闇を振り撒く者と輝ける魂<悪魔と神の狭間>第1話
魔王ポーチの前に立ちあがった二人の娘。
輝を纏うミハルと、闇の姫御子であるコハル。
尤も、コハルは堕神ルシファーの娘でもあるのだが。
金色を纏う<零号機>に、再び光が戻った。
電力を喪失した筈の機体が、なぜ動けるのか。
どこからその力を与えられたというのか?
「みんなが私を助けてくれてるの!私の大切な友、大切な仲間。
コハルを姫御子として迎えてくれたみんなが!」
紫の髪を靡かせるコハルが、魔鋼機械に動力源として魔力を与える者達を知らせる。
ー この子達が?!コハルちゃんを手助けしてくれてるの?
躰をコハルに貸しているミハルの魂にも、彼等の姿が見えていた。
機械に手を指し出す、数十・・・いや、数百の縫いぐるみ達の姿が。
「そう!みんな私のお友達なんだ。
ミハルにはどう見えているか分からないけど、みんな良い子達なんだよ?」
姫に傅く者とは言わず、コハルは友と呼んでいる。
堕神ルシファーに傅く者達ではあるのだが、敢えて臣下の者とは言わない。
「私が闇に目覚めた時から、ずっと慰めてくれた子達。
自らの姿を私の好みに合わせることも厭わず、ずっと傍に居てくれるの」
機械の周りに揺蕩う縫いぐるみ達の表情は、どれも優しげに見える。
心から姫御子を想い、力になりたいと集まって来たのだろう。
まるでそうする事で、自らの願いも果たそうとでもいうように。
ー この子達には邪な気配は微塵もない。
それどころか、温もりさえも感じられる・・・
ミハルは大魔王の姫御子に集う縫いぐるみ達に、親しみを感じ取っていた。
闇の者だというのに、邪心が感じられないのに不思議な親近感を覚えていた。
ー 人の温もりにも似た・・・優しさと愛おしみを感じる。
この子達は何を願っているんだろう?
同じ闇の者だというのに、光を求めているみたいに思えてしまった。
「それはね、ミハル。
いつの日にか元の姿に戻る、失われたあるべき姿に戻りたいのよ?」
返って来たコハルからの答えに、集う縫いぐるみ達が一斉に震えた。
懼れ怯える訳でもなく、姫御子の温かさに感動したようだ。
震える縫いぐるみの中から、一体のライオンみたいなモノが進み出て来ると。
「「姫御子様、こちらに居られますのが?」」
魂のミハルを指し、
「「新たなる神子なのですな?」」
珍しい物でもみるように、しげしげと観察して来る。
ライオンモドキの縫いぐるみに見詰められたミハルが、お辞儀しながら名を名乗る。
ー あ、あの、初めまして。
アタシはミハルって言います・・・どうぞ宜しくお願い致します!
名を語った瞬間だった。
機械に集っていた数百の縫いぐるみ達が、一斉にどよめきを起こした。
わいわい!ざわざわっ!
件のライオンモドキも太い眉を跳ね上げて、
「「ミハルぅっ?!今確かに女神を名乗ったよな?
俺の知っているミハルとは別ものとしか見えんが・・・」」
辺りのざわめきに振り返り、ばたばたと手を振って呼び寄せる。
「「本当にミハルなのか?それにしてはチッコイようだが?」」
ざわつく縫いぐるみから訊かれたミハルが首を捻ると。
ー あのぉ・・・もしかして。
君達が言ってるのはミハル叔母ちゃんのこと?
ざわわわわぁっ!
答えた瞬間に、一際大きなざわめきが起きる。
「「伯母ちゃんだってぇ?!
女神の姪とでも言うのか?!お前は何者なのだ?!」」
声を荒げる縫いぐるみ達。
その言い草にカチンときたミハルが。
ー 言ったでしょう!アタシはミハル、女神とは別人なの!
あなた達の言う女神の姪で、島田 美晴なの!
どわああああぁっ!
縫いぐるみ達が驚愕のどよめきを起こした。
「「コハル様、姫御子様!
これは一体何としたことなのですか?!
こともあろうに輝の御子に宿られるとは!」」
しわがれた声を上げた縫いぐるみが、コハルに質して来ると。
「あら爺。元々私はミハルの中で目覚めたのよ?
元の躰に宿って何が悪いというのかしら?」
「「で、ですが!
今はルシファー様の姫御子として振舞われなければならんのですぞ!」」
爺と呼ばれた狒狒の縫いぐるみが、声を荒げて進言すると。
「判ってるわ爺。でもね、ミハルは護らねばならないのよ。
まだ輝に目覚めた訳でもないし、愚か者達によって迷惑を掛けられているんだもの」
モニターに映る<八岐大蛇>に目を向けて言い返した。
「「そ、それは・・・確かにそうですが。
あ奴等の処分なら、私目共にお任せいただければ済む事なのではございませぬか?」」
取り付く島無しと狒狒の縫いぐるみが言い募るのだが。
「爺・・・今私はね、とっても気分が良いの。
もしかしたら、運命が換えられる様な気になってるの。
それを邪魔する奴等から、ミハルの大切な人を取り戻さなきゃいけないの!」
ー コハルちゃん・・・ありがとう
狒狒に向けてと言うより、集う僕達全てへ向けて。
「だからっ!私はミハルと共に立ち上がるの!
輝の御子と手を携えて、今やらなきゃならない事に全力で立ち向かうの!」
おおおおおぉっ!
姫御子の決意に共鳴する縫いぐるみ達。
「「その決意、並々ならぬとお受けしましたぞ!
微力ながらこの爺も、助力致します故に」」
「「我等も!姫御子と共に在らんと誓います!」」
狒狒を始め皆が、皆。
コハルに付き従うと誓った。
ー ホントーに。コハルちゃんも良いお友達がいるじゃないの!
姫と呼ばれるコハルには、こんなにも慕ってくれる者達が居るんだと。
ミハルも嬉しく、頼もしく思えた。
微笑むミハルの傍に、先程のライオンモドキが寄り付居て来ると。
「「それにしてもなぁ・・・ミハルって呼ぶのは問題だな?」」
もう一度しげしげと見廻して。
「「俺の知ってるミハルはなぁ。こう・・・どんって力強かったがなぁ」」
魂のミハルに鍵爪を突き付けて、残念そうに言って来た。
ー ほぇっ?!・・・って!こらぁっ、どういう意味よ!
どうもこうも・・・ライオンモドキは、うむむっと眉間に皺を寄せて。
「「姪っ子ならば知ってるだろう?
ミハルは俺達の仲間だったんだぜ?
光と闇の両方の力を持ってたんだ・・・人間だった時にはな!」
ー えっ?!知らないよそんな話。伯母ちゃんが光と闇を?
慌てて訊き咎めたミハルを感じたコハルが、ライオンモドキのグランを嗜める。
「こら、グラン君!今はそんな話は後にしてよ。
私は邪魔する者を排除しなきゃならないんだからね!」
姫御子に咎め立てられたライオンモドキが、慌てて口を塞いだのだが。
ー ちょ、ちょっと?!
ミハル叔母さんがどうして二つの力を持つ者だったのよ?
それにどうして人だったのに女神になんてなれたのよ?
父であるマモルの姉だとは知っていたが、今の今迄理由なんて聞いた事が無かったから。
コハルに、周りに集う縫いぐるみ達に訊いたのだが。
「その話は後で。
今はあの中に捕らえられた魂を助けるのが先でしょ?」
あっさりとコハルに断られてしまった。
ー う・・・うん。そうだよね、早く助け出さないといけないもんね。
判った!今の話は、全てが終わった後でしようね!
ミハルはそう言ったのだが、コハルは軽く頷くだけに留めた。
ー グラン・・・君とか言ったよね?
君もミハル伯母ちゃんの事を知ってる独りなんでしょ?
片付いたらお話を聞かせて貰いたいんだ、アタシにも!
口を噤んで冷や汗を垂らすライオンモドキに、ミハルが頼んだが。
狒狒にもコハルにも睨まれたグランは、何も答えようがなくなっていた。
ー それじゃあ!
アタシ達、友達みんなの力で取り戻そうよ!
あの中に囚われた人の魂を、闇の魔鋼機械から!
促す声は凛として。
集う者を仲間と呼んだミハルの声に、集った全ての魔族が頷いた。
中ボス戦が続いていますが。
戦いよりもコハルの周りに居る者達が気になりませんか?
なりますよね? ね??
気になるというのでは仕方が有りません。
紐解いて行くとしましょうか?←強制
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闇を祓う者。それは以外にも魔王の娘として君臨していた?!ミハルには関係ないよ?