母と子 その想いは 第10話
嘗ての戦士は、新たな希望を探した。
輝と闇。
2つの力を持つ者を・・・
設計者は自らの行為に恐怖した。
前大戦でも使用する事を躊躇したというのに。
「我々は悪魔に魂を売ったにも等しい・・・」
数人の技術者と研究者が見上げているのは。
「これを世に送り出せば、世界は再び暗黒の時代に戻る」
追及してしまったのは、嘗て魔鋼の力が全盛期だったおりにどこかの国が造ったというシステム。
日ノ本でも極大魔鋼弾として開発が勧められていたのだが、
人の魂を犠牲にしてまで作るべきではないとの判断から、中止となった人智を超えた機械。
「フェアリアとロッソア二国間戦争で初めて実践に現れた、魔鋼システムの行き着く処。
嘗て闇の力が存在し、悪魔の力が及ぼした・・・殲滅の機械」
機械の中に据えられた黒水晶。
魔鋼の力に反応する闇の水晶に、魔法使いの魂が注入されると。
「機械は自らの意志を持つ。
人工頭脳とでも言った方が良いのかもしれないが。
貶められた魂は、破壊を司り破滅を振り撒く。
自らを呪い、敵に死を与える為に最期の瞬間まで停まる事はない」
巨大な殲滅機械を見上げ、研究者達は手を染めた事を後悔していた。
サングラスの中からモニターを見詰める瞳には、十数年前の過去の姿が映っていた。
自らが手掛けてしまった悪夢の研究と、今再び現れようとしている闇を重ねて。
「私が手を染めたのは、それにより命を繋ぎ止めんが為だった。
魔法の力で魂を入れ物に移し、助けようと試みた・・・だが。
それは人が手に染めてはいけない技術に他ならなかった。
神でもない人が、命を助けるためとはいえ闇の力を求めるなど・・・
悪魔に手を貸したにも等しいのだから」
マコトは自らが手に染めてしまった過去を振り返って自嘲する。
「機械に魂を封じてしまえば、取り戻すには悪魔の力が必要になる。
人ならざる力を使えば、人ならざる者を呼び覚ます事になる。
人が悪魔の力を求めてしまえば、それを使った者も悪魔となる。
私は妻を取り戻す為に、数々の試行錯誤の末に辿り着いてしまった」
サングラスを指先で押さえて、過去の幻影に漏らし続けた。
「もし、あの子が現れなければ私も、悪魔と化していたかもしれない。
女神になる前のミハルが迎えに来てくれなければ、悪魔に堕ちていただろう」
(作者注・「魔鋼騎戦記 熱砂の要塞」参照)
フェアリアからロッソアへ。
そして研究所が破壊された後には、オスマンに行きついた。
どの国であろうと、悪魔は存在した。
いいや、悪魔のような人間達・・・と、言うのが正解だろう。
マコトの技術力を買った者達は、挙って研究させた。
世界を我が手に握らんとする輩により、悪魔の研究は続けられたのだ。
だがしかし、マコトは悪魔にはならずに済んだ。
なぜなら、助けるべき人が傍に居たから。
自らの研究により、魂を奪われた妻がそこに居たから。
失敗を取り返す為、マコトは悪魔と対峙できた。
妻を現世に呼び戻す為、力の限り抗ったから・・・
運命の娘を娶ったマコトに出来たのは、信じて待つより他なかった。
<<輝>>の力が闇を破る日を。
ミユキが運命の御子だというのなら、継承された力は娘が持っている筈だった。
託された異能により、闇から世界を救ってくれる・・・その日まで。
宿命の娘は約束を果し、妻と自分を輝の元へ連れ戻してくれた。
遠くオスマンにまで追い求めてくれて。
「悪魔を滅ぼし、輝を与えてくれた娘。
だが、女神となり自らと引き換えに世界を救ってくれた。
理を司る女神となり、この世界を闇から解き放ってくれた・・・
それなのに、人類は再び闇を呼び戻してしまった。
パンドラの箱を開く愚行を、自ら人類は手にしてしまったのだ」
魔鋼機械を人類の発展の為だけに使えば、このような惨事は起きなかったであろうに。
戦争に使う。
人と人との争いに魔鋼技術を使う。
何時。
何処で?!
ー 何の為にだというのか? -
先の大戦で、神も悪魔も。そして魔法力も消え去った筈だった。
それなのに、再び人類は異能の力を手にしていた。
それが意味する処は、魔法の機械も復活出来るという事。
だが、本当の憂いは別にあった。
女神が帰って来れた。
フェアリアの王家に、ルナリィーンが居た。
ミハルの願いにより、審判の女神リーンは人として蘇る筈だった。
魔法が消えた世界なのだから・・・人になれる筈だった。
産まれた娘はルナリィーンを名乗った。
自らが人になれたとは言わず、宿っているだけだと判ったのは。
彼女が<幼女から少女へ>と、なった時。
目覚めた女神が、幼き体に宿っていると。
フェアリア皇女ルナリィーンが知らせたから。
理の女神が望んだ<希望>は、半ば叶えられた。
片手落ちな現実として。
人に生まれ変わる筈の女神は、女神のままで人に宿る事になった。
つまり、世界は替えられきれなかったのだ。
セカンド・ブレイクの輝が世界から魔法を取り上げた筈なのに・・・
たった独りの女神が願った為に、世界は変わり切れなかった?
今ははっきりとした事は分からないが、神が存在し魔法がある。
現実として受け入れなければならないのは、神が居れば悪魔も居る。
光と影は相対するように、聖と邪も世界に残されたのだ。
赤外線暗視装置に反応が現れている。
強力な熱源体が、道魔重工業開発部に存在している。
前大戦の闇が、再び産まれ出ようとしていた。
「彼女の魂は。
ノーラ君やローラ君を認識できるだろうか?」
マモルからの情報を受けていた。
道魔は彼女達の母親を実験に使ったという。
「だとすれば。
セカンド・ブレイク以前の魔法使いの中にも、魔力が残された者が居る事になる。
・・・いいや、この世界が再び悪魔達の力で変えられようとしているのだ」
マコトは独りの少女を思い出していた。
「彼女等がそれを望むというのか?
あの子が邪な者として目覚めたとでも言うのか?」
闇の邪龍と対峙した、<黒の少女>の姿が目に焼き付いていた。
「孫に宿っているあの娘が、暗黒な世界を望むとでもいうのか?」
記憶に居る、もう一人の孫の姿。
<九龍の珠>を巡る戦いの中、彼女が現れた。
神々の中で最も人に寄り添った者の娘を名乗った、黒の娘の姿が蘇る。
蒼い極大魔法陣を背に、見下ろしているのは孫に瓜二つの娘。
「マモルの娘として産まれたミハルが、初めて口を利いた時に闇の言葉が残された。
自分は大魔王の娘<コハル>なのだと。
堕神ルシファーの娘であり、大魔王の姫御子でもあるのだと。
女神として帰って来た美春が宿るずっと前から、コハルは目覚めていた。
我々に闇が戻ったと警告し、輝を求めよと告げに現れたコハル。
邪な者としてではなく、輝と闇を抱く者としてミハルを目覚めさせる為に現れた筈だ」
そのコハルが望んだとでも言うのかと、マコトは拒絶したかった。
「コハルは人を貶めるような娘ではない筈だ。
人類の敵に廻る様な悪魔には、絶対にならない。
孫の中で育ったコハルは、人を愛する堕神の姫御子なのだから」
目覚めた大魔王の娘コハルは、闇を総べる者としてどうするというのか?
悪魔達を支配する姫御子は、世界に闇を振り撒くのか?
「あり得ない。
あの娘はずっとミユキ達に愛され続けている。
母を知らなかった闇の姫御子を、子や孫として接して来た。
人としての愛、母としての慈愛を受けて来たコハルが、人類の敵になる訳がない」
ミハルが時としてコハルになった。
闇に襲われた時、闇の姫御子の力が発動した。
<輝と闇を抱く者>として、闇の力を以って悪魔達と対峙した。
急に大人びた話し方になった時には、姫御子が現れていた。
<九龍の珠>を巡る悪魔達との熾烈な戦いの中、姫御子が発現した。
蒼い魔法陣を背に、悪魔を追放して除けた。
その時にはっきりと告げたのは・・・
「マコト・・・お爺ちゃん。
アタシはね、ずっと前からこの子の中に居たんだよ?
お爺ちゃんやお祖母ちゃんと過ごして来れたのが嬉しいの。
でもね、この珠が人の世に晒されちゃったから。
邪な者達がアタシや珠を狙うようになるの。
この子も・・・アタシが居たら狙われちゃうから・・・」
別れの時だと告げられた、孫とも思える大魔王の姫御子に。
「さよならなんて言わないからね。
もし、この子に闇が災いを齎すのなら。
アタシが必ず祓ってみせるよ?ミハルが輝の子として目覚めるまでは」
姫御子の姿は、黒い魔法衣を着ていた。
なのに、神々しくも見えたのだ。
「私は大魔王の姫御子。
あたしは、マコトお爺ちゃんやミユキお祖母ちゃんの孫のコハル。
いつまでたっても変わらないから、いつまでも大好きだから!」
涙を湛えた瞳は、紅く・・・金色を讃えていた。
「コハルが人類を憎む筈は無い。姫御子が手を穢す訳がない」
マコトは考えを締めくくり、女性士官に通信を命じる。
「IMSに出動命令を下せ。闇の魔鋼騎が動き始める前に破壊を命じる」
「了解しました!<翔騎>隊に出動を命じます!」
アラームが鳴り響く。
指令室に警告音が流れた・・・
「ノーラ・・・ローラ・・・」
機械から人の意識が流れ出た。
「お母さんに安らぎを・・・頂戴」
微かな。
本の微かな人の意識が、魔鋼の機械から流れ出ている。
「戻れないというのなら。
身体を喪うだけなら・・・消滅させて、魂をも」
母は子に何を託すのか?
母の求めに子は何を為せるというのか?
人類は罪を犯してしまった。
神々との対戦・・・
最終戦争と同じ過ちを、人は冒してしまった・・・
マコトは大魔王の御子コハルを知っていた?
嘗ての世界で闇に捕えられていた時にナニに手を染めたのか?
悪魔の力をどうやって娘は祓ったというのか?
その答えは、ミハルが見つけなくてはならなかった。
ミハル・・・その名を記す者とは?!
次回 母と子 その想いは 第11話
ミハルの髪型が変わるとき・・・女神はナニを企むというのか?!