拒む者 第1話
冬が終わりを告げる頃。
梅の花が咲き、桃の花が芽吹く・・・春一番。
ミハル達魔鋼学園2学年生は、学年末の一大イベントに駆り出されていました。
「しっかしぃ、毎年の事ながら皇都学園だけ2月なんだよなぁ」
マリアが釘を看板に打ち付けながらぶつくさ言っておりますが?
「本当だねぇ、他校じゃ秋って相場が決まってるのに」
ローラが看板に手を添えてマリアを手伝いながら応えます。
「文化祭じゃ無いノラ。これは修学祭と云う立派な校内学習の一環なノラぞ?!」
二人を観ていたノーラが、知ったような口をききます。
「でもさぁ、ノーラ姉さん。内容は殆ど学祭と変わらないよね?」
「むぅ・・・そうとも云うのら」
魔法科学部の校舎にも、マリア達が造った修学祭の看板が掲げられました。
「まぁ、本校は日の本公立学校一の規模を誇ってるしな。
来場者も内外含めて数千人にもなるんだから、お祭りには違いないよなぁ」
看板に釘を打ち付け終わったマリアが脚立から降りて、出来栄えを確認すると。
「魔鋼学園って書けないのがもどかしい位かな」
見上げた魔鋼・魔法科学部とは書かれていない看板に、少々物足らなそうに呟くのでした。
看板には公に発表されてある<鋼科学技術部>の文字が。
「ホント、<魔>が抜けてるとしかいえないよね」
ローラも相槌を打ちました。
「まーまぁ、まが抜けているのは名前だけじゃないのら。
魔鋼の<魔>が抜けてるけど、本当に<間>の抜けた生徒も居るのら!」
そう言ったノーラが、走って来る美晴を指差します。
「ごっめぇーん!遅くなっちゃった」
走り寄るミハルが、3人に謝りました。
「もう、終わったのら」
「え・・・えっと。ホント?!」
ノーラがブスッと教えると、美晴が眼をパチクリして3人を観ます。
「観りゃ―わかんだろ?」
「一応これで、看板は着け終わりましたよミハルさん」
マリアとローラからも言い切られて・・・
「あっちゃーっ?!これはトンだ遅刻を」
大袈裟に謝る損な子美晴でした。
「いやいや、美晴は執行部役員だから手伝わなくてもええんやから」
「そうですよ、ミハルさんは修学祭委員なんですから」
二人は手伝いに来た美晴の労をねぎらいましたが、
「いんや。ミハルはアタシらの仲間として手伝わねばなら無いノラ!」
ノーラだけは美晴に手伝わせようと試みているみたいです。
「でないと・・・カフェー店員もやらせるのらぞ!」
「あ・・・いや、それはちょっと」
顔を引き攣らせてミハルが拒む訳は?
「何言うテンねんノーラ。
ミハルはそれが嫌だったから委員に立候補したんやで?
メイドの格好をするのが剣舞の師範として相応しくないから、拒んだんやで!」
島田流剣舞師範の美晴が、修学祭でメイド喫茶の出し物に決まった2年生クラスで委員になった訳をマリアが話しました。
「ごめんねぇ、ミユキお祖母ちゃんの手前もあるから。
もしも通いに来ている子達に見られちゃったら、示しがつかないかと思ったんだよ」
道場で師範として教える身だからと、美晴はミユキお祖母ちゃんに気を遣ったようです。
「気にせんときぃなミハル。
お家事情は措いといて、実行委員に立候補するだけでも偉いと思うてるんやで?!」
美晴が委員として駆けまわっているのを知るマリアが、謝るなと言ってくれました。
「そうですよミハルさん。ノーラ姉さんみたいに何もしないよりはずっと立派ですから」
「何もしていない訳じゃないのらぞ!ちゃんと店員服をデザインしたのら!」
ノーラがぷんすか言い返すのを、ローラは聞き流します。
「そのノーラデザインやけど、ありゃなにか?喫茶店員というよりメイドに近くねぇのか?」
マリアが眉間に皺をよせて訊き返しました。
「うにゅ?!アタシのデザインに間違いがあるとでも?」
デザインに自信があったのか、口を尖らせ言い返すノーラさん。
「ひらひら衣装じゃ仕事はこなせないノラ!機能性を重視したのらぞ!」
疑いの目を向けるマリアとローラさんに、
「まぁまぁ3人共。ノーラさんのデザインが多数決で認められたんだから。
衣装を作ってくれる家庭科にも打ち合わせが終わってるんだよ?」
今更取り消せないと美晴が知らせました。
「でもなぁミハル。ウチはアレを着させられるのは・・・ちょっと」
ノーラのデザインに反対派だったマリアが気乗りしていないみたいです。
「いやいや、マリアちゃんに打って付けなノラ!まさにマリアちゃんの為に造られたようなものなのら!」
対してデザインしたローラは、マリアに勧めるのでしたが。
「そのボディー!その容姿!まさに打って付けなノラ!」
にやけるノーラが、マリアの中学生離れした容姿を褒め称えるのです。
「・・・なんや、馬鹿にされとる気がするんは、ウチだけやろか?」
表情を引き攣らせたマリアさん。
「いやまぁ、純粋なフェアリア人のマリアちゃんならばお似合いだと思うのら」
にやけるノーラが、益々目を細めるのです。
「どういう意味なんや、ノーラ?」
眉をしかめるマリアに、美晴もローラもジト目で観てますけど?
「本人は至って気にしていないようですな?」
「そっだねぇ~」
自分達より一回り以上立派に見えるナイスなバディーに、チクリと嫌味を溢していますね。
「日の本人のマモル君とフェアリア人のルマままの娘だっていうのに。
このアタシには、マリアちゃんの半分ほどの魅力も備わっていないなんて」
見比べるのは紅い髪の帰化女子と、同じく帰化女子でもある自分との違い。
女の子である限り、傍にモデルケースのような子が居れば、見比べるのは仕方ない事でしょう。
「衣装は良いとして、店がオープンテラス形式なのはどうしてなノラ?」
ノーラやローラには初めての修学祭だったから、事情が呑み込めていないようでした。
「あ、それ?それは一般の方に見せたらまずいからやで。
まだ国家として魔法を公認してへんのやから、魔法を教育してんのがバレたらヤバイからや」
「まだそんなことに拘ってるのノラ?世の中には既に気が付いた人達が居るのに」
応えたマリアに、怪訝な顔をするノーラさん。
「しょうがないよ姉さん。数年前までは魔法が失われたのが常識だったんだから」
注釈を入れるローラに美晴も追加で、
「だからノーラちゃんも普通科の人達に魔法を見せたらいけないんだよ?
魔法を使えるのは止むを得ない時だけって教わったでしょ?」
いつも脱線するノーラへ、注意を促したのです。
「それ・・・美晴には言われたくないよなぁ」
突っ込んで来たのはノーラではなくて、一番の友であるマリアさんだったのでした。
「あ、言えてるぅー」
「そっだねー」
姉弟に相槌を打たれたミハルがへこみましたとさ。
皇都学園・・・
ここは一般教科以外にも併設された学部が幾つかありました。
マンモス校故なのは勿論でしたが、本来の学部以外に新設されたのが美晴達が通う魔鋼科学部と呼ばれた<魔法>を学ぶ部門だったのです。
嘗ての様に大っぴらに魔法を使える訳にもいかず、内々にだけ告示されていたのです。
生来を見越した国策として、魔法少女達を一人前に鍛え上げる目的で。
ですが、魔砲を使える生徒ばかりではない事もあり、本格的な教練は行われてはいない状況でもありました。
魔法の属性によっては、本当に科学分野を志望する生徒も居ましたから。
個々の未知なる魔法力を引き出すのも、魔法科学部における教育の一環と看做されていたのです。
皇都学園には、このほかにも特色ある学部が併設されています。
普通科、商業科、工業科、家庭科などの一般分野の他に、秘匿名称<魔研部>という魔法を用いる衣料品や部品の開発者を育てる部門が作られていたのです。
自らは魔法力を持たない者であっても、その高い知能で魔法を介した研究を執り行う。
魔法を科学し、人類に寄与させるのを目的に造られた部門。まさに一握りのエリート集団とでも呼ぶのが相応しい学生達でした。
そこにはマリアの様に、日の本人以外の学生も通っていました。
海外からの要請を受けた日の本政府が、留学生を受け入れたからでした。
その昔、日の本で魔鋼技術が発明された故事に習い、今度は初めから情報を共有する目的があったようです。
ですが、まだ日の本国内にも魔法が公認されていた訳でもなかったのですから、留学生達は身内にも情報を漏らさない決まりと、監視を容認する決まりとで縛られていたのですけど・・・
皇都学園は年に一度のお祭りに沸き返っていました。
生徒達は各部との交流を目的とした学園祭というより、各部のメンツを競う場として趣向を極めた出し物を手作りする場としての位置づけに盛り上がっていたのでした。
各学部は各々、自作の催し物を企画していました。
それを目当てに他校からも来訪者が訪れるくらいです。
また、生徒の父兄達にも一般来訪者にも開放される、年に一度の日だったのです。
魔法科学部が作られて二年目の早春、最上級生である美晴達2年生は他学部に負けない出し物を画策したのです。
それは、ノーラが言っていたように<カフェー>と決められたのです。
魔法科学部をイメージさせない出し物を・・・という観点ではなく。
単に受け狙いだけとも思えるのですが、実際の処は?
「校舎内に入られないように。
オープンテラスで気を惹けば善いんでないの?」
あっさり決められてしまったそうですね、学部長に。
それにしてもカフェーとは、これ如何に。
「しかも、女子率の高い魔法科学部だから、ウエイトレスの衣装も創ろう」
鶴の一声が・・・これまた如何に?
「予算は実行委員が取り仕切りなさい。預託金内で、出来る様に!」
学部長からの、とんでもない一言により認可されてしまったようです。
認可された予算で、カフェーを運営せねばなりません。
ウエイトレスやバーテンダーは学部内の人員で賄うのは良いとして。
提供する飲み物食べ物、付随する備品やカップソーサーなどの仕入れ。
予算という限られた金額の中で、全てを整えねばならないのです。
どの学部もそれぞれに特徴ある企画を考えて競い合う。
限られた予算内で纏める・・・それが学習でもあったのですから。
実行委員に立候補した美晴は、数人の委員達と駆けまわる事になったのです。
企画を成功させる為、他学部の生徒達との交渉にも携わっていたのでした。
皇都学園は今、お祭り一色に染まっていたのです。
・・・ですが。
政府が秘匿している魔法を、暴こうとしている人達がいたのに気がついてはいませんでした。
修学祭は、そうした彼等にとって最大のチャンスでもあったのです。
魔法科学部の存在を明らかにし、民意に訴えるスキャンダルを物にしようと企んで。
「特ダネを物にして名声を?ぎ取ってやる!」
そうです。
名を世に出したい文屋達が狙っていたのでした。
修学祭は一般の人も校内に入れるからです。
校内に大っぴらに入れる、一年に一度のチャンスを逃す筈もありません。
魔法を世に知らしめるチャンスとばかりに・・・
「文屋だけのチャンスではない。我々にとっても大きなチャンスなんだ」
嘯くのは、潜入捜査を試みるもう一つの団体に所属する人達。
「違法な活動拠点として、この学園には疑いがかけられているんですからね」
「そうだよ周君。我々も尻尾を捕まえなきゃならないんだから」
修学祭の告示を見上げるのは、警視庁から来た密命刑事達。
「文屋に交じって情報を集めるのも手だと思うよ」
フリーランスの取材を装い、何かを調べようとしているようです。
「それもありですよね。ここに正義を名乗る秘密部隊があるのなら。
国民の知らない秘密部隊が、国家予算を秘密裏に食い潰しているのなら。
誰が何と言おうが、違法なのですからね和泉警視」
「そう言う事。僕達でその尻尾を掴んでやろうよ」
魔鋼の存在を知らしめようとする、二つの存在。
方や己が名声を極めんとする文屋。もう一方は国家権力である警察庁。
ですが、狙うのは人間界だけではないようです。
「「・・・愚かな人間共よ、間も無く訪れる闇に恐れ戦くが良い」」
闇の中で蠢く者が・・・
「「今度は失敗なんてしないからな!」」
「「そうとも!俺の剣でぶった斬ってやる!」」
獣耳を生やした魔王と能筋魔王が。
「「ランド、リュック!私達の手柄で大魔王様にご褒美をいただくのよ!」」
赤紫の髪を振り乱したポーチが笑っているのでした。
修学祭に集うのは、いろんな方々のようですね?
さて・・・どうなりますことやら?
美晴達にも学園祭がやってまいりましたね。
2月に行われるなんて・・・変わってるぅ!いや、おかしいでしょ!
はてさて・・・どうなりますやら。
今回も「成宮りん」様の処から御出演頂きます。
詳しくはhttps://mypage.syosetu.com/858748/"「成宮りん」様のページからどうぞ。
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「ファザコン中年刑事とシスコン男子高校生の愉快な非日常・シリーズ」
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次回 拒む者 第2話
美晴は損な娘。何故かは次回に・・・損な?!