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魔鋼少女<マギメタガール>ミハル・Shining!  作者: さば・ノーブ
第1編<輝け!魔鋼の少女>
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蒼き光の子 Act6

物語の世界には女神は存在していなかった。


だが、闇の者達が蠢く時、彼女もまた、現れる・・・・



闇が精神世界である結界を開くのであれば、ソコでは光も呼び出せる。

授業終了のチャイムが鳴る。

教室から家路を急ぐ生徒が駆け出す。


いつもと変わらない光景。

普段通りの帰宅風景・・・


「コハル、朝言ってたことなんやけどな?」


後ろの席からマリアが話しかけて来た。


「うん、なに?」


コハルは機嫌よく訊き返した。

もう今朝からの憂いは無くなったから。


「ちょっと付きおうって欲しいんやけど?」


「うん、いいよ」


ランドセルを背負ったコハルが即座に頷く。

ほっとしたのか、マリアも笑いながらリュックを肩にかけて席を発った。


マリアが向かったのは学校から程ない公園。

ここはコハルが、猫と一緒に襲われた公園だった。


「ねぇマリア。ここになにがあるの?」


怖い経験が蘇り、びくついてしまうコハルに。


「うん、ちょっと・・・な」


林の向こう。

収納コンテナケースが並んだ私有地に面した一画。


そこまで来たマリアが周りを見回して。


「おーい、出ておいで」


誰かに呼びかけると。


「ニャァ・・・」


虎猫が現れ出た。


「あ・・・猫ちゃん?!」


あの日から訪れなくなった公園に住み着いていた猫。

怖い体験をしてからは、寄り道をしなくなったので忘れていたのだが。


「なんや?コハルもこの子を知ってるんか?」


近寄って来た猫に手を指しだして振り返るマリアに。


「うん、ちょっとね。マリアはこの子と?!」


仲良しなの?・・・と、聞いたのだが。


「そ やねん。

 こいつも独りぼっちみたいやったし・・・今日までのウチと同じように寂しそうやったから」


虎猫を抱き上げたマリアが苦笑いを浮かべ、


「今はコハルが居てくれるから・・・こいつが可哀想に思えて来るんや」


そう・・・なんだ。

コハルはマリアの孤独を想う。

マリアは自分なんかより、もっと悲しい想いをし続けて来たのだと。


「せやから、コハルにも面倒見て貰いたいんや。出来たら飼い猫にしてやって・・・」


「わぁっ!無理無理っ!アタシのお母さんってば大の猫嫌いなのよ!」


そう来るような気はしていたのか、途端にコハルが慌てだす。


「アタシもこの子が気になってて。家で飼っても良いかって・・・訊いたら。

 コハルが家を出るのなら替りに飼っても善いって怒られて・・・ごめんなさい」


「そっか・・・まぁ、そうやろなぁ」


謝ったコハルに気にするなと笑ったマリアだったが。


猫を降ろすと、急に周りの気配を伺いだす。

それにつれて、地に降ろされた猫も耳をピンと張る。


「嫌な・・・気配。

 なんでや・・・こんな日中やというのに?」


まだ夕方にも時間がある。

夕日に傾くにも太陽は程高い。


「コハル・・・今日はもう帰ろう」


気配を探りながら、後退るマリア。


「あっ?!猫ちゃんっ!」


耳を張り、毛を逆立てた猫が走り出す。


「アホ!猫はええから、帰るんや!」


走り出した猫を追おうとしたコハルの手を掴んで、公園から出ようと促したが。


「あ・・・そ、そんな?!」


走り出していた猫がコンテナの影に隠れて見えなくなる瞬間。


「にゃっ」


一声あげた猫が影に飲み込まれたのが瞳に映った。


「な・・・なんやと?!こんな白昼に?!」


マリアがコハルを後ろに隠して。


「しもうた!いつの間にか結界が?!」


マリアが空を見上げて呻いた。


「こんな・・・の。嘘でしょ?!」


コハルは周り中の景色が一変していくのを呆然と観ていた。

赤黒いベールに包まれる空。

赤黒い陰が辺りを覆う。


その光景は、以前魔物に襲われた時よりも、数倍はっきりと現れ出ていた。


「ちっ?!なんてこった!こいつは闇の結界や!」


マリアの声に我に返る。

いや、我に返るというよりは自分の眼を疑ってしまう。


「なんなのっこれって?!」


コハルが怯えてマリアにしがみ付く。


「えらいこっちゃでコハル。帰れんようにされてもうたわ、この結界から!」


身構えるマリアがコハルを庇いつつ周りの気配を伺った。


「帰れない?!どういうこと?」


コハルの声が焦りと恐怖に彩られて、


「この前は助かったのに?どうして?」


思い出すのも怖い経験を蘇らせる。


「コハル?!この前って?」


マリアが訳を訊いた時の事だった。

赤黒い空間から足元に影が伸びて来る。

誰も居ないというのに・・・





ー 大丈夫よ、コハルちゃん・・・


誰かの声が耳に届いた。


「えっ?!誰っ?」


どこかで聴いた事のある声が話しかけて来た。


ー コハルちゃんにはまだ・・・早過ぎる・・・けど。

  まだ・・・知らなくて良いと思ってたけど・・・運命まほうなんて!


昔・・・そう。

いつかだったかは思い出せないけど、確かに聴いた覚えがあった。


「もしかして・・・リィーンお姉ちゃん?」


まだフェアリアに居た頃。

初めて王宮に入った時の日・・・月夜に聞いた人の声だと思った。


「コハルっ、しっかりしろ!今助けてやるさかい!」


はっと気が付いた。


目の前に変身したマリアが水晶銃を振りかざして立っている。


「え・・・ええっ?!」


手と足に違和感がある。

開けられた四躰しぎに絡みついているのは・・・


「ひっ?!なによこれ?」


赤黒い霧のような物が拘束しているのが判る。


「暴れんでもええ、今直ぐ解き放つから!」


狙いを定めるマリアが、構えた銃口を向けて来る。


「マリア?!一体何がどうなってるの?」


自分が気を失い、捕らえられた事が解らずに訊いてしまった。


「その子を放せ!闇の者!!」


怒りに燃えるマリアが言い放った方へ顔を向ける。


「ひっ?!」


悲鳴にも似た絶句。

見たくは無かった闇・・・それは。


「悪魔め!コハルから離れろ!」


狙いを絞ろうとすればコハルを盾にする。


「いっ、痛ぃぃっ?!」


無理やり掴まれた四躰が引っ張られて、痛みが走り抜ける。


「くそっ!卑怯者め!コハルを放しやがれ!」


マリアが見上げる闇の者は、マントに身体を覆っている。

そのマントから延びる赤黒い霧のような物・・・それがコハルを拘束し続けている。


「「ぎぎぎっ・・・ぎぎぎっ」」


マントの頂点部には、包帯のような物で包んだ間から紅い目のような物が覗いている。

どこから発しているのか解らない軋み音が威嚇するようにマリアに放たれ、


「その子は関係ないだろうが!襲うのなら私だけにしろ!」


言葉、口調が変わったマリア。

髪の色も瞳の色も。

そして服装までもが変化していた。


「お前達の相手は魔砲使いの私がする。コハルを結界から出せ!」


赤黒い空間。

そこは異次元なのか?この異常な場所は現世と隔離されているのか?


「精神世界に連れ込むなんぞ、並みの悪魔じゃないな?

 姿を現したらどうなんだ?!」


コハルを捕らえている包帯マントの相手に言い募る。

だが、悪魔と呼ばれた闇の者は嘲笑うかのように、コハルを拘束し続ける。


「痛ぁ・・・千切れちゃう・・・」


痛みで眼が眩みそうになるのを堪えて、魔砲少女マリアに頼むのは。


「マリア、アタシの事はほぅって、逃げて・・・」


痛みで眼が眩む。

親友を想う気持ちが、そう言わしめたのか。


「駄目よコハル。あなたを置いて逃げるなんて出来ない!」


マリアが答えた時・・・


ー コハルちゃん・・・呼びなさい。

  助けを・・・友達を助けてって、呼びなさい


胸に下げたネックレスが瞬く。

蒼き魔法石から声が呼ぶ。


「誰・・・か。

 誰か助けて・・・誰か親友マリアを助けて!」


呟く声がネックレスに届く。


ー 呼ぶのよコハルちゃん。自分の名を。自分の本当の名を!


教えられた声に促され、コハルは呼んだ。

呼んでしまった・・・


「お願いだから!美晴ミハルのお友達を助けて!アタシの大切な人を護って!」


叫びは悪魔にも聞こえた。

呼ばれた声の中に、探し求めた答えを見つけて・・・


「「ぎぎぎっ?!」」


悪魔は捕えている娘を睨んだ・・・だが。


叫び声と共に、コハルを放り出した。


違う・・・・


振り払われたのだ。



「ま・・・さか?!その光は?」


マリアが助け寄ろうとしたが立ち止まった。

触ってはならない光を目にして。


蠢く闇の者が、引き千切られた闇の触手を修復させようとしている。

その眼に蒼き光が映り込んで来るのに動揺しながら。


「コ、コハル?!あなたは?まさか?!」


輝く蒼き魔法石。

輝く蒼き瞳。


「・・・そっか・・・ここは精神世界。

 結界の中なんだよね・・・そこのちっちゃな魔砲少女さん?」


「だ・・・誰?誰なのっ?」


マリアが驚愕の面持ちで訊ねるのは。


「私?そうねぇ・・・この世には存在してはいけない・・・女神かな?」


姿形はコハルだったが、声色は全くの別人。


「女神?!そんなことが?」


マリアがコハルだった者に後退って訊き直す。


「だってしょうがないじゃないの。呼び出されちゃったんだもん。

 この子が異能ちからを求めちゃったから、結界の中で・・・」


マリアに振り向いた顔はコハル・・・じゃなく。


「姪っ子・・・なんだよね?この子が・・・流石にちっちゃ過ぎるけど。

 なかなかの魔砲力を持ち合わせているみたいね?」


蒼き瞳を手に向けて、コハルとは違う少女が笑う。


「ホントーに?女神様なのですか?」


「そうだった・・・と、でも言っておくわ。ミリアの娘、マリアちゃん」


ドキリとする。

まだコハルにも言っていなかった事実を言い除けられて。


「あなたは・・・ホントーに女神様なんですか?お名前は?」


たじろぐマリアが聞いた時。


「私の名?そうね・・・取り敢えず。あいの女神だと告げておくわ」


微笑んだ女神がコハルの身体を見回すと。


「ちょっとばかり離れてくれないかな?

 闇の悪魔を元の世界へ送り返すから・・・ね?」


コハルの髪に着けられてある紅いリボンを左サイドに括り直し。

マリアが下がったのを確認すると。


「はい、大人しく滅ぼされるか、帰らないとね?そこの闇よ!」


マリアに対しては有利に事を運んでいた闇の者が抗う様に触手を伸ばして来る。


「だぁかぁらぁ!女神に対しては無駄なんだってば!」


((ひゅんっ))


切り裂かれた音しか聴こえなかった。

いや、切り裂いた音だと思っただけで、実際は・・・


「だから、言ったでしょ?帰るのなら今の内よ?」


マリアの眼が見たのは、あまりの強力さ。

無碍にも思える程の魔砲力・・・いや、女神の破壊力。


しかし、闇の者は抗った。無駄と知ってか、知らずにか。


「しょうがない子ねぇ・・・おいたが過ぎすぎるわよ?」


少女コハルの姿でしょうがない子扱いされる悪魔も、理不尽だとは思うが。


「そこの君、今から見るのはこの子には内緒だからね?」


一言、マリアに向けて忠告したコハルに宿る女神が。


「本当は・・・もっと先に延ばしたかったんだけど。

 逢いたい人にも見せたいけど・・・今は我慢・・・か」


独り言を呟いた女神が力を示す。


「チェンジ!私の力を授けるわ!」


コハルだった少女の姿が、一瞬金色の光に包まれる。

眩いひかり・・・

何もかもを包み込むような・・・魔鋼の光・・・


挿絵(By みてみん)


闇の者は、現れた者の顔貌も観ずに掻き消された。





金色の光が消える・・・


光が消えた跡には、もう闇の者の姿も残っては居なかった。


「はい、お終い。

 もう結界も消えるから・・・帰らなきゃ・・・」


挿絵(By みてみん)


少しだけ寂しそうに女神が溢した。

マリアは眼を見開いて見詰めている。


「君、ミリアの娘でしょ?お母さんにも内緒・・・にしてね?

 それから・・・私が現れたのは忘れなさい。

 こんな危険な事に首を突っ込まないでマリアちゃんも。

 女神だっていつまでも護ってはくれないからね、善いかしら?」


コハルだった・・・つい今しがたまで。

それが・・・蒼き髪を靡かせて微笑んでいた。


女神・・・そう理の女神が。


「もう結界が消えるわ。

 私も帰らなきゃ・・・その前に。もう一言だけ」


固まったように口もきけなくなっているマリアに、近寄る女神がこう言った。


「もし、世界に闇が広まるのなら。

 私は皆の元へ帰る・・・帰らねばならない。

 悪魔が世界に現れるというのなら、女神も帰るから。

 この子の石に今、宿る事になった女神ミハルが・・・」


自分を指した女神。

その右手には蒼き魔法石が輝いている。

観た事も無い輝きを放つ、8つの石を光らせる魔砲の石が。


頷いた自分に気付いた時、マリアの前にはコハルが眠っていた。


赤黒い結界などどこにも無く、夕日が迫る公園の中に立っていた。


「痛たたっ、夢じゃない・・・夢なんかじゃなかった!」


頬を思いっきり抓ってみた。

間違いなく本当にあったのだと思える。


コハルを見詰め直して確信した。


「だって・・・女神ミハルが居た事に間違いないから」


眠るコハルの胸元から蒼き光が漏れ出しているから。

ネックレスに設えられた蒼き魔法石が、微かな光を零れさせていたから・・・


「本当に・・・本当だったんやな。オカンが言っていた事は・・・」


関西訛りに戻っていた。

魔法衣は制服に戻り、髪は赤茶色に戻っていた。


「女神は本当に世界を護ってくれているんやな・・・」


眠るコハルを抱きかかえたマリアが空を見上げて笑った・・・

現れた女神。

自らの拠り所として選んだのは、姪っ子の魔法石。

リィーンが贈った魔法石の中だった・・・


帰って来たようですね、女神ミハルが。

2人の魔女っ子を護る為に・・・


次回 蒼き光の子 Act7

君は心配する人が居ることに気がつく。それは自分にとって掛買いの無い人なのかもしれない。


ミハル「呼び出された女神ミハルは心に秘めた希望ねがいがあるの、女神だというのに・・・」

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