夢の欠片と希望への想い 第5話
コハルの爺やが。
巨靭兵に敗れたのです・・・
それは、悲劇のほんの一片でしかなかったのに気がつきませんでした。
3馬鹿魔王達を飲み込み、魔力を拡充した<巨靭兵>が放った破壊波。
魔法障壁を展開して主人を護った爺。
何もすることも、何も手を下す事も出来ずにいたコハル。
一瞬の内に取り返しの出来ない犠牲が支払わされてしまった。
そう。
罪なき、穢れ無き姫御子の心に楔を打ち込んだのでした・・・
「爺ぃっ?!嫌ああああぁっ!」
破壊波は、エイプラハムを掻き消してしまいました。
精神世界で姿を消された者は、無に等しい存在となるのです。
存在を消された者は、証を記憶している者が居なくなれば<真の無>になってしまうのです。
もしも・・・コハル達が爺の事を忘れてしまえば。
「返して!返してよぉっ!爺を、私のお爺ちゃんを!」
泣くコハルが叫んだのは、エイプラハムがまだ復活出来るかも知れなかったからでした。
精神世界である結界の中、姿を消し去られたとしても・・・
「返してくれないのなら・・・赦さない。
この大魔王の姫御子コハルが・・・絶対に赦したりしない!」
消し去った相手が存在を認めるなら、姿を消されても戻る事が出来るからでした。
精神世界に存在する事が出来たからでした。
ですが・・・
巨靭兵は、次なる破壊波動を準備し始めるのです。
つまり、もうエイプラハムを取り戻す事は出来ない・・・・闘うしかないと思えます。
「お前・・・私の言った言葉が分からないの?
大魔王の姫御子が命じた事に従わないの?
この闇の世界で・・・コハルの言う事を聴けないっていうんだね?」
泣き止んだコハルがふらりと立ち上がります。
乱れた髪に顔を半ば隠して。前髪に隠れされた瞳に、妖しい光が燈りました。
「じゃぁ・・・もう。
お前の存在を許したりしない。お前が楯突くのならば、容赦なんて与えない」
コハルの口から、禍々しい言霊が零れました。
「最期に・・・言い残す事はないか?ないよね?
一言だって溢さずに・・・お前を葬り去ってやる!」
左の人差し指を立て示し、コハルが本性を現したのです。
赤黒き瞳・・・闇の王が持つ剣を手にして。
大魔王の姫御子コハルが、怒りの表情で邪操機兵を睨んだのでした。
「今直ぐ爺を復活させるのなら、考慮してやらない事も無い。
だが、断るのなら・・・私の怒りを受けて滅び去るが良い!」
睨んでいたコハルの瞳が、青黒さを滲ませます。
もしも巨靭兵が、戒心して爺やを復活させたのなら。
「女神を併せ持つコハルの慈悲で・・・殲滅だけは赦してやる」
剣を腰だめに構え、コハルが最後通牒を突きつけたのです。
「今直ぐ・・・返せ」
構えるコハルの強大なる魔力が剣に注がれ、蒼き光を放ち始めました。
「返さぬのなら・・・お前も無に帰してしまうが良い!」
コハルの瞳から徐々に蒼さが失われて行きます。
それはもう、小春神ではない証であり、闇の大魔王でしかなかったのです。
コハルが魔力を貯めるのと同じく、巨靭兵も顎を開け放って第2弾を放とうとしていました。
どちらが先に?
「ぎゃああああぁっ?!さっきの一撃でパワーを使い切っちゃったよ!」
巨靭兵の中で、ランドがぜぇぜぇ息を切らしてペダルを漕いでいました。
「そんなことぁ~わぁ~ってる!」
同じようにペダルを漕いでるリュックさん。
「泣き言はおよし!二人共一蓮托生だって言ってただろーーがぁ!」
姐御ポーチが必死にペダルを漕いでいますが?
「でもぉ~なんでぇ~魔王3人が魔力注入ペダルを漕がなきゃいけないんだよぉ?」
ゼハゼハ言いながら3馬鹿魔王が漕いでいるのは?
巨大な邪操機兵、巨靭兵に魔力を貯める為のペダル?!
まるで3人乗りの自転車をこいでいるような姿なんですけど?
あ・・・もしかして。
これは・・・フラグですか?
既に負けが確定してしまったという?
「だぁってぇ!一撃で二人共吹き飛ばす筈だったんだからぁ!」
ランド君・・・残念。
「二発目なんて考えても居なかったw」
( ´∀` )・・・・
「あんのぉ糞爺め。姫御子を護って消えやがってぇ!」
アレ?3馬鹿魔王達が消し飛ばしたんじゃ?
「奴にまんまと一杯食わされたんだ!破壊波動を己の姿と引き換えに掻き消しやがるなんて」
・・・と?いう事は??
「あの爺っ!今頃どこかで高みの見物としゃれ込んでやがるんだぜ!」
・・・あらまぁ。じゃあ、コハルちゃんにそう言えば良いじゃないですか?
「どういう訳か分からないけどさぁ、外界に話すスピーカーが付いてないんだよねぇ」
「この邪操機兵ってば、不完全な仕上がりだよねぇ。不良品だよ!」
「って、言ったって。後の祭りだぞぉ!」
・・・おいたわしや、3馬鹿魔王さん達。
で?
この後って?お決まりのパターン?
「おたすけぇ~~~ぇ!」
3馬鹿魔王の叫びが、巨靭兵の内部に木魂したとかしないとか。
「「御許しを・・・姫様。これも理の女神様の言い付けなのですじゃ」」
ちゃっかり・・・存在していますが。
「「このエイプラハムに、女神様の御命令を拒否など出来ぬ相談なのですじゃ」」
光の揺蕩う中で、狒狒の魔獣だったエイプラハムが謝罪しています。
「「こうすることで、私メも光を纏えるようになれると。
女神様から言い渡されたのですじゃ・・・御許しくださいませ」」
なんと・・・蒼ニャンの策略でしたか?!
一体何を企てて、このような真似を?
「「ですから、付き添う時に申し上げたでしょう?
この件は女神様のご承認を受けているのですと・・・申し上げたでしょう」」
輝の中で魔獣は聖獣となれたのです。
そうする事により、爺は・・・
「「姫君の傍に。喩え闇でも輝の中でも、お傍に居られるのですから」」
なんと?!
蒼ニャンはエイプラハムを唆し、交換条件を提示していたというのです。
そして今、まんまとコハルを戦いの場に引き摺り込んだ。
「「お優しいコハル様が、闘わず赦してお終いになるのを回避する為。
姫様の実力を計るためとはいえ・・・騙してしまった爺をお許し下され」」
罪の意識で、爺は謝罪を続けていたようです。
「「あのような中途半端な巨靭兵など。
姫様なれば一撃で葬り去れましょうに。爺やは信じております故」」
輝の中に映し出されている闇の結界。
今、爺やが居るのは神々が居る天上界に準じた場所。
「良くやってくれた狒狒。その恩賞を受けるが良いわ」
輝の中、蒼ニャンの声が爺やに届きました。
既に魔獣から聖獣となった爺やに、一振りの杖が与えられます。
「これは守りし者が携えられる杖。これからも人の世の為に尽くすが良い」
何時になく重々しい蒼ニャンの言葉。
「間も無く決着がつくわ輝と闇の。その勝者に付き従いなさい」
蒼ニャン?コハルが負けるとでも?
まさか3馬鹿魔王が勝つなんて思っちゃいないでしょう?
「「理の女神様、姫様以外に付き従えと仰るのですか?」」
途端に爺やが訊き募ります。
「「私メが望んでいるのは、姫様の傍に居続けることのみ。
そうでなければこのような謀に従う事など、在りはしませぬぞ!」」
そうでしょう。
狒狒爺やは純粋にそう願ったのでしょうから。
「言った筈。私は狒狒の異能を買ったのみ。
その異能を勝者に対し捧げるようにと・・・言いましたよね?」
ばっさりと蒼ニャンが言い切ります。
「そなたの望みなど、私は汲んではいない。
私が必要なのは、本当の敵と戦える力のみ。そこに情状を酌量する気なんてないわ」
?!蒼ニャン。何を言ってるの?
「そなたが欲した光の姿。
私は、闇と光の双方の異能を持てる者を増やしただけ。
唯、どちらが勝とうが、それに従う者をあらかじめ用意したのみ」
冷たい・・・冷たい言葉ですよ蒼ニャン?
それが慈悲深い蒼ニャンの言葉とも思えません。
「闘いは常に非情。
その闘いの女神である私には、希望や願いなど求められない。
人類存続の為なら、遠い縁をも・・・滅ぼすでしょう」
蒼ニャン?!本当に蒼ニャンなのですか?!
「狒狒の魔獣だった者よ、人の理に尽くすが良い。
人の世に歯向かう者を殲滅せよ、この闘いに勝利した者に尽くせ。
間も無く・・・その時が訪れるだろう」
・・・蒼ニャンを模った別人ですね。あなたは何者?!
「私は人に寄り添い1000年を旅して来た女神ミハル。
人は私の望みを裏切り続けた、どんなに手を挿し伸ばしても。
どれほど戦の愚かさを説いても・・・神を愚弄し続けてきた・・・・」
まさか?!本当に・・・オリジンミハルだというのですか?
「だが、その人類を守らねばならない。
未来に希望という者が居るのなら・・・私は敵を殲滅せねばならない」
・・・
・・・・・
・・・・・・・・
嘗て。
女神の中に居ました。
ミハルに憑りついた<デサイア>という名の女神が。
彼女は確かに<殲滅の女神デサイア>を名乗っていましたが・・・・
その彼女が、なぜ今になって?!
「聖獣エイプラハム。そなたには主である者を守り抜く使命を授けます」
蒼ニャンの言葉が聖獣となった爺やに堕ちました。
それは・・・確かに女神の宣旨。
まごう事ない女神の証だとも言えたのでした。
「終わりよ!巨靭兵!」
大魔王の剣が振り建てられて。
「消え去るが良い!魂も何も残さずに!」
巨靭兵のアギトから破壊波動が打ち出される瞬間でした。
キュゥイイイィン!
魔王剣が蒼き光を放ったのです。
「大魔王が命ずる!我が名コハルを以って、打ち倒せ!」
ズアアアアァッ!
強大なる魔力により、結界が歪んでしまいました。
結界の中で・・・独り。
大魔王の姫御子だったコハルが、今放つのは?!
「デビルス・ブラスター・・・シュゥートォ!」
魔戒剣であるルシファーの剣から。
まるで正反対の魔力が打ち出されてしまったのです。
そう・・・大魔王本来の闇の波動が。
闇に染まったコハルの怒りを象徴するように。
ズッドオオオオオオオオオオオオオオオ・・・
闇の結界に浮かんだ岩が消し飛び、巨靭兵が切り裂かれて。
「ジ・エンド!消滅してしまえ!」
紅き瞳に堕ちてしまったコハルが叫びました。
黒い影だった巨靭兵が、姿を消していきます。
終焉を迎えるのは、やはり巨靭兵。
いくら強大な邪操機兵といえど、大魔王に敵う筈もなかったのです。
「「ぉ・ぇ・・・ぉ~」」
殲滅を受け入れた巨靭兵から、何か聞こえた気もしたのですが。
気の所為だったでしょうか?
ああ。
当然ですけど、あの3馬鹿魔王達も一緒に拭き消され・・・あ。
きっと負け惜しみを言って、どこかに行ったんでしょうねぇ。←生き残ってるのか?
こうして。
襲いかかった巨靭兵は駆除されたのです。
コハルにより、闇の結界は破られ・・・・てない?!
どうしたというのでしょう?
襲いきた闇の者以外にも居残っているのでしょうか?
「まだ・・・よ。まだ・・・
私の怒りは納まりはしない。大切なモノを奪われた怒りは!」
紅き瞳になってしまったコハル。
放ってしまった大魔王の異能に依り、染められてしまっていたのです。
そう。
彼女自体が大魔王と化していたのです。
それが<イシュタルの民>の狙いであったのかどうか。
小春神はそこには居なかったのです。
そこに居るのは<新たなる大魔王>となったコハルしか居なかったのでした。
光と闇を放つ者は、闇に堕ちてしまったようです。
それがどうして?
蒼ニャンの企みだったのでしょう?
答えは次回に引き継がれます。
怒り
そして復讐心。
今、彼女は闇の王と化してしまったのです。
女神だった事も、人々と親交を深めたのも。
そして愛する人々の願いさえも・・・
新たなる大魔王はこうして生まれてしまったのでした。
イシュタルの民が画策するよりも早くに。
次回 夢の欠片と希望への想い 第6話
救出に向かったミハルの眼に映ったのは希望ではなく・・・絶望?!