母と子 その想いは 第3話
闇の来訪は・・・
光の少女に害を及ぼす。
その時・・・目覚めるのは?!
悪意の塊が飲み込んだのは、道魔と呼ばれていた人間だったモノ。
自分の欲の為、魔法少女達の魂を悪魔に売っていたバケモノ・・・
因って・・・自らが闇に堕ちても欲望は形に変わる・・・
自らを窮地に貶めた娘をも奪わんとして。
闇の披瀝が少女目掛けて跳んだ。
魔法少女を取り込み、自らの物と貶めんが為に闇の礫を吐き出し続けた。
一瞬の迷いも無かった。
唯、大切な人を護りたいだけだった。
喩え、この身に死が訪れたとしても。
輝を持つ魔鋼少女を救いたい一心で、ミハルは踊り込んだ。
「マリアちゃんっ!」
飛び込み、手を突き出し。
そして彼女を突き跳ばせた・・・自分が礫の矢面に晒されて。
痛みが全身を襲う。
闇の波動から飛んで来た礫に身を晒したミハルへ、無数の黒き弾が突き刺さる。
「! ?!」
声を上げることも叶わない。
激痛に似た感覚が全身を苛む。
黒き弾はミハルに突き立つと、身体中の光を奪い去る。
抵抗する事も出来ず、魔鋼の力を奪い去っていく。
黒き弾はミハルから光を奪い、闇へと貶めようとした・・・悪魔の狙い通りに。
・・・くっくっくっ・・・あはははっ!
扉の向こう側で、嘲り嗤う声が・・・
言いザマだわ・・・これで我等の狙い通りになる・・・
疳高い嘲笑と共に、女の声が告げるのは?
扉の向こう・・・闇の中で。
闇の化身たる者が揺蕩う。
普通の悪魔程度なら絶対にあり得ない。
小悪魔ではない証拠に、女は魔法衣を着ている。
ボデイラインが際立つ魔法衣は真っ白な肌を露出させ、ロングブーツを履く。
金髪は紫の髪飾りでポニーテイルに結い上げ、前髪で半ば隠れた瞳は紅き闇色に染まっている。
まるでボディコンシャスにも見える魔法衣は、各部を赤紫色の強化魔道具で整えられている。
その姿を観れば、この女が並みの悪魔では無いのが頷けよう。
くくくっと嘲り、自らが放った波動で絡め獲った男を軽蔑する。
「道魔よ、そなたの利用価値はこれまでよ。
これからは下級悪魔として仕えるがよかろう」
闇に堕ちた男の末路・・・それは人間としての生を終えたという意味。
死を迎えることも、贖罪を果す事も叶わない・・・身の破滅。
「ははーっ!御意に・・・」
道魔は最早人である尊厳さえも奪い去られた。
「私はポーチ様に付き従うまで・・・魔王ポーチ様の忠実なる僕」
慇懃に伺いを立てる道魔だった容。
「ふんっ!私の前に居られるだけでも光栄に思うが良いのよ道魔!」
「ははーっ」
下級悪魔は平伏せる・・・魔王ポーチへと。
女の姿を採る魔王ポーチが、目前の少女を観て細く笑む。
「なによ、こんな小娘如きに?
ランドやリュックともあろう魔王が手古摺った?
お馬鹿さんにも程があるわねぇ・・・」
同じ魔王級の二人に対し、小馬鹿にして更に嗤う。
「間も無く、私が手にしてやるわよ!
目覚めの巫女を。古の邪悪神を蘇らせる鍵をね!」
魔王ポーチは嘲笑う。仲間を・・・そして。
「お前には手古摺らされたからね、半端な戒めじゃ済ませやしないよ!
覚悟しておきな!存分に甚振り、辱めて・・・狂い悶えさせてやるからね!」
ミハルに向けて嘲笑い続けた。
身体中から力が抜けだしていく。
痛みを伴い、抵抗する気力までも無くなっていく。
ー マリアちゃんは助けられたのかな?
自分の苦痛より、大切な友を慮るミハルだった。
ー もう・・・目の前が暗くなってきちゃった。
もうアタシ・・・駄目なのかな?
気力さえも奪い去られ、諦めにも似た脱力感に苛まれてしまう。
ー このまま・・・死ぬのかな?
まだ・・・まだまだやりたいこと一杯あったのに。
まだ約束を果していないのに・・・嫌だよ・・・
諦められきれない・・・約束があるから。
抗う力は残されていないが、心だけは残しておきたいと願う。
「だって・・・ルナリィーンお姉ちゃんと逢えてないもの」
いつの日にか、フェアリアへ帰って再会を果たすのだと。
「きっと待っていてくれるんだから・・・この魔法石を返せる日を」
観えなくなった目で、右手に填めた魔法石を見詰める。
心の中で・・・魂で・・・微かな輝を求める。
だが、いくら探そうとしても観えなくなった。
心の中でも・・・魂でさえも。
「諦めちゃいけない・・・いけない・・・いけ・・・」
プツリと。
そこでミハルの輝は途切れた。
「ごめんね・・・辛かったでしょうに」
幼き声がどこかから聞こえた。
「貴女には辛かったでしょう?ミハル」
闇からの声が魂に投げかけて来る。
「私には如何程でなくても、輝の子にはとても辛いよね?」
暗がりの中から女の子が話して来る。
微かに残された輝に。魂に残った光へと。
「光と闇を抱く者よ。
貴女にはもう一つの力が託されているのを忘れてはいけない」
ほっそりとした指が魂に指し伸ばされる。
白くしなやかな指先が、闇に包まれた魂へと伸びて。
「私が貴女を連れ戻してあげる。
何時かの様に・・・九龍に冒されそうになったあの日の様に。
コハルが連れ戻してあげるから・・・」
輝が残された魂を摘まみ上げ、コハルと名乗った声の少女が。
「闇の魔王が相手なら。
いいえ、魔王と名乗る下賤の悪魔が逆らうのなら・・・
この私が相手になってあげよう・・・大魔王が娘であるコハルとして!」
幼き声がミハルを庇う。
<無>心な、邪気を孕まぬ闇が・・・そこに居た。
「私はコハル。大魔王が娘にして魔の主!
貴女の正反対たる闇の申し子・・・闇の御子コハル!」
闇より暗き者。
闇より出でし者。
その姿は赤黒く染まり、輝を奪い去る。
しかしてそれは破邪の申し子なり。
極大魔法陣を背に、紅き瞳のミハルが起き上がる。
闇の中、もう一人のミハルが邪なる者を睨みつけた。
闇の来訪は、闇の御子を呼ぶ。
邪なる者は目覚めさせてしまった。
彼女は<光と闇を抱く者>の一人。
彼女の名は・・・<コハル>・・・
次回 母と子 その想いは 第4話
昔、ミハルはコハルと呼ばれていましたね。そう、闇のコハルが目覚めたようです。