変える未来 第7話
審判の女神リーン!
コハルの正体を暴く真実を明かす女神!
蒼ニャンの御主人様に、姫御子は?!
金色の輝に目が眩みそうになります。
女神様の輝く魔法衣姿は、姫御子の眼には眩し過ぎます。
理の女神ミハル様とも違う、威厳に満ちられた蒼き瞳。
黄金色に輝く髪は長く、輝の中で揺蕩って観えます。
この方こそが、女神様なのだと感じました・・・蒼ニャンには悪いですけど。
「真理を見定める女神が問う。そなたには光も見て取れるが、正体は如何なる者なのか?」
金色の中から、ルナリィ―ン姫とは別の声が聞こえてきます。
「審判の女神が問う。私の前に姿を見せる者は神か、邪なる者か?」
蒼ニャンの御主人様から問われてしまいました。
お答えせねばなりませんが、正直どちらもイエスとは云いかねます。
「神でも邪なる者でもありませんとしか答えられないのです」
大魔王の姫御子ですから、邪なる者に近いと言えますけど。
でも、自分は決して悪意を抱く者なんかじゃありません・・・と、断言して良いと思うからです。
リーン様には、私の答えが不十分だったみたいです。
神力の籠った眼を細めて私を見据えられ、今一度問われます。
「神でも邪なる者でもないとすれば、私の前に居る者は人と云える者か?」
その問いにも頷く事が出来ません。
人であるアクァさんに宿っているから、半ばまでは人とも言えるでしょうけど。
「人でもありません、この娘の姿を借りているだけですので」
「神でも邪なる者でもなく、人でもないというならば。
この世に存在は赦されない、私の前に居るべき者ではないと知るが良い」
女神様は右手を差し出されてこられます。
審判の女神様の偉大なる異能を感じて、過去の世界にやってきてしまったのを後悔してしまいます。
「私はこの娘に宿る魔女の魂を護る為に過去より罷り越した、大魔王の姫御子コハル。
女神様に逆らう気など毛頭ございませんが、理の女神に託された命には背けません!」
手向かいするなど出来よう筈はありません。
ですが、未来で待ってくださっている蒼ニャンに背くのも出来ません。
審判の女神様にお判りいただけないのなら・・・敵わぬまでも抗うだけです。
「そう・・・貴女にはあの娘から託された務めがあるみたいね。
未来には蒼き女神が蘇っている・・・輝は理の女神に授けられたのか?」
手を差し出されたまま、訊ねられます。
「あなたには秘められた輝が観える。
その光は闇の力にも等しく、まるで人が産まれし時から与えられた業のようにも見える」
人でもなく神でもない、まして闇に染め抜かれた訳では無い私を指して。
「そなたに答えが見つけられないのなら。
審判の輝を受けてみるか?真実を暴き出す真理の輝を浴びてみるか?」
私が姫御子ではないと言われるのでしょうか?
でも、その光を浴びてしまえば、大魔王の姫御子であるのが曝け出されてしまいます。
もしも姫御子であるのが女神様の眼に写れば・・・私はこの場で消し去られてしまう事に?
「お願いします!どうかお見逃しください。
このアクァさんと魔女さんだけは、消し去らないでください」
もう女神様に命乞いをするしかありません。
この身は果てようと、罪なき人だけはお助け下さるように。
平伏してどうかお願いしますと、頭を下げる私。
「善き心掛けだ、罪なき者を助けんとするのは。
だけど勘違いしているわよコハル。ミハルが私の元に来るよう託したのでしょう?」
急に言葉が柔らかくなられました。
急に温かさを感じました、指し伸ばされている手からの神力が。
「あなたには理の女神になったミハルからの願いを感じるわ。
此処に送り出した女神が、何を願っているのかを感じ取れる。
私に邂逅させ、あなた自身の中にある力を目覚めさせるのを」
女神様が仰られます。
ミハル様がどうして私をこの場に来させたのかを。
「だからね、あなたに光を翳すのはあなたの為でもあるの。
今より先の運命を切り開く為、あなた自身が覚醒する為。
それはこの世界の運命さえも変えられるコハルを目覚めさせる為なのよ」
女神様が私を?
私は大魔王の姫御子でしかない筈なのに?
「あの?私は姫御子でしかないのです。一体何に目覚めろと仰るのでしょうか?」
つい自分が姫御子でしかないと言ってしまいました。
神と相対する闇の姫御子だって、喋ってしまいました。
なのに女神様は微笑まれています。
輝に相反する大魔王の姫御子と言ってしまった私に・・・です。
「幼き堕神の娘コハルよ。
あなたには確かに闇の属性があるけど、そればかりではないと気付いてはいない。
本当に闇の姫御子ならば、私の前で佇んではいられないのが分っていないわね」
そう仰られても・・・そうなのですか?
「輝の異能があるからこそ、娘の中に居続けられているのよ。
悪魔ならとうの昔に宿ってなど居られないのだから」
そうだったのですか?知りませんでした。
「名を晒したのが悪魔に属する者ならば、輝によって異能を漸減されて本性を晒していた筈よ」
大魔王の姫御子であってもですか?
「もしもあなたが本当に闇の者だとすれば、ミハルに因って滅ぼされていた。
滅ぼされもせず過去に送り込まれて私と逢う様に仕向けたのなら、あの娘が何を願ったかも判るわ」
流石と言いますか、蒼ニャンの御主人様は偉大です。
「それじゃあ、審判を下してあげる。
貴方に秘められた本当の姿ってモノを曝け出してあげるわ!」
あ・・・いや、少しお待ちください。心の準備ってモノが・・・
差し出されていた手に金色の輝が燈ります。
「あっ?!あのっ!アクァさんには影響がありませんよね?」
「黙っていなさい!下を噛んじゃうわよ!」
ひえええぇ~っ?!御無体な?!
最早私に意見を述べる機会などありませんでした。
ビュゥウウウゥッ!
金色の輝が私を包み込みました・・・黒ニャンな私をです。
つまり・・・宿っていた私だけを、輝の中に包み込まれたのです。
「あ・・・あ・・・あ?!」
黒ニャンだった私が人型を取り戻し、闇の魔法衣姿の私が曝け出されました。
女神様の前に黒き魔法衣姿を晒すなんて・・・恥ずかしい極みです。
「ああ・・・蒼ニャンの御主人様に、失礼な姿を晒してしまいました」
情けなくもあり、悲しく思います。
きっと未来で蒼ニャンに叱責される事でしょう。
ビュウウウウウゥッ
一頻り金色の礫に包み込まれました。
ああ・・・もう元に戻るんだなって、思ったのです・・・が。
「えっ?!これは?一体?!」
私の黒い魔法衣が?
「白くなる?白衣に変わる?!」
薄ピンク色にスカートが染め変えられていくのが見て取れます。
金色の礫が舞う中、私の魔法衣が?!
「まさか・・・こんなことって?!」
足元から徐々に黒い魔法衣が薄ピンク色の神の召される魔法衣に変えられていくのです。
驚くより他はありませんし、何が何やら訳が判りません!
「嘘・・・私が着て良い筈がない・・・これは?!」
両腕をあげて見下ろし、姫御子姿から変えられて化かされているように感じました。
黒い姫御子の魔法衣が、色と形を変えていました。
袖先や裾がギザギザになって闇を表していた魔法衣が、薄ピンクのひらひら衣装になっています。
肩から下げたマントさえ、立派な袈裟に変わっています。
「これはどうしたというのでしょうか?」
思わず身なりに目を向けて呟いてしまいます。
フリフリの袖先や裾を靡かせた時、もう一つ見慣れないモノが映りました。
蒼い髪の毛・・・でしょうか?
「良く似合うわ、小春。あの娘にも負けないくらい」
呼ばれて我に返ります。
やっぱり靡いている蒼髪は、私の物だって気付かされました。
「はうぅっ・・・どうなっているのでしょう?」
悶絶しそうになりました、何が何やら訳が皆目?
「本当の姿・・・審判は下されたわ」
微笑まれる女神様が、仰られました私に・・・ですよ?
「小春の名は、本当の姿を指していたのね。
あなたは美春が戻る前に産まれたのよ早春の神」
「はぁ?私が・・・で、ありますか?」
女神様の仰られた意味が計りかねます。
「そうよ女神コハル。あなたは堕神ルシファーの娘でしょう?」
そうですけど・・・どうして?
「あなたには殲滅の女神だった、元大天使ミハエルの異能が宿っているの。
秘められている神力はミハエルの魂が粛罪を果していないから。
人の姿になっても、罪の意識が残されていたから・・・貴女に託したようね」
「ど、どういうことなのでしょうか?
ミハエルお母様の神力が、私に宿っているというのは?」
審判を下された女神様に訊き直します。
私に異能が託されたというのなら・・・お母様は?
「彼女は嘗てハルマゲドンで滅びの時を迎えたの、悪意の塊と闘って。
それまでに犯した罪を背負ったまま人に堕ちた・・・あなたの父と同じように。
人になっても罪の意識が残り、粛罪を求めていたのね・・・心の中で。
人になって生きることの喜びを噛みしめる程、罪の意識に苛まれて時が来るのを待った。
そしてあなたを身籠って託したのよ、自分の代わりに粛罪を果してくれるのを」
「そんな・・・お母様は私に何を託したというのですか?」
微笑んでおられた女神様が、厳しい顔になられました。
私は、お母様が託された粛罪の意味を心して聞こうと待ちます。
真剣な私の顔を見据えておられる女神様が、ニヤリと嗤われました。
「?!」
ドキリとしてしまいます。何かとんでもないことを言われるのではないかって。
「その眼よ、その顔よ。その蒼い髪もよ!
まるでミハルみたい・・・私の可愛いペットにそっくりなのよ!」
「ほぇえっ?!なんですかっペットって?」
応えてから思い出しましたよ、蒼ニャンの事を。
「ミハエルがミハルにそっくりだったのを思い出したわ。
あの娘ってば、いつになったら戻って来るのかしら?」
・・・ああ、この時代には戻っていませんでしたねぇ。
話を急にはぐらかされた気になります・・・女神様。
「あっ、あのぉっ!お母様は私に何を託そうとしたのですか?」
訊き直します!絶対に訊いておかなきゃいけませんから。
「ふふふっ、それは・・・」
「ごくり・・・それは?」
意味深な女神様の言葉を待ちます。
「ファザコンに成れって事よ!」
「・・・怒っても良いですか?」
がっかりを通り越しちゃいます、私だって。
「あらあら、モノの例えって話よ。ルシファーと協力しなさいって言っただけ」
「初めからそう言ってくださいませんか女神様」
ジト目で観ちゃいますから、御ふざけが過ぎます!
「冗談じゃなくてね、堕神ルシファーが人の世を護ろうとするのに力を貸しなさいって。
あなたを産んだミハエルは、愛する者と協力するのを願っていた。
粛罪を果す自分ではなく、あなたに神力を授けて手伝わせるのを願っているの。
罪が消えるのが何時になるのか分からないから、その間はあなたに任せようとしているの」
え?!それってつまり?
「良いこと、一度しか言わないから覚えておきなさい。
あなた達の愛するミハエルはね、闇の中で粛罪を終えれたら帰って来れる。
何時になるのかは分からないけど、必ずあなた達の元へ戻って来れる。
無理に取り戻そうとするのは、彼女の本意ではないとだけ教えてあげるわ」
そう?!そうだったのですね!お母様は自ら進んで身を隠されたのですね!
「ルシファーの元へ行ってあげなさい小春神。
まだ大魔王の姫御子でもあるのだから、闇の中へも行けるでしょう?
それから未来の世界でミハルに逢えたのなら、教えてあげてくれないかしら。
私という女神は既に目覚めているのだと・・・ね」
「はいっ!承りました。必ずお伝えいたしますから!」
驚きました。
嬉しさが込み上げて笑顔になったのです。
審判の女神様から教わったのは、お母様が自ら進んで粛罪を求められていた事。
しかも、いつの日にかは帰って来て下される・・・もう逢えないかと思われていたのにです。
自分が女神の姿に成れたのにも驚きましたけど、今はお母様の事だけしか想えません。
ルシファーお父様に、大きなお土産が出来ました。
蒼ニャンにだって伝えなくてはいけません。
過去に送って頂いたお礼も言いたいです、蒼ニャンへ。
私は金色の輝の中、涙が溢れ出すのを停めれませんでした。
「あらあら、小春。男の子が泣くもんじゃないわよ」
「女の子です!男の子なんかじゃありませんっ・・・て?え?!」
泣いていたら女神様に言われてしまいました・・・でも男の子とは?
「あら?おかしいわねぇ。審判では男の子となってるんだけど?」
「悲ニャァッ?!ど、ど、どうして私が男なんですか?!」
ニヤリと嗤われて、動揺してしまいましたっ!
何故私が男と謂われるのかと、正直混乱してしまいます。
「胸だってありますから!ほらっ!観てください、女の子ですから!」
突然の宣告に、私は女神様に言い募ります。
「見た目だけでは判断できないと、今見せたばかりでしょう?」
「そ、そんな?!ホ・・・本当に男なんですか?」
私はこの時、蒼ニャンがなぜ来なかったのかを考えるべきでした。
蒼ニャンがなぜ審判の女神様をご主人と呼ぶのかを、深く考えるべきだったのです。
神も悪魔も、精神世界の産物でしたから晒している姿が男なのか女なのかは偶像で示されると聞いていました。
だから、女神様の言葉を疑いきれなかったのです。
「確かめてみようかしら?この場で、小春神が女神であるのかを」
「は、はいっ!お願いします!」
神格で調べて頂けるものとばかり思っていたのですが・・・甘かったのですっ!
「ホント・・・そっくりなんだから」
ズイッと・・・女神様が・・・
「愛らしいわね・・・ミハル」
あの・・・もしもーし?!
「いつまでも待たせるのが悪いのよ・・・ミハル」
聞いてくださぁ~~いぃっ?!
「・・・いただきますw」
超悲にゃあぁっ?!お助けぇっ!
・・・・・
・・・
・・
ばったりんこ
・・・悶絶・・・
・・
・・・
・・・・
「間違いは女神にだってあるわ」
言い切られましても・・・シクシク
「もうお嫁にいけませんっ!」
こうなったら責任者に文句を言うのですっ!
「ミハル様になんと言ったら良いのですか?御主人様からセクハラを受けたって言わせるのですか!」
「あら?私はスキンシップを執ったまでだしぃ、あなたが調べてくれと言ったんじゃない?」
あああああっ?!私って本当に間抜けでした。
「でもね、あなたが本当に女神でもある証拠なのよ。
触れられても傷一つ付かないし、ダメージもなかったでしょう?」
「心に疵がつきました」
優しく諭して下されるのは有難いですけど、こんなやり方をしなくても・・・
「手っ取り早いでしょ、それに役得くらい貰わないとね」
・・・蒼ニャンが懼れる訳が判りました。はい、もう身体の芯まで。
魔法衣の乱れを直された審判の女神様が、微笑まれながら仰られます。
「小春神に言っておくわよ。
憑代アクァに秘められた魔女の魂を隠しておきなさい。
目覚めるのは娘が魔法を放っても誰からも咎められない時になってから。
周りの者に後ろ指を指されなくて済むまで、無理に起してはなりませんからね」
「はい、そう執り図りますです」
心配りが細やかな女神様と、今さっき撓むられたリーン様と、どちらが本物でしょう?
未来に帰ったら蒼ニャンに訊いてみようかと思いました。
「それじゃあ小春神、また逢える日を楽しみにしてるわね」
ニヤリと嗤われて・・・やっぱり身の危険を感じてしまうのは蒼ニャンと同じでしょうね?
「はい!次は蒼ニャンと一緒に是非!」
「蒼ニャン?なによそれは?」
あわわっ?!これまたしくじりましたぁっ!
「いぃええぇ~っ、蒼き魔法衣を来た女神様ですぅ~」
「蒼き魔法衣を着た・・・ニャンコね?」
どっひぃーっ?!まさか?
「覚えておくわ、ミハルをペット状態にすれば面白いわよねぇ」
あああっ?!まさか・・・蒼ニャンにしたのは・・・私が原因?!
「小春神から良いことを聴いちゃった。未来が楽しみになったわ」
・・・蒼ニャン、ごめんなさい。(深く反省)
言葉を失う私の前から、金色の輝が消えていきます。
「小春神、未来はねあなた自身の手で切り開くのよ。
過去に拘ったりしないで、新たな希望へと歩みなさい。
未来はあなたが変えるのだと覚えておくのよ」
目の前が光で満たされました。
審判の女神様が観えなくなって、私の魂に教えが残りました。
月夜の晩。
始まりの夜。
新たな希望を、私に与えて下されたのです・・・女神様が。
明かされた小春神の姿。
やはり真実を明かしたのはオリジンミハルの御主人様でした!
理の女神の策謀は見事に成就したようですね。
さて・・・後は?
次回 変える未来 第8話
コハルは過去から帰るのです・・・が。どうやって帰ると云うのでしょうか?