もう一つの未来<<きぼう>> 第7話
悪意の塊。
そいつ等はいつの時代から存在していたのか?
・・・異形の者。
その名は<異形種>・・・悪意の存在。
悪意の権化である異形種よりも早く。
未来から来た女神ミハルは二人の元へ馳せ参じたのです。
光の速さで・・・光の意志となって。
「ルシファー!その子が持つリングを発動させて!」
アクァさんの指に填められてある、時の魔法を司る指輪。
堕神ルシファーに直接呼びかける未来から来た女神。
「むぅ・・・もう少し感動的な再会を期待しておったのだがな」
シキ君に宿る堕神が、光を纏う女神に零しました。
「もぅっ!再会も何も。
私はいつでも傍に居るって解かってたんじゃないの?」
シキ君を通して観ているであろうルシファーに、3000年彷徨ったミハルが言い返しました。
「リーンのお告げをルシちゃん達に教えに来た時にも。
美晴が九龍に襲われた時にだって、しっかり逢えてたじゃないの!」
「むむ・・・確かに」
(作者注・この辺りの描写は外伝<黄金龍と神託の御子>にて掲載する予定です)
駈けつけて来た女神を観て、シキ君の中に宿ったルシファーが頷きます。
「それに・・・よ!感動の再会なら宿ってないで姿を見せれば良いじゃない?
ルシちゃんには唇だってあげたんだからぁ~、もう素顔を見せても良い筈なのにぃ~」
ブツブツと文句を溢した女神ミハルさん。
いいんですか、そんな悠長に話し込んでても?
女神ミハルのデバイス槍に付いている宝玉が点滅します。
「そ!そうだったわ!今は悠長に再会を楽しんでいる場合じゃなかった!」
分かってるんなら、それで良いですけど。
「リーンが怒ってる・・・またオシオキされちゃうから!」
それは・・・大変なことですね。・・・って、そっちかいっ?!
「ルシちゃん!悪意の塊、異形種が現れたの。
娘達を貶めてデサイアをも飲み込もうと企てたのよ!
今すぐに過去へ戻り二人を護らなきゃならないの!」
「やはり・・・そうだったのか。
この世界のミハルはデサイアと化し、悪意に染まっていたのか」
シキ君の顔で言われても、なにかピンときませんね。
「そ~なのよぉ~。困ったもんだわ」
未来から来たミハルさんが溜息を・・・って、過去の自分でしょーに!
「ミハル・・・責任とれよ」
「言われなくても・・・リーンの命令だもん」
御主人様に過去へ飛ばされたんでしょ?
自分の黒歴史を修正して来いと。
「そう・・・責任取るつもり。
二人の娘達を造れと神託を下した御主人様も、未来を変えるように命じられたの。
不幸にして二人の娘達は消し去られる事になった・・・デサイアに因って。
女神を召喚しようとしたリーンの願いも叶わず、私の知る未来では大魔王が生み出されてしまった」
先にルシファーの元へ来た女神は、背後でマゴマゴしている異形種を見返しました。
「それもこれも。異形種の仕業だと判ったのよ、私の御主人様にも。
だから、私を送り込む事にされたの御主人様は。
過去を変えてでも、二人の娘を護るようにと・・・ね」
そうだったのですね。流石はお優しい審判の女神様だけのことはあります。
「でもねぇ~、やっと平和を享受出来るようになってイチャイチャしようとした矢先にだよ?
2000年も彷徨わされる私の身にもなって貰いたいわよ!」
「・・・そう・・・なのか?」
・・・損ですから、貴女は。
流石の堕神ルシファーさんも、開いた口が閉まらないようです。
「だからぁ~!ぷんぷん丸なんだよね~」
はぁ・・・そうですか。
ぷんぷん怒っている割には、微笑んでおられるようですけど?
「そこで・・・ルシファーにお願い。
時の魔法で娘達が争う前に戻して貰いたいの。
二人が闘うなんて無意味だし、本当の敵は別にいるんだから」
「ふ~む・・・勿論ミハルが干渉するんだな?」
シキ君の小脇に抱かれたまま、気を失っているアクァさんを観て。
「モチ!不幸は根元から断つ。それが一番手っ取り早いのよ」
未来から来た女神にそう言い切られた堕神ルシファーですが。
「すまんが未来から来たミハルよ。余でも時の魔法を行使出来ぬのだが?」
「・・・え?」
属性のある魔法は、継承者たる者だけしか使えないんでしたよね。
この場合、気絶してるアクァさんだけ?
「ちょっ?ちょっと?!ルシちゃん!どうするのよぉ~?!」
てっきりこの時代の堕神だったら、行使出来るとばかり思い込んでいましたねミハルさん?
「う、うむ。この娘に宿るしかあるまい?」
「にゃるほど。その手でいきますか・・・って?!ルシちゃんが女の子に宿るの?」
奥の手を使うと言ったルシファーに、痛い目を向けるミハルさん。
「一刻を争うのであろう?仕方ないのではないか?」
「ルシちゃんが・・・金髪のおんにゃの子・・・ぷ」
吹き出す女神に、ルシファーが眉を顰めます。
「別に観た目で判断せずとも・・・仕方があるまいに?」
「そ・・・だっねぇ~(棒)」
棒って、なんですか?棒って?!
「それでは・・・参るぞミハル」
「おっけぇ~・・・プフ」
シキ君からアクァさんに乗り移ったルシファーが、瞳を開けました。
紅い瞳のアクァさんを憑代とした堕神が、手をミハルさんに差し出します。
その手をしっかりと握った瞬間。
「魔導書に書き込まんといけなかったのではないのか?」
過去へ飛ぶ前に、堕神が訊いたのですけど。
「大ジョーブ!私は人じゃないから。時の魔法がどういう物かを知ってるから」
女神に因って造られた時の魔法ですから。
過去へ飛ぶと記憶が無くなるのを知ってます。
勿論、人間が・・・でしたが。
「神ならば。
私は女神だから、魔法衣に全てを書き込んであるから。
消そうとしたってデバイス達が示してくれるんだよ!」
「そうか・・・なら。行くぞ!」
一瞬の躊躇の後、堕神はアクァの魔法を解放しました。
時の魔法。
過去へと飛べる・・・禁断の魔法。
歴史を変えれる事が可能な・・・禁忌の魔法が発動したのです。
「頼んだぞ・・・未来のミハル。いいや、我が永遠なる絆の娘よ」
時の魔法など使った事のない堕神が、ミハルだけを過去へと飛ばしたのでした。
・・・あれ?行使した本人が行かなくても良かったっけ?
女神ミハルの姿と意志が、過去へと飛んだのです。
ルシファーが知り得る次元まで。
あの3人娘達を送り込んだ・・・過去へと。
「にゃんという・・・浅はかさ」
頭を抱える女神がそこに居ました。
「これじゃあ、じっと待つより他がないじゃないの!」
アクァの魔法は、確かに発動したようだったのですが。
「ミハエルさんが降りてきたタイミングじゃないし、早過ぎて出られないじゃないの!」
デサイアの悪だくみが始ったばかりの時限。
まだ本当なら潜んでいなければならない筈でしたから。
「しょうがないなぁ~、暫く歴史を傍観しておきましょうかね」
過去の場合、今自分はデサイアに潜んでいる筈でした。
しかし時の魔法で舞い戻ってしまったから、デサイアの中には存在していない事になります。
「異形種が、どのタイミングで仕掛けて来るか?
それともデサイアだけに的を絞るべきか・・・否や?」
歴史はもう変わってしまったようでしたから、敵の手の内が判りかねました。
「過去の通りだとすれば、異形種は必ず手を出して来る。
その時まで見守るだけにすべきかな?」
女神はひっそりと大魔王の結界で、息を殺して待っていました。
いや、あの?息してませんよね?女神だもん?
未来から来た女神が潜んでいるとも知らず、コハルは3馬鹿魔王を蹴散らしてしまいました。
「あ~あ・・・やっちゃった」
自らが怒りの所為で大魔王を名乗ってしまった娘に、ため息が零れ出してしまうのです。
「このままでは、あの娘は大魔王化しちゃうよねぇ~」
傍観するだけに徹したんでしょうか?
助けないの??
「まだ・・・出番じゃないのよね~」
あ・・・そう?
可哀想に、コハルちゃんが罪の意識に苦しんでいますよ?
「まだ・・・まだ・・・よ」
・・・・
そうしてる間に。
コハルの元に美晴が近寄ってきます。
大魔王の結界に。
結界の外で呼びかけています。
「来た・・・奴等め!姑息な手を!」
女神が眉を跳ね上げて虚空を見上げたのです。
「異形種め!端から二人を獲り込む気だったのか!」
女神が吠えました。
美晴さんを連れ込んだのはコハルちゃんじゃなく、イシュタルの者達だったと知れました。
結界の中に美晴が連れ込まれると、大魔王になったコハルが立ち塞がったのです。
「むむ・・・もう少し。まだ間に合うわね?」
コハルとミハルが対峙しています・・・と。
いきなりコハルへ、異形種からの悪意が放り込まれたのです。
「くっ!美晴・・・ごめんね。少し痛いけど・・・ガンバ!」
おいおい・・・ガンバって。まだ観てるだけ~・・・なの?
コハルのグラビトンが放たれてしまいました。
もろに喰らった美晴さんが、手傷を負ってしまうのでしたが。
「ふむふむ、宜しい。深手にはならずに済んだわね」
おいおい?!酷過ぎじゃぁ~ありませんか?
「もう間も無く、奴等が尻尾を出す・・・デサイアと共にね。
・・・と、そろそろ準備にかかるとしましょうかね」
やっと・・・干渉する気になりましたか!
「あの子達も護ってあげる。
ジャストタイミングでね!」
?!あの子達?
「さぁ!春神・・・じゃなかった、小春神。
先ずは3人を救わせて貰うからね!」
おお?!マリアさん達を?
大魔王と化したコハルに因って、魔鋼少女達が爆散したのを覚えています。
そうならないように、女神が介入すると言ったのです。
でも、どうやって?
落ち着き払った女神さんが、すっくと立ちあがりました。
大魔王が美晴さんから3人娘に狙いを変えるタイミングで。
「ルシちゃんが時間稼ぎに寄越したんだよね。
きっと私が助けると読んで・・・その通り!」
大魔王コハルの魔砲が・・・放たれます!
その刹那・・・
「ドライビング・ワープ!」
魔鋼の異能で光となった女神さんが?!
「おっとと。この姿のままじゃぁ、ややこしい話になるわね」
3000年女神の魔法衣のままだったミハルさんが、1000年女神の魔法衣姿にチェンジします。
「古いなぁ・・・こんなに弱っちい魔法衣だったっけか?」
あの・・・過去の魔法衣ですよ?自分の。
「まぁ、大魔王級には十分かな?」
・・・畏るべし。
光とかした女神さんは、ミハルさん達の前に立ち塞がったのでした。
魔砲弾よりも早く・・・3人娘に魔砲を放ったのです。
「ちょっと衝撃があるけど・・・大丈夫だよね?」
へ?!
旧式の錫杖を振り抜き、女神さんは3人娘に対して。
「魔砲障壁展開!弾き飛ばせ!」
魔砲に対して魔砲で応じたのです。
輝が・・・来ました
輝が・・・現れたようです。
美晴の前に。
呆然とコハルから放たれた魔砲弾を観ているだけだった魔鋼少女の前に。
ド グワアアアァ~ンッ!!
猛烈な爆発が、何もかも覆い隠したのです。
爆焔が辺りを覆い尽し、目の前に居た筈の大魔王をも隠し去ったのです。
「うっ?!」
それは単なる爆発とは思えませんでした。
何かが起きた・・・そう思えたのです。
「マリアちゃん?!ローラちゃん、ノーラちゃん?」
3人が居た筈の場所に。
光が観えたのです・・・輝く何かが。
光の速さ以上で舞い降りた・・・何かが。
やがて、爆焔が薄れ始めた時でした。
「あ・・・蒼ニャン?」
そこに居たのは、女神である伯母。
・・・の、筈でした。
「蒼ニャンとは違うのだよ、蒼ニャンとは・・・ね」
後ろ姿を見せているのは、まぎれもなく女神ミハルだと思ったのです。
何も知らない美晴には・・・
歴史の改竄に関わると言う。
未来から来たミハルは魔鋼少女を護ると言いました。
干渉するのを厭わず、遂に姿を美晴の前に。
いよいよ3000年ミイラが闘うようです!
真・理の女神ミハル「ミイラちゃうもん!」
分かってますってば。
次回 もう一つの未来<<きぼう>> 第8話
君の前に現れたもう一人の女神。彼女は何を望むと言うのか?未来から来た女神は美晴に何を告げるのでしょう?