だって 女の子だもん 第7話
魔鋼少女ミハルの必殺技が炸裂する!
その時・・・何が起きるのか?!
リアバーニアが炎を吹き出し、白い<翔騎>が飛び上がる。
壊れ去った研究所の屋根よりも高く。
感知できるのは強力な魔鋼力と敵意・・・そして。
「「私を救い出そうと願う想い・・・」」
壊れそうになっていた魂にも届いた。
ローラの母<栗林 法子>の魂に。
「「救うというのなら、ここから消し去って。
あなた達の魔鋼で、<八岐大蛇>を破壊して」」
装置に干渉できるのは、ほんの一瞬。
心が闇に縛られている法子に出来るのは僅かに一瞬だけの間。
「「さぁ・・・放ちなさい。
あなたの撃てる全ての力を叩きつけて!」」
両手を拡げる様に、九つの首を大きく開かせた。
「ブラスターッ!シュゥートォッ!」
振りかぶっていた魔鋼剣を邪龍目掛けて振り下ろす。
剣先に現れ出ていた蒼き剣波が、流星の如く墜ちていった。
破壊波は邪龍に叩きつけられる。
蒼き光に包まれる<八岐大蛇>・・・
ガッガアァンッ!
猛烈な破壊が叩きつけられ、顎を開いていた9本の首が輝に圧し潰される。
「やったか?!やったんやろ?」
光で状況が分からないが、光に包まれた邪龍からは反撃が返っては来ない。
サポートするまでもなく、邪龍はミハルに因って倒されたと思った。
光が薄れていく間も、マリアは撃破したものと信じていた。
バシュッンッ!
光の礫が上空に跳んだ。
魔鋼剣を振り抜いていたミハルの<零号機>に。
「ミッミハルッ?!」
撃破出来たものと思い込んだのは油断だった。
邪龍の能力を過小評価していたのは自分達の慢心だった。
バガッ!
<零号機>に火花が散る。
ダメージを受けてしまったのは明らか。
空中に浮かんでいた<翔騎>が、火花と煙に包まれた。
「きゃぁっ?!」
自分が放ったエクセリオ・ブレイカーの光に包まれた邪龍からの反撃が、右脇に命中してしまった。
油断していたのではないが、目視出来ていなかった不意打ちに捕まった。
ビィーッ!ビィーッ!
警報音がコックピットに流れる。
「う・・・やったわね?!」
モニターに警報が表示される。
右側面に受けた砲弾に因り、気密状態が失われた。
操縦にも支障をきたし、バランスが喪失された。
「全力のエクセリオ・ブレイカーだったのに・・・」
反撃を受けたのであれば、邪龍にはまだ戦闘力が残されたという事実に。
「残り時間も後20秒もない・・・のに」
邪龍には修復能力がある。
トドメを加える時間があるのならまだしも。
「残り時間内で倒し切れるのかな?」
バランスを失い地上に舞い戻った<零号機>の中で、ミハルが臍を噛んだ。
「考えてたって始まらない!白兵戦に移行するからっ!」
魔鋼剣を構え直し、損傷した<零号機>を誤魔化しながら。
「マリアちゃんっ!撃てるだけ撃ち込んで!」
魔鋼剣を居合に構えて、白い<翔騎>を駆った。
「馬鹿っ!もう時間が無いぞ?!」
僅か十秒足らずで<八岐大蛇>に挑むのは、無理だと言おうとしたマリアだったが。
突きかかったミハルを停めることは出来ない。
「こうなりゃぁ自棄や!いくでミハル!」
見捨てるなんて出来る筈もなく、マリアも砲撃を開始する。
エクセリオ・ブレイカーにより8本の首は壊滅的ダメージを受けたようだが、
残った1本の首が歯向かいつつ修復の時間を稼ごうともがいていた。
ミハル達に残された秒数は10秒を切っていた。
「やっぱり・・・首を堕とすだけじゃあ駄目だったんだ」
剣を振り抜き、残された首に打ち込む。
魔鋼剣が邪龍の首に喰い込み、損傷を与えた。
75ミリ砲弾がミハルを狙う顎に撃ち込まれる。
砲弾の誘爆を招いたマリアの一撃に、最後の首も破壊された。
だが・・・
「あかん・・・もう活動限界や」
モニターに表示された警報と、まだ蠢く<八岐大蛇>を、虚ろになった瞳でマリアは見詰めた。
動きを停めた2機の<翔騎>。
対して攻撃手段を喪ったものの、まだ胴体部や脚部が動ける<八岐大蛇>。
しかも破壊された9本の頭部を修復し、再攻撃を掛けようと目論んでいる。
たった一度の攻撃に全力を放ったミハルに残された魔鋼力も後僅か。
救出を断念し<翔騎>から脱出するには今を措いては無いのだが。
左側面を損傷した<零号機>のコックピットで。
「動け!動け!動け!動いてよぉっ!」
手動操縦用のハンドルを、叩き込んで叫ぶミハル。
「今動かなきゃ!今闘わなきゃ!
助けられないじゃないっ!マリアちゃんもローラ君のお母さんだって!
みんなを助けられないじゃないっ!」
緊急用の照明が薄明かりを燈している。
「伯母ちゃん!女神の伯母ちゃん!
居るなら手を貸してよ!今<零号機>が停まっちゃったら!
最後までやり切らなくっちゃぁっ、諦めきれないよ!」
ガクンガクンと揺さぶるハンドルは、電源が切れて反応が返って来ない。
「諦めるなんて嫌だよ!
諦めるなんて出来っこないよ!
・・・だからっ・・・動いてよぉっ!」
必死の願い。
機械には、人の願いなんて届こう筈も無いのに。
「お願いっ!力を貸して!アタシに諦めさせないで!」
輝と闇を抱く者・・・魔鋼の少女。
未来に希望を抱く少女・・・女神に託されし者。
新たなる輝となる娘、その声は天に届くのか?
電源が切れた筈の魔鋼機械に灯が残されていた。
ドクン
まるで何者かが魔鋼機械に宿ったように。
ドクン・・・・ドクン
蒼き魔鋼の光が、水晶体に魂を宿したように。
「「まだ・・・闘えるわ」」
<零号機>の魔鋼機械が呟いた。
「「あなたには、まだ戦う力が残っているもの」」
蒼き光の中、魂の揺らめきが灯された。
「「気が付くのよ・・・あなたに与えられた最後の光に」」
魔鋼機械は一つのスイッチに光を燈させた。
ポゥ
赤いランプにミハルが気付く。
右目の端に捉えた光。
「・・・あ?!」
それは通常なら燈る筈もないボタン。
カバーが被された非常用のボタンに、ミハルの記憶が呼び覚まされる。
何度かの改修後にも残されたボタン。
通常時なら触る事のないようにカバーが被されて、点灯しない紅いボタンが燈っていた。
記憶を辿って思い出した。
そのボタンに込められた意味を。
「よし・・・なんとか一瞬なら動かせるな」
記憶にあったのは祖父マコトの厳しい顔。
魔鋼機械の研究者で、<翔騎>の開発者。
その祖父が初期型から着けていた非常用の再起動装置。
これを使う事にならないようにと、口酸っぱく言われていたのを思い出した。
初期型から改良を施されてきた<零号機>には、新設された<一号機>には備わっていないモノがあった。
「お爺ちゃん達は、こんな時の事を考えていたのかな?
古いパーツだけど、残しておいてくれたのかな」
それは予備電源と云うにはあまりに力不足。
活動限界を迎えた後、その場から離れる為に動けるだけの動力源。
モニターには表示されていない初期型専用の瞬発動力源。
「これを使い果たした時には、一ミリだって動く事が出来なくなる。
予備電源も使い切る事になる・・・
脱出ハッチでさえも手動で開かなきゃならなくなる」
予備電源も含めてすべての電力を放出する、謂わば最後に残された手段。
「アタシに出来る事は全てやり切らなきゃ。
この<零号機>だって、それを望んでくれているんだから」
初搭乗してからずっと一緒に闘って来た愛機。
なんどかの修理と改修を経て、自分の分身となるまで使いこなせるようになった。
指先に触れる再起動ボタン。
モニターは予備電源で燈っているが、瞬発動力を稼働させれば一瞬の後には消えてしまうだろう。
全ての電力を喪失して・・・
「でも、やり切らなきゃいけないんだよ<零号機>。
これが魔鋼少女としての務めなんだから・・・アタシに授けられた力なんだから」
指が再起動ボタンを押し込んでいく。
モニターに映っているマリアが呼びかけているが、音声は途切れ途切れにしか流れ出さない。
「ミ・・・や・・・やめるんや・・・脱出・・・はやく・・・」
モニターの中で叫んでいるマリアも。
ガチッ!
再起動ボタンを押し込むと。
ブツッ!
正面モニター以外の画像が途絶えた。
<<脚部稼働、上腕部稼働・・・残り稼働8秒!>>
モニターには表示されず、音声だけが流れた。
正面モニターに映る<八岐大蛇>は、9本の首を全て垂れ下げて修復を急いでいる。
もう何も考えることは無かった。
その8秒で決着をつけねば、今度こそ助けることも出来ず。
「アタシの命だって・・・絶たれちゃうんだから!」
背に装備されたバーニアは使えない。
動かせるのは足下の無限軌道だけ。
最後に賭けるミハルが、魔鋼剣を腰溜めに構えさせる。
「ピンポイントを突き破ってみせるんだから!」
吠えるミハルが狙うのは?!
突っ込む瞬間、
「後は・・・任せたよ?!」
後ろに目を向け、頼んだ。
一体誰に?何を任せるというのか?!
ミハルの<零号機>に何かが宿る?!
魂が宿ったとでも言うのか?
搭乗員はミハルだけだが?
もしや・・・彼女なのか?!
そして戦いは非情な展開へ?!
次回 だって 女の子だもん 第8話
君は最期の瞬間まで闘った・・・力尽きても。