母と子 その想いは 第2話
ローラからの連絡を受けたミハル。
魔鋼の少女は何かを感じ取っていた・・・
インターコムから、ローラが話しかけて来た。
まだ二人が居る階まで時間がかかる。
ノーラを担いだままでは、間に合わないと思った。
「伯母ちゃん!ノーラさんをここに置いて行くから!」
ニャンコダマにローラからの異変を知らせるべく呼び出すと。
「「姪っ子ちゃん、それはどう言う意味かしら?」」
ニャンコダマの声が訊いて来る。
「マリアちゃん達が危険なの!アタシが行かないと!」
ノーラを床に寝かせ、ミハルが上の階を睨む。
その表情は並大抵のことでは動じないミハルには珍しい顔だった。
女神は、ミハルが何かを感じ取っていると読んだ。
ー ふむ・・・私も邪なる気配を感じてるけど。
姪っ子は一体何を感じているのか・・・様子を窺おうかしらね?
「「姪っ子ちゃん、何がそうも危ないと思うのか知らないけど。
マリアちゃんもいっぱしの魔鋼少女よ?
普通の人間相手に後れを取るような娘じゃない事は知ってるでしょうに?」」
右手の宝珠の中から、ニャンコダマが現れて訊いた。
「そうだけど。
それは判ってるけど・・・危険だって教えてられたの!」
ミハルは誰にとは言わなかった。
ー ふむむ・・・ルシちゃんかな?
さっき、確かに堕神が居た筈だったから。
姪っ子を護る為に呼びかけたかと思ったニャンコダマが。
「「そう?だったら往くと良いわ。
まぁ、姪っ子ちゃんが助けに行く程でもないと思うけどね」」
イザとなれば宝珠に飛び戻れば良いと、気安く応じてしまった。
「うん!そうする!ノーラさんをお願い伯母ちゃん!」
女神のお墨付きを貰ったミハルが、腰に下げていた麻酔銃を取り出して走り出す。
「「あらあら。せっかちな娘ねぇ」」
ノーラの上に揺蕩うニャンコダマが、階段を駆け上がって行くミハルにため息を吐いた。
「「さて・・・と。私はマモルにでも連絡しときましょうかね?」」
飽く迄のんびり構えた女神であった・・・
「やりおったな!こうなればここから生きて帰さんぞ!」
二人の男が倒れた先にいる、太った男が叫んだ。
「こいつが道魔とか言う理事長なんやな、ローラ?」
14年式を構えたマリアが、部屋に入ったローラに問う。
「そう!この人がボク等姉弟を闇に染めて、操ろうとしてたんだ!」
指し示すローラに頷いて、銃先を道魔に向けるマリア。
「じゃあ、ローラのお母さんをどこにやったのか、白状して貰いましょうか?」
犯人に自白を迫る。
「この学校内に捕らえているんやろ?
営利誘拐は立派な犯罪やで?理事長たる者が知らん筈ないやろ?」
例え自身に罪が無いと誤魔化した処で、理事長には負うべき責任がある。
この学校で何が起きていたのか、何が企てられていたのか。
「早う自首した方がええで?
御上もお情けぐらいかけてくれるんとちゃう?」
魔鋼少女は警察官じゃないから、法を犯した罪人を捕まえる権限はない。
それだから自首を促すだけに留めたのだったが。
「お前なんぞに言われる必要など無いわ!
そこの小娘の母親が学校内に囚われているだと?笑止千万!」
「馬鹿を言え!ローラのお母さんが此処に居るのは百も承知なんやで!」
押し問答するマリアが、焦れて銃先を道魔に突き付ける。
「答えないんやったら!お前にも一発喰らわせてみようかぃ?」
ニヤリと笑い狙いを道魔の頭に向ける。
「くっ?!ほざけが!
小娘如きに脅されて、はいそうですかと応じられるか!」
道魔は怯えつつも手をボタンへと伸ばす。
「ローラ!構わへんから、そこら中を探しまくるんや!」
業を煮やしたマリアが、隠された扉があるかをローラに調べさせた。
焦りが極限に達した道魔の指がボタンに触れる。
「最早これまで!こうなれば最終局面だ!
お前達の好き勝手にはさせはせんぞ!
・・・・・
・・・ポーチ様! お任せ致します!!」
躊躇いは一瞬だけ。
紅いボタンを指が押し込んでいた。
音も無く・・・ボタンが押し込まれた。
・・・だが。
何も起きない。
「なんやぁ?何がしたかったんや、おっさん?!」
銃を突きつけたまま、マリアが訝しむ。
道魔の後ろを調べていたローラが、隠し扉に気が付いたのはこの時だった。
「見つけた!
マリアっあったよ!奥に扉があるみたい・・・」
声を呑んだのは・・・ローラ。
その扉がある事が解った瞬間に感じたのは。
「ま・・・さか?!闇の魔力?!」
ずっと感じていた魔法力の根源が、この扉から流れ出していると気付いたのだ。
しかも、今感じているのは・・・
「悪魔の魔導力・・・いいや、これは?!」
ズゥオオオオオォッ
扉が開くでもなく。
辺りが黒い霧状の闇に染まっていく。
「悪魔の闇!闇の波動?!」
気が付いたローラが、マリアに危険を知らせようと飛び退いた。
「うっ?!うわあああぁっ?」
背後から襲いかかる、闇の力に飲み込まれる道魔の断末魔。
「なっ?!なんだと?!」
銃を向ける暇もあればこそ。
マリアは闇から襲い来る波動に為す術もない・・・
「マリアぁっ?!」
飛び退いたローラは、真っ正面から受けようとしているマリアを横眼で観た。
それはあまりにも急で、どうするすべも無い一瞬の事。
道魔を飲み込んだ波動は、そこで弾けた。
まるで取り込んだ道魔の意志が、願っていたかのように。
マリアに向けて銃弾を放つかのように黒い礫となって弾けたのだ。
「ぎゃははははっ?!お前も闇に堕ちてしまえ!」
道魔の嘲りが部屋中に木魂する。
「マリアちゃん!」
ローラは自分が叫んだ声とは別の方角から聞こえたミハルの声を聞いた。
破られた扉から飛び込んで来たミハルの声を。
それは・・・ローラには信じられない光景になった。
闇の礫からマリアを救ったのは、魔鋼少女ミハル。
マリアを手で押し退け、身代わりとなって礫を受けるミハルの姿だった・・・
悪魔の飛礫がミハルを襲う!
闇の魔弾がミハルを捉えた!
輝の子を闇が襲った・・・
闇が光を捉えたというのなら。
闇より暗き者が現れ出る・・・<光と闇を抱く者>ならば。
次回 母と子 その想いは 第3話
今一度。彼女が現れ出る・・・怒りを孕んだ瞳で睨みつけて・・・