時を手繰る少女 第8話
いよいよ!
過去に向けて旅立ちます!
姫御子コハルが始まりの時に向けて・・・
過去に戻ったのはコハルだけ。
ですから。
ここからはコハルが主人公!
姫御子コハルの活躍をご期待ください?
ミユキお祖母ちゃんは手を振って送り出してくれました。
マモル君は心配そうな顔をしていました。
ミハルは明るく手を振ってくれたのです。
アクァさんという娘の中に宿る事にした私を・・・
時を手繰りながら、魔女さんの魂の元へと向かったのです。
目覚めた時に何を成そうとしているのかを。
忘れないように、魔導書に書き記しておきました。
アクァさんの魔法力では、一度にその時代まで遡れないから私が力を貸しました。
ええ、勿論・・・アクアさんには内緒ですけどね。
時間旅行って・・・何も感じる暇もなく終わるんだと気付いたのも、魔導書があればこそ。
金色の光を放つ魔導書が開かれてあったから、自分がどうして此処に来たのかが判りました。
「十年もの時を越えて来たんだ・・・懐かしい国へ」
アクァさんの眼を通してですけど。
目の前に見えるのは、ミハルに宿っていた頃住んでいた世界。
一瞬の内に時間も場所も変わっていたみたいです。
「まるで・・・異世界転生みたい」
大魔王の姫御子である私にも、時間旅行なんて初めての経験でしたから。
窓から見えているのは、記憶にあるフェアリアなのだと気付かされます。
だって・・・日ノ本には無い宮城が聳えているのが見えるのですから。
「フェアリアかぁ・・・本当に戻って来れたのね」
この国でミハエルお母様とルシファーお父様から生み出された私。
大魔王の姫御子としてミハルを憑代に選ばれたのも、フェアリアだったから。
「この国の住人じゃないシマダ・ミハルに宿らされたのは、いざという時には国外に逃げさせる為だったよね」
そうなのです。
お母様達は脅威から逃れさせる為に、理の女神を輩出した家族に託したのでしょう。
新たなる闇から私を護る為と、隠れ蓑とする為にミハルに宿らせたのです。
堕神の娘を闇から守るには、人間の中に封じておくのが良いと思われたのでしょう。
ですから、私はお父様を皆の前では小父さんと呼ぶように言い遣っていたのです。
誰かに訊かれても、誰かから告げ口されても良いように。
「本当はお父様と一緒に、闇の中へお母様を探しに行きたかった」
ミハエルお母様を闇に奪われたのを教えてくれたのは、縫いぐるみに身を窶していた爺やから。
お父様の信任を受けている狒狒の魔獣が、私の身にまで危機が迫ったのだと告げた時。
人間界から大魔王の結界まで逃げ込む様に諭してくれたから。
「私に力がなかったから・・・お父様とご一緒出来なかった」
思い返しても痛恨事でした。
今も強くなんてないけど、ご一緒したいと思うのです。
「もっと、強くならなくっちゃいけないんだよね・・・マモル君」
あ・・・つい。
だってマモル君は人間界で初めて出逢った男なんですから。もじもじ・・・
・・・と。
肝心なことを忘れていました。
「ふむ・・・まだ目覚めてはいないようですけど。
確かにもう一人の魂が宿らされているみたいですね」
幼きアクァさんの中に、もう一人の魂が宿っているのを感じます。
「まだ奪われてはいないということですね。間に合ったみたいです!」
時の指輪がアクァさんに継承された時点では、魔女さんの魂は奪われてはいなかったのです。
「それじゃぁ・・・いつ?奪いに来る気なんだろう?」
辺りには、闇の気配は感じられません。
「まだ時があるのなら、逢いに行けるかもしれない・・・」
時間旅行のつきもの。
逢いたい人に会う事が出来るのなら・・・逢ってみたくなるのが人情でしょ?
「女神様には悪いけど・・・役得ってモノが有っても良いよね?」
姫御子は、アクァさんに宿っていても逢いたい人がいるようです。
「もしかしたら・・・ややこしい事になるのかな?」
それは・・・逢う人によりけりでしょうね。
「その時・・・ミハルに出遭ったら?
私自身に会っちゃったら・・・どうなるんだろう?」
タイムパラドックスですか?
それともドッペルゲンガー的な、何かとかが起きる?
「まぁ、遭ったからと言って消えちゃうことなんてないだろうから」
はい、コハルさんは大魔王の姫御子という立場ですからね、消滅なんてしないでしょう。
「それに、イシュタルの民とか言ってた奴等から護ってあげるのも一計かもしれない」
・・・・逢いたい人の事が判りました。
「それには・・・今の時に居る子達と会わなきゃいけないんだね」
それは?
「それなら・・・行かなきゃいけないんだ。
会って私だと告げなきゃいけないんだ・・・グラン君達にも!」
という事は・・・シマダ家に行くのですね?
「魔女の魂を目覚めさせるのが先決だろうけど。
まだアクァさんは魔法に気付いていないみたいだから、時が満ちるまで待つ事にしようかな?」
ふむ・・・何かと骨が折れますねぇコハルさん。
「大体、女神様がいい加減な術を施したのが悪いんだけど。
擦り拭いしておいたら、後で褒めて貰えるかな?」
苦労が絶えませんねぇコハルさんも。
「もしかしたら・・・ミユキお祖母ちゃんの御菓子も貰えるかもしれないからね」
あら・・・そんな処は誰に似たんでしょうね?
私は過去に戻って来れました。
暫くはフェアリアで暮らしてみようと思います。
当時の事を思い出しながら、少しの間人間に戻ってみるのも良いかなって考えています。
アクァさんに宿ったままじゃなく、当時の私と入れ替わってみようかなって。
どうなるのかなんて分かりませんけど。
アクァさんの眼でフェアリア皇都を眺めながら・・・そう思ったのです。
長い金髪の女性にお母さんと呼びかけるアクァさん。
蒼い瞳が綺麗。笑う口元が母性を感じさせてくれます。
その傍に佇むのが父親であるルビナスさん。
やや濃いめの金髪の男性で、赤みの差した瞳が気になります。
きっとこの方は人一倍の苦労をなされたのだと思うのです。
宿ったら判るのでしょうけど、それは辞めておきましょう。
人には人の生き様があるのですから、干渉しても良い筈がありません。
3人家族の他に、もう一人女性がいらっしゃいます。
叔母・・・ノエルさんと仰られました。
この方が、蒼ニャンが救ったという女性なのですね。
微かにですが、アクァさんと同じ魔力を感じます。
ご家族にはそれぞれ古から引き継がれた因縁を感じ取れます。
大そうな魔法力を有しておられたようですが、今は殆ど消えてしまったみたいです。
ですから、私の姿も声も感じ取れないみたいでした。
アクァさんの傍に浮かんでいる私(黒ニャン状態ですけど)なんて。
ー 早くシマダ家に行きたいけど、どうすればいいのかな?
アクァさんから離れるのは、魔女さんが目覚めてからにしなければいけません。
勝手に離れて、魔女さんの魂が奪われるような事になれば、何しに時を手繰ったのか分かりませんもの。
ー アクァさんの魔法力を解放するにはどうすれば良い?
この娘の異能を目覚めさせれば、きっと魔女さんも気が付くと思うのですが。
少し悩んで思いつきました。
ー 危険だとは思うんだけど、危難に遭って貰うのが早いかな?
そうは思っても、危難っていうのが問題です。
なまじ闇の者を呼び寄せてしまえば、私という存在をも教えてしまい兼ねませんから。
ー それじゃあ何が良いのかな?事故?それとも病気?・・・やだなぁそんなの・・・
この方達に災いを呼び寄せるのは気が退けます。
でも、このままならばいつまで経っても埒があきません。
ー いっそのこと、魔女さんを連れ去ろうとする者達が現れてくれないかなぁ?
ついつい、私は良からぬ事を愚痴てしまうのです。
そんな事になれば、私という姫御子が介入しているのもバレてしまうというのに。
ルナナイト家は裕福ではありませんでしたが、幸せに暮らしていました。
なんでも地方に行けば名のある名主であったとか。そこには旧家の土地を持っているのだとか聞きました。
母方の祖母や姉も健在らしく、時折電話がかかってくるみたいです。
「「良いなぁ・・・本当に人間って」」
これが他所の家に居候状態であった私の見解。
魔力を行使するでもなく、ぼんやりとアクァさんに宿るだけで憑神状態の私。
魔女さんが起き出す気配もないし、連れ去ろうと計る者達も現れません。
時折観るカレンダーには、間も無くあの日が迫って来るのが見て取れました。
「「ミハエルお母様が居なくなった日・・・宮殿に行く日だわ」」
明後日にそれが起きる筈です。
流石にジッとしてはおれなくなりました。
ー お母様を連れ去られなくすることは出来ないの?
魔女さんの事も心配ですが、お母様はもっと気になります。
ー でも・・・お母様は神の力で守られている筈だから・・・
そう聞き及んでいたからです、私が行けないのは。
大魔王の姫御子が、神の力で護られた結界に入るなんて出来っこないから。
<<でも、せめて一目でも逢ってみたい>>
これが偽らざる本心でした。
もし許されるのなら、任務を放擲して逢いに行きたかったのです。
時を手繰ってこの時代に来た時に想ったのは、ミハエルお母様に逢いたいとの願い。
ですけど、時を越えて来た私が逢えるのは奇跡に頼る他がないみたいです。
「「明後日・・・かぁ」」
溜息が出てしまいます。
こんなに近くまで来れたというのに、どうする術も思いつきませんでした。
その時が来るまでは・・・
そう・・・姫御子だって分かりようがなかったんです。
全ての始りが、あの月夜の晩にあったなんて・・・
フェアリアから始まる物語が再び?
大魔王の姫御子として過去に来たコハル。
アクァに宿る魔女を護れるのか?
そして、月夜に現れた怪異と光の子。
あの晩に起きた邂逅が運命を動かしたのです。
始まりの物語が再び動き出すのでした。
次回 変える未来 第1話
時を手繰った少女が観たのは?過去と現在は変えられるだろうか?