変える未来 第8話
過去を変えたコハル。
自らも変えれた小春神。
さぁ!未来へと帰還だ・・・って?!
どうやって?!
輝が消えた後。
アクァさんに宿っている私だけになっていました。
ルナリィ―ン姫の姿は幻だったかのように見えなくなっていたのです。
「私が神格を持っているなんて・・・お母様が戻って来て下さるなんて」
審判の女神様との邂逅が事実だとするなら。
「未来は変わる・・・ううん、変えられそうです」
大魔王の姫御子として闇の力を放つだけではなく。
「ミハルと闘って<光>を奪わなくても済むんだ」
輝と闇を抱く者が人間だとすれば、私は既に両方を持っているのですから。
「ミユキお祖母ちゃんやマモル君ともいつまでも一緒に居たっていいんだよね?」
心の中に居る大切な人達に、忌み嫌われずに済みそうですから。
「これもきっと蒼ニャン・・・ううん、理の女神様の導きのおかげなんだ」
フェアリアでの邂逅を願ってくだされたミハル様に感謝しなければいけません。
「でも、蒼ニャンこそ来なければいけなかったんじゃないのかな?」
女神様に一番逢いたがっていた筈の蒼ニャンだと思うのです。
それなのに、何故私だけを送り込んだのでしょうか?
「帰ったら訊いてみようっと」
役目を果せて、女神様と逢えて。
私の心は晴れやかになっていました・・・けど。
あれ?何か大事なことを忘れているような?
「帰るって・・・どうやって帰れば良いの?」
・・・たらり・・・と、冷や汗が噴き出します。
過去に来れたのは良いとして、この時限からどうすれば未来に行けるのでしょうか?
「ああっ?!もしかして行きは良い善い帰りは・・・無いの?!」
とんでもありません!帰る方法が見当たりません!
今になってですけど・・・後悔しました。
「誰か?帰り方を教えて!」
はい・・・後の祭りでした。
時間旅行は帰り方を調べてから行うべし・・・です。(;´д`)トホホ
ミユキお祖母ちゃんに紅鞘が返還されました。
剣舞って云うのですか、見事な舞を披露されて剣を手にされました。
王宮の謁見の間で私は端の方から観ていましたけど。
ルナリィ―ン姫は美晴と仲良さそうに話されていました。
ええ、この時昔の私は表に出てはいません。
偉大なる神力に晒されないように、大人しく隠れていたのです。
我ながら慎ましく思えてきました・・・幼き自分がです。
アクァさんに宿る姫御子として、ルビナスさんと王宮から帰る前にやっておかねばならないのです。
私が居た未来とは違う、別の世界となった此処に残しておかねばならないのです。
「魔女さんの魂を匿っておかなきゃ!」
そうです、その為に来たのですから。
魔女さんの魂をどこに匿えば良いのか。
アクァさんが魔法力に目覚めたとしても、直ぐには発動しないようにするには?
「憑代を他の誰かにする?でも、魔法力がない人には宿らせられないしね」
初めに考えたのは、ルビナスさん達近親者の誰かに宿り直らせる事でしたが辞めました。
見た限り適任者とは思えませんでした。
下手に宿らせでもしたら、闇の者が再び狙うかもしれませんからね。
しかも、ルビナスさんもロゼッタさんも魔力を喪失しているみたいですから。
そこで考え方を改めたのです。
「少しハラハラさせちゃうけど、魔女さんの魂を匿っておこう」
そうです。私自身の手に預かっておこうと思い立ったのです。
「きっと未来でアクァさんは美晴の元に現れる。
その時まで大切に預かっておけば問題ないかな?」
考えた末、アクァさんから魔女さんを抜き取る事に決めたのです。
大魔王の姫御子が管理しておけば、闇の属性を持つ魔女さんの魂ならば大丈夫と踏んで。
だけど、心配されると思うから伝えておかねばいけないのです。
あまり有効な手とは言えませんけど、書き残しておくことにしました。
誰かの目に留まる場所にではなく、ルビナスさん達だけが気がつけるところに・・・です。
平穏な日々が続きました。
月夜の晩から何日かが過ぎた頃です。
その頃には昔の私は闇の中へ入った筈です。
そして日ノ本へ向けて、シマダ一家も旅立ったみたいです。
アクァさんに宿った私にもやっと約束を果たす時が参りました。
「大分出来上がったな・・・ここが新しいお家だよアクァ」
ルビナスさんが教えてくれます。
「アクァにもお部屋が出来るからね」
ロゼッタお母さんが微笑まれました。
お庭の木が木陰を伸ばしています。
見上げる新築の家にはルナナイトの紋章が掲げられていました。
ここは元々ルナナイト家が建っていた場所らしいのです。
戦争で焼けてしまったそうなのですが、ルビナスさんとロゼッタさんが苦労してやっと立て直したみたいですね。
つまりアクァさん達がここにずっといるであろう場所となったのです。
引っ越しなんて考えなくていい場所。生涯を終えるまで住むであろう場所となったのです。
漸く書き残せられます。
家の中には暖炉があり、家じゅうに温もりを与えてくれそうです。
秘密の隠し場所は此処に決めました。
アクァさん達に気付かれないよう気を配りながら、魔法力で描いておきました。
魔女さんの魂の在処を。
姫御子が匿っているのと、日ノ本までアクァさんに来て頂きたいのだと。
あ・・・そうでしたね。姫御子じゃ不味いですよね。
初めてですけど、描いてみました。
「私も一応女神の端くれなんだな・・・神の紋章が使えるのなら」
描いてみて判ったのです、<光を纏う者>だったのが・・・です。
少しばかり燻ぶって見えますが、これでも何とか神々しく見えるでしょうかね?
暖炉の隅っこに、小さく描いた小春神の紋章。
時が来ればルビナスさん達に伝えられると思います。
ほっと溜息が零れました。
これで本当にお役御免になったのですから。
「後は・・・日の本で待ってくださっている皆様の元へ帰るだけです」
アクァさんに宿るのもこれでお終いになるでしょう。
最後に何か記念になる物でも差し上げたいのですが。
「大魔王の姫御子でしたからね、気の利く物なんてご用意できませんでしたから」
贈り物としてどうかとは思いますけど・・・
「この剣を差し上げたいと思うのです・・・魔法の短剣を」
秘めた紋章に被せて仕舞っておきました。
アクァさんにというより、魔女さんをお預かりして心配をかける報いとして。
「これで気が晴れました。お暇致すとしましょう」
夜の静寂が訪れた時、私はアクァさん達に別れを告げました。
それにフェアリアとも・・・です。
ゆっくり帰って行こうかな?のんびり気ままな旅をするのも良いかもしれませんね。
闇の属性を持つ姫御子として、また<光を纏う者>として。
「きっと皆待ちくたびれてるんだろうなぁ。
だけど、帰ったらお土産噺が一杯出来ちゃうな!」
のほほんっと、小春神は帰る事にします。
偶には独りだけの旅路も良いものですよ?
目的地まで辿り着けたら善いだけなのですから。
もう未来ではミハルと雌雄を消さなくても良いのですから。
だって、もう既に未来を変えたのですから・・・ね?!
~~~~~
黒ニャンが一瞬の内に移動した?!
蒼ニャンの眼にも留まらぬ速さで?
「うにゅぅ?まだ旅立たないの?」
一回は確かに消えた気がしたのだが?
「もしかして時の魔法が不発だった?」
揺蕩う黒ニャンの変化に気が付かない蒼ニャン。
「ウニャ?何だか泣いてない?」
黒ニャンと思えるニャンコダマが、なぜだか俯いて泣いているように見えた。
「そんなに嫌なの?独りで過去の世界に帰るのが?」
蒼ニャンはそこ迄嫌がる黒ニャンに聞き咎めた。
だが・・・しかして?!
「何とか間に合ったと思えば、この言い草ですか蒼ニャン?」
なんだか黒ニャンの態度がおかしいようです?
「戻ってくるまでの苦労を考えてませんでしたね?ね?!」
「・・・何が言いたいの黒ニャン?」
まだ過去へと向かっていないと思った蒼ニャンが訊き返します。
「ウニャァッ!過去から戻る方法を考えてもいなかったでしょう?!」
吠える黒ニャン?!
と。
黒ニャンがボロボロになっています?!
「十年もの過去へと送り込んでおきながら、帰る方法を教えてくれなかったのニャー!」
あれ?!もしかしてこの黒ニャンは?
「任務を完了した私に酷いニャー!」
おやまぁ・・・お帰りになられたのですね?
「フェアリアから日ノ本まで帰るだけでも大変だったんニャー!
しかも十年間も彷徨う事になったのニャー!」
あらまぁ・・・お気の毒に。
「初めはのんびり出来ると思ってたんニャ、それが大きな間違いだって気が付いたのニャ!
フェアリアから日ノ本は遠過ぎるのニャァッ!」
・・・まさか?徒歩で帰って来たのですか?
「船に乗ったらとんでもない国に着いちゃうし、車に乗れば訳の分からない山に捨てられるし。
踏んだり蹴ったりだったニャ~~ッ!」
・・・もしかして・・・とばっちりでしょうか?
「あのね黒ニャン・・・どうして日の本行きの船に乗らなかったのよ?
それに黒ニャンならマリアちゃんやミリアに宿れたでしょうに?」
・・・それもそうですねぇ(遠い目)。
「それに・・・よ?
役目を果たし終えて帰っていたのなら、どうして過去に戻る必要があるのかを教えなさいよ?」
タイムパラドクスって奴ですね。
過去に戻る意味が壊れちゃっている筈ですからねぇ。
「ウニャぁっ?!それをこれから披露するのニャァッ!」
大分黒ニャンは苦労したみたいですね・・・哀れ。
「先ずは魔女さんの魂を返すにゃ!」
黒ニャンはアクァさん目掛けて何かを取り出しました。
闇の力で魔女さんの魂を取り出した黒ニャンを観ていた、蒼ニャンの瞳が悲し気に曇りました。
「駄目だったのね・・・コハル」
蒼ニャンは過去に戻ったという黒ニャンを観て呟いたのです・・・
「アクァさん!お返しするニャ!あなたの中へ魔女ロゼの魂を」
魂の転移を司れるのは魔王級の闇の力のみ。
大魔王の姫御子であり続けた証明でした。
「戻ったら目覚めの時がきますからね。
魔女さんの魂が起きますから、戸惑わないでくださいね!」
金髪のアクァさんに、持ち帰ってきた魔女の魂を差し出したのです。
黒ニャンは魔法を放って宿らせ、続けてこう言ったのでした。
「春の目覚めは早春から。古から受け継ぐ力を目覚めさせるのは春の神。
小春神に因って目覚めんと欲する魂よ、我が異能を授けん!」
黒ニャンが放ったのは、自らが神だと告げたようなもの。
授けると言い切った異能は、目覚めを促す女神の戒めを解く神力。
「ま・・・さ・・・か・・・?!」
曇った瞳が見開きました、蒼ニャンの。
蒼き瞳に映された黒ニャンが代わっていったのです・・・ほのかに色づく梅花のように。
金色の輝を放ちながら・・・・・
コハルを観た蒼ニャン。
その姿は予想を覆す!
蒼ニャンは真実の姿を見せたコハルと、想いを抱く女神を想うのです!
次回 変える未来 第9話
帰って来たコハル!真実を告げた女神との邂逅の結末は・・・