決闘!ゴットランド 第6話
コハルに任せておけば大丈夫かな?
なにせ大魔王の姫御子なんだから・・・
石柱から飛びかかって来たダックマン。
両手をクロスさせて突きかかる剣先が光を放つ!
黒髪を靡かせる少女は素手で構えているだけ・・・だった。
そう・・・鋼の剣に対して、素手で構えるだけだったのだ。
素手の相手に剣を向ける卑怯者だったのかダックマンは?
「どんな技を見せてくれるんだろう?」
「いやいや、単に斬られ役だっただけじゃないの?」
「そうかなぁ?あの子は本当に役者なのかな?」
周りを囲む観衆からも、疑問や戸惑う声が出始めた。
「ミハルの奴、どうする気なんや?」
「まさか、本当に斬られちゃうんじゃないだろうね?」
「ひゃっはぁー!ミハルがやられちゃうなんてぇ?!」
マリアもローラも、そしてノーラさえもミハルが変わった事に気付いていなかった。
左の眼が赤くなっている事にさえ・・・
「そうか・・・何も持たない子にさえ刃を向けるんだね?
本気で斬り付けるのなら・・・タダじゃおかないよ?」
左の眼に宿る大魔王の姫御子コハルが観ていたのは。
「闇の心に支配されているんだね?着ぐるみの中にいる人間よ」
ダックマンを通して闇の気配を感じ取っていた。
飛び掛かって来たダックマンの両刀が振り開かれる。
ビッ!
空気を薙いだ剣。
どっ!
着地と同時に、ダックマンは勝利を疑っていなかった・・・が。
「なにぃっ?!」
切り裂いた筈だった。
相手は素手の女の子、構えていたにしろ斬った筈だった・・・服を。
だが、手応えは何もなかった。
手応えどころか黒髪の少女も姿を消していた。
「ばっ?!」
消える筈が無い、見失う筈もない・・・のに。
「・・・馬鹿なっ?!」
勝負は一瞬で決められていた。
両手に剣を持ったまま、ダックマンは狼狽える。
衝撃を頭部に受けていた・・・つまり。
「がはっ?!」
ミハルに宿ったコハルの手刀が、着ぐるみの頭部に直撃していた。
剣を振り抜かれる寸前、姫御子の術が放たれていたのだ。
人間とは違う魔王級の力で、身体能力を遥かに超えた運動性能を与えた。
コハルの眼に映っていたのは、スローモーションで剣を振り開くダックマン。
着ぐるみの中に潜む金髪の少女を睨み、闇に支配された者を解き放つ為に。
剣が振り抜かれる瞬間に飛び上がり、構えていた右手をダックマンに振り下ろしていたのだ。
高速過ぎて目にも留まらなかった・・・残照を斬っていたのだ。
だから手応えもないし、倒せる筈もなかった。
人間を超越した異能を知る術もなかった。
「がぁ・・・・ぁ」
眩暈が襲い、ダックマンは崩れ落ちる。
「うわっ?!今の見たか?」
「えっ?えっ?!何よ今のは?」
「何が起きたんだ?確かにダックマンが斬ったと思ったのに?」
観衆達の眼にも、コハルの術が早過ぎて訳が解らないようだ。
だが、魔鋼の少女達には・・・
「ミハルの奴ぅ~っ、危ない事しやがって!」
マリアが魔砲を使いやがったと眉を顰める。
「あっちゃぁ?!どこかでカメラを回されてたらやばいよ」
咄嗟にローラが周りにビデオカメラがないかを探る。
「おっひょぉーっ?!やるじゃんミハルぅ、さすがアタシの恋人なノラ!」
無神経なノーラには受けているようですけど。
3人は<ミハル>だとばかり思い込んでいますが。
「「コハルちゃん!凄いっ」」
宿られたミハルは、自分の躰でダックマンを倒した姫御子に驚嘆していたのです。
「内緒にしておいてね、特にミユキお祖母ちゃんにだけは」
憑代ミハルへ、コハルが注文を入れる。
「「えっ?!ミユキお祖母ちゃんに?どうして?」」
訊き返して来るミハルに、いらない事を言ってしまったと気付いたコハルが。
「ううん、何でもないから。例えば・・・の、話だから」
言い繕うのに躍起になって、
「それよりも、この着ぐるみの中に居る娘から、闇の属性を取り除かなきゃ」
話を倒れたダックマンに向けたのです。
「「え?!闇の・・・属性を持っているの?」」
憑代になっているミハルが、姫御子に話をすり替えられてしまいました。
右目で観るダックマンが、闇の属性を持っているとは知らなかった。
でも、大魔王の姫御子が言うのだから、先ず間違いないと思える。
「「じゃあ、コハルちゃんはそれを正しに出向いて来たんだね?」」
「え・・・っと、まぁ。まぁそんな処だよ」
本当は人間界に遊びに来たとも言えず、ミハエルの手紙を回収しに来たとも教えられず。
「と、とにかく!着ぐるみの子から闇の異能を取り除こう!」
誤魔化し半分で、ダックマンに右手を差し出した・・・
・・・差し出した筈だったのに?
「えっ?!」
ダックマンが突如消えていた・・・倒れていた筈なのに。
「どうした?!まだ地を観ているのか。
こっちだこっち!ノロまな奴だな、あははははっ!」
石柱の上から見下ろされていた。
「いつの間に・・・私が気が付かないなんて?!」
瞬間転移したようにも観えたが、それなら左目のコハルに写った筈だ。
姫御子の眼には、瞬間転移と言えども残照くらいは残る筈なのに、それが無かったから。
「闇の魔法?ううん、それとは違うみたいね」
もう一度構え直したコハルが、ある変化に気付いた。
「さっき・・・着ぐるみが倒れた痕跡が残っていない?!」
剣を振り抜いて地上に降り立った痕跡も、コハルによって倒された時についた地面の跡も残っていない。
まるで狐に化かされたように・・・なにも起きなかったみたいに。
「ふふふっ!どうかしたのか?
何を戸惑っているんだ・・・異能者(魔法使い)よ?」
コハルも憑代のミハルも、その言葉に気が付かされた。
ダックマンはコハルの術を知っているのだと。
自分の記憶違いなんかじゃなく、闘ったのだと分った。
そしてダックマンは<何かの術>で、こちらの能力を知った事も。
「お前が魔法使いだとは薄々分かっていたが。
かなりの使い手だと理解したぞ、これで素手だからといって手加減しなくても済むな」
驚いた事に、ダックマンは先程の攻撃で手加減していたのだという。
「それになぁ・・・お前。
唯の魔法使いじゃ記憶を残せる筈もないし、人間じゃないだろう?」
まさかの看破。
ダックマンはコハルを観破っているのか?
「馬鹿ね、私はレッキとした人よ。
そう言うあなたこそ・・・唯の人間じゃないでしょう?」
ミハルは人間だから、宿った姫御子の憑代に過ぎないから。
「私を人外扱いする貴方こそ、人間じゃないんじゃないの?」
着ぐるみに姿を隠す者に、敢えて名乗らせようとした。
「その中から出て姿を見せて観なさいよ、闇の者!」
悪魔の異能を持つ者と断じて、姫御子の右目が捉えようとした。
だが、ダックマンは一瞬だけ言葉を飲み込んだのだが・・・
「あはははっ!着ぐるみから出ろって?
それに闇の者とは酷い言い草だな、魔法使い!」
言い返して来たダックマンが、一頻り嗤うと。
「探している者にしか見せない決まりなんだ。
<光と闇を抱く者>にしか晒す訳にはいかないんだよ。
オーナーからも、目立っちゃ駄目だと忠告を受けているからな!」
自らの目的をさらりと漏らして来た。
・・・え?!<光と闇を抱く者>に御用向きがあるんですか?
ダックマンさん、目の前に居ますけど?
石柱の上に佇むダックマンと姫御子を宿したミハル。
勝負の行方は如何に?
・・・って、どうなるんですか?
闘う前から圧倒的能力差をみせるコハル。
まぁ人間相手なら片目で十分なのか?
ところで、コハルを連れ込んだ女神は?
諸悪の根源蒼ニャンは?
・・・・やはり、捕まったようですW
次回 決闘!ゴットランド 第7話
蒼ニャンはどうして恍けた女神に堕ちたのか?その本当の訳とは?