だって 女の子だもん 第10話
コハルとミハル・・・
闇と光の娘が邂逅した・・・
幹線道路脇に停められた軍用トレーラーに、<大鳳>からの緊急電が入った。
「島田IMS司令よりの緊急電ですっ!」
サングラスを掛けたマコトへ、電文を読み上げる。
「目標は明らかに異形の力を宿す者なり。
当方の<翔騎>では破壊出来ず、至急増強戦力を向かわれたし・・・以上です!」
モニターに映し出された画像と報告分を読み上げる女性士官。
サングラス越しに画像を観ていたマコトの口端が歪む。
「マモルの隊では対処が出来なかったようだな・・・
あの子では能力に限界があった・・・いいや、<零号機>では。
現れた魔鋼機兵には能力不足だったということか」
トレーラーに付属した整備室を改造し、指揮管理室にされた狭い空間で。
マモルからの来援要請を受け、直ちに行動を起こさねばならないというのに。
「如何為されますか?」
サングラスをついっと持ち上げたマコトに士官が訊ねる。
それには答えず、マコトは一つのボタンを押すと。
「どうかね?やれそうか?」
誰かに促す様に訊いた。
「「いつでも。出撃可能です」」
了承する声が即座に返されて来た。
「うむ、<2号機>の試験を兼ねる意味もある。
今後のデーターを取る意味もな・・・十分に心してあたれ」
「「了解・・・」」
ボタンから指を放したマコトが、士官に向けて命じる。
「宜しい、それでは<2号機>を向かわせたまえ」
責任者の命に、女性士官が頷き復唱する。
「了解です!本分遣隊はこれより臨戦態勢に移行。
IMS隊の要請を受けて出撃にかかります。
本車は直ちに現場に急行、直ちに敵撃滅作戦を展開します!」
「よかろう・・・」
マコトの認証を受け、士官が運転手に達する。
「至急道魔重工業敷地内へ向え!到着次第<新型機>の発進を執り行う!」
女性士官の命令で、トレーラーが動き始めた。
テキパキと命令を下す女性士官にも目もくれず、マコトは考えていた。
先ず初めに、孫のミハルが操縦している<零号機>の性能の事。
次に考えるのは<新型機・2号機>の性能と、操縦者の異能。
ー 本来は魔鋼能力レベル5ようなのだがな。
あの娘が戻って来れば使いこなせるだろうが・・・二機とも
マコトの脳裏には魔法衣を着る娘が映されている。
ー いつか・・・その日が来ると信じているぞ、ミハル・・・
サングラスの中で瞼を閉じたマコト。
今彼が思う娘は・・・どこに?
「「マリア!直ちに予備電源を使用して、その場から退避せよ!」」
猫田2尉の声が、撤退を命じて来た。
「なっ?!ミハルを置いては行けません!」
点滅するモニターからの命令に異議を唱えるマリアが、
「救出を命じるのならトモカク、見捨ててなんていけません!」
正面モニターだけが灯されたコックピットで抗議する。
予備電源の活動力では、救出もままならないのは百も承知で。
「<零号機>の救出は来援する味方に任せておけば良い。
これはIMS司令の命令と認識しなさい!」
司令であるマモルが命じたと明かす猫田2尉が、マリアへと言い返して来た。
「来援?!そんな者がどこから?」
自分達以外に<翔騎>部隊があるなんて、今の今迄知らされていなかった。
「私達の<翔騎>以外に、ミハルを助けられる者が居るんですか?」
<翔騎>に絶対の信頼を寄せるマリアからの問いに、
「それは来援者を観てから判断すれば良いの!
<一号機>は直ちに撤収、戦闘区域から離れなさい!」
猫田2尉の回線に割り込んで来た艦長代理のルマが、一刻も猶予が無いと急がせる。
有無を言わさぬ声に、マリアは唇を噛み締めて頷くよりは無かった。
「ルマ艦長代理・・・ルマまま。それで良いのですね?
ミハルを見殺しにする気じゃ・・・ないんやなっ?」
心の底にあった声が、零れだしてしまうマリアだった。
「勿論よ、だから来援を頼んだんじゃない?」
返って来た母親の声には、しっかりと確信があるように聴こえた。
「あの子には少しだけ我慢させないとね。
停めたのに突っ走ったのは、あの子の性格の所為。
ちょっときつめのお灸を据えないと・・・いけないからね」
怒るでもなく窘めるでもなく。
母であるルマが、娘であるミハルを信じているからこそ。
そう言い切れたのだろうとマリアも納得した。
「了解!本機は直ちに撤収します。<零号機>の状態を見張っていてやってください」
落ち着きを取り戻したマリアの頼みを、猫田2尉も聞き遂げる。
「監視モニターも展開中。
一ミリたりとも見逃したりしないわ!」
二人の声にマリアは予備電源のスイッチを押し込んだ。
「「貴女のお友達・・・マリアちゃんだっけ?
良いお友達を持っているんだねミハルって・・・」
再起動して、離れて行く<一号機>をモニターに捉えて。
「「貴女の事を想って・・・最後まで見ているわよ?」」
コハルの声が指していた。
脱出を図る機体は、前を向けた状態で後退していく。
それは決して見捨てた訳じゃないことの顕れ。
ー うん、本当にお友達に恵まれたの・・・アタシって!
コハルの力で映し出されているモニターに、ミハルは感謝の声を溢す。
「「そのようね、羨ましいわ。
それに、家族にも・・・恵まれている様ね」」
コハルの言った意味が、その場では分からなかったが。
ー うん!勿論だよ。
返したミハルに、目を閉じたコハルが。
「「そうね・・・ホント。幸せね・・・ミハルは」」
まるで他人の事の様に嘯くのを、ミハルは感じ取ることが出来ずにいた。
モニターの端に映っている<八岐大蛇>は、中破した胴体を直そうともしない。
修復能力を何処の部分に使っているのか分からないが、動きを停めようとしていない。
攻撃するでもなく、まるで迷い悩むかのようにグラグラと揺れている。
「「これ以上の戦闘は無意味でしょう?
私にこれ以上闘わせないで!もう十分でしょう?!」」
法子の魂は、まだ魔鋼機械に囚われ続けていた。
機械に魂を縛り付けた、本当の犯人に因って。
「「魔王よ!もう私を穢すのは辞めにして。
いっその事、機械諸共破壊して果てさせなさいよ!」」
そう・・・法子の魂は、やはり魔王によって送り込まれたのだ。
叫ぶ魂を闇から覗いていたのは・・・
「ふふふっ!お馬鹿さんねぇ。
お前の魂をそう易々と手放す筈が無いじゃないか。
まだまだ利用価値があるのだからな・・・殺戮を繰り広げねば終わらないぞ?」
赤紫の髪、紅き瞳の・・・魔王ショルダー・ポーチが、鼻で笑った。
「お前が破壊され魂諸共<無>になる時。
私の狙いも遂げられる・・・
あの中に居る娘諸共、憎い姫御子を捕えられるんだからな!」
魔王は歪めた口で、法子の魂を弄ぶ。
「よいか!お前は私の傀儡にしか過ぎんのだ!
お前が何とほざこうが、拒絶しようが。
我が魔力囚われた魂の解放など、永遠に来ないと知るが良い!」
嘲る魔王。
人の魂を弄ぶ魔王ポーチ・・・
「思い知るが良い人間共!
お前達には悪夢を与えてやる!
そしてお前にもだ堕神の娘よ!覚悟するが良い!」
闇の結界の中で魔王が嘲て、人間界に魔力を放つ。
「絶望を見せてやろう!
動けなくなったお前に、人の世界の武器で与えてやる。
闇に堕ちた者のが宿る機械で、お前に苦痛を与えてやるわ!」
魔王ポーチの力が、魔鋼の機械兵を呼びだした。
<八岐大蛇>は揺れている。
その周りに転がる研究所の残骸が、突然地震の様に揺れ出した。
「「ミハル・・・来るわよ?!」」
コハルが眼を開き、何かを感じ取った。
「「下世話な奴が、手を下して来たみたいね」」
コハルの眼を通してモニターを観ているミハルにも、それが現れたのを認める。
ー あれは・・・邪操機兵?!
赤黒い召喚紋章から、血の底から湧き出る機械兵。
邪操機兵は都合4体。
召喚紋章から現れ出た悪魔の機械兵は、<八岐大蛇>を守護するかのように周りを囲んだ。
「「どうする?!動けないのよねミハル」」
活動限界を迎えている<零号機>には、動かせる動力源は無い。
魔法の機械も殆ど全部停まっていたから。
「「悪魔になら。私の力で対処が出来るんだけど。
現実世界に現れ出た機械を、相手には出来ないからね・・・」」
大魔王の姫御子も、結界を張らねば闘う事だって出来なかった。
「「ここで結界を張り巡らせたら、あの中に居る魂も戻れなくなるかもしれないけど?」」
コハルが言いたい事が、ミハルには解った。
ー コハルちゃん、助けなきゃいけないんだ。
喩えアタシがどんな目に遭おうとも。絶対に救い出して見せなきゃ!
「「ミハルならそう言うと思ったわ・・・」」
大魔王の姫御子コハルの力であれば、結界に取り込んでしまえば闘えた。
圧倒する事も出来よう・・・だが、そうしなかった。
「「ちょっとばかり痛いかもしれないけど我慢してよ?!
死にはしないけど、護れ切れないかもしれないからね?」」
コハルはミハルの魂にそう呟くと、犬歯を剥き出しにして敵を睨めつけた。
こっちにもマコトしゃんが・・・(笑)
お爺ちゃんは寡黙だからねぇ。
そして<光と闇を抱く者>は、遂に言葉を交し合った。
戦いの様相は魔法戦に向かうのでしょうか?
なんだかポーチが画策していますが?
次回 だって 女の子だもん 第11話
圧倒的じゃないか!我が軍は・・・違いました。圧倒する力は誰が?!その時現れるのは・・・奴か?!