拒む者 第3話
道場に現れたアクァ。
ミユキお祖母ちゃんと剣術を交わしていたようですが?
その手に持たれた蒼き剣は?
道場の中に居たのは、間違いなくアクァさんでしたが・・・
「アクァさん・・・だよね?」
その姿は前に観た普段着では無くて。
「どうしたの・・・その制服?」
アクァさんは、蒼紺青色の制服を着ています。
良く見るとその制服の襟には、金色に輝く階級章が付いていました。
ミユキお祖母ちゃんの横には、マリアさんのお母さんであるミリア公使が微笑んでいました。
「懐かしいわねぇ、ミリアちゃん。嘗ての皇国軍を思い出したわ」
「はい。今も陸戦騎士官服としてデザインは大きく変わっておりませんから」
目を丸くする美晴を余所に、二人が交わす横で。
「お帰り美晴さん。話しておかなきゃいけない事があるんだ。
だからミリア公使にお願いして連れて来て貰ったんだよ」
アクァさんが美晴に話しかけました。
「え?アタシにお話しがあるの?それでミユキお祖母ちゃんのお家まで?」
質した美晴に頷くと、まだ抜き放っていた短剣を鞘に仕舞いました。
「今片付けたのは、フェアリア恩賜の剣。
陸戦騎候補生にユーリ女王陛下から賜った短剣なんだけど・・・」
もう一本。
アクァさんの右手に握られた剣がありました。
「これは・・・私の家で見つけられた不思議な剣なんだ。
これを美晴さんのお祖母様に観て貰いたかったんだよ」
そう言って差し出された短剣でしたが、これと言って変わった風には観えません。
唯、鞘や柄が蒼く光っているように見えるくらいでしたが。
「不思議だと思わないかい?
私の家はフェアリアに十年位前に新築されたんだけど。
建てられる時には見つけられなかったんだ、なんだか訳が分からないけど。
剣を見つけた時に、魔法の紋章が魔女ロゼを目覚めさせる手がかりは日の本にあるって言ったんだって。
見つけたルビ父さんからそう聞いたんだけど、この剣を渡された時に」
苦笑いを浮かべるアクァさんが、剣の由来を話してくれたのです。
「へぇ~っ、魔法の紋章がくれたんだ?」
「うう~ん、紋章がじゃなくて。多分神様からの贈り物だよ」
応えたアクァさんが、剣の柄に描かれた紋章をみせてくれました。
そこに記されてあったのは・・・
ー あっ?!もしかしてこれは?!
美晴の目に映った紋章は・・・
ー 蒼ニャン?!小春神ちゃんの証じゃないの?!
蒼き紋章には梅花紋が付いていました。
・・・・・・・・・
どうやらオリジンミハルはお留守のようです。
ー この肝心な時に!いつも居なくなるんだもん蒼ニャンは!
美晴が心の中で愚痴ていましたが、居ない者はしょうがありません。
「そ、そっだねぇ~っ・・・(汗)」
神からの贈り物と言うアクァさんに、相槌を打つ美晴でしたけど。
「コハルちゃん、身に覚えがあるの?」
不意にミユキお祖母ちゃんが問いかけました。
昔っからの呼び方で、小春神を宿していた時と同じように。
「フェアリアに行った折、隠しておいたのね?」
「え?!ミユキ伯母ちゃん?何を・・・」
美晴はミユキお祖母ちゃんに言い返そうとしたようでしたが・・・
「あ・・・・・・れ・・・・・・」
急に目の前が暗転してしまいました・・・つまり?
「そう!御明察だよミユキお祖母ちゃん!」
美晴の声が急に明るい口調になり。
「この娘にお世話になったお礼だったんだけど。迷惑をかけちゃったかな?」
アクァさんを指して、美晴は小春神に乗っ取られちゃいましたW
「私の目覚めを促してくれたルナナイト家に贈り物をって思ったんだけど。
それに魔女さんを預かってるから心配しないでと魔法印に封じておいたの」
突然女神の言霊を話し始めた美晴に、アクァさんもマリアさんも驚きました。
「も、もしかして?本当に美晴さんは女神だったの?」
「さ、さすが。マモル君とルマの娘!いいえ、先輩の姪ね!」
アクァさんもミリア公使も美晴に宿る小春神を感じ取れないようです。
「ミリアちゃん、アクァちゃん。コハルちゃんは美晴の身体を借りているだけよ」
注釈をつけるミユキお祖母ちゃんを不思議そうな目で見返しましたが。
「ミユキお祖母ちゃんの言う通りだよ?
私は過去に戻った時にはアクァさんに宿っていたのよ、覚えてないかしら?」
「ええええっ?!私にも宿っていたのですか?」
小春神の言葉を話す美晴に、益々混乱してしまったようです。
「そうだよ、覚えてないのはしょうがないけど本当の事。
嘘だと思うのなら、あなたが小学生の頃おねしょをしていたのをバラしてあげても良いのよ?」
「ぎゃああああ~っ?!ばらさないでぇ~!」
どうやらアクァさんには理解して頂けたようですね?
「分かってくれたようで嬉しいわ。
そして、今日あなた方が訪れた訳も、分かっているわよロゼ(-.-)さん」
「ドキッ!」
いきなりな神託!
まったくの不意打ちに、アクァさんは肝を潰しました・・・って?
今小春神が言いましたね?ロゼって名を。
「魔女ロゼ。隠れてないで出てきたらどうですか?
私は今、人の子美晴に宿っているのよ。同じ憑代に憑く身として迎えますよ?」
「・・・・本当?」
あ。
本当みたいですね!どうやら魔女さんはお目覚めだったみたいです。
「本当ですとも。どうして女神にしてくれた恩人に嘘など言いましょう?」
「恩人って・・・ルビナスの娘が・・・ですか?」
どうやら魔女さんには、覚えがないようです。
「そうですよ魔女のロゼさん。
アクァさんだったからこそ。時の魔法を受け継いだ娘だったからこそなのです。
もしもアクァさんに宿っていなければ、審判の女神様にお逢えする事さえ叶わかったでしょう」
小春神の言葉には、謝意が籠められていました。
魔女の憑代として選ばれた娘アクァさんに女神となって初めて贈ったのが、神の剣。
「ですから、アクァさんにではなくて。
魔女をお預かりする代償に、剣を贈ったのです。
もしもルナナイト家に災いが起きるのなら、短剣が護るでしょうからね」
小春神は魔女の代わりにルナナイト家を護る術として贈ったのだと言いました。
「そうだったのですね女神 小春。
アクァが大きくなる時まで目覚めさせないように気を配って頂いたのですね?」
「そう。そうするのが良いと仰られたのです、審判の女神様も。
この世界には魔法が失われたと思われ続けて来たのですから。
魔女が不意に異能を示せば、アクァのみならずルナナイト家にも不幸を呼びかねなかったからです」
女神小春が魔女に教えました。
新たな世界になっているのと、もう目覚めても良いのだという事を。
「・・・と、言う事は?
世界に再び闇が迫っているのですね?悪魔達が目覚めたのですね?」
魔女の言葉に、大魔王の姫御子を兼ねるコハルが眼を伏せました。
「闇ではありません。
新たに人へ仇名すのは、<イシュタルの民>と呼ばれる悪意の者。
人類に脅威を与える、邪なる魂を持つ者達です」
小春神が言うのは、闇の異能を持つ者ではなく、心を卑しくする者を指したのです。
「イシュタルの民?その者達の目的は?」
「人類の粛罪。人類の殲滅・・・新たなる大魔王の創生」
魔女さんへの答えは、人類への警告でもありました。
「私も教わっただけで詳しくは話せませんが。
どうやら新たなる脅威は、直ぐ傍まで迫ってしまったようです」
小春神が魔女ロゼに訴えたのです。
まもなく始まる神と悪魔の闘い、そして人世界を賭けた闘いが始まろうとしているのだと。
「次なる大戦では、人類と神。それに闇の者であっても共に立ち上がらねばなりません。
この星の全ての力を結集して立ち向かわねばならないでしょう」
あまりに壮大なる話でした。
魔女ロゼはどう思った事でしょう。
「私・・・目覚めない方が良かったかも・・・」
・・・ですよね?
「ま。小難しい事は私だって全て把握していないし。
なるようになるでしょ?蒼ニャンだってリーン様だっていらっしゃられるんだから」
・・・言い出しっぺでしょうが?小春神が!
「だから、美晴にも教えてあげて欲しいんですよロゼさん。
あなたが目覚めた事と、アクァさんも共に闘う者だって姿を」
「はい、初めからその為に此処に来たのですから。
ルビナスの娘に宿っているのをみせたかったのですからね!」
貼られていた大魔王の姫御子コハルの結界の中で、魔女と小春神の話が終わりました。
「二人共黙っちゃって、どうかしたの?」
ミリア公使が訊いて来た時、やっと美晴が我に返りました。
「あ・・・れれ?!今何か言いました?」
アクァの前で振り返った美晴。
宿られていたなんて思いもしないようです。
「美晴さん実は・・・見せておきたいの、私というもう一人の事を」
「はぁ?!何を言って・・・」
ミリアを振り返っていた美晴がアクァさんに向き直した時でした。
眩い光が短剣から放たれ、アクァさんの時の指輪も輝いたのです。
「そう・・・アタシ。
アクァではない・・・魔女ロゼ。
古の魔法使い、古の魔女・・・ルナナイトと誓いし魔女ロゼ!」
金髪のアクァさんの瞳が・・・
「そう!私は魔女。
フェアリアに古から眠る魔女にして魔法使いのロゼ!
憑代アクァを護りし契約を受け継ぐ者なり!」
蒼さが消えた後、その瞳は紅く輝くのでした。
「アクァが護りし者は、私の護るべき者。
恩義を感じているのは・・・貴女なのよ、シマダ・美晴!」
今迄のアクァとは全く別の人格が現れたみたいです。
「アクァさん?!
本当に宿られちゃったの?」
驚いた美晴が訊き返すのでした。
魔女のロゼ・・・
嘗てフェアリア存在した魔女の魂がアクァさんに?!
目覚めた魔女さんは美晴を守ると言うのですが・・・
次回 拒む者 第3話
魔鋼技術部の催物は・・・カフェー。しかも、ケモ耳尻尾付きのメイドコスでお出迎え?!