魔鋼の魔女っ子 Act4
魔砲を放つ少女になったコハル。
駆け込んだ家で母に訊ねるのは、自分が替わったのかどうかと言う事・・・
ハイタッチを交わし、また明日と呼び合う。
何とか制服姿に戻れたコハルが苦笑いを浮かべて。
「じゃあねマリア!秘密だからね二人の!」
「分かってるって!ウチとコハルだけの内緒やからな!」
高く手を挙げたマリアが応える。
二人は公園から帰り道を歩く。
希望を与えられた少女達が夕日の中、帰って行く。
「やっと・・・見つけられたんやなウチ。
本当の友達を・・・嬉しいな、嬉しいやんか!」
歩いていた足が、段々と早くなる。
駆け足、駆け続けている内に走り出していた。
「オカン!ママ!ミリアママ!聞いて、聞いてよママ!」
走りながら口走る。
内緒と交わしていたのに、約束したのに。
誰も聞いていないから。誰も耳にしていないと思うから。
「ウチの友達はね、ウチの親友はね!本当の魔砲処女やったんよ?!
本当の魔鋼少女だったんやから、女神様を宿してるんやで!」
唯一人の肉親、唯一人の母。
自分が魔砲の力を授かった事を知る、たった一人の理解者。
口止めされていた事も忘れ、コハルとの約束も忘れ。
話したいと願った。教えようと思った。聞いて欲しかった。
マリアは虚ろな世界の中で、自分が孤独な存在ではない事を叫びたかったのだ。
「はぁはぁ・・・ただいまぁ」
息せき切って玄関をくぐった。
「あら?コハル、どうしたのよそんなに息を切って?」
迎えに出て来たルマに、想いっきりの笑顔で話した。
「ねぇルマお母さん!アタシってどう見える?」
胸を張ってコハルが訊くと。
「え?!どうって・・・コハルじゃないの?」
じっと見てからルマが答える。
「だあぁああっ、やっぱりか。そう答えると思った」
思いっきり落胆したコハルがランドセルを片手に、
自分の部屋へ階段を昇って行くのを見送ったルマは感じていた。
「どうやら・・・始りの時が来たみたい・・・マモル」
コハルのネックレスが、普段の色では無かったのを敏感に感じ取っていた。
母親は娘になにが起きたのか知らねど、その身に起きた変化を感じ取っていた。
それが自分と夫マモルにとって、望ましい事では無いとも。
「来てしまったんだね、理の女神様が。帰ってきたのねミハル姉が・・・」
コハルの部屋を観たルマは、悲しげな声を漏らして佇んでいた。
「だから、ルマお母さんは鈍いんだよ!」
ベットに転がって魔法石を見詰めた。
「話したら驚くだろうなぁ、話したら取り上げられちゃうかもしれないなぁ」
蒼さが前より一段と綺麗に観える魔法のネックレス。
この輝きが意味するのは。
「ミハルおばさん・・・ええっと、女神様だったっけ?」
石の中に問いかけてみる。
が、答えが返って来る筈もなく。
「聴こえてたら返事を・・・って、無理だよね。
今は危険な事なんて無いし、アタシの声だって届いてるか分かんないもんね」
自分がどうして魔砲少女になれたのかを聞いてみたいと思った。
どうしてこの石に宿ったのかを聞いてみたいと思った。
それに、どうして今になって宿ったのかも。
「あーあっ、折角魔法少女になったのに、普段は唯の小学生のままなんだよねぇ?」
自分に与えられた運命など知る由も無いコハルは、脳天気な事を呟く。
寝そべって魔法石を見上げ、石の中に浮かんでいる紋章に気が付く。
「あ・・・これって。フェアリアの紋章だ・・・」
リィーンから授けられた時には無かった紋章。
昨日までは無かった飾り。
「これが女神が宿った証なのかな?」
蒼き魔法石に浮かぶ紋章。
フェアリア国旗にもある剣の紋章。
「フェアリアの国旗にもある・・・双頭の獅子の真ん中に。
あの剣と同じ・・・でも、どこかでこれと同じ物を観た様な・・・」
はっと気づいたコハルが、本棚にあるフェアリアの伝承を伝える本を引き出す。
ぺらぺらと捲って行くと、眼に留ったのは。
「あった!これだよね?」
捲られたページに載っていたのは。
「古来、悪魔と闘った魔女が印した紋章。古から伝えられた魔女。
<双璧の魔女>の御印・・・ミコト様が残したと伝えられる紋章?」
魔法石に浮かんでる紋章は、確かに同じものに見える。
「ここに書かれてある通りなら、伝説の魔女ミコト様は復活されたとある。
復活を手助けしたのは女神だとも。世界大戦の前、月の女神に因って」
蒼き魔法石に宿ったのが、本当に女神だというのなら。
「女神が蘇る時、闇の悪魔も蘇る・・・って書かれてる。
じゃぁ・・・アタシに宿ったって事は蘇ろうとしてる・・・の?!」
伝承を伝える本に描かれた通りだというのなら。
自分に宿った女神が齎す意味は。
「アタシ・・・浮かれてる場合じゃないのかも。
本が語り掛ける事が本当なら・・・世界にまた・・・悪魔が蘇るの?」
知らなければ良かった。
宿られなければ良かった。
魔砲の異能なんて持つべきでは無かった。
でも、間違いなく今日、授けられてしまった。
「ア、アタシ・・・これからどうなっちゃうんだろう?」
授けられた異能に、初めて怖いと感じた。
知ってしまった運命に、立ち迎えられるのか・・・抗えるのかと。
呆然と本の中に描かれた意味を感じ、蒼き石を手に出来ずにいた。
ドアの外で聴いていたルマが悲しく思った。
「護りたかったのに。知らせたくは無かったのに。
自分の娘までも、闘わせる羽目になるなんて・・・ミハル姉」
天を仰いで願うのは唯一つ。
「護ってよミハル姉。お願いだから、美晴を闇から護って・・・」
母の想いは届くのだろうか。
娘を護りたいと願う、母の想いが女神に聞こえるのだろうか?
「それは本当のことなのね?」
月を見上げてマリアに訊いた。
上気した頬を染めた人が。
「うん、間違いないからミリアママ」
ベランダでワインを片手にした栗毛の女性にマリアが頷く。
「女神は名乗られたのよね?何と名のられたの?
島田真盛君の娘に宿った女神の名は?」
ワイングラスをテーブルに置いて、朱に染まった瞳で娘を観る。
「コハルにやろ?
理の女神って名乗ってたんよ?」
即座に答えたマリアに首を振って、
「違うわ、名乗られなかったの?名称なんかじゃなく、名前を?」
女神の名を聞き直した。
「コハル・・・いや、島田美晴に宿ったんは・・・」
「宿ったのは?勿体ぶらないで言いなさい!」
苛立ったかのような叱責がマリアに飛ぶ。
少々驚いたかのようなマリアが、今度ははっきりと告げた。
「理の女神・・・ミハルって・・・さ。
ミリアママの知ってる女神の名を名乗ってたんやで!」
<< ガタンッ >>
その名を聞いた瞬間、ミリアは立ち上がり机に手を着く。
「ふっ・・・ふふふっ」
空に浮かぶ月を観た。
想いが流れた。
込み上げて来るモノに耐えれなくなって俯いた。
「ミハル・・・ミハルか」
名前を繰り返す。
「どないしたん?ミリアママ?」
娘に訊かれても答える事が出来ない。
俯いたミリアの頬から一滴の涙が零れ落ちる。
「・・・ミハル・・・センパイ・・・」
栗毛の影から呻くような声が漏れた。
「戻られたのですね・・・やっと・・・」
怪訝な顔を浮かべて見詰めて来る娘に遠慮も無く、ミリアは泣いていた。
「やっと・・・世界を・・・主人を取り戻せる時が来るのですね」
唇をかみしめて漏らすのは、願いか・・・
「この時をどれだけ待ったか・・・ミハル!」
朱に染まった眼で月を見上げるミリアの顔は、呪いを受けた者のように歪んでいた。
それぞれの想いが交差する。
それぞれの立場で想う。
魔砲が蘇る時、闇も蠢く。
闇が蘇らんとする時、光もまた現れる。
世界は新たな力を求め、新たな運命を授けた。
蒼き魔法石に宿る女神。
古から蘇った魔鋼の異能。
そう、女神は遥々時を越え、再びこの地へ舞い降りた。
まるで闇が訪れるのを防がんと願う様に。
そう、自らの復活を果たさん為に。
まるで自らの願いを遂げようとするかのように・・・・
世界は再び混沌の中へ向かうのか。
世界はもう一度滅びの局面へと貶められると言うのか・・・
少女達には何も判ってはいなかった。
魔鋼が齎す意味に。
人が触れてはならない禁断の魔鋼だというのに・・・
注・画像は初期イメージになります
女神ミハルは宿った蒼き魔法石の中で、その時を待つ。
残されてしまった呪いに憂いて・・・
コハルは知ってしまった。
新たな闇が目覚めようとしていることに。
次回 黒の魔鋼 シキ Act1
君の観る夢はいつか訪れる悪夢だというのか?
ミハル「魔砲は誰かを護る為にこそ使いなさい・・・それがあなたに授けた魔鋼」