夢の欠片と希望への想い 第3話
美晴達が邪操機兵を駆逐していた時。
闇の結界が近づいていました・・・・
皇都学園が邪操機兵に襲われていた頃。
3馬鹿魔王達は強敵に遭遇していたのでした。
「にゃんでぇ~っ!」
ランドが狼狽えます。
「やっぱりぃ~ぃっ?!」
リュックが懼れていた通りだと泣き声をあげました。
「どうしてアタイ達が出張るのが判ったのよぉ?!」
ポーチが・・・二人の陰に隠れます。
それを睥睨しているのは。
「ねぇ爺?私って何か悪いことしちゃったのかしら?」
コハルが傍に控える狒狒爺やに小首を傾げて訊いたのでした。
「いやいや。姫様は何も悪い事などなされておられませぬぞ」
憤慨している狒狒爺やが、3馬鹿魔王を睨みつけます。
「畏れ多くも・・・我が君に対し奉り述べる言葉とは思えぬぞ!
如何に魔王だとて、許せぬ言葉使いじゃ!」
爺やの白銀の髪が逆立ちます。
コハルの最側近として大魔王ルシファーに任じられた狒狒爺や。
本来ならば一方の魔王にも成れる実力を有しているのですが・・・
「我が君コハル姫様に歯向かうのならば、私が相手を務めても良いのだぞ?!」
普段温厚な紳士である爺やが、牙を剥きました。
それというのも、懲りない魔王達に反吐が出るからでした。
「一度ならずも二度まで。我が君に歯向かおうなど笑止千万!
黄泉の果てに送り込んでやろうか?それとも消え去りたいか?」
爺が本気で牙をむいているのを観たコハルが、停めに入ります。
「爺、爺ぃ。そんなに怒らなくても良いのよ?
私はなんとも思っちゃいないんだから・・・」
コハルの言葉に我を取り戻した爺やが、普段の温厚さを取り戻して。
「これは・・・私めとした事が。全く以って面目もございませんですじゃ」
コハルに傅き、傍に控えました。
繰り返しますが。狒狒爺の実力は並みの魔王にもひけをとりません。
まして、目の前に居る魔王如き3匹を相手にするのは、無問題です。
「爺や、付き添いだけにするって言ってたじゃないの。
こんな魔王崩れ如きに、私が何とかされると思うの?」
今、コハルは大魔王の姫御子であり且つ、小春神でもあったからです。
その異能は並みの魔王クラスの5倍は出せるでしょう。
しかも、輝と闇の異能を使役する者として。
コハルは大魔王の異能と女神の異能を併せ持つ特異者と化していたのです。
「ですが・・・このような者に、姫様が手をお汚しになる必要などございませぬぞ?
私めが、瞬時に方をつけても宜しゅうございますれば・・・・」
ギラリと半端な魔王を睨みつける・・・臣下髄一の魔獣。
「爺ぃ~。この人達だって来たくなかったみたいよ?
私と正面から闘う気なんて元から無いみたいだから・・・」
怯え竦む3馬鹿魔王に、コハルが情けをかけるのです。
「だから。帰って貰えば済む事でしょう?」
女神の異能に目覚めたコハルは、慈悲の心で言うのです。
「なんと・・・お優しい。我が姫様こそ仕えるに値する・・・」
ハンカチを取り出し、爺やは嬉し泣きを溢すのでした。
「これ、聞いたであろう!我が姫の慈悲深さに感謝して立ち去るが良い!」
ハンカチを仕舞うと、爺やが宣言しました。
「どうしても歯向かうというのであれば・・・このエイプラハムが。
我が姫様の前で貴様らを始末してくれようぞ!」
爺やが自分の本性を晒して凄みました。
エイプラハム・・・古代エジプトの悪魔。
狒狒の姿を執り、人間を苦しめた巨悪の存在。
それがどうしてコハルの臣下になったのか?
「我が主君、大魔王ルシファー様に乞われた悪魔王エイプラハム。
姫君に楯突く者など、赦しなど出来ぬわ!この牙の錆にしてくれる!」
人型を執っている時は温厚な爺やですが、一旦本性を表せば。
3馬鹿魔王の前に姿をみせたのは・・・凶悪なる狒狒の魔獣。
「爺っ!その姿を見せないでって、いつも言ってるでしょう?」
優しいコハルでしたが、爺の姿から眼を背けて注意したのです。
途端にエイプラハムが人形に戻りました。
「これはトンだことを。姫様の前であるのを忘れ・・・お許し下され」
悪意をひっこめた爺やが、深々と頭を垂れて謝罪するのです。
「もぅ・・・爺やったら。私の事になると見境がなくなるんだもん」
背けられたコハルの顔を覗き込むように、爺やが項垂れて言いました。
「姫様だから・・・ですじゃ。姫様だから・・・本気で御守りするのですじゃ」
狒狒爺やの眼には、幼子のコハルが映っていたのです。
「ミハエル様と主君ルシファー様の一つ種の姫様だからこそ。
我が存在を賭けて御守りするのですじゃ・・・お分かり下され」
爺やの思い出に、人間であったミハエルとルシファーが映っていたのです。
「お生まれになった時。主君ルシファー様から頼まれたのですじゃ。
コハル様を御守りするようにと・・・この悪魔でしかなかった爺に。
ミハエル様が下僕でしかないこの爺に、抱いても良いと差し出されて。
まるで孫を抱かせていただいたような気がしたのですぞ・・・姫様」
ぷんっと、拗ねた様な顔でそっぽを向いているコハルへ、爺やが呟いたのです。
「ですからじゃ。
我が姫君に仇名す者を看過出来ぬのですじゃ」
「もぅ!そんなに私の世話を焼きたいの?」
振り返ったコハル。
そこには怒った様子など微塵もありませんでした。
あるのは・・・微笑みを浮かべる女神のような笑顔。
「ああ・・・まるで人になれたような気がしますじゃ。
まるで孫に微笑まれているように思えますのじゃ・・・」
白銀の髪、白銀の髭。赤黒い瞳。
人ならざる魔獣が望むのは・・・孫のような娘の幸せ。
「いつの日にか・・・恩母君様と手を取り合って天上界へ。
それが爺の希望。そのお姿を拝謁賜れる日が来るのが望みですじゃ」
コハルを暖かな目差しで観る爺やの願いが叶う日は、いつ来るのでしょう?
コハルと狒狒爺やが手を拱いている内に、事態はあらぬ方に向かっていたのでした。
「おい、リュック。どうやら人間の奪取は失敗したみたいだぜ?」
蒼褪めたランドが脳筋リュックに言い募ります。
「そんな・・・どうする気だ?」
姑息にも、悪戯に頼ろうとしていた3馬鹿魔王達に残された手段は?
「もぅ・・・あれしかないわねぇ?」
最終手段・・・か?
ポーチが闇の底から聞こえて来る足音を示します。
「この場から退散して。成り行きに任せるっきゃないんじゃないの?」
うん?どういうこと?
「まさかポーチ?!あれを放つのか?」
リュックが改めて聞き咎めます。
「もう・・・アタシャー知らないかんね。
新大魔王様の言い付けを守らなきゃぁ、どのみち助からないんだよ!」
投げやりになっているポーチ?
「あの糞忌々しい娘に消滅させられるか、新大魔王様に無にされるか。
どっちにしたって助からないとくりゃぁ・・・道連れにしてやるまでだよ!」
姉儀肌のポーチが、ランドとリュックに言い放ちました。
「おいおい!まさか・・・本気じゃ?」
リュックが怯えていますが?
「リュック・・・短い間だったけど、それなりに楽しかったよ」
今度はランドまでが、達観したように言うのでした。
「マジか?ランド?」
ポーチとランドが巨大な影に歩を進めだします。
「待て待て待てっ!俺を置いてけ堀にすんなよ!」
残されていたリュックも・・・影に向けて走り始めたのです。
その巨大なる影とは?
魔王の結界が揺れたのです。
まるで巨大な物が地の底から現れ出るように。
コハルと爺やの前に。
そいつが姿を現したのでした。
巨躯。
真っ黒な。
穿かれた目は悪意を剥き出しに。
4本の角は只ならぬ者を意味し、半ば開け放たれた顎には牙が。
そして、その顎から漏れ出ているのは。
「姫様、今度ばかりは油断ならぬと心されよ」
主従の前に姿をみせた者。
それは?!
「あれが・・・新しく魔王を名乗った愚か者の放った技?
アイツが私を捕まえに来た巨靭兵?!」
コハルの前には黒い巨大な人型を模した、邪操機兵が立ちはだかったのでした。
遂に現れたボスキャラ?!
手強そうなのは勿論、どんな異能を持っているのでしょう?
さぁ!闘え魔砲の御子。抗え姫御子コハルちゃん!
三馬鹿魔王の奥の手。
それはコハルにとっても想定外の敵でした。
巨大な邪操機兵。
果たして如何なる異能を持っているのでしょう?
次回は・・・コハル最大の闘いになる?
次回 夢の欠片と希望への想い 第4話
君は目の前で起きる現実から眼を背けるのか?それとも受け入れてしまえるのか?