だって 女の子だもん 第5話
戦闘は突然に・・・
白い<翔騎>が切裂く!
そう・・・白い奴がだ!
狂った開発者に因って命令された。
己が欲望を闇に増幅された開発者は、魔鋼の力で命を吹きこんだのだ。
・・・人が手に染めてはならない魂の転移。
機械に人の魂を封じ込める、闇の技術によって・・・
蒼かった水晶体が、闇の力で黒く染まる。
魔鋼機械の中枢に置かれた水晶に、魔法使いの魂が宿らされた。
暗黒魔鋼機械となった実験機は、命令通りに目的を果たさんと動く。
宿らされた魂には、拒絶することは出来なかった。
抗おうにも、魂は既に闇に穢されてしまっていた・・・
「「私に与えられたのは、全ての破壊・・・阻む者全ての排除」」
道魔により実験に供せられた魔法使いの魂は、入力された命令に忠実だった。
「「私の執るべきは、歯向かう者全ての撃滅・・・殲滅!」」
ローラの母は、既に闇の者と化していた。
堕ちた魂は悪魔の意志を忠実に実行する。
飛び上がった白い<翔騎>に向けて、鎌首をあげる一個の顎。
9本ある首の内、ミハルの<零号機>に向けて顎を開いた一本から、火炎が放たれようとしていた。
「魔鋼剣!斬り放て!」
コックピットで居合を抜く様に右手を振り払う。
<零号機>に装備されていた<斬鉄剣>が一閃する。
ゴオッ!
炎が放たれ、<零号機>を包み込むかに見えたが。
ミハルの居合は炎をものともしなかった。
剣先は炎を放った首を斬る。
音もなく斬り付けられた首が寸断され、まだ炎を吐いた状態のままで落首する。
「先ずは1本!」
ミハルが残りの8本に対して攻撃を掛ける為に、一時的に後退る。
戦闘のイニシアチブを確保したかに思えたのだが。
「ミハルっ!退がるんや!」
首を切断された<邪龍騎>が、一斉に<零号機>目掛けて首を向けて来た。
肩のカノン砲を、鎌首を擡げた一本目掛けて照準を絞りながらマリアが叫ぶ。
75ミリ砲に装填されてあるのは榴弾だった。
機械兵の装甲を破る事は出来ないかもしれないが、顎部分に充てれば炎を吐く事は出来なくなる。
「撃っ!」
狙った顎に炎が見えた瞬間、マリアの指がトリガーを引いた。
ドムッ!
ほぼゼロ距離で放たれた砲弾が、顎の中に吸い込まれ・・・
バッガンッ!
榴弾は、炎諸共に顎を吹き飛ばすのに成功した。
「よしっ!」
撃破出来たマリアは気合を入れ直し、次の目標を選別する。
二本目の首を破壊出来た<翔騎>隊だったが、本体にはダメージは与えられてはいなかった。
そう・・・全く何も。
二人の攻撃により確かに2つの首は破壊された。
だが、本体である胴体には掠り傷一つ着けた訳じゃない。
<邪龍騎>とも呼べる巨大な機兵は、今迄の邪操機兵とは別格だった。
次なる攻撃に備えていた二人の前で、有り得ない事象が発生する。
「えっ?!そんなことって?」
「なんやて?!馬鹿な!」
二人が同時に叫ぶ。
目の前で起こりつつある事に驚愕して。
斬り落とされた首が墜ちた頭部に近寄ると、あろうことか切断部から延びた触手のような物で繋がれていく。
75ミリ砲弾の炸裂により破壊された顎も、修復が始る。
二人の前で、9本の首が鎌首を擡げ直した。
「司令?!一体これは?」
猫田2尉も、信じられない光景に目を疑う。
「ふむ・・・修復したのか。これじゃあ、いくら首を斬っても埒が明かないな」
腕を組んでいるマモルが、冷静に答えると。
「マモル・・・どうやら本当に闇に染められたみたいね」
ローラに聞こえないように、ルマが告げる。
「うん、でも。まだそうと決まった訳じゃないよルマ」
マモルが変に自信ありげに答えるので、言い出したルマの方が怪訝な顔になる。
「闇に染まっているとしても、助け出せない訳じゃないよルマ」
マモルの表情には、どことなく余裕さえも感じ取れる。
「どうして?そう言い切れるの?」
夫でありIMSの司令のマモルに、妻ルマが気付いた。
懐かしむ様に天井のモニターを観ている夫の姿を観て。
「昔・・・そうずっと前の事だ。
ルマはフェアリアに居たから知らないだろうけど、闇の力を持つ人が居てね。
その人は光も授かっていたんだよ、両方の力を以って助け出す事を諦めなかったんだ」
ふっと、マモルが笑った気がした。
こんな危機というのに。
娘が強敵と対峙しているというのに?
司令官として艦長席に座っていなければ、きっとマモルは自ら向かっていただろう。
「あの日。あの時と同じなんだ。
オスマンで母さん父さんを助け出した・・・
闇の力を持ち、聖なる輝を抱く人が、きっと勝利する・・・」
ー 女神となったミハル姉が?闇の力はない筈じゃあ?
喉迄出かかった名を飲み込んだルマ。
マモルが言わんとしている答えが別にあると感じたから。
「そうね・・・ミハルはあの人に託されたのだから。
私とあなたに授けられた、新たな希望・・・あの子には両方ある筈だから」
気付いた答えは、白い<翔騎>の中に居る。
「そうさルマ。僕達の娘達には、未来が託されているんだから」
答えたマモルは、もう一人の魔鋼少女を観る。
傍らに立って、戦況を凝視するローラを。
「ミハル!これじゃぁ胴体部分を叩くほかに無さそうやで?」
繋ぎ直された頭部は、もう完全に元通りに修復されていた。
「でもマリアちゃん?!そんなことをしたら、ローラ君のお母さんが!」
破壊すると中に閉じ込められている筈の、母にもダメージを与える事になる。
手を下しかねるミハルには、それが重く伸し掛かっていた。
「そやけど!そうしなきゃーどうにもならへんのや。
修復不能に追い込むには、どうしても本体にダメージを与えんとアカンやろ?」
魔鋼騎状態の邪龍騎に、魔法を使わせなくするには。
「マリアちゃん!残り時間内でどうにかするにはそれしかないの?」
告げられた方法以外に、なんとか邪龍騎から助け出せないかと知恵を求める。
自分の想いは、果たせないのかと。
「あるにはあるけど・・・危険過ぎるからな」
何か思いついているのか、マリアは言い澱む。
「教えて!危険だって構わないから、マリアちゃんっ?!」
時間制限下、一秒だって惜しい。
せっつくミハルに、マリアは・・・
「よっく聞くんやミハル。
奴の心臓部を一撃で捉える・・・それしかないんや」
「そっ、そんなことをしたら。お母さんが・・・」
心臓部・・・つまり。
「ええかミハル?
ウチ等に残された時間で、こいつを倒さなきゃいけないんやで。
倒さなきゃぁ、ローラのお母さんはどのみち救い出せんのや。
最期まで信じてくれているローラに・・・
どこを叩けば良いんかを知らせて貰うしかないんや!」
マリアの言うのは、ローラの母がどこに居るかを見切って貰う。
そしてピンポイントで攻撃をかける・・・その結果はローラ次第だというのだ。
「そんな・・・ローラ君にお母さんが攻撃出来る訳がないじゃない?」
いくら闇に染まったかもしれないとは云っても、母親を自らの手で攻撃させるなんて。
もしかしたら魂をも消し去る事になりかねないというのに。
「時間が無いんや!
聞こえてるんやろローラ?ウチはローラに託すで!」
本体のどこに攻撃すれば良いのかの判断を、<大鳳>にいるローラに任せた。
「残り時間で停めなきゃ、奴はどのみちお母さんを穢してしまう。
罪もない人を傷付けちまう事になるんやで?!」
<翔騎>隊が引き上げれば、歯止めを失った邪龍騎が、街へ飛び出してしまう。
そうなれば、どれ程の災禍が振り撒かれるか。
マリアの求めに、モニターを見詰めていたローラが手を握り締めた。
「そんなの・・・決まってるじゃないか」
蒼いユニホームのローラが溢す。
「ボクに出来るのは・・・二人に勝って貰らわなきゃ・・・
・・・二人の友達を信じるだけなんだから!」
モニターを見上げるローラの瞳が蒼く染まる。
邪龍騎を睨んだ瞳は、翳を見つけた。
そこに何があるのか。それは何を表すのか。
翳は魔法の力を見せ、形は人を標す。
「二人共よく聞いて!
母さんを救うには・・・僕の教える目標を撃ち抜いて!」
ローラはマリアの求めに答えた!
突込み処満載な戦闘ですが。
翔騎戦は始まりました。
チートな戦闘力を誇った<零号機>ですが。
一つだけ弱点があったのです。
活動限界・・・制限時間が!
次回 だって 女の子だもん 第6話
君たちだけじゃない!戦闘を見詰める仲間達にも準備が急がれた!