夢の欠片と希望への想い 第1話
闇の結界。
そこは異世界とも呼べる次元の狭間。
異能ある者だけが貼る事の出来る空間でした。
新たな大魔王を蘇らさんとする魔王軍の3匹。
つまり・・・
「おいランド、今回は勝てるよなぁ?」
「勿論だとも」
なんだか自信なさげな小悪党?
「ホント~に?」
「間違いないっ!」
かなり疑っていますけど?
ケモ耳魔王に大の剣士が訊いてますが?
「なによぉ~リュック?心配なのぉ?」
姐御肌のポーチが心配顔のリュックに質しました。
「ですがねぇポーチ姉貴。
あの忌々しい魔王崩れが現れるかも知れませんぜ?」
・・・魔王崩れって誰の事?
「お嬢さん面した奴でも、異能は間違いなく俺達より上ですぜ?」
・・・ああ、コハルさんの事ですか。
「わぁ~ってるわよ、そんな事くらい。
だから秘密兵器を強請って来たんじゃないの」
ふふんっとポーチが言い返しました。
「今度は絶対に負けられないからねぇ。
魔王に二度のしくじりは赦されないわよ!」
・・・一応魔王さんでしたねぇ。
「そーだよリュック。
ボク達が今度は勝つんだから、絶対だよ」
「そぉ~かぁ?それでアレを借り出して来たんだっけ?」
そういうリュックが背後の影を見上げました。
そこにある影とは?
黒い巨体。黒い巨大な漆黒の影。
人型をしている巨大なる影は、角を4本生やしています。
「イシュタル特製の破壊魔王!これさえ使えば、いくら魔王モドキだってイチコロよ!」
ポーチが自慢気に言い放ちました。
確かに悍ましく、かなり手強そうに思えます。
「良いかいリュック。
こいつは我が魔王軍の中で一番強いんだ。僕達だって敵いっこない程なんだぜ?」
「確かにそうだが・・・なんだか不安」
小心者なのか、それとも全開に懲りているのか?
「リュックともあろう魔王が、小娘にビクつくんじゃないわよ」
ポーチは大船に乗ったつもりのようです。
「だがなぁ・・・相手は堕神の娘だぜ?
なんだか嫌な気がするんだよなぁ・・・俺は」
巨大な影を見上げても、リュックは乗り気ではないようです。
「石橋を叩いて渡るという諺があるじゃないか。
何も謀も無く襲いかかるのはどうかと思うんだが?」
剣士には珍しい慎重派ですな。
「じゃぁ何かい?お前は正攻法よりも姑息な手段でやっつけようと?」
聞き咎めたポーチが眉を顰めました。
「そうだよ、そうするべきじゃないか?!」
悪意の者らしいと言えばそうですが。
「アイツは確か美晴とかいう人間の小娘を憑代にしていたんだ。
そいつを捕まえて手も足も出ないようにしてから襲う方が良いんじゃないかと」
姑息です!姑息な手段過ぎます!ですが・・・そこが邪なる者と云いましょうか。
「それも悪くない考えねぇ。何事にも保険は必要ねぇ」
早速ポーチが乗り気になりました。
「なんだよぉポーチまで。でも、それも面白いかもね」
ケモ耳をピンと張ったランドも同意します。
相手が人間如きだし、この前は巧く行きそうでしたからね。
「じゃあ、早速・・・邪操機兵達に襲わせよう!」
ランドが手を振り払って機兵を呼び出しました。
「おいお前達!僕達が出る前に、人間達を襲え。
襲って人質を捕まえて来い、良いな!犠牲は問わないぞ」
流石魔王ですね。見習うべき悪漢です。
呼び出された邪操機兵達は、命令に従って空間を渡って行きました。
「さぁ、これで心配は無くなっただろうリュック。思いっきり暴れてやろうぜ!」
ケモ耳ランドが言いましたが、まだ小心者のリュックは浮かぬ顔です。
「俺様の剣で斬れるかなぁ?」
・・・剣戟する気だったんですか?
「アホか?!相手は大魔王の姫御子だぞ!
リュックの剣でも斬れる訳がないだろう?!」
「そーよリュック。その為の大魔神ロボなんだからね!」
二匹の魔王が交々剣戟馬鹿に言い募りました。
「魔王ロボに任せておいたら良いんだよ!」
「獲って喰うかはロボ次第。後はお任せぇ~なんだからね!」
巨大な影を見上げてリュックに言いましたとさ。
その巨大なる影に、絶対の信頼を寄せているようでした。
「あのちんちくりん娘は一巻のお終いヨ!」
ポーチがふんぞり返って言った時です。
「誰がちんちくりんですって?!」
魔王達の前に蒼き光が湧いて出たのでした。
「・・・・あれ?!」
夢うつつな状態から抜け出したと思えば。
「美晴っ、おいミハル?!」
「どうしたノラ?」
「美晴さん、集合の知らせが届いてますよ!」
目の前にはマリア達が居たのです。
コハルに乗っ取られて寝てしまっていた美晴でしたが。
「立ったまま気絶するなんて・・・何があったんや?」
心配そうなマリアさんが問い詰めて来ますけど。
「マリア、今はそんな話をしている場合じゃないよ」
ローラがマリアを押しとどめて言うには。
「帝都魔鋼戦闘団に集合命令が出たんだ!」
「・・・は?」
寝ぼけていた美晴でしたが、そこは・・・ねぇ。
「イシュタルの者達が現れたんだね?!」
咄嗟に頭を回転させるのは美晴の得意技。
「そうらしいノラ!直ぐに本部に行かなきゃーノラ」
「そうなんや美晴。こうしてる場合やあらへんのや」
3人の顔色にも徒ならぬ気配が現れています。
「どこに現れようとしているのか分かる?」
出撃しても間に合うかと問いかけた美晴でしたが、答えるマリアは首を振ります。
「?!」
どう言う事なのかを聞こうとした美晴へ、マリアさんが地面を指して言うには。
「ここや、ここ!この学園内に現れようとしてるんや!」
「!!」
ドびっくり!美晴も声を呑んでしまいました。
「しかも・・・白昼堂々と!」
「!!!」
二度ドびっくり。
「ですから。もう秘匿する事も出来ませんよ」
「!?!?!」
3ん度・・・もういいわ。
「せやから。ミハルのおとうはんも決断したみたいや。
被害を防ぐ方を優先するべきやってな!」
「マモル君が・・・そうなんだ?!」
今迄なんとか秘密を保てられて来たのに。
それが瓦解するなんて・・・ですけど。
美晴はマモルの決断を誇らしく思いました。
「マモル君、マモル君の想いを無になんてしないから」
美晴はキッと魔鋼学部校舎を見詰めます。
「それじゃぁ皆!出撃準備にかかろう!」
3人の魔鋼娘に促す美晴。
「よっしゃぁ!こうなりゃバレたってかまわへん!全力で迎え撃つで!」
マリアが走り出します。美晴が後に続きます。ローラノーラが二人を追い抜きます。
目的の校舎側壁に向かって。
ウウウゥ~っ!
4人が壁に吸い込まれる瞬間。
突如としてサイレンが鳴り響きました。
それは邪操機兵の出現を表すものでもあり、戦闘団が動き始めた音でもあったのです。
突如として警報が鳴り響いた帝都学園。
何も知らない多くの者達にはサイレンが何を表しているのか分かっていませんでしたが。
「「当校に集まった皆さんにお知らせします。
当学園内に非常事態を宣言します。安全な場所まで避難してください」」
スピーカーからの音声が流れる中、魔鋼の学園が動き始めたのでした!
<帝都魔鋼戦闘団(IMS)のユニフォームが装着されます>
美晴が飛び込んだ側壁が回転し、一瞬で姿が消えました。
紅いリボンが靡く暇もあらば・・・
地下十数メートル先の本部に着く前に、戦闘団輝騎パイロットユニフォームへと着替えるのです。
トンネルを落下していく間にメイドコスが紅い戦闘服へと着替えられて・・・
シュッタ!!
トンネルの出口には美晴のパネルが貼られていましたが、扉が開くと戦闘服を纏った魔鋼少女が飛び出して来たのです。
他の3人も揃って戦闘服になっていました。
紅い戦闘服を纏ったマリアと美晴。
偵察員を示す碧い戦闘服のローラと、工作員を示す黄色い戦闘服を着たノーラも並び立ちます。
4人の前には間も無く司令官の座を退くマモル1佐が座っています。
「皇都魔鋼戦闘団集合しました!」
パイロットキャップのマリアが敬礼して報じます。
「宜しい、みんな座って聴いて」
副官である太井1尉が4人の着座を求めました。
4人が向かい合わせに座り終えると。
「良く聴いて欲しい。
今からの戦闘は世界を変えることになるだろう。
今迄のように秘密裏に行動するのは無理だろうし、必要なくなるだろう」
マモル司令が順々に話し出しました。
「今後は大手を振って戦闘を行える。但し、今迄同様、無用な被害は出さない事。
皇都に限らず、今後は全国に亘り戦闘が行われるだろうから、尚更だよ」
要約すれば、もう秘密にしておく必要がないという事。
相手が時と場所を選ばず攻撃して来るのならば、被害を防ぐ為には何時いかなる時でも出撃するのだというのだ。
「今回は当学園に押し寄せて来るのが判った。
今学園には多くの人が集まっている。被害を局限するには出て来る瞬間を捉えて叩かなくてはならない。
そこで・・・今作戦名は・・・モグラ叩き大作戦と命じる」
・・・モグラ叩きですと?!
「邪操機兵が闇の結界から出て来る瞬間に叩く。
なかなかの命名力だろぅ?」
・・・はぁ?!
もしかして・・・装備は?ハンマーとか??
「今回は銃撃戦は行わない。
敢えて叩く方法を執るように・・・」
まさか・・・マジで?
「そこでみんなに装備品を知らせておくわ」
太井女史がモニターを指しました。
そこに映し出されていたのは?!
「げぇっ?!マジですか?」
「アホな・・・こんなんで叩くんか?」
美晴もマリアも呆れましたが。
「面白そう!」
「叩くって、やっぱりこうなノラ!」
姉弟は喝采をあげたようです。
さて?
<モグラ叩き大作戦>は成功するのでしょうか?
それは次回以降のお話しに!
モグラ叩き大作戦?!
もしかしてマモル司令?
あのオリジンミハル並の命名力ですか??
果たして作戦の結末や如何に?
次回 夢の欠片と希望への想い 第2話
魔鋼少女達って言っても、闘えるのはミハルくらいじゃないの?えっ?!まさかそんな武器で?