だって 女の子だもん 第4話
鋼の躰・・・鋼の機械。
鋼鉄の機械兵と云うには、あまりにも巨体だった。
それに増して、いかにも邪な形態を模っている。
直径が15メートルは優に超えた胴回り。
巨体を支える二本の足と、バランスを取っている尾。
獲物を掴み取る腕廻りと鍵爪。
そのどれを観ても、まるで怪獣映画の魔龍にも観えてしまう。
「まさか・・・本当に人が造ってしまうなんて」
見上げるマリアが、モニターに映されたデータを確認する。
「2年前に現れたモノより、性能が高い?!更に巨大化されてる?」
確かに2年前、同じような化けモノ邪操機兵と闘った。
その時は、最期の瞬間まで観ていられた訳じゃない。
悪魔のような機兵により、戦闘が長引き・・・その結果。
「あれは・・・ミハルの魔鋼で倒せた筈なんや。
光と闇を抱く者として、ミハルがたった一人で倒してくれた・・・筈なんや」
まだ本格的にIMSが始動する前の事。
まだ魔鋼の<翔騎>が実験機として位置づけられていた時代。
「<九龍の珠>を機兵からもぎ取ったから。
魔鋼の力を失った機兵は、確かに潰え去った筈なのに・・・」
だが、マリアの前に姿を現したのは。
「復活したとでも言うんか?また蘇りやがったっちゅぅんか?」
モニターに映される胴体上部には、9本の首がのたうっていた。
龍の頭の様に顎を開く、邪なる機械。
「九個の頭を持つ・・・邪龍。
九つのアギトを持つ、八岐大蛇・・・」
伝説の邪龍を模った機械の龍が、完全なる姿を現した。
「司令?!あれはっ?」
天井のモニターに映し出された邪悪な機械兵を観て、猫田2尉が叫んだ。
「僕も現物を見るのは初めてだが、どうやら過去にも同じ機械が現れたようだな」
2機の<翔騎>から送られてくる情報と会話を聞いて、マモルも唸るしかなかった。
「あの巨体なら、相当に手強いと思います!
2機だけで倒せるかの判断は出来かねますが?!」
つまり猫田2尉が言わんとしているのは、
「本艦の衝撃砲を以ってしても、完全に破壊出来るかも分かりません!」
2機だけの攻撃では、とても破壊出来かねるという意味だ。
「いや、破壊するのは救出を終えた後だ。
あれにローラ君の母が取り込まれているならば、破壊など容易くは命じられないからな」
攻撃しても、完全なる破壊を命じられない。
それよりも問題なのは、あの中に閉じ込められているかどうかを調べねばならなかった。
「ローラ君、どうかな?ここからでは掴めないかな?」
艦長席の傍に立つローラに訊ねる。
「はい・・・感じられるのは異常な力のみです。
お母さんの意識とか力だとはとても思えないんです・・・」
モニターに映る巨大な機械兵から感じ取れたのは、
「でも、誰かの力があの機械から放たれているのは感じられます」
9本の首を振りまわしている機械兵。
その巨体から魔鋼の力が放たれていると、ローラは答えた。
「そうか・・・だとすれば、間違いなく人の力が閉じ込められているのは間違いないな」
腕を組んだマモルが考え込む。
「嘗てのフェアリアで観た事のある巨大戦車にも、邪なる魂が宿っていたからな」
ローラの横でモニターを見上げていたルマも。
「もし、闇の力を魔鋼機械に使ったのなら。
人類が犯してはならない技術を、目覚めさせてしまったのよ。
悪魔の兵器を蘇らせるのは、世界を再び混沌に貶めるにも等しいのだから」
フェアリアでの思い出が蘇る。
闇に囚われた義理姉が、貶められかけた極大魔鋼弾と同じ技術。
日ノ本皇国から技術供与を受けたフェアリアが、戦略兵器として使用した悪魔の兵器。
魔法少女の魂を機械や砲弾に込め、魂を力の根源とする魔の兵器。
兵器に囚われた魔法少女の魂は、機械から滅びの時まで抜け出す事は出来ない。
「もし・・・助け出せるものが居るとしたら。
闇の力を行使できる者・・・それも並外れて強大な魔力を有する者。
闇の王たる者・・・魔王級の魔力が無ければ助け出す事など無理なんだ」
姉である美春が、戦車に閉じ込められていた少女を救った事があった。
当時、輝と闇を抱く者として、魔王ルシファーの異能を授けられていた姉。
父であるマコトは、生死の境目だったマジカという少女の魂を魔鋼機械に閉じ込めた。
しかし閉じ込めた本人は、何処とも知らない場所へ母ミユキと共に連行されていた。
闇の魔王ルシファーによって、魔鋼機械から抜け出すには魔王の力が必要なのだと知らされたミハル姉が、
友であるマジカに、魔王の力を行使した。
その結果、魂は本当の躰に戻る事が出来たのだった。
記憶の中に居る姉は、この時はまだ人間の少女だった。
光と闇を抱く者・・・人間の巫女。
闇を祓う巫女であり、闇の力も使える聖邪混交の人たる者だった。
嘗ての輝と闇を抱く者は、今では女神となってしまっている。
神となった姉には、もはや闇の力は使えない。
頼りの女神だと言っても、魔王の力は使えないから・・・
「今は、どうすることも出来ないのかな・・・美春姉さん」
ポツリと姉を想って呟いてしまった。
「もう機械から魂を斬り離す事なんて出来はしないのかな?」
モニターに映る邪悪な姿を見上げる。
司令として、命令を下さねばならない。
二人の少女を危険に晒し続ける訳にはいかない。
マモルはローラの表情を推し量った。
機械兵の中に母の魂が取り込まれているのなら、自分が下す結論にどう言うかと。
「・・・マモル」
ルマが察して促して来る。
娘達を助けるのか、それとも・・・と。
逡巡は、ほんの一瞬。
「ローラ君、あの中にお母さんが閉じ込められているにしろ・・・
司令として命じなくてはならないんだ、破壊しろと」
ピクンとローラが震える。
ゆるゆるとマモルの顔を見上げて、微かに震える唇で言ったのは。
「マリアやミハルさんに危害を及ぼすのなら・・・攻撃してください」
母が居ると知っても、友を想う心が勝ったのか?
「母さんの魂が、破壊される事に因って安息を迎えられるのなら。
他の人を傷つけるようになる前に、母さんの魂を・・・機械諸共葬ってください」
ローラは、母が最早助からないと覚悟したのか。
助け出そうにも手が無いと思い詰めたのか・・・
震える躰・・・震える瞳・・・そして。
「マリア!ミハルさんっ!母さんを、母さんの魂が穢される前に!
母さんの魂諸共、邪悪な機械を叩き壊してよ!」
それは息子であるローラの、母を想う子としての叫びに他ならなかった。
猫田2尉は逆リークしていた。
咄嗟に指が無線封鎖を解除していたのだ。
「「駄目だよ・・・ローラちゃん、諦めちゃあ・・・」」
呟くミハルの声が、スピーカーから流れ出た。
「「そやで?!まだ助けられないと決まったんじゃないんやからな」」
答えるマリアも、見捨てないと言い切っている。
「マリア・・・ミハルさん?!」
操縦席に切り替えられたモニターには、魔鋼の少女達が笑っていた。
「「喩え悪魔に魅入られているにしたって・・・」」
ミハルが俯いて話し出す。
「「助けられないと決まった訳じゃないんだよ?」」
絞り出すように言葉を綴る。
「「だって・・・アタシには。
悪魔にだって打ち勝てる力があるんだもん」」
項垂れていた頭を上げるミハルの瞳には・・・
「「だから・・・ローラちゃんも諦めないで欲しいんだよ?
友達が辛くて苦しい時に、助けられない位なら・・・私。
何の為に異能を授かったのかを示せないじゃない?!」」
前髪で隠された右目。
魔鋼の力を示す左目は蒼い。その反対の眼の色は・・・
・・・金色を宿す・・・
「「ミハルもそう言ってんのや!ローラは友を信じられへんのんか?」」
魔鋼の瞳で訴えるマリアを観て、ローラは悟った。
「諦めたりしないよ!二人が闘うのならボクだって!
決して諦めたりしない・・・母さんを取り戻す為に闘うよ!」
3人の娘達を観ていたマモルとルマが、頷き合うと。
「よぉし!ここからはIMSの総力を挙げて悪魔の機械兵を打ち負かす。
いいか、我々は絶対に勝つ!闇の機械から救い出す闘いを始めるぞ!」
マモルが命令を下す。
「衝撃砲射撃準備!目標は巨大魔鋼機械兵!
<翔騎>隊は敵の行動を限定させて移動させるな!」
攻撃命令を発令し、続けて忠告した。
「残り時間に注意するんだ!猫田2尉、残りは?」
「3分ジャストですっ!」
タイマーがイエローになった。
二人の乗る<翔騎>に残されたのは僅か3分。
頷いたマモルが下令した。
「攻撃始め!全火器使用許可、全装備フルバースト!」
「「了解!」」
二人の魔鋼少女が、武装の安全装置を解除させた。
「突撃せよ!皇都魔鋼戦闘団(IMS)っ!」
命令一過、2機の<翔騎>が飛び上がった・・・・
戦闘が始る。
今度の戦闘はマジか?!
いつになく真剣ですが・・・
次回 だって 女の子だもん 第5話
友の母を取り戻せ!君は舞うのだ、天高く!!