時を手繰る少女 第5話
テーマパークにみんなで向かう事になりました。
勿論、ニャンコダマも一緒です!
テーマパーク<ゴットランド>に向かう車内に、浮かぬ顔のミハルが居ました。
孫とは反対にミユキお祖母ちゃんは蒼ニャンとお話しに夢中です。
「日ノ本にも巨大遊園地が出来たのねぇ」
観えて来たテーマパークの威容を観て、感慨深げにミユキお祖母ちゃんが話します。
「そうだね母さん。外国資本とはいえ、これだけの規模のテーマランドが出来たんだよ」
運転しながらマモルが、後部座席に陣取るミハルをバックミラー越しに見て言いました。
助手席側後部座席に居るミハルは、上の空で話に加わって来ません。
ー まさか母さんまでもくっついて来るとは思わなかったな、ミハル?
娘が何を想っているのか、察しはつきます。
ー これでリィーン様人形はミハル姉との奪い合いになるな?
付き添いのミユキお祖母ちゃんに仲裁して貰おうと娘に話したマモルでしたが、当のミハルは予定が狂って剥れてしまったのでした。
ー まぁ、その方が後腐れがなくて良いじゃないかミハル?
言葉には出しませんが、娘から相談を受けていたマモルにもこうなるとは予見できなかったようです。
「「お母さん、燥ぎすぎだよぉ。遊びに行く訳じゃないってマモルも言ってるんだから」」
蒼ニャンが珍しく母であるミユキお祖母ちゃんを嗜めるのですが。
「あら?そう言うミハルも遊園地なんてフェアリア以来じゃないの?」
窓ガラスに貼り付いた蒼ニャンを観て、お祖母ちゃんが微笑みました。
「「うっ?!そ、それはそうだけど。
遊びに行く訳じゃないし、今の私はこんな姿なんだからね!」」
ふむ・・・残念ですがその通りですね。
人間ではなくなった蒼ニャンには、気の毒な事です。
「でも、雰囲気だけでも味わいたいでしょ?」
「「ニャっ?!ニャンともはや・・・その通りです」」
心の底では未だに人間の頃のままでしたか、理の女神様は。
親娘の会話に口を挟む気にはなれないのか、それとも面倒臭いのか。
ミハルは黙ったまま、考え込んでいるのでした。
「コハルちゃんは昨日の今日だからね、あまり感傷が湧かないでしょう?」
むすっとしたままの孫を観て、ミユキお祖母ちゃんが話しかけてきます。
「ううん、違うよ。そうじゃなくてね、コハルちゃんが出たがっているんだよ。
なんでも剣戟を交わした娘の事が気になるんだって」
おや?!黙り込んでいたのは宿った姫御子と話していたからのようです。
「あのアクァちゃんって娘なんだけど。
闇の属性を持っているってコハルちゃんが言うんだよ?
魔法がなのか、心の中なのか分からないらしいんだよ」
昨日は姫御子コハルが前面に出て立ち合っていたから、ミハルは直接感じ取れなかったのでしたね。
大魔王の剣でアクァの双剣を断ち切って勝利したのでしたね。
「剣戟も凄かったけど、魔力もなかなかのモノだったのは覚えているけど」
宿る黒ニャンは、結界の貼られていない空間には姿を出せないようで。
「必要になったら呼び出してねって言うんだよコハルちゃんが」
控えめなコハルだけの事はありますね、爪の垢を蒼ニャンにも煎じて飲ませねば。
「そうねコハルちゃん。
闇の力が必要になるかもしれないわね」
孫の中に居る姫御子に微笑むミユキお祖母ちゃんが、そっとミハルの紅いリボンを緩めておきました。
テーマパーク<ゴッドランド>は、フェアリア有数の企業ラミルカンパニーが出資していました。
勿論オーナー兼CEOは、あのラミル社長です。
・・・あ、御存じありませんか?
「私は何事も諦めない奴が好きなんだ!女神になっても初志貫徹するような奴がな!」
銀髪を束ねた女社長ラミルさんが、常に言うセリフです。
まだキャリアウーマンとは言いたくないお年頃なのですが、商才に長けてその地位を築いたのです。
フェアリア王室とも懇意な仲で、政府からの援助を受けた国策企業でもあるみたいなのですが。
「私は世界中の子供達に夢や平和を教えてやるのが願いなのだ!」
こうも言っているラミル社長でしたが、
「戦争や紛争がない世界にするには、嘗て世界に何が起きたかを教えねばならない」
彼女の心の内を知る者は、生き様に共感した事でしょう。
なぜなら・・・彼女は戦争で大切な人を喪っていたからです。
ラミル社長は、左髪を束ねている髪飾りを肌身離さず着けていました。
その古ぼけた髪飾りは、喪った肉親から受け取った形見だったからです。
フェアリア国がまだフェアリア皇国であったおり、隣国の旧ロッソア帝国との間で干戈を交えたのでした。
度重なる激戦は、両国の民間人を含めて多くの犠牲を出してしまいました。
ラミル社長の兄もその中の一人に加えられてしまったのです。
ですから、ラミル社長は平和の尊さを説く為に、遊園地を開く事にしたのです。
人々が心の底から平和のありがたさを教われるように・・・
社長兼オーナーである彼女は、全世界に遊園地を造ろうと思い立ったのです。
嘗ての同胞だった日ノ本にも、敵国だったロッソアにだって。
その志は多くの人々に共感され、フェアリア政府からも支援されていたのでした。
勿論、海外に進出するには同国の認可が必要でしたが、友好国に派遣された公使や大使が力添えしたのは言うまでもありません。
駐日ノ本公使マリアもその中の一人だったのです。
{{それで?もうミハルの奴はあの娘を助け出したのか?}}
国外電話回線でラミル社長が話すのは。
「「ええ、ラミル社長。今日にでも解放する手筈になってますよ」」
公使ミリアが微笑んで答えました。
「「ルマにもそれとなく教えておきましたから。あの方達もご安心頂けるかと思います」」
{{そうか。手筈通りなら魔女ロゼはあの子の中で目覚めれる筈だな?}}
ミリアは受話器を一旦離して、傍に居る武官に手渡しました。
「「ラミルさん、マモルに頼んでおきましたから。
ミハル姉じゃ闇からの解放は無理でしょうから、私の娘達に任せることになるでしょう」」
{{おいおいルマ。自分の娘を使うなんて・・・母親かよ?}}
電話口でラミル社長が心配気に訊ね返して来たのでしたが。
「「大丈夫ですよラミルさん。
私の旦那は勇者ですし、お母様もご一緒されたらしいですので」」
{{ほぅ?!元、神の御子ミユキさんがか・・・なるほどな}}
ルマ武官の言葉にラミル社長が納得しました。
「「ですから、ルナリィ―ン様にもご報告ください。
姉の復活は順調に進んでいますと・・・女神の完全復活は数年後には完了しますと」」
{{了解した。必ず審判の女神様に伝えよう}}
それを最後に電話は途切れました。
受話器を公使の机に返したルマ武官が。
「ミリア閣下、後少しで準備が整うようですね?」
窓辺に立つマリア公使へ、話を元に戻しました。
「ああ、やっとよ。やっと深海調査船が出来上がったのよ」
公使館から観える波止場の沖には、軍艦みたいに見える船が浮かんでいた。
「あの魔鋼戦艦みたいに、深海にも空中にも行ける<新・海底軍艦>だというわ」
一見すれば軍艦にも見える。
だが、砲塔もないし発射管も付いてはいない。
況して、どうしてその船が<海底軍艦>だというのでしょう?
「公使閣下、公には調査船ですからね。
外で今みたいな発言は控えてください、仮にも同盟国の船なのですから」
船を見下ろすルマ武官が、苦笑いを浮かべて注文を付けると。
「公海上で試運転をすれば、どこかの国のスパイにはバレてしまうわよ」
公使が言うどこかの国とは?
「我がフェアリアにも、これだけの船はありませんからね」
自分達の国も、その船の秘密を探っているのだという訳ですか。
頷いたミリア公使が、駐在武官のルマ少佐に目配せすると。
「間引いた性能表でも用意しておく事ね。
コピー建造なんて、フェアリアがする事では無いわ」
一国を代表する公使閣下の言うセリフとも思えません。
「コピー出来ればですよミリアさん。
魔鋼の技術は、そもそも日の本から教わったじゃありませんか」
「そうだったわねルマ。ミハル先輩の御家族から受けた恩義を、忘れてはいないわよ」
公使と武官は嘗ての世界で起きた戦争を思い出していました。
「もう魔法なんて無くなったと思ったのにね。
その異能が再び必要になるなんてね・・・」
夫の行方を求めるミリア公使が、女神の義理姉を持つ武官に言います。
「いいえ、ミリアさん。
元々魔法は失われた訳じゃなかったのですよ。
ミハル姉が喪われなかったこの世界には、魔法が存在し続けていたのですから」
ルマ武官の言葉に、ミリア公使は細く笑みを溢しました。
駐車場から園内に入ろうとしたミハル達を、テーマパークの園長が誘いました。
「本社のオーナーから、内諾を受けております。どうぞこちらから」
園長が招き入れたのは通常の入り口とは違い、職員達が使う通用口でした。
人数分のカードを渡され、職員同様にチェックを受けて園内に入ったのですが。
「ラミルオーナー直々の御招きだそうですね?あなた方はどう言った御関係があられるのですか?」
園長から質問されたマモルが、普段は出さない身分証明書を提示しました。
国家機関である国防省職員の。
<国防省・秘匿機関IMS司令官>という肩書は見せられませんから。
「日ノ本国防省の方でしたか。国防省がどう言った御用向きで?」
園長が訝しむのは当たり前でしょう。
遊園地に国防省のお役人が来るのも、オーナーから迎え入れる様に指示されたのもです。
「そこは・・・国家秘密という奴です」
朗らかに答えるマモルに、園長はまだ納得いきかねているみたいです。
それはそうでしょう。
答えた役人は後ろに女の子と初老の婦人を伴っていたからです。
「国家秘密ですか・・・」
そう答えた園長は、マモル達を倉庫まで案内して来ると。
「この中に本社からわざわざ派遣されて来た係員が待っております。
あなた方を待つように言われている様なのですが、何か問題でも起こしたのでしょうか?」
園長は相手が国家機関の役人だけに、問題が公な事になるのを懼れているようです。
「いいえ、対外的な事は何も。
後は我々で取計いますので、ご安心ください」
案内してくれたお礼を兼ねて、マモルが園長に頭を下げました。
「そうですか。
何かございましたら備え付けられてあるインターコムで呼んでください」
自分の役目はここまでだと、園長は後をマモルに任せて立ち去っていきました。
「さて・・・この中にミハルの出逢った娘が待っているんだな。
あの人達に似ているのかな?ねぇミハル姉」
普通の人間には観ることも感じ取る事も出来ない蒼ニャンに、マモルが話しかけました。
「「あの人達?誰の事を言ってるのよマモルは?」」
さすがの女神様でも分からないようですね。
「逢ったら分かるんじゃないかな?
僕も思い出すのに苦労したよ、一度しか逢ってないからね」
ドアのノブを廻したマモルからそう言われても。
「「だぁかぁらぁ!誰の事よ?」」
蒼ニャンはマモルに乗っかり一緒に入ったのです。
「ほら・・・やっぱりだ。似てるよあの人達に・・・ね?」
電灯の光を浴びている金髪の少女が佇んでいました。
蒼い瞳をこちらに向けた金髪のアクァさんが、ミハル達を待っていたのでした
アクァさんは待っていました。
ミハルが約束通り連れてくると信じてです。
彼女の中には魔女が居ないというのですが。
どこに行ったのでしょうか?どうすれば良いのでしょうか?
事件は全く意外な展開へと向かうのです。
次回 時を手繰る少女 第6話
待っていたぞケンシロ○!・・・てな、ことを言うかは知りませんよ?!