闇を振り撒く者と輝ける魂<悪魔と神の狭間>第2話
擡げた9本の首には、頭部が備わっていなかった。
機械は修復を断念したというのか?
いや、違うようだ。
人間の魂を宿らせていた魔鋼の機械に、何者かが手を伸ばして来たのだ。
闇の者には戦闘機械の何たるかが、何も訳っていないからだろう。
炎を噴く火炎放射器も、砲弾を放つ為の装填機という武装がどれ程の威力を持つのかが。
魔鋼機械に閉じ込められている法子の魂は、新たに干渉して来た者を感じ取った。
「「私はもうお役御免なの?だったら、さっさと処分したらどうなの?!」」
強力な魔力を感じて、自分を機械から解放するように促す。
「「人間よ、お前の魂がどうなろうが構いやしないが。
我に命じることは赦さん、この魔王ポーチに抗う事などさせる訳もなかろう」」
法子への回答は拒絶と言うよりは放置を意味する。
「「つまり、私はどうなろうが知った事ではないと?」」
「「無論。人間一匹如きに関わり合う筈がなかろうが!」」
嘲るポーチが、法子を吐き捨てる。
「「本当に関わらないというのね?」」
「「くどい!」」
それは法子にとって最後のチャンスが訪れたのを意味する回答だった。
ポーチには解らなかったのだろう。
魔王ポーチが宿る事になった<八岐大蛇>と呼ばれる魔鋼機械兵は、既に誤動作していたのだ。
<<臨界限度まで後180秒・・・暴走危険・・・暴走爆発危険>>
圧倒的魔王ポーチの魔力により、完全ではない魔鋼機械は暴走を始めていたのだ。
もしも魔王が人間の機械に精通していたのなら、法子の意志を汲み取ったであろう。
自ら逃げ出し、危険から逃れようとしただろう。
勿論、宿ってしまった後出しの出来事なのだが。
ポーチも法子にもこんな状況になるなんて思いもしなかっただろう。
「「だけど、これが神の助けには違いない。
私はこれ以上闇に冒されずに済む・・・潰え去れるのだから」」
宿った魂は宿るモノが滅べば、同時に消え去る。
このまま暴走爆発を起こせれば、機械は潰え自分も消滅出来るのだと法子は細く笑んだ。
しかも、この魔王ポーチはそれを知らずに居るようだ。
「「私達家族を巻き込んだ、悪の根源を断てるチャンスが来た。
闇に貶められず、闇を断てるのなら。この命、惜しくはないわ!」」
法子は最後まで諦めずにいた自分に、神が力を貸してくれたのだと感謝する。
「「あの子達には迷惑を掛け続けて来たけど・・・許してね」」
後数十秒で別れの時が来る前に、一目で良いから逢って謝りたい。
それだけが心残りだと、機械の中で懺悔を繰り返したのだった・・・
「させやしないわ!このコハルの名に賭けて!」
紅い瞳を、<八岐大蛇>の胴体部裂け目に向ける。
「我に与えられし姫御子の名において命ずる!」
白い<翔騎>が刃を翻す。
動力源の電池が底を尽いた筈なのに、魔鋼の機械は高速回転を継続させる。
「ミハル、よく見ておいて!これが私の力。
これが闇の姫御子であるコハルの実力!」
コックピットで、憑代であるミハルの右手を突き上げる。
「闇の結界よ、敵を封じ込めよ!
戦いの場へ、我に仇名す者を獲り込めよ!」
闇の結界が形成される。
逆五芒星を頂点に、ピラミッド型の空間が造られる。
まるでそれは、世界ごと閉じ込めた空間にも思える程の巨大さだった。
ー これが・・・コハルちゃんの異能?!
姫御子って呼ばれる訳が判った気がする・・・・
強大なる魔力で形成された空間を観て、改めてコハルの力を思い知らされた。
「これでも幾分かは小さめなんだよ?!
相手が素人魔王なんだから、これで十分だと思うんだ」
ー ほええぇっ?!魔王にも素人が居たんだぁ?
驚く処がずれているのは、何もかもがミハルには驚く事ばかりだったから。
「そう、魔王って云ってもね。
あの中に居るのは何者かによって作り出された、俄作りの魔王を名乗る奴。
邪心から生み出された紛い物・・・仮初めの魔王なんだよ?」
つい昨日のこと。
現れ出た魔王ポーチを観た瞬間に判った。
魔王を名乗って、それなりの魔力を秘めてはいたが。
「あれはきっと。人間の欲望を形にした魔王の為り損い。
強力な邪心が、ある者によって容に入れられただけ」
ー あるモノ?!それって?
魔王を造れる者とは?
仮初めとは言えど、魔王を造れる者が存在するのかと・・・問いかける。
「今は・・・知らない方が良いのよミハルは。
答えは自ずと判るようになるわ・・・いずれ」
返されたのは疑問を増大させるだけに過ぎなかった。
いずれ・・・何が判るというんだろう? 声に出さずに心に留め置く事にした。
「敵もこっちの意図を読んだようよ!
面倒な事になりそうね・・・追加で2匹現れるみたい」
闇の結界だから、邪なる者達にとっては入りやすいのか?
魔王級の邪なる者がやって来るというコハルに。
ー えっ?!1対3になっちゃうよ?
闘いは数の暴力でもあるのだから、油断は出来ないと心配したのだが。
「そっちがそう来るのなら・・・私も奥の手を出すしかないわよね?」
魔鋼機械に集う仲間に目を向けると。
「「やっと、我等にも出番を賜れますのか?!」」
ライオンの縫いぐるみであるグランが目を輝かせる。
「そうねぇ、グラン。
でもね、この機械を動かすには皆の助力が必要だから。
君だけで十分でしょう?魔獣剣士グランだけで」
惚けたコハルが、手を指し招く。
「「勿論ですとも!
不肖この魔獣剣士グラン、姫の御命令とあらば一命に替えて!」」
黒いボタンの瞳を輝かせるライオンの縫いぐるみ。
「大袈裟ねぇグランは。ちょっと邪魔するのを蹴散らして貰いたいだけなんだから」
微笑みながらコハルが頼んだ。
「「御意!久しぶりにお見せする事が出来そうですな!」」
喜んだのはグランの方。まさに喜び勇むとはグランを指すのか。
「「御命じ下さい、我が君よ!このグランに討伐の詔を!」」
魔鋼機械から離れたライオンの縫いぐるみが、畏まって臣下の礼を捧げる。
コハルの前に出た縫いぐるみを、ミハルはどこかで観た事がある気がしてきた。
記憶の端で・・・遠いどこかで見知っていたような・・・
ー なんだろう・・・もどかしいな?でも、なぜだか温かい・・・
コハルは右手を指し出してグランに命じる。
「我が古き友、魔獣グランに与える。
父が剣を抜き、我が力を授ける・・・我が求めに答えよ魔獣剣士よ!」
大魔王の姫御子の召喚。
与えられた異能により、魔獣は魔獣剣士となる。
臣下を拝命し、闇の中で蘇った・・・魔獣グラン。
堕神ルシファー臣下一の剣士として、姫の守護を託された男。
「「グルオオオォッ!」」
咆哮が空間を揺さぶる。
ライオンの縫いぐるみでしかなかった魔獣は、人の容を採る。
はたしてその姿は大戦時に身に着けたまま。
黒き魔法衣と、黒き鋼の刃を着けた、魔法剣士に成った。
「久しぶりねグラン。頼みたいの、あなたにね?!」
「我が君よ。我が主ルシファーが御子よ、何をお望みか?」
先程までライオンの縫いぐるみだった者とは思えない。
憑代ミハルは目を丸くしてグランを見詰めている。
ー この剣士・・・観た事がある・・・どこでだったかな?
そう考えていたら、グランの紅い瞳が自分を観ているように感じてしまった。
実際はコハルを観ているだけだろうとは思うのだが。
「共に人に仇名す者を滅ぼさん者よ。
ミハエルが娘として願うのは、邪なる輩の排除。
でも、討ち果たす必要は無いわ!」
「御命、確かに・・・」
膝を着いて臣下の礼を捧げたグランに、コハルが手を指し出す。
「剣士グラン、私に勝利を捧げて!」
紅き瞳を閉じたグランが、手の平に額を着けて。
「誓って、御意に沿い奉らん」
額に姫御子の紋章が描き出される。
ー あ・・・あれって。うなじの痣と同じ形?!
闇の紋章と揶揄された、自分の首筋にあった痣。
いつの間にか薄れていたが、記憶には残されていた。
「私と父ルシファーの魔力の証。
紋章は力となり、紋章は刃と化す。
剣士グランよ、私を邪魔する愚か者に鉄槌をくだしなさい」
姫御子の命が下された。
邪魔する者とはポーチと、その仲間を指す。
「我が君よ、御覧に入れましょう。我が剣技を!」
立ち上がったグランが、黒い魔法衣を翻す。
ー わぁ・・・背が高いなぁ。見上げなきゃ顔が見えないよ?
コハル目線のミハルから観てもグランの身長は、優に180センチは越えている。
ー ・・・って。なんだろう胸がドキンって鳴った?
なぜ?どうして闇の剣士を観てそう思えるのか。
憑代ミハルは、グランの姿にそう思えるのかが思い出せずにいた。
魔獣剣士はコハルの貼った結界の中、相対する魔王の元へ向かって往った。
コハルは闇の力を行使した。
中ボス邪龍騎にトドメを指すコハルとミハル。
2人の間には縫ぐるみ達が?
次回 闇を振り撒く者と輝ける魂<悪魔と神の狭間>第3話
魔砲の少女には縫ぐるみが似合う?頑張れグラン!