夢の欠片と希望への想い 第8話
コハルと美晴の間に割って入ってきた3人様。
ですが、相手が悪過ぎます。
なにせ本物の大魔王と化したコハルなのですから。
娘達が運命に翻弄されているというのに・・・
見詰めるだけなのですか?
手を出さないというのですか・・・蒼ニャン?
一体何を考えて・・・と。
あれ?
彼方の上空から何かが舞い降りてくるようですが・・・あれは?!
輝の御子と闇の姫御子・・・
宿命の対決に割って入って来たのは。
ピンクの髪を靡かせてマリアが魔鋼銃の狙いを着けます。
「アンタが美晴を倒すと言うんなら・・・ウチはほっとかへん!」
銃口の先に居るのは小春神ではなくなった娘。
「そうそう!美晴を虐めるのなら、アタイ達が許さないノラ!」
栗毛の髪をサイドポニーに結い上げたノーラがデバイスロッドを突きつけます。
ノーラの弟?のローラ君も魔鋼の異能で弱点を探りながら。
「美晴さんは僕等の大切な友達なんだからね!」
大魔王と化したコハルを睨みつけました。
突然の救援?!
どうやってこの結界の中に入れたの?
「みんな?!どうして・・・・」
美晴が振り返って叫びました。
どうして・・・と。
どうして此処に来てしまったのかと、訊いたのです。
「みんなには荷が重い相手なんだよ?!コハルちゃんは大魔王に・・・」
叫んだ美晴が、背後に居るコハルの気配を感じ取って。
「みんな!直ぐにここから逃げて!」
そうです。
増大していく闇の気配を感じ取り、コハルが再び闇に支配されそうになったのに気付いたのです。
「アタシなんてほっておいて!逃げてっ・・・直ぐに!」
振り返る余裕なんてありません。
皆に向けて叫ぶしかなかったのです、今の美晴には。
ぞわぞわぞわ・・・・ズゾゾゾゾ・・・・
コハルの願い。
それは闇の支配に束縛されてしまう前に、自らの消滅を望んでいたのでしたが。
・・・間に合わなかった。
・・・コハルの躰は、大魔王に支配されてしまって・・・
・・・再び悪意の塊と化していったのです。
スゥ・・・・
一旦閉じられたコハルの瞼が開いた時。
バゥッ!
赤黒き瞳と化したコハル・・・いいえ、大魔王コハルが睥睨していたのです。
「お前達も・・・輝を纏う者か?ならば・・・殲滅するのみ」
悍ましい言葉の羅列が、大魔王コハルから流れ出たのでした。
則ち・・・もはやコハルは元に戻る術を失ったのです。
「コハルちゃん!しっかりしてよ、闇になんて負けちゃ駄目だよ!」
美晴の叫びも虚しく。
大魔王コハルは魔王剣を振り上げて、狙いを救援に来た3人に向けたのです。
美晴にとって、それは堪え難い光景と映ったのです。
「やめて!コハルちゃんっ!」
美晴の絶叫と、魔王剣から迸る蒼黒き光の礫が重なりました。
天界に準じた場所で眺めていた女神が、細く笑みました。
「姫様?!一体何故?」
聖獣にクラス換えされたエイプラハムが驚愕の叫びをあげています。
「女神様!何故に斯様な事と相成ったのです?!」
蒼髪を靡かせる理の女神ミハルに訊き募るエイプラハム。
「姫様をお助け下されるのではなかったのですか?!
闇の魔王共を駆逐するだけではなかったのではないのですか?!」
闇の結界を見下ろすエイプラハムが、動揺を隠せずに女神の裾に手を伸ばそうとすると。
「私は助けるなど言っていないわ。
あの子達の宿命を見届けるだけ・・・そして勝者を味方につけるのみ」
聖獣エイプラハムの手を払い除けて、睨みつけるのでした。
「女神様は何故?!何故闘わせるのです?
姫様は漸く光を纏えるようになられたというのに。
やっと闇の中だけの存在ではなくなったというのに?!」
必死のエイプラハムが取り付こうとした時、どこかからくぐもった声が聞こえた気がしたのです。
「その声は?!もしやグランか?」
声がした方を振り返る狒狒爺が、眼を凝らす先に居たのは。
身体中を誡めで束縛されたグランが転がっていたのです。
神の束縛によりチェーンでぐるぐる巻きにされ、猿轡を噛まされたグランが・・・
「一体これは?!何故です?」
驚愕のエイプラハム。
そしてその答えとは?
「魔獣剣士も、そなたと同じように邪魔だてしようとしたからよ。
闇の属性を保った剣士が命に代えて護ろうとしたから・・・唯それだけ」
蒼き瞳に翳りを持たせた女神ミハルが言い返しました。
「何人たりとも邪魔はさせない。
宿命は全うされるべき物、運命には逆らえないのよ」
ぎろりとエイプラハムを睨み、右手を突きつける女神ミハル。
「そなたも邪魔する気なのなら・・・そこで大人しく見ていればいい」
神の束縛。
理の女神が放つ業とも思えない異能。
聖獣になったエイプラハムの躰をチェーンが捕らえ、身動きできないようにしてしまったのです。
「初めからこうしておけば良かったかしらね?
無意味な問答をしてしまったわ・・・姫御子の側近達を捕らえるにしてはね」
コハルの側近グランと狒狒爺。
その二人がこうして女神に捕らえられてしまったのです。
何故?
何故闘わせる?
何故救おうとしない?
どうして・・・女神ともあろう者が?
ニヤリ
歪んだ口元・・・悪意が見え隠れしています。
「このタイミングでしか闘わせられなかっただけの事よ。
都合のいい事に馬鹿な魔王が攻めて来てくれた。
しかも堕神がどこかに消えたタイミングという絶好の機会に・・・ね」
えっ?!
「もしも堕神が大魔王の座を維持していたのなら、コハルを貶めるのは無理だった。
エイプラハムを馬鹿な魔王によって消滅させた事にしたって、コハルは大魔王にはなれなかった。
堕神ルシファーが闇から居なくなったのを感じ取ったのが、今回の謀の発端なのよ」
ルシファーが大魔王の座から退いた?!それを感じ取れるなんて?
まさか・・・理の女神ミハルは?
・・・リン
鈴の音が?
・・・リリン
どこから?!
・・・リン・・・リリン
いいえ。これは単なる鈴の音なんかではないようです。
天界と闇の狭間。
人間界と闇の境界で。
人の理を指す音が、鳴ったのです。
シャン・・・シャン・・・
錫杖を鳴らして・・・誰かがやって来るようです。
魔獣剣士グランが気付きました。
聖獣エイプラハムも・・・・その姿を見上げます。
その二人の眼には、金色の輝が映っていました。
「おちおち粛罪も出来ないわねぇ・・・」
金色の輝から女性の声が零れ出して来ます。
「ホンッとに。いつもながら世話のかかる娘よねぇ、あなたは」
金色の輝に包まれた・・・・
「20年ぶりかしら?あなたとこうして話すのは」
金色の羽根を羽ばたかせ・・・
「審判の時以来かしら?それとももう少し前だったかしらね?」
天使の輪っかを冠した・・・
「尤も、あの時は女神ミハリューだったけどね?」
輝の中から姿をみせたのは?!
「今は元の天使に戻れたのよね~。
当時よりはいくらか大人になれたけど・・・誰かさんのおかげでね」
大天使ミハエル・・・
その姿は粛罪を終え、輝を取り戻した天使長の羽衣を纏っています。
蒼のローブと、金色に染まった蒼髪を靡かせて。
女神ミハルに微笑みかけるのでした。
「どうやら・・・私の存在を忘れていたようね?
それとも、ここに天使が舞い降りて来るなんて思わなかったのかしら?」
背を向けてふわりと降り立つミハエルさんが、女神に訊きました。
そして、囚われのグラン達に瞳を向けると。
「グラン、エイプラハム。
あの娘をここまで良くぞ護ってくれましたね、感謝しています」
女神の戒めを軽々と破り捨て、臣下の従者達に謝意を告げるのです。
「お妃様!大変な事態に・・・」
聖獣に昇格したエイプラハムが、事の次第を言上仕ろうとしましたが、ミハエルさんは片手で押し留めると。
「ええ。分かっていますよ狒狒爺や。
ですから、私が降りて参ったのですからね」
押し留めた手から、光の術を放つのです。
「これよりは堕神ルシファーが妃、ミハエルが関与します。
そなた達は此処より出て、人間達の守護に務めてくださいね」
威厳を正したミハエルさんが、女神ミハルを無視して命じたのでした。
「し、しかしお妃様?!」
望みを叶えようとしたエイプラハムが、自らの失態だと詫びる前に。
「良いのよ狒狒爺や。これは私にも責任があるのですから。
私と・・・あの方にも。ずっと・・・秘密にして来たのですから」
微笑むミハエルさん。
正に天使の微笑みを浮かべて、エイプラハムを諭したのです。
「グランも・・・ね。
もしもの時には・・・嘗て殲滅の女神と斬りあった腕で・・・頼みますよ?」
臣下の礼を執り続ける魔獣剣士グランに対して、ミハエルさんは頼んだのです。
「誓って・・・ミハエル様の御意のままに」
そう答えたグランは、僅かに頭を擡げて天使長ミハエルに応えたのです。
「今は我が上長と成られたミハエル様に。
嘗ての剣戟をご覧にみせましょう程に・・・・」
厳しく応えるグランに、ミハエルさんは微笑みを絶やさず。
「そうね・・・でも。そうならなければ良いんだけどね」
天使長ミハエルさんは、下界に観える闇の結界へと目を向けました。
「大魔王になんて貶められて・・・辛いでしょうに」
憐れむ声が、可憐な口元より零れました。
「さぁ!二人共。ここは私に任せておきなさい。
直ぐに手の者をかき集めて、闇の襲来に備えてくださいね」
微睡儀もしない女神を傍らに置き、ミハエルさんは臣下の二人に頼んだのでした。
「御意!」
女神と天使長の前から、グランとエイプラハムが姿を消しました。
言い付け通り、人間界に闇が溢れるのを阻止するために・・・です。
サァ~~~~~~~
天界にも似た場所に、何故だか肌寒い位の風が吹いたのです。
「何故・・・邪魔をしに来たの?」
身動きもせず女神が訊ねました。
「彼女達の運命じゃないの。
あの娘達は闘う運命だったでしょう?」
女神は眼下の結界を見据えたまま、天使長に言ったのです。
まるで・・・邪悪な悪魔が天使に逆らうように。
ふぅ・・・
天使長ミハエルさんが・・・ため息を溢しました。
「あら?!
邪魔しに来たのはあなたの方じゃなくて?
あの娘達を嗾けて、何を目論んでいるのよ・・・女神?」
ミハエルさんは理の女神を呼び捨てます。
それは昔、憑代だった者へだからでしょうか?
「目論むですって?
私はあの娘達の運命を遂げさせる手伝いをしただけよ」
女神の下に居るべき天使に訊き咎められて、女神が答えました。
「そう?じゃぁ・・・あなたの真の目的は何?」
再びミハエルさんが訊いたのです。
「・・・天使如きに答える必要はないわ」
苛立ったような声で、女神が言い返しました。
スゥ・・・・
ミハエルさんが女神との距離を執ります。
その行為はまるで・・・
「あなたも覚えていると思うけど。
あの時以来かしら。こうして対峙しなきゃいけないのは・・・」
ミハエルさんが右手にデバイス錫杖を取り出しました。
「何を・・・する気?
あなたは天使長になれたのでしょう?
女神に歯向かうと言うの?この理の女神と闘う気なの?」
理の女神が天使長ミハエルさんへと警告したのです。
手向かう気なら・・・容赦はしないと。
「そうね・・・確かに今闘っても勝ち目があるのか分からないわ。
でもね、同じ女神でも・・・邪心に満ちたあなたとなら闘っても良い筈よ」
きっぱりと。
ミハエルさんが言ったのです。
「あなたも覚えていると思ってたんだけど。
私がミハリューだったあの頃に、闘ったことがあるでしょ?」
ミハエルさんが蒼く麗しい瞳で女神を見詰めます。
「まだあの頃は人だったミハルに憑いていたのよね?
まだ女神ミハルに成る前・・・あなたは憑代にしていた・・・」
?!
ミハエルさん?どういうことでしょうか?
「てっきりミハルが女神になった時に、消滅したものとばかり思っていたわ」
え?!
えっ?!
下界の結界を睨んでいる女神に向けて、天使長ミハエルさんが言うのは?
「最初にも言った筈よ。
あの大戦の折、あなたと闘ったと。
・・・そう。
あなたと・・・殲滅の女神ミハリューとして。
同じ殲滅を名乗る・・・女神デサイアとね!」
天使長ミハエルさんが言い切ったのでした。
その名は。
理の女神ミハルとは別人、いや別の神。
殲滅を名乗る女神・・・それは再び世界に現れていたのか?
殲滅の女神デサイアとは?
世界が再び戦禍に見舞われると謂うのでしょうか?
神々を憎み、神々を駆逐する・・・殲滅の女神デサイア。
本当に理の女神ミハルは・・・デサイアと化していたのでしょうか?
光の者の中にも、闇が居たというのでしょうか?!
真実は次回に・・・
コハルちゃんのお母様・・・天使長ミハエルさん。
じっとしていられなかったのでしょうね?
そして、彼女が言うには。
蒼ニャンは・・・ミハルじゃないと?
ミハルの影・・・いいえ。ミハルの闇が模られた者?
一体その真実とは?
果たしてミハエルさんは女神デサイアをどうするというのでしょう?
その前に!
ミハルじゃなかったんかよ?!オメーは!
・・・騙したな!
次回 夢の欠片と希望への想い 第9話
遂に。本当に遂に!彼女が目覚めるようです・・・それは?
やっと、ここまで来て主人公登場?!なんじゃとて?