母と子 その想いは 第6話
大魔王の娘・・・
ミハルの中にある闇。
光と闇を抱く者ミハルには隠された過去が・・・
部屋から出ろとミハル・・・いや、コハルと名乗った娘に言われた。
悪魔と対峙する独りの娘にそう告げられたから。
「紅い瞳でそう言うんは、きっとあの娘に違いないんや。
2年前、海辺の神社にも現れた・・・あのコハルに間違いないんや」
<九龍の珠>を巡る事件の日。
コハルは現れ出た九つの首を持つ邪龍と対峙した。
「そや、あの日にも逢っていたんや。
コハルと名乗った、もう一人のミハルに」
強大な魔力を誇った邪龍と、ミハルは闘い倒してみせた。
「まるで別人のようになったミハルが、あの場所で邪龍を打ち負かした。
・・・その時に見せた瞳と同じ、吊り上がった瞳で闇を討ち破ったんや」
思い出したマリアは、部屋から後退る。
「マリア?!ミハルさんを連れ出さなくても良いの?」
ローラが血相を変えて掴んで来た。
何も知らない相棒に、マリアは首を振りこう言って除けた。
「ええんや。今あそこに居るんはミハルじゃない。
ミハルじゃない者がミハルに成ってるんや」
打ち消された返事を訝うローラへ。
「なぁローラ。ウチはおかしなことを言ってるやろ?」
陰を落とした表情で、ローラを煙に巻いた。
大魔王の娘が揺蕩う。
悪魔ドウマを打ち滅ぼし、人に戻した姫御子が。
「ミハル・・・もう起きれるわよね?」
魂を穢されかけた人の姿に向けて、姫御子が微笑む。
「これからは輝の子に任せるから。
人に戻った道魔を罰するのは、人であるあなた達の仕事。
大魔王の娘が手を下す訳にはいかないのよ?」
黒き衣を纏うコハルが、人間である娘に頼む。
「貴女にはまだまだ修練を積んで貰わなきゃいけないの。
貴女には輝の子として生きて貰わねばいけない・・・の。
いつの日にか私と、<運命の一戦>を闘って貰わなきゃいけないんだから」
か細い声がミハルに降り注ぐ。
「覚えてるでしょ?
ルナリィーンから託された女神の宿る石のことを。
貴女には、運命に抗わねばならない務めがあるのよ?」
ミハルの魂が眼を開く。
「いつも貴女と一緒に居るから。
魔族は私が。人は貴女が、正さねばならないの。
父上様や、母上様も貴女と私を護ってくださる。
いつの日にか・・・本当の世界を取り戻さんが為に・・・ね?」
消えて行く声。
目覚めるミハルには、遠くに行ってしまう姿がかすかに見えた。
「ミハル、これだけは覚えておいて。
必ず邪悪な者は世界を滅ぼさんと目論む。
貴女の力だけでは救えない、もう一人の輝の子と携え合えなければ。
だから・・・もっと鍛錬を、もっと強くなるのよ・・・輝の子なんだから」
闇の子は光に託した。
自らの輝を繋ぎ止めるように。
「強く・・・もっと。そう・・・アタシは強くなりたい」
ミハルの顔に輝が燈った。
全く物音が起きない。
部屋では悪魔との一戦が繰り広げられている筈なのに。
コツ コツ コツ
靴音が部屋から出て来ようとしていた。
「ミハル?!いや、コハルか?」
音を耳にしたマリアが呼ぶ。
「道魔は?悪魔はどないなったんや?!」
もう待ちきれない。
部屋の中から聞こえて来る靴音に。
「コハル?!いや、美晴?
もう観てもええやろ?中に入るで!」
辛抱出来なくなったマリアが部屋に飛び込む。
入った先には、ミハルとドウマの姿が。
堪らずマリアが駆け寄った先に居たミハル(・・・)が。
「あっ、マリアちゃん!無事だったんだね善かった」
まるで今迄の事を知らな気に笑い掛けて来る。
「コ?!いや、ミハルなんか?どっちやねん?」
「うにゅぅっ?!アタシは前からミハルデチよ?」
・・・・・・え?
ポカンと口を開けたマリアに、
「どうかしたのマリアちゃん?アタシがどうしたっていうのかな?」
訳が判らないと言った口調でミハルが話すものだから。
ツカツカツカと近寄って来たマリアが。
ボカッ!
問答無用で必殺の拳骨を喰らわせる。
「ひぎぃっ?!にゃ?にゃにをするのー?」
頭を押さえて抗議する、損な娘。
「にゃにもへったくれもないわい!
このぉすっとこどっこいがぁっ!」
「ひにゃぁ?!にゃんでそんなに怒ってるのぉっ?!」
後を追って部屋に入って来たローラが・・・目を点にして立ち竦んでしまった。
・・・・つまり。
「ほほぅ?!気が付いたら道魔は倒れていたと。人の姿に戻って?」
「はい・・・この人が道魔さんなのかは知らないけど」
尋問されているミハルの傍で、ローラが脈を取り。
「死んじゃぁ居ないみたいだよ?それに魔法力も感じられなくなったし」
悪魔は消え去り、残された道魔理事長は失神しているだけだと。
「ふむ・・・どうしてこうなったのか?ミハルは記憶が無いと?」
「如何にもゲソにも!」
ボカッ!
拳骨を喰らったミハルがしょげる。
「それじゃあ、こいつから訊き出さないと!
お母さんがどこに囚われているのかを、それと今迄犯して来た事も!」
ローラが道魔理事長を起こしにかかる。
「そやな、ウチ等が此処に来た元々の話なんやし。
ローラとノーラさんのお母さんを、無事に救出しなきゃな!」
「その通りにゃん!・・・あ、そんな目で観ないでよ二人共?!」
ジト目で見詰められて、ミハルはたじろぐ。
「おい、起きろよ理事長!」
喝を入れ、気付かせるローラ。
「がはぁっ?!何が起きたんだ?!」
どうやら道魔理事長にも記憶が残されていないみたいだ。
「うわっ?!お前達!いつの間に?」
自分が捕らえられているのに驚き、半ば眼を廻す理事長。
「ボクのお母さんをどこにやったんだ?!白状しろ!」
胸倉を掴み上げてローラが尋問する。
「お、お前の母か・・・知らんなぁ?」
惚けて嘘を吐く。
「・・・お前に捕らえられている女性の事や。知らんでは済まされへんで?」
ローラだけではなくマリアも14年式を突きつける。
「知らんと言ったら知らん!
どこぞの人身売買じゃあるまいし、人妻を虜にする謂れは無いわ!」
飽く迄白を切る理事長に。
「そう?嘘を吐き通せると思ったら大間違いのコンコンチキよ!」
黙って観ていたミハルが、道魔理事長にニヤリと笑い掛ける。
「シラタキってあんまりすきじゃないのよねぇ・・・」
「はぁ?!」
ミハルにマリアが呆れてしまう・・・が。
「でもっ!シラタキも出汁が美味しければご飯の伴になるのよっ!」
「はぁ?!」×3
ミハル以外の全員がため息を吐く。
「と、言う事で。理事長の部下さん達が襲ってきそうですけど?
悪だくみはいい加減にしてくださいよね?
今度は本気でいきますよ?手加減抜きで!」
「えっ?!はぅあぁっ?」×3
驚く道魔理事長とマリアとローラに。
右手を翳したミハルが部屋の外に向けて。
「アタシ達は理事長を虜にしてますけど、犯罪に加担しようとしてませんか?
もし悪さを働く気なら、この魔鋼剣で叩き伏せますからね!」
魔法の木刀を取り出して、外に居る気配に突き付けたのだった。
事態は急転直下となるのか?!
ミハルはやっぱりミハルだったか・・・Orz
惚けたところは伯母譲り。
損な娘も祖母譲り・・・
魔鋼少女ミハルは、やっぱりそんな娘でしたとさ!
損な?!
次回 母と子 その想いは 第7話
ところで。蚊帳の外に居た人達がやってくるみたいですが・・・どうなんでしょうね?