だって 女の子だもん 第9話
衝撃砲が放たれた。
その一撃はミハルを、ローラの母法子を救い出せるのか?
航宙揚陸艦<大鳳>の艦上に特出した砲台。
口径20センチ。
昔で言う巡洋艦クラスの砲だが、怖ろしく長大な砲身を備えた砲台。
70砲身長は有ろうか。
単砲身砲台は、目標を目視で捉えていた。
砲座に座る砲手、それは嘗ての大戦でも勇名を讃えられた勇者の一人。
魔鋼の力に因り、数々の武勲を挙げた砲手。
「ローラ君!君の指す目標に当ててみせるからね!」
一言呟き、最大望遠の測距儀に捉えた一点を見据える。
衝撃砲の波動は、屈折なんてしない。
目標に向って、真一文字に飛ぶ。
トリガーに掛っていた指に力を加える。
照準点には、確実に<八岐大蛇>を捉えている。
しかもローラの指した胴体中央・・・ほぼど真ん中を。
「衝撃砲っ、撃っ!」
吠えるマモル。
引き絞ったトリガー・・・
キュワアアアァンッ!
カートリッジ内の水晶が共鳴反応を爆発的に起し・・・・
ギュワアアアアアッ!
砲身内で超音波が錐の様に収束し・・・・
ドッグッワアアァッ!
砲弾の様に音波の弾と化して吐き出された!
音速の衝撃波。
いいや、音の弾とでも言った方が良いだろう。
強烈な破壊波動が弾状になって目標に飛んだ。
役目は終えたと思った。
後は<大鳳>に任せようと思っていた。
だから最後まで戦った・・・そう言い切れた。
ドクン
心臓が鳴る。
心臓の音が直接脳裏に木魂した。
― なに?この魂の共鳴は?
活動を停止した筈の<零号機>が、まだ動いている。
確かに完全に活動を停めた・・・だから衝撃で気を喪った。
ー なのに・・・なぜ?まだ動けるの?
動ける理由が分からない。
気絶した自分が、どうして操縦出来ているのかも分からない。
そもそも、今動かしているのが自分の躰とも思えなかった。
まるで自分じゃない意志で、動かそうとしているようにも感じた。
ー 誰?!誰がどうして?
視界に飛び込んで来るのは、立ち塞がる<邪龍騎>の姿。
9本の首を断ち切られ、胴体に亀裂が奔っている中破した機械兵の容姿。
「「さぁ、マモル君!ミハルが切り開いたわ。撃ち込んで!」」
意図しない声が脳に響く。
ー だっ?誰なの?アタシじゃないよ、アタシは喋っちゃいないもん!
混乱が巻き起こる。
自分の声だけど自分じゃない。
混乱したミハルは、声の主に思い当たった。
ー そ、そうか!ミハル伯母ちゃんだね?宿って戦闘を継続させているんだね?
宝珠に宿っている女神が、勝手に操っているんだと思い込んだ。
ー そうかぁ~っ、伯母ちゃんがアタシを護ってくれたんだ。
今迄ナリを潜めていたから、どうしちゃったのかなって思っていたけど・・・
女神の力で機械を再起動したのかと、感心していたミハルだが。
ー って・・・あれ?
ちょっとおかしいな?女神伯母ちゃんだとしたら。
マモル君をそう呼ばないし、アタシの事を自分の名では呼ばなかったよね?
不可解な事があるのに気が付く。
偶々そう呼んだのなら、或いはと思ったのだが。
「「人の世界で造られた機械は、人が倒さなければいけないんだよ。
倒してくれさえすれば、後は私が邪気を祓ってみせるからね!
大好きな真盛君に依って倒して貰えれば、私も嬉しいから」
モニターにはどうやってなのかは分からないが、砲座に居るマモルが映し出されている。
ー ちょっと、ちょっと?!どう言う事?
マモル君が大好き・・・なのは、それはお父さんだからで。
それに人が造った物は人が倒さなきゃって・・・アタシも人なんですけど?
何が何やら。混乱で頭がおかしくなったのだろうかと、ミハルは頭を抱えた。
ー はっ?!えっ?どうして?
アタシ・・・頭の中で頭を抱えられちゃってる?!
そこで漸く自分の措かれた状態が理解出来た。
ー にゃぁっんっとぉっ?!
アタシってば、完全に乗っ取られてるのねぇ?
しかもっ、ミハル伯母ちゃん以外のもう一人に?
「「あら・・・今頃気が付いて?ミハル」」
ー ひいいぃっ?!誰、誰なのよ?
魂だけになっているミハルが、身体を支配する声に訊く。
「「2年前は、言葉を交わすことなく別れたからね。
初めまして、私。私はコハル・・・
貴女と対になるもう一人の<輝と闇を抱く者>よ?!」」
声は直接脳裏へと届いた。
ー にゃっ?にゃんですって?もう一人のアタシ?
「「そう。貴女と私は二人で一人。
アナタは光の子、私は闇に潜む娘。
二人で一つ・・・<光と闇>。
私は光の世界には住めないから、気が付かなかったでしょうね?」」
ミハルの脳裏に語り掛ける声。
自分じゃない声は、もう一人の自分を指す。
ー ちょっと・・・コハルって。
あなたは今コハルを名乗ったじゃない?徒名じゃないの?
「「私の名はコハル。
アナタは自分の幼少期に呼ばれていた徒名と思っているようだけど。
この名はね、あなた以外の家族ならみんな知ってるのよ。
私は貴女の伯母である女神よりも、ずっと前から存在していた。
貴女が気が付かなかっただけの事」」
ー はぁ?!
それって・・・ルマままやマモル君も知っているって事?
状況が飲み込めないミハルが、声に訊ね返す。
「「勿論。二人だけじゃないわ。
ミユキお祖母ちゃんだって、マコトお爺ちゃんも。
それに・・・フェアリアの王女ルナリィーンもよ」」
ー ・・・・ほぇぇっ?!
どう言って応えたればいいのか。
自分独りが知らなかったなんて・・・誰も教えてくれなかったなんて。
ー 人間不信になりそう・・・
教えた声が少し笑った気がした。
「「貴女は大事に育てて貰っているから。
私みたいに独りボッチじゃないから・・・羨ましいわ」」
ー それって?どうして独りぼっちなの?
訊ねるミハルへ、声の主コハルが教える。
「「言ったでしょ?私は闇に属する者だって。
闇に目覚めちゃったから、もう人の世界には出てはいけないの。
貴女に宿るのは邪悪な者と闘う時だけ・・・しかも。
それは貴女が<目覚めるまで>の間だけなんだよ?」」
ー アタシが?!何に目覚めるというの?
問われたコハルが言い澱んだ。
自分が闇に属していると言ってしまったから。目覚めたと言ってしまったから。
「「それは貴女の手で気付いて。
私から聞いたとしても、覚醒状態にはなれないわ」」
ー そ・・・そうなんだ。
返された声に、ミハルが落ち込んでしまう。
自分が一体何に目覚めれば良いのか、闇の娘コハルからは得られなかったから。
「「今はね・・・でも。
でもいつの日にかは目覚めが来る。
その時には、きっと貴女は私を必要とするでしょう。
私の力を。私と言うもう一人の自分を・・・求める事になる」」
先程まで笑い掛けていた声が、一瞬厳しくなった。
コハルの話す意味が理解出来ず、ミハルは言葉を頭の片隅に追いやると。
ー ねぇ、初めにマモル君にどうとか言ってたけど。
今、何が起きているの?マモル君は何をしようとしているの?
声が聞こえた始まりに、話を振った。
「「今、私達にはどうする事も出来ない状況なの。
でもね、真盛君が打開してくれるの。
貴女が切り開いたから・・・
ミハルの仲間達が、闇の機械を倒してくれるわ」」
コハルがモニターに映る<八岐大蛇>を指す。
胴体に亀裂が奔り、そこから漏れ出ている赤黒い光を。
「「ほら・・・来るわよ?」」
マモルの映っていたモニターが切り替わり、轟音と共に何かが飛び来るのが観えた。
それは切り開かれた胴体の一点に突き当たった。
僅かに数センチも開いていただろうか、亀裂の中へと飛び込んだのだ。
衝撃波の弾丸は、赤黒い光を放っている水晶に吸い込まれる。
「命中っ!やったわ!」
天井モニターにも、正面スクリーンでも。
衝撃砲の弾が亀裂内部に吸い込まれたのが確認できた。
艦長席から立ち上がったルマの声に、ローラも眼を見開く。
「凄いや!あんな小さな的に、たったの一発で命中させるなんて!」
赤黒い光が、衝撃砲弾に因って打ち消されていく。
「艦長代理!邪龍騎の動きが停まったようです!」
猫田2尉が、観測状況から判断を下す。
「ええ、これでミハル達を収容できそうね」
ルマもローラも。
マモルの一撃で片が済んだと思ってしまう。
「いや・・・駄目だ。
奴の力は切れた訳じゃない・・・」
衝撃砲の砲座で、照準器を睨んでいるマモルが呟く。
再装填された衝撃砲を、もう一度射撃するか悩みながら。
照準器に映る<八岐大蛇>の赤黒い水晶は、確かに光を消した。
それは闇に支配されていた魂が、力を消したことを意味したが。
「水晶に宿らされた人の魂は、未だに捕らえられたままなんだ。
あの中にはまだローラ君の母が宿らされたままだ」
照準器に大写しになった亀裂から漏れる内部。
そこには停止した筈の機械が、再び動き始めている様子が見て取れた。
「奴は死んだ訳でも、停まった訳でもない。
一撃を受けた部分の修復にかかっているのが何よりの証拠だ!」
艦橋への通信ボタンを押すマモル。
警告を発し、事態の悪化を連絡させねばならなかった。
「これはもう・・・父さんに頼むより他はないだろうな」
モニターに映る最悪の状況を、司令であるマモルは歯ぎしりして見詰めていた。
「艦橋CIC!直ちにIMS司令として報告せよ!
IMS開発局責任者に、至急状況を報告するんだ!」
艦橋に叫んだマモル。
事態が悪化を辿る中、マコトに何を頼むというのか?
停止した筈の<八岐大蛇>が、再び動ける理由とは?
そして闇の姫御子コハルに宿られたミハルの運命は?
奴はまだ倒れない!
八岐大蛇に囚われた魂は抜け出せない!
そして彼女が現れた・・・コハルがやって来たようです!
どうなるミハル?!
それにしても女神はどこだ?!
次回 だって 女の子だもん 第10話
まだ・・・決着はつかず。奥の手を使うマモル。親爺に助けを求めたようです・・・