母と子 その想いは 第5話
魔鋼少女の前に姿を晒した化け物。
悪魔に堕ちた理事長だと判ったのは・・・・
「げへへへぇっ!私のビジネスを邪魔する奴は皆殺しだぁ!」
悪意に満ちた声が、道魔だと知れたからだ。
欲望に身をブヨブヨにさせた悪魔ドウマ。
醜く魂を堕とし、姿まで欲望に染められたのか。
「邪魔した奴等は、私に喰われてしまうが良い!」
目の前に居る3人の娘を、舌舐め擦りして挑みかかろうとしている。
突然部屋の奥から黒い闇が現れたかと思ったら、道魔の身体を包み込んだ。
道魔が消えると、マリア目掛けて礫が飛んで来て・・・
「ミハル!しっかりするんや!」
マリアに抱きかかえられたミハルが倒れてしまった。
「マリア!ミハルさんは?!」
悪魔と対峙するローラが振り向き、状態を訊く。
「アカンっ!目を覚まさへんのや!」
必死に介抱するマリアが涙声で返して来る。
しっかりとマリアに抱かれるミハルは、いつもつけていたリボンを吹き飛ばされて髪を乱していた。
「ここは一旦退き下がろう!マリアっボクが盾になるからミハルさんをお願い!」
ローラはドウマの弱点を探りながら後退る。
ブヨブヨの悪魔ドウマが3人目掛けて襲いかかろうとしている。
「ミハル・・・連れて帰ったるさかいにな。
女神様に助けて貰わにゃ、あかへんからな・・・」
マリアはミハルを抱きかかえて、部屋からの脱出を図ろうとしていた。
「・・・呼んで。アタシの名を・・・紅いリボンとアタシの名を」
目を瞑ったまま、意識が喪われていた筈なのに。
「えっ?!ミハルなんか?!気が付いたんか!」
聞こえた声にマリアが反応したが。
「確かに今聞こえたんや?!なのになぜ眼を開けへんのや?」
意識を喪っているミハルの声は、空耳だったのか?
「ごめん・・・マリアちゃん。
私・・・意識を奪われちゃってるの。
どうしても此処では起きられないの。目覚めてはいけないの。
だから、ミハルのリボンを手に取らせて?」
声は間違いなくミハルから。
自分の空耳なんかじゃなく、確実に聞こえた。
「ミハル?!なにおかしなこと言うてるんや?
現実世界に起きたらアカンって?いつものリボンなら替わりがあるやろ?」
その時マリアは気が付いた。ミハルの唇が動いていなかった事に。
「テレパシー?!いいや、触れている者に話しかけられる・・・魔法力?!」
確かめるつもりでミハルを観た。
「そう・・・マリアちゃんに抱きかかえられているから。
だから話せるんだよ?幼馴染のマリアちゃんだから頼めるの。
私の名を呼んで?紅いリボンを携えて・・・昔の呼び名で呼んで?」
「・・・そうなんや?此処に居るのは幼馴染やった頃のミハル。
いいや、今もずっと幼馴染のままなんやで・・・コハル!」
応えたマリアは拾い上げたリボンをミハルの上着に被せた。
「起きてや!起きるんや!ウチの大好きな・・・コハルゥッ!」
初めて呼んだ徒名・・・コハル・・・
小学生の頃、初めて出会った時・・・コハルと呼んでいた。
小さかったあの頃のまま・・・ミハルを呼んだ。
・・ ・<< コハル >> って・・・
「ありがとう・・・マリアちゃん」
闇を制御する<闇避けのリボン>が揺蕩う・・・ミハルの上に。
「私マリアちゃんの幼馴染で良かった・・・」
自分を<私>と呼ぶ、ミハルじゃない者。
コハルと呼ばれ、歓喜している声の主は・・・
「私は<闇の住人>・・・ミハルの対になる者。
今暫くミハルの替わりに悪魔を封じてみせます・・・幼馴染のマリアちゃんを護る為に!」
開かれていく瞳。
動き始めた指・・・そして。
「マリアちゃん、その娘と一緒に部屋の外で待っていて!
直ぐに、島田ご夫妻がやって来てくれますから」
今度は唇が動き、ミハルの声が流れ出た。
「ミ・・・いいや、コハル?!
お前は一体ミハルの何なんや?!」
マリアには目の前に立ちあがったミハルだった者が、本当のミハルでは無いと思えた。
両親を他人のように呼ぶのだから・・・ローラの名を呼ばなかったのだから。
「私はね・・・マリアちゃんの幼馴染のコハル。
無垢なあの頃は時々姿を見せてたんだよ?輝の子が気を喪った時には。
今は<九龍の珠>の所為で目覚めちゃったんだ、お父様と同じようにね」
「だ・・・誰なんや?本当のミハルはどないしてるんや?!」
問い直されたコハルが、少しだけ瞼を閉じ。
「ごめんなさいマリアちゃん。ミハルはもう少しだけ眠らせてあげて。
魔王ポーチの悪だくみで痛手を被ったの、でもグラン達が魔力で治しているから」
「魔王?!そんな奴にミハルが?」
眼を閉じたまま、コハルが頷き。
「そう。
ミハルはマリアちゃんを護りたい一心で飛び込んでしまった。
運の悪い事に、女神が守護していない状況で・・・ね」
コハルから教えられて、マリアは改めてミハルに感謝せずにはおられない。
「ミハルを治してくれ!ウチはどうなったって構わへんのやから!」
願うマリアに、微笑んだコハルが。
「勿論、私の憑代だもん。輝の子だから・・・私の正反対の子だもん」
閉じた瞼がゆっくりと開かれていく。
「久しぶり・・・だわ、この世界も。
大切なお友達に悪さした奴なんて・・・赦さないんだから!」
ドウマに振り向く。
ギランッ!
開かれた瞼・・・見詰める<<紅き瞳>>
ブワッサッ!
燃え立つような・・・<<紫の髪>> が、靡いた。
「もう良いわよ、そなた達!
下賤の魔族になんて私が負ける筈もないでしょう?」
ブヨブヨの悪魔ドウマが、いつまで経っても攻撃して来れなかった理由、それは・・・
「「御意にございます・・・が、御戯れが過ぎますぞ姫?!」」
コハルだけに届く魔族の声。
「「かような汚らわしき者に手をかけられずとも。
私共に処理を命じられますれば・・・」」
大魔王ルシファー配下の親衛魔導士の一人、
アヌビヌスが狗面を顰めて進言して来るのを。
「アヌちゃん、これは他勢力の挑戦でもあるのよ?!
相手側に御子という存在が、最早手がつけれないと知らしめる必要があるの!」
「おおぅっ?!これはしたり!失言を御許しくださいませ」
下級悪魔如き、大魔王の御子が手を下さなくてもと、導士が言えば。
守護奉るべき御子は、反対に自ら手を下してみせしめにするという。
「如何にこのアヌビヌス!
姫様が斯様にご立派になられましたと知り、感極まりましたぞ!」
おいおいと嬉し涙を零す狗面の導士。
「アヌちゃん・・・もういいから。
陰で控えていてね?手出し無用だから・・・いいわね?」
「ははーっ!・・・おいおいおい・・・」
ドウマを取り押さえていた魔王級の導士が、泣きながら脇に控える。
「もう・・・アヌちゃんったら・・・折角の雰囲気が台無しだよ?」
ふぅっとため息を吐いて、コハルが紅き瞳でドウマを睨む。
「すでに・・・覚悟できてるの?汚らわしき魂よ?」
魔王級のアヌビヌスに取り押さえられていた、悪魔ドウマは恐怖の絶頂に居た。
「そういえば・・・さっき。
私の前にもこんな無粋なヤツが居たわねぇ・・・消し損なったのよね?」
大魔王の姫でもあるコハルを前にした三下悪魔は、怯え震えている。
「人間だった頃。
お前は数多の人々を死に至らしめた・・・我等魔族にも劣る。
自らの欲望に任せて罪を犯し続けた・・・我等魔族へも供ぜず。
お前はこの後も魔族たる名を穢す者・・・我等魔族から放擲せん!
我、大魔王の御子にして堕神ルシファーの娘なり!
お前は審判された!罪状は有罪、断罪に処すべしものなり!」
御子の口から発せられたのは、
「その罪、その身を以って受けるが良い!二度と悪魔を名乗るな!
我が前から消え失せるが良い・・・目障りだ!」
大魔王の姫御子コハルの声が闇に轟いた。
下級な魔族にとって、抗う事も出来ない響き。
「ぎゃああああぁっ?!」
悪魔ドウマの姿は瞬時に掻き消された・・・
紅き瞳に金色が揺蕩う。
大魔王の姫御子であり、堕神の娘でもあるコハル。
紫の髪を掻き揚げ、消え去った罪人がどうなったかを目にすると。
「私ってば、またミユキお祖母ちゃんに怒られちゃうかもね?
もう永いことおはぎ食べて無いなぁ・・・ね、マモル君?」
懐かし気に零したコハルが、御子としての役目を果たし終えて。
「この世界に居続けられるのなら・・・いつの日にかきっと」
現世と魔界との狭間に居る自分を悲しく感じていた。
「姫ぇ~っ、爺は嬉しゅうございますじょぉ~っ!」
横に控える狗面導士がハンカチを片手に泣いていたのが、何とも言えない光景だったが。
ミハルはコハルで。
コハルはミハルで・・・
大魔王の娘であり女神の姪っ子であり・・・
ややこしい事!
次回 母と子 その想いは 第6話
道魔を退治したアト・・・何か忘れて居る様な??