だって 女の子だもん 第1話
幌を被せられたトラックが、道魔重工業開発部の正門に辿り着く。
守衛たちが誰何しようとゲートの前に立ちはだかるが・・
「お、おいっ?!突っ込んで来るぞ?」
警棒を握った手が取り落とした。
「マジか?!ベルを押せ!」
緊急事態を告げる警報を押す様に仲間に命じたのだが。
トラックの突入の方が一足早かった。
バッガァーンッ!
衝突されたゲートは粉微塵に粉砕されて。
「ぎゃぁっ?!テロだ!警察を呼べ!いや、その前に防衛システムの稼働を要請しろ!」
守衛達はいきなり襲いかかって来たトラックに狼狽するだけだった。
突入して来たトラックは、ゲートを粉砕して構内を突き進むと。
「観ろ!工場の側壁にぶつかるぞ!」
ゲートから程ない工場に突き当たる。
ドッグシャッ!
ぼぼおぉんっ!
追突したトラックが、忽ちの内に炎上した。
「大変だ!火災になったぞ!消防署に連絡しろ!」
テロだ、事件だと騒いでいた守衛たちが、今度は事故だと謂わんばかりに消火器を手に取り駆けつける。
トラックに載せられていた荷物が猛然と燃え上がり、大した消化能力もない人力での活動を嘲笑う。
「スプリンクラー設備はどうした?早く鎮火させないと大変な事になるぞ?!」
慌てふためいた守衛達は、ゲートを護るのも忘れて騒ぎ立てていた。
「ひっかかってくれたみたいやな?」
モニターに映る火災を観て。
「うん、どうやら忍び込めたみたいだね?」
ピンクの機体を左画面に捉えて。
二人が操縦する<翔騎>は、地下道を進む。
「しっかし、泥棒猫じゃなくて、ドブネズミ状態やな?」
「・・・マリアひゃん、それは言いっこなしだにゃぁ?」
工場の地下に敷設されてあった、汚濁水排泄用のトンネルを使った作戦。
地上の喧騒が嘘のように静かな地下で。
「ミハル、もうじきしたら通信も出来へんようになるからな。
ちゃんと作戦要綱を覚えておきや?」
「うん!しっかり頭に叩き込んだから!このジーンズ作戦をね!」
胸を叩いてミハルが答えるのだが、マリアはため息を吐くと。
「あんなぁミハル?!作戦名は<XYZ>やで?」
「にょほぉっ?!そ、そうでした!」
心配になってしまうマリアであった。
<翔騎>に因る作戦が開始された。
目的は道魔重工業開発部に捕らえられていると判った、ローラの母を救出すること。
それが絶対条件なのだったが。
「もしもの時には。
破壊しなければならない・・・宿らされていたにしても」
妻の横顔を見て、マモルは苦渋の選択を強いられたのを思い出していた。
猫田2尉の横でモニターを見詰めるローラを納得させた。
母を救いに行くというのに、二人だけに任せたマモルの判断に抗った姿を思い出して。
「もしも。もしも救えないと判ったのなら。
ボクは破壊を命じなければならない。
ローラ君には、母を見捨てられる筈が無いのだから・・・」
押し問答になりかけた時、ミハルが言った言葉。
「ローラちゃんには、ここでアタシ達に指示して貰わないと。
どこにお母さんが居るのか、そしてどうすれば救い出せるかを。
機体の中じゃ分からない事も、ここでなら見える筈だもん」
助け出すのは、皆の力を集めなくちゃ駄目だと教えた。
みんながローラを、救出を願うのだと知らせたから。
渋るローラの肩を抱いたマリアからも。
「頼むで相棒!ウチの弾で救い出したるさかいに。
きっと助け出す!きっと連れて来るさかいにな!」
みんなの心は一つなのだと教えられたローラが、やっと二人に託したのだった。
「頼んだぞミハル、必ず救い出してくれマリア君!」
マモルは全力でサポートするように、猫田2尉達にも頼んだ。
「もしもの時は、この<大鳳>をもってしても助け出す!」
司令の決断に、
「了解!」
猫田2尉とローラが頷いた。
「マモル・・・後はあの子達に任せましょう?」
艦長席を振り返るルマが、心配を振り払うように微笑んだ。
「ああ、ボク達は勝つさ」
マモルが返した言葉の意味には、もう一人が含まれていたのだが。
口を噤んだ弟は、闇に向かった姉の名を告げることは無かった。
ミハルの魔法石の中には女神が宿っていた。
同じ名前を受け継ぐ姪っ子に、輝を与え続けていた女神が。
「「もう間も無く必要になるわよね?」」
何かを待っているような声で、女神はそこに居た。
「「早く姿を見せなさいよ、ミハルの分身!」」
赤黒い結界と思われる場所で。
「「ルシちゃんにだって頼んだんだから。出て来て貰わないと困るんだよね?」」
堕神に?それとも大魔王として?
「「此処に居る事は調べがついてるのよ?
出て来ないというのなら・・・暴れちゃうわよ?
良いのかな?私だって普通の女神じゃないんだからね?」」
女神が脅す相手とは?
結界が撓んだ。
闇の中に何かが現れ出始めた。
「あのぉ・・・ミハル伯母さんですよね?どうされたのですか?」
黒い影が揺蕩う。
「私に御用があるのなら、人間界で呼び出さなくても?」
ざわっ ざわ ざわざわっ
黒い影の周りに、無数の闇が現れ集う。
だが、悪魔の様にも観える影達であったが。
「ミハルじゃないか?姫御子になんの用があるんだい?」
剣士姿の闇がすっと輝の女神に寄ると。
「あらまぁグラン?おひさ?!」
「お久じゃないわい!前の大戦で死んじゃったんだぞ?」
ふざけたライオンの縫いぐるみに姿を変えた魔獣剣士に、
「そうだったわねぇ、リーンを護っての討ち死に・・・立派よねぇ」
「・・・女神になってから変わったんだなミハルって」
あっさりと答えられた剣士ががっくりと肩を落とす。
「それで?ミハルは姫御子に何の用があって呼び出したんだい?」
「それね。ちょっと異能を貸して貰おうと思ってね」
ぐるぐると女神の周りを飛び回っていたグランの縫いぐるみがはたっと停まると。
「まさかっ?!人間を殲滅するのか?」
勘違いも甚だしい声を上げる。
「・・・確かに殲滅の女神を名乗っている時もあるけど。
私がそんなことをすると思うの?ぐ~ら~ん~ワっ!」
「違うのか?」
ひょいっとグランを摘まみ上げると。
「ほらね?もしも人類を殲滅するだけなら。
姫御子の手を煩わせなくったって、私独りででも出来るから」
「相変わらずチートなミハルだなぁ・・・コワ」
闇の者をいとも容易く摘まみ上げる理の女神に。
「伯母ちゃん!グランを虐めちゃ駄目だよぉ?
みんな私の可愛い友達ばかりなんだからね?」
ヒュン・・・と。
コハルが右手を振ると、周りに居た者達が全て縫いぐるみとなって姿を見せた。
「爺も、剣士達も。みんな私を慕ってくれてる善い子ばかりなんだよ?」
紫色の髪、赤色に金色が交る瞳。
幼さが残る姿で、コハルが女神の前に揺蕩う。
ー なるほど。私が小学生ぐらいだった頃とそっくりなんだ。
私の中に闇が潜んでいた頃と瓜二つ・・・と、いうことは?!
女神はコハルが抱いているモノに気が付いた。
「コハル・・・ミハエルお母様に逢いたいんだね?」
びくんっ!
結界自体が揺れ動いた。
姫御子に動揺が奔った影響で。
「寂しいのね?分かる・・・判るわ。
伯母ちゃんにもそんな時があったから」
女神が手を開く。
理の女神が、愛を紡ぐ。
「ミハエルさんにはきっと逢えるわ。
もう少しだけ我慢しようねコハル・・・」
周りの者を好きな縫いぐるみに変えてしまう程、コハルは寂しく悲しく感じていたのだろう。
輝の子とは違って、両親の愛を欲しがっているのだろうと。
女神は闇の姫御子を抱きしめていた。
コハルとミハル。
光と闇・・・
2人が願うのは・・・
そして姪っ子達は?
まだ地下だった?!
次回 だって 女の子だもん 第2話
大魔王の姫御子が願うのは・・・親子の再会・・・