魔王 襲来 第7話
現れた第2の魔王リュックだったが・・・
相手を知った。知ってしまったのだ!
古の大魔王として君臨していた者を!
それは信じがたい光景だった。
それは魔王だとしても信じられない位の・・・
「余を斬るだと?
貴様などに余へ近寄れることなど無理。
我が軍勢を蹴散らすなど・・・考えることすら無駄」
口も動かさず、魔鋼の娘が言い放った。
「ぐぅっ?!」
敵意を抱いたリュック目掛けて、異能の奔流が押し寄せた。
「な・・・なんだと?!」
娘の背後に現れ出た巨大な円環。
蒼き光の中からは、闇と同時に数千万もの魔族が蠢いて観えた。
「余の配下がお前達など、たちどころに滅ぼそう。
消えたくばかかって来れば良い・・・そうでなければ二度と我が娘に手を出すな」
抗う術を奪われた。
二人の魔王には強大過ぎる相手であった。
後退る魔王達の前に、円環から飛び出て来た古の魔族達と死神達が嘲り嗤う。
「ちっ、畜生っ!」
舌打ちするのがやっと。
どうにか戦える相手ではあるが、あまりに多勢過ぎた。
「お前っ!今日は帰るが。このままで済むと思うなよ!」
虚勢を張るランドだったが、リュックに停められてしまう。
「ランド、何も言わずに帰るんだ。
この件は、新大魔王様へ直訴すれば良いのだ」
「わっ、分かったよ!」
口惜しがるランドとは対照的に、リュックは落ち着き払って見えた。
「その新大魔王とか言う小賢しい奴に言え。
余のモノに手を出すというのなら。
余の軍勢と闘う事になると・・・心しておけとな」
今の今まで動きを停めていたミハルが、急に強大なる魔力を手にする。
紫色は闇と光を共にした、聖邪混同の強大なる魔砲弾。
ざわ ざわ ざわ ・・・
控えに廻った配下の魔族が、懼れ怯えて平伏す。
「余の怒りを喰らう前に・・・
人の世界を二度と穢すなかれ・・・善いかっ!」
ミハルに宿った堕神が、二個の魔導弾と魔法弾を繰り出す。
「お前達の主に言っておくが良い!
この堕神であり古の大魔王ルシファーに楯突く者は、全て消し去ってやるとな!」
ざわ ざわ ざわ ざわ ざわ ざわ
名を名乗られた。
最早、殲滅は免れようもない。
あまりの強大さに、配下の魔族が何匹か煽られて消滅してしまう程。
「逃げるぞランド!」
結界を張った魔王ランドを片手で掴み上げて、円環の中へ逃げ込んだリュック。
ミハルから放たれた魔導弾と魔砲弾が、魔王達の居た場所で弾ける。
ズゥオオオオオオオオーッ
紅い瞳で逃げ去る者達を一瞥し、爆焔と共に結界が綻んだのを見上げる。
ざわ ざわ ざわ ざわ ・・・・
円環の中で控える魔族達が挙って堕神を崇め奉る。
数千の軍勢の中には、魔王級の4人が控え配下の魔族を統率している。
「ルシファー様、リュックとか申した闇剣士が再び罷り通した暁には。
この私目に相手を・・・所望する所存です・・・」
白銀色の髪で蒼き瞳の魔獣剣士が、深く首を下げて頼んで来る。
平伏する魔獣剣士を見下したミハルが、涼し気な紅き瞳を向けると。
「魔獣剣士にはそぐわないと思うよ?
ルシちゃんも、その時は必ず手助けしたいって言ってるもん。
だから、グラン君はミハル伯母ちゃんの危機に対処しておいてね?」
「ははっ、御意に。御姫君の申されるままに」
慇懃に首を垂れ、魔獣剣士グランが退かさがる。
「姫君、我等も。我が軍勢も、誓って御守りいたす所存」
3人の魔王達も、ミハルに平伏す。
「ルシファー叔父さんの言いつけを守ってくれれば善いんだよ?」
「御意・・・」
ふわりと身体を浮かせたミハルが、宿る堕神に訊ねた。
「ルシちゃん?もう帰っちゃうの?」
ランドの結界が崩れ行く中、少し悲し気にミハルが訊く。
宿っている堕神ルシファーの姿がミハルの前に現れて・・・
「そうだな、あの子が戻って来るだろうから。
堕神の姿を見せるのは忍び難いから・・・帰らなきゃいけないんだよ?」
大魔王としての威厳は、円環が消え去るのと同じく消滅した。
まるで姪っ子に話すような気さくな声で、ルシファーは答える。
「そっか・・・そうだよね。
ルシファー叔父さんは伯母ちゃんに弱かったんだもんね。
いいなぁ・・・愛されてる感じがして。」
「そうかい?ミハルに逢うのはもっと先になるだけのことだ。
女神になってしまってるからな、私とは対照的な存在に。
だから逢えないだけなんだよ?」
答えてくれたルシファーに、ミハルは背を向けたまま。
「ねぇルシちゃん。昔みたいに・・・だっこ・・・して?」
俯いて強請る。
「・・・お安い御用。おいで?」
腰を下ろす感覚。
精神世界での話だから、腰かけると言っても抱っこすると言っても。
「ああ、ルシちゃんの優しさが気持ちいい・・・」
ポツリと。
光と闇を抱く者として、ミハルは堕神に触れて喜んでいた。
「いつかは。
きっといつの日にかは・・・ルシちゃんといつも一緒に居られるようになるよね?」
「ああ。そうだよ、きっとその日は来てくれる。
私の可愛い娘と・・・永遠に一緒に居られる日が来る・・・」
・・・それが、喩え人の世界ではないとしても。
堕神ルシファーは言葉を飲み込み、ミハルの肩を撫でてやった。
古の異能に触れて。
産まれた時からずっと見守り続けてくれている男に触れられて。
「いつの日か・・・きっといつの日にか。
・・・お父さんって呼べる日が来れば良いのにね?
ねぇ、ミハエルお母様・・・」
顔を挙げたミハルが、蒼き光に映った母の幻影に語る。
「ルシちゃんとミハエルお母様が、人間界で願いを遂げられたのも。
ミハル伯母ちゃんの為せる技のおかげだったものね。
だからアタシをマモル君とルマままの子として遣わしたんだもんね?
本当のことを知ったら、ミハル伯母ちゃんが怒るもんね?」
「そうだな、コハルの言う通り。
私が人間界に蘇らないのは、ミハルと喋ってぼろを出さない為もあるんだよ?」
ルシファーが苦笑いする。
「でもね。
少しくらいは逢ってあげても良いんじゃないかな?
ずっとルシちゃんルシちゃんって、惑わせてるみたいだから」
またまた苦笑する堕神。
「コハルに言われちゃぁミハルも形無しだな。
まぁ、その内に・・・ね?」
ポンと頭を撫でたルシファーが、結界が消え去ろうとしているのを観て。
「ほら。あそこに居るよ?こっちをずっと監視してたんじゃないかな?」
「えっ?!もう・・・伯母ちゃんが?」
ミハルがルシファーから立ち上がった時、堕神の姿が薄れだす。
「コハル、我が娘よ。
必ずその時は来るから、私も心待ちにしているよ?」
堕神ルシファーが、魔法のリボンを指し出して来る。
紅いリボンに込められた想い。
父であることを隠して来た事への罪と想いが籠ったリボンを。
別れの時が来た。
再び逢えるのはいつの日だろう。
「ルシちゃん!また・・・また今度ね!」
リボンを受け取り手を振るミハルは、思いっきりの笑顔を溢す。
「コハル・・・健やかに。
我が娘よ、いつまでも傍で護っているから。
人の世で、一生懸命に生き抜くんだよ?」
消え去ったルシファーの声だけが残されていた。
これが最期の時ではないと・・・
「うん!分かってるよ・・・ルシファー大魔王」
乱れた髪のまま、ミハルは笑った。
どうやら、ミハルの正体は・・・
ルシファーとミハエルの娘?!
えっ?!
どう言うことなんだ?
美晴はマモルとルマの娘の筈では?
まさかの展開でも動じてないのが証拠なのでしょうか??
美晴益々、訳の分からない子だったのか・・・?
この件は重要ですのでお忘れなく。
次回 魔王 襲来 第8話
君はどうやって隠し通してきたんだい?女神が宿っているのに?!