拒む者 第2話
修学祭まで後少し。
でも、事態は急激な悪化を伴うのでした!
彼女にとってですけどね・・・
<廊下を走ってはいけません>
張り出された校訓も顧みず、駆けて来たのは血相を変えた美晴でした。
修学祭準備委員である美晴が駆けて来たのは自分の教室。
2年生である美晴達は、開部された魔鋼技術学部の最上級生でした。
つまり、魔法科学部を切り盛りしていた訳でしたが・・・
「どうしてぇっ?!アタシもカフェー店員をやることになったのぉ?」
駆けこんで来た美晴がクラスメートに質しました。
「ああ、その事ね。それは美晴達、運営に訊きたいぐらいだノラ」
「目玉店員のマリアが抜けるからだよ。陸上部のキャプテンがクラブ優先になるのは当たり前じゃないか」
ノーラもオーラも、肝心のマリアが抜けるからと言い返して来たのです。
「クラス数が2学年で2つしかないしな。
催事場が間が抜けるからって、クラブ単位の出店を決めたのは運営やろ?」
マリアが肩を竦めて修学祭委員である美晴に応えます。
「そう決まったけど・・・マリアちゃんが抜けるなんて」
考えてなかったようですね美晴は。
「陸上部のキャプテンが居なけりゃクラブ単位の出し物なんて出来やしねぇーよ」
「でもぉ・・・アタシも剣舞部の主将なのにぃ」
自分の所属するクラブも、取り仕切らなきゃならない美晴がゴネますが?
「だからぁ美晴もぉー、掛け持ちでやればいいジャンノラ?!」
「みんなそれぞれ役目がいくつも廻って来ちゃったんですからねぇ」
ノーラもローラも気安くそう言いますが?
「そもそも!運営がちゃんと取り纏めないからこうなったノラぞ!」
「そうやで美晴。下級生や普通科に流されたのが悪いんやで?!」
こもごも文句を言われる美晴が、バツの悪そうな顔で3人からの反撃にたじろぎました。
「だって・・・普通科の人数が圧倒的に多いから。
多数決じゃ敵わないもん・・・・」
ブチブチと言い訳をする美晴に、3人が駄目出しをします。
「そんなら美晴も店員にされたのは文句ないわな?」
「多数決で決まったんだからねぇーノラ」
「まぁ、これも運命だと諦めるんですね」
ああ・・・損な?!これも民主主義の弊害でしょうか?
「どうしてよぉ?!アタシの居ない間に決めたんでしょうが!」
おお、本人の居ぬ間に決まったのですね?
「いや、美晴が居ても居なくても、多数決で決まったと思うで?」
「そうそう!満場一致で決まりましたからね」
「美晴ぅー、観念するノラ!」
・・・・哀れ、美晴さん。
「うう・・・なんてことをするのぉ?!」
確かに美晴は拒んでいたのでした。
「ミユキお祖母ちゃんにどう言えば良いのよぉ!」
師範代の美晴は、師匠であり道場主のミユキお祖母ちゃんに説明が出来ないと文句を言うのですが。
「そうやなぁ、美晴が言い難いって言うんなら。
ウチが一緒に話してみようか?ちゃんと訳を話したら解って貰えるやろ?」
助け舟を出したマリアに、美晴が首を振ります。
「そうじゃなくて。
あの衣装を着ることを、どう言って説明すれば良いのかって事なんだよ?」
カフェーの店員だけなら、まだ説明が出来ると美晴は言うのです。
「あのメイドかキャンギャルか分かんない衣装を着るなんて、お祖母ちゃんに言っても判らないよ」
ほぅ?どう意味でしょうか?
「もしもミユキお祖母ちゃんに分かったら、絶対認めて貰えないから」
ふむ?もしや・・・イカガワシイ服なのでしょうか?
「美晴!デザインしたアタシに喧嘩売る気なのかノラ?!」
そういえば、ノーラさんがデザインしたと言いましたね。
「あれはヨーロッパのメイド服を参照して、高度なアレンジを施した・・・究極の店員服なノラ!」
・・・アヤシイ。
「服飾デザイン科に、わざわざ交渉して作って貰ったノラぞ!
彼等も勇んで作ってくれた自信作なのだっノラ!」
自信たっぷりなノーラ・・・怪し過ぎる。
「まだ現物は拝んじゃいないんやが、確かに奇抜なデザインじゃなかったで?」
「そうですね、少々強調された部分も散見出来ましたが・・・問題ないでしょう(棒)」
ノーラを後押しする二人。
「って?!マリアちゃんもローラちゃんも。
店員にされないからって・・・あれのどこが奇抜じゃあないって言えるのぉ?!」
お?美晴はデザインを観たのですね?
「この肌寒さが残った2月に、あんな薄いシャツや短いスカート着てたら風邪ひくよ!」
むぅ?
「それにあのチェストというか、コルセットと言うか・・・あれって!
単に胸を強調させるだけに着させられるんじゃないないの?!」
おおぉっ?!
「あの短い丈のスカートでお客さんの間を縫っていたら、絶対中が観えちゃうよね?ね?!」
おっはぁーっ?!
「マリアちゃんだったら見栄えがするだろうけど、あたしなんかチンチクリンなだけじゃない!」
・・・自爆ですか、美晴さん。
「まぁまぁ、落ち着くノラ美晴。馬子にも衣装って言うノラ!」」
「そうやでぇ~っ、美晴が着ても似合うやろー(棒)」
マリアさん、棒って何?
「あああああ~っ?!二人してアタシを晒し者にする気なのねぇ!」
「違いますよ美晴さん、二人は単に面白半分、見物半分に言ったまでです」
ローラさんも酷い。
「ウニャぁっ?!ニャンと!見世物にする気なのね!」
「今更・・・言うまでもないやんか美晴」
マリアさん、いつになく冷たくない?
「マリアちゃんに着せようとしていたのは美晴だったからねぇ・・・(遠い目)」
「マリアだったら見栄えするって、今も言いましたよねぇ」
ノーラとローラ姉弟に言い切られた。
「ぎくりっ?!」
途端に冷や汗を掻く美晴。
「そやろ美晴。ウチ・・・初めっから気が付いてたんやで?」
「ギクギクッ!」
蒼褪める美晴に、最期の一言が。
「美晴が寝言を呟いたんを聞いたんやで。
ウチが着てるんを想像してたんやろ、想像してこう言ったんやろ?
<マリアちゃんのぽわわぁ~ん、美味しそう>・・・って?」
「ミぎゃーーーーーーーっ!」
ジト目で観るマリアに、美晴が絶叫しました(図星だったようです)。
「と・・・いうわけで。
今回は美晴に天罰を与える事にしたんや、キリキリ観念しぃや!」
「身から出た錆でしたか・・・しょぼん」
どうやら、美晴はマリアのメイドコスに萌えていたようです。想像の中で。
「そういうこっちゃ!美晴はメイドコスを着て、客を集めるんやで!」
「きっと美晴でも、それなりに人目を惹くノラ!」
「美晴さん、人生経験だと・・・諦めてね」
3人から言われた美晴でしたけど?
「損な経験しなくたっていいよぉ!」
泣き顔で応えるのでしたW。
修学祭は、明後日!
とぼとぼ帰って来た美晴が、道場の前で立ち止まりました。
「あれ?お客様なのかな?」
見慣れない大型車が乗りつけられています。
黒塗りのセダンを横目で見流して、道場の中へと入った時です。
「はいっ!そこは逆手で迎え撃って!」
ミユキお祖母ちゃんの声が聞こえました。
キンッ!
剣と剣がぶつかり合う音が聞こえました。
しかも、金属音から考えられるのは・・・
「まさか?!真剣で切り結んでいるの!」
ミユキお祖母ちゃんが、何者かと剣戟していると分かりました。
焦った美晴が道場に飛び込みます。
・・・と。
「あら?コハルちゃん。遅かったわね?」
普段通りに出迎えるミユキお祖母ちゃんと。
「待っている間に、ミユキさんから手ほどきを受けていたんだよ」
金髪のアクァさんが振り返りました。
「お帰りなさい美晴ちゃん。マリアは一緒じゃなかったの?」
赤栗毛のマリアの母、ミリア公使が出迎えたのでした。
ミユキお祖母ちゃんの道場で?
一体何が起きたのか?!
って、お久しぶりですミリア公使。あ、アクァさんもご一緒で?
じゃあ、闘いに来た訳ではないのですね?
次回 拒む者 第3話
アクァさんの瞳の色が赤く染まる時、古来の魔女が話しかけるのです!