変える未来 第2話
過去に戻った<姫御子コハル>・・・
当時はまだ何も知らない、唯の宿る者でしかなかったのです。
ですから!
この<私>が、ビシッと決めてみせましょう!!
えっへん!
姫殿下のお披露目晩さん会に、御呼ばれしちゃいました。
アタシも社交界デビューですっ!
なぁ~んて・・・ね。
シマダご一家に居候して早、8年になっちゃいました。
「あ、ここだけの話ですよ。<私>コハルっていうナゾっ娘です。
産まれだされた時からずっと美晴に憑いているんです」
自分が憑代にしているのは、シマダ・マモル君の娘で、小学部の女の子です。
少々惚けて観えるのは、<私>が同居している所為もあるようです。
普段は大人しく身を慎んで出ないようにしていますけど、ミユキお祖母ちゃん達の前では乗っ取ります。
「今夜はお姫様に会ってみようっと!」
周り中見知らぬ人達ばかりでしょうから、少々言動が可笑しくても叱られないでしょうから。
宮殿の晩餐会というモノを、ミハルだけに任せて良いものですか?!
「だって・・・<私>も。姫らしいんだから・・・」
数年前から美晴に与えられていた縫いぐるみさんが、そう呼ぶからです。
初めは空耳かなって思ったのですけど、私の時だけ聞こえるのが判ったんです。
間の抜けたライオンさんから聞こえて来たのは、男の人らしい声。
とっても力強い声で呼ばれちゃったんです<我が姫様>・・・ってね。
美晴には全然聞こえていないみたいで、私が彼の言葉を知らせても届きませんでした。
尤も、美晴には<私>の存在さえも知られていないみたいですけどね。
義父さんのマモル君は、本当のお父様やお母様の声が届いていたみたいで、
「コハルを本当の娘だと思っているよ。だから良い子で真っ直ぐに生きるんだよ」・・・って。
優しく抱き上げてくれたり、髪を撫でてくれたりします。
(´∀`*)ウフフ( ´艸`)
義理のお父さんじゃなかったら、唾を着けちゃいますよ?
義理祖母のミユキお祖母ちゃんは、時々私を観て涙ぐむのが不思議でした。
どうやら大切にしていた娘さんを亡くされたようで・・・私を抱いては思い出されているようです。
マコトお爺ちゃんは物凄いもの知り屋さんで、私に知識を授けてくださいます。
それと、物凄い甘党さんなのです。
大好物のおはぎをお祖母ちゃんに造らせては、私に勧めるのですよ。
だからぁ、私もミユキお祖母ちゃんのおはぎが大好物になったのですぅ(o^―^o)ニコ
最後にルマままですけど。
はい・・・怒りん坊さんです。
いつもマモル君と一緒に怒られちゃいます。
でもですね、ルマままはね・・・とっても大好きなの。
間違ってることをきちんと正してくれようとしているのが判るんです。
それに・・・ミハエルお母様に似ているんだもの。
そうそう!マモル君やルマままに見せて貰ったんだ、お母様からの手紙を。
皆には見えないみたいだけどね、私には声も聞こえるし姿だって見えるんだよ?
魔法の手紙・・・私がお母様から頂いた宝物。
手紙を観れば、どんな辛い事だって我慢できそう。
でもね・・・本当は、ね。
ルシファーお父様とミハエルお母様と一緒に暮らしたい・・・の。
例え人間界でなくったって良いから・・・・
<私>って・・・不思議ちゃんでしょう?
他人の娘に仮住まいしてるなんて・・・憑いてるなんて。
お化けなのかなと思ったんだよ?
縫いぐるみ達とお喋りできちゃうし、みんなが見えない物も見えちゃうから。
怖くなった時にマモル君に相談したんだ、そしたらこう言われちゃった。
「コハルはね、人よりも少しだけ魔法が使えるんだよ」・・・って。
だから、自分は魔法使いなんだって思ってるんだ。
魔法使いの姫様・・・良いじゃない?!
こんな<私>ですけど・・・良いよね?
目の前にいるのは、確かにフェアリアに居た頃の美晴です。
のほほんっとした顔で、呑気にもマモル君の袖を掴んでいます。
片手には、当時のお気に入りであるグラン君が掴まれていますけど?
「「・・・って?!駄目ダメじゃないのぉっ?!私ぃっ!」」
アクァさんの口を使って吠えてしまいそうになりました。
あ。
そうでしたね、この状況を皆さまにお伝えしなければいけませんでした。
ここは王宮から少しばかり離れた公道です。
今夜は王宮で大事な式典が執り行われる手筈になっていたのです。
臨席される方達が、この道を通って王宮に入られるのが分っていたのです。
なにせ昔のこととはいえ、私にも記憶というモノがありますから。
参内される方に交じり込んで王宮に向かうのも一手だと考えたのですが。
とは言え、アクァさんに王宮に忍び込ませる訳にもまいりません。
近衛兵さんに捕まる訳にはいきませんからね。
どうしようかと悩んでいたら。
何て言う幸運でしょうか。
ルビナスお父さんの上司の方からお呼びがかかったそうなのです。
なんでも社長さんのラミル女史が、王家の方と顔見知りだとか。
正に天からの授かりものとでも申しましょうか。
これで堂々と宮殿内に入れます。
そして<私>は今、目の前に居る自分を観ているのです。
「「グラン君を持ち込んでたっけ?そこは覚えてないなぁ」」
美晴の持っているのは、間違いなく魔獣の魂を宿した縫いぐるみ。
「「だったら・・・手放さないように言い聞かせないと!」」
何とかして近寄って話しかけないといけませんが、いきなり見ず知らずの子が話しかけるのはどうかと。
何かいい方法が無い物でしょうか?考えたって思いつきません。
「「それに、縫いぐるみにグラン君が宿っているのなら、直接話しておきたいです」」
この後、きっと闇の者が襲って来るからと、注意を促したいのですが。
「「駄目だわ、何も思いつかない・・・」」
接近する方法も、話しかけるタイミングも考え付きません。
ですから・・・駄目ダメなのです。
「どうかしたのかアクァ?」
ルビナスさんが娘であるアクァさんに訊いていたのですが、私は自分が憑代にしている娘の名を失念していました。
「緊張しているのか?いつものように振舞っていたらどうなんだ?」
お父さんであるルビナスさんは、普段からこうなんです。
気を使うでもなく、大らかに・・・<私>を。
どんっ!
・・・って、押し出したんです。
「あわわっ?!」
不意打ちに押し出されてしまった<私>。
目の前に居るミハルにまでよろけてしまいました。
「「あ・・・これはチャンス?!」」
ひょんなことから珠が出る・・・って、このことなんですね。
よろけた<私>は、不意打ちを装って美晴に突きかかりました。
「ごめんなさいっ!」
先に謝ってからでしたが、縫いぐるみの尻尾に掴みかかりました。
マモル君も美晴も、急な事で対応が遅れたみたいでした。
「「ゲット!」」
ほんの一瞬でしたけど、それだけで十分でした。
「「魔法力全開!姫御子コハルが命じます。魔獣グラン、よく聞きなさい!」」
尻尾に触れた瞬間を捉えて下命します。
「「私は未来から来た姫御子コハルです。
今より命じる通りに取計いなさい、いいですね?」」
「「姫御子様?!御意・・・」」
私の魔力を本物と信じたグラン君。流石は臣下一の剣士です・・・とか言ってる場合じゃない。
「「数刻後に襲い来る者がいるの、それに備えておいて!」」
「「如何に姫様?グランが切り伏せましょうか?」」
先走るのは今も昔も変わらないねぇグラン君は。
「「いいえ、私が手を下すつもりです。この憑代を使ってね」」
この時代に大魔王の姫御子が二人も存在しているのを闇の者に知られてしまうのはまずいと思ったのです。
どうせ手を出すのならば、私自らの責任で始末をつけたいと考えたからです。
魔獣グラン君は、私を信用してくれたみたいです。
「「ならば・・・我が剣をお使いください」」
相手に因るけど、得物を借りれた方が良いでしょうね。
「「その時が来たら・・・呼び出すわ」」
「「御意・・・」」
こうして美晴には話しかけられませんでしたが、力強い味方を得られたのでした。
「ごめんなさい、転びそうになって」
グラン君の尻尾に触れられた私が謝ると。
「大丈夫?危ないよ、前を見て歩かなきゃ」
むむ・・・昔の自分から嫌味を言われるとは?!
我ながら・・・自己嫌悪。
「ど、どうもすみません。
その縫いぐるみに気が行っちゃってて・・・かわいい子ですね?」
「・・・そう?ありがと。誉めてくれて」
ツンとした顔で言われちゃった・・・昔の私に。
「あはは・・・絶対手放しちゃ駄目だよ。縫いぐるみ君も離れたく無さそうだから」
「そうかなぁ?グラン君はパーティーには連れて行けないんだって」
なるほど・・・そうだったのか!
会場に入る前に何処かに置いて来てしまったんだったっけか?
そうなるとグラン君の援護は受けられないかもしれないな。
「でも、会場に入る瞬間までは一緒に居てあげれば?
グラン君もそうしてよって・・・言ってるよ?」
「・・・そうかなぁ?どう思うグラン君は?」
私の勧めに不審がるのか・・・昔の私っ?!
持ち上げたライオンの縫いぐるみに話しかけた美晴が、
「そうしなさいって・・・言ったよ!」
私に向けて笑いかけて来た。
・・・ほっ・・・
なんとかなったかな?これで。
「じゃあね!もしかしたら会場で逢えるかもね!」
笑う美晴が、マモル君の手を牽きながら歩き出した。
・・・って。
マモル君の眼が<私>を見詰めてるよぉ?!
「君も、御家族の方とはぐれないようにしてね?」
意味深だよマモル君。
まるでこの後私が、迷子になったのを予見しているみたいじゃないですか?
「あ・・・はいです」
顔には出さないようにしていたつもりだけど・・・つい懐かしさが出てしまっていたのかな?
マモル君の顔をまじまじ見ていたのが気を引いたのでしょうか?
「アクァ・・・あの男はな。俺達家族の恩人なんだよ」
いつの間にかルビナスさんが傍に寄っていた。
「シマダ・・・マモルという勇者さんなんだよ?」
肩に手を置いたルビナスさんが、<私>に教えてくれたんです。
「彼の亡くなられたお姉さんがね、アクァに魔法をかけたんだ。
時が満ちれば、アクァの中にも異能が湧く筈なんだよ?」
初めて・・・ルビナスさんから魔女の話が零れたのでした。
そう・・・魔女さんがアクァさんに秘められているのを。
<私>はそこに向けて走ったのです。
もし・・・時間通りなら。
もしも月の傾き通りに現れるとしたのなら・・・
「あなたは?
そこに居るのは・・・だれ?」
月夜の晩に怪異はやってきました。
美晴が見上げた先に居るのは。
「我・・・闇より出でし者。
汝は闇の王が欲する者なり・・・・」
黒尽くめのマントに覆われたモノの姿。
そこから零れるのは、悪意でしかありませんでした。
「嫌・・・来ないで!」
そう・・・あの時は。
<私>は私じゃなかったから・・・・怯えていたんです。
月夜の晩に現れた怪異に・・・・
初めて<私>が邪なる者と出遭う事になった月夜の晩。
過去の自分と干渉すれば?
歴史を書き換えることになれば?
その先は新たな時が始る事でしょう。
ただし、やり直したのが正解だとは言い切れませんがね。
次回 変える未来 第3話
闇との邂逅が呼んだ、新たな歴史が始ろうとしていました!