もう一つの未来<<きぼう>> 第3話
決闘は一瞬で決着をみる!
美晴は紅鞘を構えて突き進むのでした!!
紅鞘の剣を右腰に宛がい。
刀身を真っ向正面に向けて。
突き進むのは、怒りに身を染めし魔鋼の少女・・・美晴。
「うわああああぁっ!」
雄叫びか・・・気合なのか。
叫ぶ声も高らかに、怨敵目掛けて全力で突っ走るのでした。
「貴様など、この魔王剣で切り刻んでくれるわ!」
空中に浮かぶ大魔王は、己の強大なる魔力に己惚れています。
突っ込んで来る美晴には勝てると思い込んで。
「待っ正面から、この大魔王に突っ込むなど自殺行為だと思わぬか?!」
まだ嘲る余裕が大魔王にはありました。
相手は魔鋼の少女とはいえ、人だったからです。
人が大魔王との勝負に勝てる筈もないと踏んでいたからでした。
いくら美晴の魔力が魔王級だとしても、いくら闇の異能を身に纏ったにしたって・・・です。
「人間如きが大魔王に歯向かうなど笑止!」
魔王剣に強大なる魔法力を貯め終えた大魔王が、剣先を美晴に向けて吠えました。
「切り刻んでくれようぞ!」
正眼で切っ先を美晴へと振り下ろす大魔王。
魔王剣に貯め込んだ魔力を解放し、美晴を斬ろうとしたのです。
大魔王とはいえ、剣技は習得が必要です。
産み出されたばかりの大魔王には、剣を扱うのも闘いを覚える時間もありはしませんでした。
喩えコハルの記憶が残されていたとしても、美晴の剣戟に敵う筈もなかったのです。
そう・・・美晴は幼い時からミユキお祖母ちゃんによって鍛えられて来たのですから。
まるで・・・ミユキお祖母ちゃんはこうなる日が来るのを知っていたかのように思えました。
何もかもが・・・光と闇の宿命が決まっていたかのようです。
嘗てコハル自身がそう思っていたように。
一時は輝を纏え、女神になれたコハルによって回避できたかに思えた宿命。
ですが、運命は薄情なものです。
運命とは、斯様にも悲劇を振り撒く物なのでしょうか?
今、光の御子美晴と、闇の姫御子コハルは・・・運命の瞬間を迎えんとしていました。
方や大魔王となり・・・
方や光を喪い掛けた人間の魔砲少女として、宿命の瞬間を享受しようとしていたのです。
「お前を倒してみんなを取り戻す!消えろっ大魔王ッ!」
独りの少女が闇に堕ちつつありました。
心に憎しみを抱いてしまい。身を復讐に染めて・・・
剣は光の子ならざる悪魔に替えられても、主に忠実でした。
紅き退魔の剣は聖なる輝を保ちつつ、切っ先を大魔王に向けていました。
「ほざくな小娘風情が!」
大魔王が剣を振り下ろす刹那。
ヒュッ!
まるでそう来るのが当たり前だったのか。
大魔王の間合いを読み切っていたのか。
それとも自分でも知らず内に身体が動いたのか。
僅かに身を翻した美晴が、一気に間合いを詰めたのです。
そう・・・大魔王の内懐へと。
「くたばれっ!大魔王ッ!」
叫ぶ声も。
「?!がッ?」
驚愕する叫びも。
一瞬でした。瞬きする暇もない一瞬で。
ドスッ!!
大魔王の左脇腹に赤鞘の切っ先が突き立ったのです。
「がはッ?!」
古から伝わる退魔の剣は、大魔王の精神をも切り裂きました。
上辺の肉体だけではなく、精神世界の魂までも。
ビキッ・・・バキンッ!
たったの一撃。
ですが、美晴が放った全力魔砲と同じ威力を、大魔王に突き刺したのです。
「キッ・・・サ・・・マ・・・ぁ」
大魔王の魂に亀裂が奔ります。
「よくも・・・よくもぉおおおおぉっ!」
大魔王の魂は罅割れ、やがて。
「ぐはぁッ?!この私が人間如きにぃ?」
叫んだ声は憎しみを増大させていました。
カランっ!
手にしていた魔王剣が墜とされて。
「おのれぇッ!」
口惜しむ大魔王。
ですが、己の油断が齎した結末を呪うのは愚の骨頂とでも言いましょうか。
思いっきり剣を突き刺した美晴は、そのまま体当たりを加えてトドメとしました。
突き刺した剣に更なる圧力が加えられて・・・今少し剣がめり込んだのです。
闘いは一瞬で結末を迎えます。
相手の油断を見透かしたのか?
相手の失策が勝利を齎したのか?
どちらにせよ勝敗は着いてしまったのです。
「この私が人間如きに滅ぼされるだと?馬鹿な・・・そんな馬鹿なぁッ?」
大魔王は滅びの時を迎えます。
ですが、悪意の塊である大魔王は滅びを迎える瞬間に呪うのです。
自分を滅ぼした相手に・・・美晴へと。
「私を滅ぼしたと思っていい気になるな!
大魔王は必ず世界に存在せねばならぬ、それが世界の理。
私が滅んでも直ぐに新たな大魔王が産まれよう・・・倒した奴が引き継ぐのだ」
呪い・・・大魔王の。
それは美晴が半ば願った事でもありました。
闇の心に支配され、友を救いたい一心で願った・・・間違い。
「おまえも最早人ではなくなるのだ!新たな大魔王として光を纏う者と対峙するのだ」
大魔王の肉体が消えていきます。
「それは人ならざる者、大魔王は人間に闇を振り撒く者なり。
消え去った魂は二度とは戻らぬ・・・喩え大魔王が願おうともな」
「え・・・えっ?!」
最期を迎える大魔王。
そして・・・呪いは倒した相手を束縛し始めるのです。
美晴の躰に、闇の呪いが浸蝕し始めたのです。
精神をも束縛し、逃れる方法はないようにも思えました。
黒い霧のような物が美晴に憑りつき、身体に沁み込んで行ったのです。
「ぎゃははははぁッ!お前もこれで大魔王となるのだ!
呪われろ!呪われて堕ちろッ!堕ちて藻掻き苦しむが良い!
そして新たなる輝を纏いし者によって滅ぼされるが良い!」
呪いはかけられたのです・・・怒りと復讐に身を貶めた美晴へと。
本当に愚かだったのは美晴だったという事なのでしょう。
友を取り戻そうとしたばかりに、人間ではなくなり・・・
「アタシが?アタシが・・・大魔王?
大魔王になってもみんなを取り戻せないの?!」
混乱した美晴が消える大魔王の前で立ち尽くします。
「己の浅はかさを呪うが良い!
呪え!苦しめ!そして・・・本当に堕ちてしまうが良い!」
大魔王の肉体・・・コハルの姿はボロボロと崩れ去り。
「永劫に苦しみ悶えろっ!・・・がはぁッ!!!!」
最期に呪いの言葉を吐いて・・・消えていきました。
トサ・・・・
身体の中に黒い霧のような物が入って来た。
そう感じた後、美晴の影が消えてしまったのです。
それは最早、美晴が人ではなくなった証。
大魔王の言った通り、呪いは既に発動していたのです。
座り込んでしまった美晴が、消える大魔王の光を呆然と見上げます。
「こんな筈じゃなかったんだよ?
みんなを救う筈だったんだよ?
コハルちゃんを獲り返して、みんなを取り戻したかっただけなんだよ?」
呟く美晴が泣き出します。
「うっ・・・くっ。
ひっく・・・どうして?!
どうしてこんな事になっちゃうのよ?!
もう、アタシは残された人にさえも逢う事が叶わないと言うの?!」
美晴の頭に過るのは。
「マモル君・・・ルマまま・・・ミユキお祖母ちゃん、マコトお爺ちゃん・・・
みんな・・・みんなにも逢えなくなっちゃうんだ?」
家族だけじゃなくクラスメートたちの顔も浮かんでは消えていきました。
「アタシ・・・アタシは・・・なんて馬鹿だったの!」
後悔しても取り返しようもないのです。
呪いは厳然として美晴を苛み、やがては本当に大魔王と化してしまう事でしょう。
「コハルちゃん・・・ごめんなさい。
マリアちゃん・・・ローラちゃんノーラちゃん・・・赦して」
大魔王を滅ぼして自分が大魔王になったとしたって、みんなを取り戻すのだと意気込んだ美晴。
しかし、結末はあまりにも理不尽に過ぎたのです。
闘う相手が闇の総意だと想い計るべきだったのです。
しかし、怒りと憎しみが冷静さを失わせてしまい・・・
「アタシ・・・憎しみの感情が持つ結末を忘れていた。
憎しみや怒りの持つ負の感情が、闇に貶めるのを学んで来た筈だったのに。
アタシ自身が墜ちてしまうなんて・・・どうしよう?どうしたらいいの?!」
この時になって初めて。
「コハルちゃんが消えてしまいたいと感じていたのが痛いほど分かる。
大魔王になって他の人達に害を齎すなんて・・・想像したくもない!
・・・そうだったというのに・・・アタシは・・・馬鹿だった」
初めてコハルの願いがどれほど切実だったか理解出来たのです。
「誰か・・・助けてよ?
誰か・・・アタシを滅ぼしてよ?
誰だって良いから・・・アタシを消して!
本当の大魔王に堕ちてしまう前に!こんな馬鹿なミハルを消してよぉ!」
決死の願い。
それはコハルも願った想いの叫び。
今、美晴は。
自らの消滅を願うのでした。
ふと。
取り落としていた赤鞘の剣に目を向けます。
「まだ・・・正気で居られるのなら・・・みんなに謝らないと」
まもなく自分は正気で居られなくなる。
倒した大魔王がコハルではなくなったみたいになる前に。
「退魔の剣で・・・自刃しなきゃ・・・」
精神世界でも自決出来るのかどうかは定かではありませんでしたが。
美晴の絶望は、一つの解答を出しました。
自ら果てることにより、現実から逃れようとして。
そう思った美晴が剣に手を伸ばした時。
バチ・・・バチ・・・バチッ!
赤鞘の剣が美晴の手を拒んだのです。
退魔の呪法を宿した剣は、既に闇に堕ちた美晴を怨敵と認識したようでした。
「そ・・・ん・・・な・・・」
自ら果てることも出来なくなった。
もう、自分は大魔王になるしか道はないのかと・・・絶望が拡大してしまいます。
「う・・ううっ・・・酷いよ・・・酷い!
誰でも良いから今直ぐアタシを消し去ってぇッ!!」
近寄る絶望と哀しみ。
光の御子だった美晴は・・・今、泣きじゃくる女の子でしかありませんでした。
え?
女の子でしかない?大魔王じゃなく?
どういうことなのですか?
キラキラキラ・・・キラリ
身を捩って泣く美晴の躰に、金色の粒が舞い落ちて来ました。
キラキラキラ・・・キラリ
降りかかる光の粒。
大魔王の結界の中に?
金色の粒が舞い落ちる・・・聖なる輝の粒が・・・
魂をも貶められる美晴。
でも・・・助けはやってきます・・・必ず。
コハルは?
マリア達3人娘は?
そして美晴は救われるのでしょうか?
哀し過ぎる結末は、どうすれば回避出来るというのでしょう?
頼りは女神ミハルさんだけです?
次回 もう一つの未来<<きぼう>> 第4話
責任者でてこぉ~い!という事で。こうなった背景を語ろうかと思うんですBYデサイア