闇を振り撒く者と輝ける魂<悪魔と神の狭間>第10話
そう云えば。
魔獣剣士グランと闘った3匹の魔王達って?
どうなったの?
堕神ルシファーと邂逅した姫御子コハル。
光の中へ戻る前にコハルへ与えた宿題。
・・・<女神になるには輝をも手にしなければならない>・・・
その意味がどこにあるのかを問いつつ、闇の中へコハルは帰ろうとしていた。
「爺、それじゃぁグラン君の居る結界へ入りましょう」
付き従う数十の縫いぐるみ達に囲まれ、大魔王の姫御子が歩み出した。
強大なる姫御子の結界の中へ。
黒い剣士が3匹の魔王の前に佇んでいる。
背に負った魔鋼剣は一度たりとも抜き放たれていないのが見て取れた。
「グランめ、小賢しい真似をしおって・・・」
ニヤリと嗤う狒狒爺が、臣下髄一の剣士を褒めた。
「爺、グラン君は私の意を汲んだだけだよ」
「御意。全く以って・・・やりよるわい・・・と」
微笑む姫に傅く狒狒爺。
抵抗力を根こそぎ奪われた3匹の魔王を、臣下の者達が囲む。
「あ、姫様。御出でになられましたか」
目ざとく傅くながら、微笑むコハルに獲物を奉る剣士グラン。
「うん、ご苦労様ですグラン君。で?どうだった?!」
こうなると予想はしていたのだが、グランの衣服には目立った綻びも汚れもないが。
「はぁ、口だけはたつようですが・・・腕っぷしは。見たままですね」
頭を上げたグランが、仲間達が囲んだ3匹を指して応えた。
ポーチと名乗った女性型の魔王は、頭の上にたんこぶを造って眼を廻している。
リュックを名乗る一見強面風の男型は、魔法衣をボロボロにされて気を失っている。
ランドと呼ばれた男の娘型は、お尻を抱えて泣きじゃくっている・・・
「あらまぁ・・・どれだけの力で叩き伏せたの?」
「あ、いやぁ。本気じゃなかったんですが・・・つい、やり過ぎちゃいました」
あまりにも力の差があり過ぎて・・・と、グランも苦笑いをみせてくる。
「そうよねぇ、グラン君は私の剣を抜いても居ないみたいだから。
これは、私の勘違いだったみたいね。もう少し手強いかと思ったんだけど?」
「あ・・・姫様がお気になさることは無いと思いまするぞ?」
困ったように首をかしげるコハルへ、狒狒爺が取り成してから。
「これグランよ、姫御子様にご心痛させるべからずじゃぞ?!」
「これは・・・ごもっとも」
嗜める側近中の側近で、堕神ルシファーに教育係を託された狒狒爺にそう言われれば従うより他はない。
悪びれないグランにため息を吐くと。
3匹の魔王に向けて、爺やは姫の前で処罰を言い渡す。
「これそこなる魔王かぶれよ、御姫様に歯向こうた罪は赦し難い。
因ってこの場にて断罪を下す、我が王の命により・・・斬首とする!」
宣言した狒狒爺が、グランに向けて手を挙げる。
「ははっ!姫御子様よりお預かりしたこの剣にて。
小奴等の首を落としてお見せしましょう!」
狒狒爺の眼を観たグランが、促された様に背の剣を抜き放つ。
ざわ・・・ざわ・・・ざわ!
3匹を囲んでいる臣下の者達が途端にざわめき始めた。
狒狒爺が捕らえた魔王に断罪を下した事にも、剣士グランが首を盗ると答えた事にも。
そして何よりも姫御子コハルが停めない事に。
「ひぃっ?!首を斬られちゃうのぉっ?!」
剣を抜き放ったグランを見上げて、ランドが泣き真似を辞めて叫んだ。
「ほぇ?私・・・えっ?!斬首って、アンタ・・・貴女様方?マジ??」
目を廻した真似をして赦されるのを期待していたポーチ迄も。
「あたたた・・・って、なんだよお前!マジ斬る気か?」
本当に気を失っていたリュックが目ざとくグランに吠えた。
「俺は主君の命には逆らう気などは無い」
ぼそりとグランが覚悟を仄めかして、魔王の剣を突き出すと。
「ぎゃあっ?!こいつらマジだよ?!」
「待って待って待って!お待ちくださいっ、考え直して!」
「俺らは新大魔王の命令で動いていたんです~っ!」
怯えた3匹が交々訴える。
・・・が、断罪を命じた狒狒爺は、無言でグランへ合図するだけ。
ジャキンっ!
頷いたグランも、無言で剣を3匹の前に晒す。
「ひいいいぃっ?!たしゅけてぇー!」
「お願いしますぅ!もうしませんからぁっ!」
「神の御慈悲をぉっ?!」
・・・悪魔だろーに・・・
消滅させられるのがよっぽど怖いのか、3匹は泣いて謝る。
「言い残したい事があれば・・・言ってみるが良い」
ここぞと、狒狒爺が片眼を瞑って合図して来る・・・コハルへ。
それを垣間見たグランが、剣を上段に構える。
「うひいいぃっ?!お願いしますぅ!赦して!」
「もうしません、この通りです!」
「魔王辞めます!」
口々に、3匹が懺悔を言い募る。
「誠に後悔しておるのか?」
狒狒爺が最期の下問を下す。
その声に3匹が打ち揃って首を縦に振る。
「後悔するのが遅過ぎたようじゃのぅ・・・やれ、グランよ」
必死に訴える3匹へ、死の宣言を下す。
命には背けぬのだと、狒狒爺が執行を命じた。
「ぴぎゃぁっ?!」「はうぅっ?!」「なんまいだぁぶつ・・・」
構え挙げられた魔王の剣に、目も向けられなくなった3匹が固まって縋り付き合う。
周りを取り囲んでいる臣下達も、処刑が行われてしまうのに眉を顰め合っていた・・・
「お待ちなさいグラン!」
その声に場の雰囲気が、がらりと変わる。
「後悔し、懺悔する者の首を撥ねることに意義を見出せないわ」
処刑を停めた姫御子の声に、場に居る者全てがざわめき立つ。
「しかし御姫様。斯様に歯向こうた者を御許しになられますのは・・・」
片目を閉じて狒狒爺やがコハルに言上奉ると。
「私に背く愚かさを身に染みて判ったのであれば・・・
小奴等も再び歯向かうなどしないでしょう。消滅させるにも値しないわ」
命乞いする小悪党へ、救いの手を差し伸べた。
「はいぃっ!二度と歯向かいませんからぁ!」
3匹を代表してポーチがお願いして来る。
「むぅ・・・その言に二言は無いな?」
確かめる狒狒爺が、グランに剣を納めよと合図する。
「はいいいいぃっ!それはもう・・・」
揉み手のランドが、カクンカクンと頷く。
「そう?じゃぁ、大魔王ルシファーが姫の命で赦してあげることにします」
微笑むコハルが、周りの臣下に告げた。
「3匹が粛罪すると確約したと認めます。
因って、姫御子の命で処罰は取りやめとします・・・良いわよね?」
服従する者達は挙って姫に首を垂れる。
「姫様の命ぞ、グランよ剣を納めよ!」
我が意を得たりと、狒狒爺やがニヤリと笑う。
同じくニヤリと笑う剣士グランが背に剣を納めた。
そして、姫御子コハルに恭順するように傅くと。
「それでは・・・3匹を如何に処分為されまするか?」
上目遣いにコハルへと訊ねる。
「そうねぇ・・・自分達で帰って貰いましょうか。
闇に通じる道を、自分達の足で・・・ね?」
ちょっと考える姿を見せてから、処罰を決めた。
「ええええぇっ?!歩いて帰るの?」
「そんなぁっ?歩いてって・・・帰るだけでも数日かかっちゃうわよ?!」
「腹減って、いいや魔力が尽きちまう」
3匹が狼狽える。
ぎろり・・・
グランの眼が3匹を黙らせる。
「そうかぁ・・・歩いてだと魔力が尽きちゃうか・・・
じゃぁ、これで帰れば?ほら、人間界で言う処の・・・」
姫御子の魔力で造られたのは。
「じ、自転車?!それを漕いで帰るのぉっ?」
取り出された3人乗りの自転車・・・
「これだったら、そんなにかからないでしょ?」
にっこり笑うコハルへ。
「歩くのよりは早いけど・・・情けないなぁ」
ランドが溢すと・・・
ぎろり・・・
周りを囲む者達が、痛い視線を突き差して来た。
「ひやぁあああっ?!有り難く乗らせて頂きますぅ!」
3匹は震えあがると、コハルが取り出した自転車に跨る。
「もう二度と。良いわね?二度とミハルに手を出したらいけないよ?
もしも、悪い事を仕出かしたのが私の耳に入ったら・・・・」
びゅぅううううううっ!
姫御子の魔力で、威嚇する・・・・つもりだったけど。
狒狒爺やが目で合図して来た。
<ついでに結界から吹き飛ばしてしまいなさい>・・・と。
「ぴぃやぁあああぁっ?!」「ぎゃぁああっ?!」「ぐっばいまーん!」
軽く吹き飛ばすに留め置いた…積り。
結界を同時に消したから、軽いつもりがとんでもない効力を発揮してしまった。
「姫・・・・御無体な」
消え去った3匹に同情する狒狒爺や。
周りを囲む臣下の縫いぐるみ達にコハルが微笑んで、
「これで暫くの間は出て来れないでしょう。
あれだけ痛い想いをさせておいたんだもん、覚えてる間は・・・ね?」
これが謀であったと知らせた。
「如何にも。彼奴等めが再び襲い掛かるのは目に見えております。
新大魔王とかいう者が、新たなる魔王を創るのを停める意味もございますれば。
アヤツ達を逃れさせた方が善いと思うたのでございます」
参謀の狒狒爺が、訳を皆にも教える。
「そうよねぇ、あの3匹のままだったら。
ミハルにだって対抗出来そうだもん・・・」
振り返り<零号機>を観たコハルが、目を細めて呟いた。
「光の娘が、でありまするか?」
剣士グランが薄く笑うコハルへ聞き咎めると。
「そう。ミハルはきっと目覚めるわ。
自分にあるもう一つの力に、光だけじゃない本当の強さに・・・ね」
何かに託すように、誰かに求める様に微笑んだ。
「姫様、もう帰りませぬと・・・」
縫いぐるみ達の魔力も、人間界に居続ける事も時間切れが迫っていた。
「うん・・・帰りましょう」
<零号機>を観ていたコハルが、小さく頷く。
「さよなら・・・また逢う日まで。
ありがとう・・・もう一人の私。
感謝しております、理の女神様・・・・」
別れの時が再び訪れた。
手を挙げかけたコハルは、途中で停めると前を向き・・・
「帰りましょう、私達の世界へ!姫御子コハルに従う友よ!」
その手を指し伸ばし闇へと掲げた。
シャン・・・シャン・・・シャン・・・
帰って行く縫いぐるみ達・・・そして真ん中の姫御子コハル。
数々の縫いぐるみは、闇の中へと戻る瞬間に己が姿にも帰る。
魔獣となる者、魔物となる姿・・・そして。
「あれがあの子の本性か・・・気が付いては居ないんだろうなぁ?」
金色に染まる姿を観て、
「あれが春の女神って奴なんだろうなぁ・・・」
ニャンコダマは小さく頷いていた。
「春の女神・・・若き神。
だから・・・コハルって名付けたの?
プロセルピナって本名があったのに・・・ミハエルさんは?」
喪われた大天使ミハエルの名を呼んだニャンコダマ。
何を想い、何を企てているのか。
「調べれば調べる程、辻褄が合わな過ぎる。
私が現代にまで帰れた事も、あの二人が人間から戻らされたことも。
今何が起きようとしているのか・・・分からなさ過ぎる」
理の女神は何を調べていたのか。何を追い求めているのか?
「それが判る時にはきっと。きっと逢えるのよねリーン?」
自分をニャンコダマにしてまで、人間界に留まらせた<審判の女神>に。
女神は追い求めるのを辞める気にはならなかった。
「コハル・・・そして姪っ子ミハル。
この二人の宿命が、世界にどうかかわっているのか?
それを見定めよって言うんだね、私の女神様は・・・」
目を廻して気を失ってるミハルの上に浮かぶニャンコダマは、
闇の中へと帰って行く<百鬼夜行>を見送っていた。
蒼き瞳に輝を滲ませて・・・・
哀れな3匹の魔王ちゃん。
どっかのアニメみたいな・・・W
それにしてもニャンコダマ。
まだミハルを起こしてなかったのか?!
ここにも損な子が・・・・
次回 闇を振り撒く者と輝ける魂<悪魔と神の狭間>第11話
中ボス戦も大団円?!損な子よ永遠に!って、終っちゃいないんだからぁ!←ミハル