母と子 その想いは 第4話
魔王ポーチ。
今、目前にしているのは・・・
魔王の悪夢?!
倒れたミハルに駆け寄った。
自分を庇い倒れた魔鋼少女へ。
「ミっ、ミハルゥッ?!」
床に倒れた身体を揺さぶり、抱きかかえ。
マリアは必死に呼んだ。
眼を閉じた友を、大切な幼馴染の名を。
だが、目を開けてはくれなかった。
「女神様ぁーっ!女神様ぁっ!どこに居られるのですか!
ウチの大事な子がぁ、大切な親友が眼を開けてくれませんっ!」
必死の祈りにも、女神は現れなかった・・・・
黒き闇よりも深く。
赤紫の空間に異変が舞い起きる。
何者かが魔王が貼った空間に現れ出でた・・・いや。
「何だこれは?!」
道魔が訝る。
「ぬぅ?!何奴?」
魔王ポーチにさえ、何が起きようとしているか測りかねた。
ジャラン・・・ジャラン
重い何かを引き摺って来るかのような騒音が。
「な・・・なにが?ここはポーチ様の結界だぞ?!」
下級魔族に貶められた道魔が恐れ戦く。
黒い闇。
闇よりももっと深い黒。
それが意味しているのは・・・
「まさか?!大魔王様?」
ポーチが眉をあげて見詰める先で、黒い何かが蠢いた。
「いいや、そんな訳があろう筈がない!
私如きの結界に新大魔王様がお越しになる筈が無い!」
細い眉を吊り上げたポーチの前で、黒い何かが停まった。
「貴女・・・手を出してはならないと言っておいたのを忘れた?」
黒い何かから少女の声が響いた。
「ぎゃああぁっ?!」
声が届いた瞬間、道魔が怯えて逃げ去る。
下級な魔族に、高貴な魔族の声はダメージを与える・・・逃げたのはその為であろう。
ビリッ
ポーチの魔法衣が瞬間、綻んだ。
「チッ?!お前は私と前に会ったというのか?!」
綻んだ魔法衣がポーチの魔力で修復される。
問うポーチに声の主は答えないので、今一度問いかける。
「私の邪魔をするお前は何奴?どうしてここに来たのだ?」
「・・・貴女が連れ込んだから・・・」
ビリリッ
今度は魔法衣が派手に裂けた。
相手が怒りの感情を持っていると知れる。
「くっ?!これ程の魔力を声に含ませられるのか?!」
驚愕すべき魔法力・・・いいや、闇の力。
魔王の魔法衣をいとも容易く破り去れる程の相手とは。
ポーチは相手の姿が見えないだけに、余計に威圧を感じてしまう。
「この魔王ポーチに対して無礼であろう!
姿を見せるが良い、さもなくば、同族とても容赦はせぬぞ!」
威厳を取り繕い、魔王ポーチは相手に魔力を放ってしまった。
ポーチの右手から魔力弾が放たれ、黒い者に突き当たる。
「貴女・・・私を芯から怒らせる気?
下賤なる者がこの御子に楯突いたのね?」
ぶるっ
今度の声に魔法衣は破れずに済んだが、魔王ポーチの存在自体が揺さぶられた。
「み・・・御子だと?!貴様が御子だというのか?!」
「そう・・・貴女達の主たる者へ手をかけたのにも等しい・・・」
ビシャッ
黒い塊が模られていく。
ポーチの前で、黒い者が現れる。
それは・・・組下の魔族には抗う事さえも禁じられている相手。
黒き者は紅き瞳で相手を睨んだ。
「ぐああぁっ?!」
もし、ポーチが魔王級でなかったのなら。
睨まれただけで潰え去っていただろう。
「もしかして・・・本当に?!」
「私をこんなにも怒らせた・・・私の憑代を穢そうと目論んだ。
御子であるコハルの憑代を穢そうとした・・・殲滅に値する」
ぐしゃっ
ポーチの右手が砕け跳ぶ。
「がはっ?!」
砕かれた手を瞬時に元通りに再生させたポーチが懼れて。
「コ・・・コハル・・・だと?!
それこそ、我々が望む鍵!やっと現れたようね・・・って?!」
ポーチは今迄探し続けていた相手を見つけたのだが。
相手は自分独りでは対処不能な程の・・・
黒いコハルは一足前に進み出る。
黒い少女らしい影は、紅き瞳で睨みつけて。
「もう言わない・・・貴女は二度も私の前に現れたのだから。
だから・・・殲滅する・・・この堕神の娘コハルが・・・」
憤怒なのか・・・呆れなのか。
声は冷たく、瞳は寒く・・・
「私の憑代を穢した罪。
私に跪かない愚か者よ。
<無>に貶めんよりも深い罪を背負った貴女には、いずれ人よりも劣る物にしてくれよう」
巨大な魔力でポーチを包み込もうとする大魔王の娘。
「くっ・・・くそぉ・・・太刀打ち出来ない?!」
伸し掛かる黒き娘に、手も足も出ず・・・
「覚えておくが良い!
今日の処は引き上げるが、この次に会ったら・・・
お前を新大魔王様の元へ連れ出してやるからな!」
逃げ口上をコハルに放ち、結界を放棄して消えようとする。
「逃げるのなら覚えておくのは貴女。
ミハルに手を出すのなら殲滅を覚悟しておきなさい。
次に会うというのなら、次こそ貴女の仲間ごと殲滅してみせましょう」
ビクリと、ポーチが震えるほどの絶大な魔力、いいや真の闇。
「チィッ!覚えてろよぉっ!」
存在自体が砕けそうになり、逃げ出すのが関の山だった。
何処へ逃げるというのか、魔王たるポーチ。
敢えて追わないコハル・・・大魔王の娘。
「ふぅ・・・後は小物の始末ね。
後は魔鋼の少女達に任せてもいいかしら、剣士グラン?」
ほっと一息吐いたコハルが傍に控える魔獣剣士でありルシファーの腹心に訊く。
「姫様、御戯れが過ぎますぞ?
奥方様に報じる私めの身にもなってください」
コハルの影に潜む魔獣剣士が溢す。
「ごめんごめん、つい。
ミハルを酷い目に遭わせたから・・・我を忘れそうになったわ」
黒い姫が寄り添う者へ笑い掛ける。
「御意。全く以ってけしからん輩ですな。
このグランに征伐を申し付けになられますか?」
影から出た剣士が男の姿を模り跪く。
「その必要は無いわ。
あの程度の小悪魔なんて、目覚めた輝の子に手出しできなくなるからね」
「コハル様・・・その時は近いと?」
グランに頷いたコハルが、少し寂しそうになり。
「その時が来れば・・・私はミハルと雌雄を決しなければならない。
輝と闇が同居できるのも後僅か・・・ね」
「・・・御意」
嘗て聖なる者として女神に付き従ったグランも、コハルの心中を慮り言葉少なに答える。
「光と影は・・・並びたてないものかしらね?」
闇に生きる堕神の娘コハルは、天に向けて顔を挙げた。
「光は影を創る・・・陰は光が無いと存在出来ないから・・・」
魔獣剣士グランは、姫に畏まり項垂れていた。
「お願い・・・呼んで・・・アタシの名を・・・呼んで」
瞳を閉じたまま呟く。
「そこに居る闇を倒さなくっちゃ・・・だから。
だから・・・闘わなきゃいけないの・・・」
唇は動かず声にもならない。
だが、少女は諦めずに呼び続ける。
結界から逃げ出した悪魔の端くれを睨む。
「なんやと・・・こいつが?」
「そうだよマリア!こいつが道魔だよ!」
奥の扉が壊れ、闇が途絶えた先に居るのは。
黒い欲望の塊・・・人間を捨てた者。
「こいつが?!人間だったなんてな・・・」
醜いブヨブヨの悪魔が魔鋼少女と対峙していた。
絶大なる大魔王の御子。
コハルを名乗る娘により、魔王を撃破!
いとも容易くポーチを追い返したコハルとは?
次回 母と子 その想いは 第5話
コハル、君はミハルのなんなの?それにしてもチートすぎません?