闇を振り撒く者と輝ける魂<悪魔と神の狭間>第4話
救済に向けて切り開く!
ミハルの魔鋼剣が叩きつけられた!!
バーニアが噴き出し、機体が飛び上がる。
目指すは<八岐大蛇>の心臓部・・・魔鋼機械中枢にある・・・
ー 待って!待って!待ってよぉっ?!
装備された魔鋼剣でなら。
ー 破壊するのは出来るけど!そんなことをしちゃったら?!
中心部にある魔鋼機械を壊してしまえば。
ー ローラ君のお母さんも消えちゃうよぉ?!
機械を破壊すれば、そこに宿る魂は一体どうなるのか?
心配で叫んだミハルにはお構いなしに<零号機>は進む。
「良いから!私に任せておいてよミハル!」
憑代の声にコハルが言い切った、任せろと。
ー わ、判った!コハルちゃんを信じるからっ!
もう目前に迫った邪龍に、一瞬だけ身体を取り戻した。
「いくよぉっ!貫けっアタシの魔鋼剣!」
魔力を全開にして、ミハルは切っ先に集中した。
破かれた装甲の中へ剣を突き立てる。
魔鋼機械の中枢部にある、十数センチしかない水晶へと届いた。
「砕けろ!邪操の水晶よ!」
手応えは完璧。魔砲の異能は剣先から水晶へと流れ込む。
「「今だ!魂よ来たれ!我が元へ!」」
破壊される瞬間だった。
大魔王の姫御子が、禁じ手を放ったのは。
神だろうが、魂を左右する事は出来ない。
人の生き死にを支配できても、その魂を移動させることは神でも赦されない。
だが、この世界では魔王級の闇の力を放てるのならば違った。
邪なる力とも言える。不変の真理に反した異能とも言えた。
「「今迄助けてあげられなくてごめんなさい」」
姫御子の異能は魂に謝罪する。
「「闇の者を代表して謝ります。どうか許してください」」
呼びかけたコハルの元に、一つの穢された魂が訪れる。
「「苦しかったでしょう?辛かったでしょう?
もう直ぐ輝の御子に、贖罪して貰いますからね?」」
小さくなった魂を抱き締めたコハルが、憑代の娘へと願いを込めた。
「ねぇねぇコハルちゃん?どうなってるの?」
機械は停止している。
猛威を振るっていた<八岐大蛇>も、全ての機能を停止していた。
ー ここまではね。魂を取り留めているんだよ?
これからはミハルの出番・・・と、言うか。この人の肉体は何処にあるの?
「ええっ?!ローラ君のお母さんを救ったんじゃなかったの?!」
驚きの声を張り上げるミハルに、ちょっと戸惑いをみせるコハルが。
ー 救えたよ?魂はね。
でも、完全とは言えないの。魂を肉体に戻してあげないと!
「あ・・・なるほど。そりゃそうだよね?!」
納得したミハルであったが、肝心の事を忘れていたようだ。
「そ、そりゃぁ一大事だよ!お母さんってどこに居るんだろ?」
ー なによミハル?本人がどこに居るのかも知らずに助け出そうって思ったの?
聞き咎めたコハルに対し、今の今迄知らずにいた事を思い出した。
「ど、どうしよう?!ローラ君のお母さんってどんな顔してるのかも知らないよ?」
ー あっきれたぁ~っ、ミハルは昔と同じでドジっ子のままなのね?
呆れ果てられても困るけど。
周りのみんなも知らないと思う、この現場に居る唯一人を除いては。
「そうだ!ローラ君が居た!
この辺りに居る筈のお母さんを、見つけ出して貰おう!」
気が付いたミハルが、無線を使おうとしたが。
ー あ、ごめんミハル。
マモル君達には知らせないで欲しいんだ私の存在を・・・
停められたミハルがスイッチにかけていた指を放す。
「え?!なんで?」
ー それは・・・私だから。もう逢っちゃいけないから・・・
小声が震えて聞こえた。
悲しむ声、擦れる言葉。
何故だかは知らないが、それが良いことの様に思えて。
「判った・・・でも。この状況をどうやって教えたら良いのかな?」
大魔王の姫御子に因って魂は救えた。
でも、器であるローラ君のお母さんの肉体の在処が掴めない・・・
頭の中で駈け廻る言い訳に、通話ボタンを押すのを躊躇う。
ポチ
ー あ・・・・えっ?!
指先がボタンを押している。意図せずに・・・
「こちら<翔騎>隊の<零号機>。聞こえますか?
聞こえてるのなら、マモル・・・マモル君に繋いでください」
憑代ミハルの声が呼びかけている。
乗っ取られたミハルへは断りもせずに。
「「聞こえてるわミハル3尉官。無事だったのですね?」」
無線を受けての返答だ。
「はい。時間がありませんから早くマモル君を!」
ー 待って待って!マモル君と言うのはまずいよ。司令って呼ばないと!
注釈を入れるミハルを無視して、コハルは呼び続ける。
「マモル君!聞こえる?私!
急いで調べて欲しいの、この人の肉体が何処にあるのかを!」
ー あああっ?!バレちゃうってば!
自分で知らせないでって言ったじゃないのぉ?!
しゃしゃり出て来たコハルに、慌てふためくミハルだった。
「だって・・・我慢の限界だったんだもん・・・我慢しようとは思ったんだよ?」
何故?なぜコハルは禁を破ったのか。
「「無事だったか!それで栗林君を救出したんだな?」」
無線機の調子でも悪いのか、声がくぐもって聞こえる。
「あ・・・あ、あのっ。そう・・・です」
くぐもった声に感極まったようなコハルが返すと。
「栗林法子君の肉体だが、こちらで発見し終えている。
データを転送するから、方位盤に入力したまえ」
「あっ?!はい・・・判りました。
あ、あの。マモル・・・君ですよね?」
喋り方に違和感があった。
記憶の中に居るマモルとは別人のようにも思えるのだが。
ー そうよね?これってもしかしたら・・・マコトお爺ちゃん?!
感ずいたミハルが、知らせようとしたら。
「「ざんねぇーんっ!この回線はトレーラーに繋がってるのよねぇ。
お生憎様だったわねぇ! おーっほっほっほ!」」
ど外れな大声が割って入って来た。
ー 伯母ちゃんだ・・・
名を告げられなくても判る。これは女神の悪戯だと。
「なんで女神様が?!どうして?」
呆れるミハルに対して、コハルは涙声で訴える。
「「なぜって?そりゃぁ妨げたくもなるわよ。
貴女はマモルの声を聞きたかったみたいだけど、お父さんも聞きたいって言うんだから。
先ずは親孝行ってね・・・判るぅ?」」
無線機の先でふんぞり返っているニャンコダマが想像できた・・・ミハルには。
「そ・・・そうなんですか?
じゃぁ、お爺ちゃんも私だって認識されておられるんですよね?」
「「コハル、久しぶりだね。音声だけじゃなくて顔が、姿が見て観たいよ?」」
ぶわぁ・・・堰を切ったように涙が溢れ出る。
「お爺ちゃん!マコトお爺ちゃん!私・・・私だよ、コハルです!」
「「ああ、孫の声を忘れる筈が無かろう?6年ぶりになるかな、コハルの声を聞けたのは?」」
うんうんと頷くコハルが、耐えきれなくなったのか。
「お願い!一目だけでも良いから!
無線じゃなくて通信回路で繋いで!」
モニター周りのスイッチをやたら滅法にオンにする。
その中には直通回線のスイッチも含まれていたのだが・・・
ー ・・・しぃーらないっと・・・
敢えてミハルは教えなかった。
その回線が<大鳳>につなげられている事を。
「「お爺ちゃんもミユキお祖母ちゃんも。
コハルが戻って来れるように、いつも祈ってる。
力に慣れなくて申し訳ないと、6年間ずっと謝りたかったのだよ?」」
「ああああ~んっ!謝らないでお爺ちゃん!
大好きな二人にいつまでも後悔させて、ごめんなさい!」
大泣きするコハルに、ミハルは疑問を募らせた。
ー ちょっと待ってよね?!アタシが孫なんですけど?
マコトとコハルの間に繋がるのは?
ー それよりっ!栗林法子って・・・誰?
お間抜けなミハルならではの疑問符だった。
気が付いていたミハルの予想通り。
「戻れたんだなあの子が・・・ルマ?」
紅鞘を持って来てくれたルマを傍らに抱き、マモルが笑っていた。
「うん、永かったわよね・・・6年も。6年もかかったのね?」
父マコトとの間で交される会話を耳にしていた。
娘とは僅かに話し方が違う娘に、ルマは涙を堪えきれず。
「大きくなったかしら?どんな表情をしているのかしら?」
まるで本当の母親の様に懐かしんでいる。
「コハルもあの娘と同い年なんだから・・・きっと似てるだろうな?」
マモルでさえ、コハルを差し置いてミハルをあの娘と呼ばしめる。
「きっと戻って来ると信じてたのよ、私・・・」
「僕もだよ。コハルは僕らの娘なんだから・・・」
大魔王の姫御子コハルが?
どうして自分達の娘だと言えるのだろう?
マモルとルマ、そしてコハルの間にはどんな因果が?!
気勢を制した女神の思惑も気になるが・・・・
ー ねぇねぇ?みんなぁ?早くしないといけないんじゃなかったのぉ?!
蚊帳の外のミハルも気になっているみたいですが?
救ったのは良いけれど?
助け出したけど?
まだ魂はあり処へとは戻っていない?!
それじゃあ・・・あの人達に頼まなきゃね?!
次回 闇を振り撒く者と輝ける魂<悪魔と神の狭間>第5話
君の求めに答えるのは?!・・・と、その前に見えたのは幼き自分?!それは・・・