らせる為に」
3000年女神は美晴さんが聞いていようといまいと、お構いなしに話すのです。
「嘗て、世界に存在した娘を蘇らせる為だけに、二人は人柱にされそうになった。
女神を人の子に宿らせ、二人の異能を一つに合わせることに因って・・・女神を呼び覚ます。
女神転生・・・今思えば馬鹿げたことを試みたと思うのよ」
そうですね、女神ミハルさんの仰られた通りです。
二人の魂は、女神転生の後にはどうなるというのでしょう?
「二人の娘はいずれどちらかが異能を吸収し、一つになる。
その時、女神が蘇り人の躰を持つと考えたみたいね・・・平和な世界で。
でも、それは全て邪なる者の罠だったのよ。
操られた女神に因って捻じ曲げられ、二人の娘は悪意の塊に飲み込まれてしまうの。
あなた達も知ってる筈よ、異形種という敵の存在を」
不意に女神の瞳が厳しくなった気がしました。
どうやらここからが全ての解決方法らしいですね。
「奴等の狙い。
それは・・・あなた達三人の異能を捥ぎ取る事。
女神と大魔王、光と闇の異能全て。人類を殲滅し得る強大なる魔力を欲したの」
なんと?!それではまた大戦が勃発してしまうのでは?
「不幸にして本物の女神は蘇らなかった、嘗ての世界では。
闇に堕ちていた女神に因り、人類はまた不幸な時代を迎えてしまう。
理の女神が蘇るまでの間、世界中に戦乱が拡がってしまったの」
やはり・・・デサイアの思惑通りになったのですね。
「ちょ、ちょっと待ってよ。それじゃあ女神様は?ここにこうして居るじゃないですか?」
話を黙って聞いていた美晴さんが、堪らず疑問を投げて来ました。
「世界に闇が降り注ぐ?女神が蘇る前に?イシュタルの者じゃなく、堕神によって?」
混乱した話の中身を整理しようとする美晴さんへ。
「そう・・・全てはあなたを憑代にしてきた堕神に因って。
一〇〇〇年女神を幽閉していた堕神デサイアによって。
この姿に化けていた闇の女神デサイアに因ってよ」
「あ、あたしに宿っていた?!女神ミハルが偽者?」
驚愕する美晴さんに、三〇〇〇年女神が錫杖を突きつけます。
「そう!何も知らない者達全てを騙し、目的を果たそうとする悪意の塊。
自らも異形種に操られていると思いもしなかった愚か者。
昔の私が眠りについているのを良いことに、悪事を繰り返した堕神デサイア」
「・・・そんな?」
今の今迄、美晴さんは理の女神だとばかり思い込んでいました。
父マモルの姉でもあり、信頼して来た護り神だとばかり。
「でも!蒼ニャンはいつもアタシ達を護ってくれていたんですよ?
危ない時は助けてくれたし、悪いことなんてやってない・・・」
「それもこれも。あなた達をこの場所まで導く為。
計画を頓挫させない為だけの事・・・全ては計画通りに運んで来ただけ」
なんと?!デサイアは守るように見せかけて、二人の異能を成長させてきただけ?
「う・・・嘘?嘘です!蒼ニャンは悪くなんて無い!」
女神が堕神だという目の前の女神に対して、抗うように言った美晴さん。
ですが、女神からの答えは。
「悪いかどうかは別にして。
女神が闇の属性を持っているのに違和感を感じなかったの?
女神は輝だけを纏えるのよ、闇を纏えるのなら・・・堕神でしかないわ」
「え?!それはどういう訳で言えるの?蒼ニャンが闇の属性を持つって?」
美晴さんは毛玉について詳しくはありません。
毛玉姿になるのは、闇の属性のある神でしかないとは思いもしないでしょうから。
「ミユキお母さんから聞いていないみたいね。
お母さんは承知している筈なのにね・・・ペルセポネー・・・コハルが堕神であるのを。
言い難かったのでしょうねお母さんも、貴女に宿っていた娘が堕神だなんて。
じゃぁ仕方ないわね、私が教えてあげるわ・・・」
つぃっと上空を見上げた女神の瞳に、天界から降りて来る天使長が映りました。
「そろそろ時間が無くなって来たわ。
手っ取り早くあなたに教えてあげる、私の存在と・・・未来の世界も」
視線を美晴に向け直した女神が錫杖を翳します。
「チェンジ!我は真実を告げる理の女神。
私は時空を超えた未来の世界から訪れし、理の女神・・・ミハル!」
ブワッ!
錫杖から猛烈な金色の礫が噴き出して、美晴の視界を遮りました。
錫杖がデバイス槍へ。
一〇〇〇年女神の魔法衣が、新たな純白の魔法衣へと変わります。
渕に彩られた蒼きラインと黄金に輝くバインド。
そして・・・結われていた紅いリボンが・・・
バウッ!
金色の礫が飛び散り、純白のリボンが靡きました。
「これが本当のミハル。
二度の大戦に終焉を齎した、機動女神ミハルの魔砲衣」
?!機動?機動女神ですと?
しかも魔砲衣?その意味は?
次回作の名称がこんな処で出るとは?!
次回に続きます・・・・
ありゃま。
正体を晒しちゃいましたね。
これでもう、完璧に後戻り不可能。
歴史改変に、手を染めちゃうんですね。
さて・・・蒼ニャンとの違いとはどんなところでしょう?
次回・・・元祖が現れます・・・損なのの親玉が!
次回 もう一つの未来<<きぼう>> 第9話
こうして未来は明るいものになる?いいえ、なにやら大変な事実が?!