皇都(インペリアルパレス)I魔鋼(マギメタ)M戦闘団(ストライカーズ)S 第7話
目標上空で。
戦術揚陸艦<大鳳>の魔鋼少女達が出撃準備に執りかかっていた。
二人以外は納得していた。
だが、この二人はいがみ合うかのように火花を散らしている。
「それじゃあ、判って貰えましたね?」
顔を引き攣らせた猫田2尉がとりなしても。
「嫌だ、どうして一緒に行かなきゃならんのらっ!」
「そうですよ!ボクだけで十分じゃないですか!」
同じ姿をした姉弟が文句を言い合う。
司令であるマモルが呼び出したのは、ローラの姉ノーラだった。
盗賊として捕らえられたノーラを味方につけたのはマモルだったらしいが・・・
「なぜなんですか?!
ノーラ姉さんとボクの能力に隔たりは無い筈じゃぁないですか!
それなのにどうして姉さんを一緒に連れて行かなきゃいけないんですか?!」
なるほど。
ローラの言うのも尤もに聞こえる・・・が?
「それはだな、猫田2尉が言った通りだよ。
この作戦の主眼、君達のお母様を救出する為に決まっているじゃないか」
マモルが苦笑いしてローラを諭そうとするが。
「でからどうして、同じ能力の持ち主が必要なんですか?
ボクの能力じゃ足りないとでも言われるのですか?」
食い下がるローラに、マモルも猫田2尉も笑うしかなかった。
「そうじゃないのよローラ君。
ノーラさんが必要なのはさっきも言った通り、案内役として必要だと判断したから。
道魔理事長とも面識があると告げたし、学校内も知るノーラさんだからこそ。
道案内としてはこれ以上ない人材でしょう?」
「それはそうですけど。
ボクだって道魔理事長を観た事がありますから。
校内だってある程度は分かりますし、なにより盗賊の姉さんを連れて行くのは・・・」
ローラが食い下がると、姉のノーラが進み出て。
「うんにゃ。ローラが知っているのは表向きの校舎だけだノラ?!
深部までは観た事が無い筈だのら、それに盗賊故に出来る事があるのだノラっ!」
上から目線でローラへ言って除ける。
「ローラには無理な事でも、このノーラ様には出来てしまうのだノラッ!」
「なんだよそれって?姉さんに出来てボクに出来ない事があるもんか!」
二人の間にまたもや険悪な空気が流れる。
言い返されたノーラが、パイロットスーツのローラを指差して。
「ローラちゃんはいつから女の子になったのら?
産まれた時から男だったよなぁ?
それがどうしてぽわわんな女の子姿になってるのら?
その姿自体が魔法で造られているのが、奴等に察知されると思わないのかのら?!」
「うっ?!そ、それは。
魔鋼の力を出すのに必要だからだよ!
男の子に戻ったら、察知能力が低下しちゃうからに決まってるじゃないか!」
ローラの秘密を知る姉ならでは。
その言葉に言い返したローラも、姉の秘密を知っていた。
「ボクの事を言うのなら。
ノーラ姉さんも、目の前に好きな物があったら手を出そうとするじゃないか!
魔法盗賊にならなくても、いつも自己欲に負けちゃうんだから!」
「にゃにをぅ?!変態弟に言われたくないわ!」
言い合い続ける二人の後ろで、ミハルとマリアが悶絶していた。
空いた口が塞がらない・・・とでも、言う風に。
「はっはっはっ!二人共仲が良いな」
破顔大笑するマモルが二人を仲裁しにかかる。
「どこがですっ!こんな姉さんと一緒にだなんて!」
「それはこっちが言うセリフなのらっ!」
つかみ合いにまでは発展してないが、今にも喧嘩が始りそうだ。
「よしよし。それではこうしようじゃないか。
ノーラ君はミハルと、ローラ君はマリア君と。
同じ目的だが、別行動としようじゃないか。
それなら顔を突き合わせないし、問題ないだろう?」
突然マモルが提案して来た。
それも予想範囲であったのか、猫田2尉はなにも文句を言わずに。
「そうですね司令官。
こうまで言い張る二人を無理に行動させては、作戦に齟齬を起こしかねませんものね」
却って勧めるように言い換えた。
「どうかな二人共。それで納得してみないか?」
マモルが念を押すと、姉弟は瞬間考え合うようなそぶりを見せたが。
「じゃあ、それで良いです」
「了解だのら」
渋々ながら納得したようだ。
「宜しい。それでは作戦決行といこう。
本艦は敵に邪操機兵が出現するまで、距離を保ち待機する。
4人は特殊装備で学校内に侵入、速やかに救出を目指せ!」
マモルが指令を下す。
「良いことみんな。
インターコムは常時解放しておく事。
それと万が一、危ないと判断したなら無理強いは禁物よ。
こちらには特務機関として秘密裏に行動しなきゃいけない話なのだから。
派手な戦闘は禁止しますからね。
相手が結界を張れば別だけど・・・それまではなるべく穏便に・・・ね?」
含みを持たせた猫田2尉の追加注意事項が示されて。
「じゃあ、4名は2班に分かれて行動しろ。
ただし、連携は必ず執るように・・・いいね?」
マモルが最期の指示を下すと、マリアが敬礼して受令を表す。
「マリア以下3名を以って、救出に向かいます!」
4名を微笑んで見送る猫田2尉。
4名が指令室から出ていく後ろ姿を、それとは対照的にマモルの眼が一人に向けられていた。
いいや、宝珠に・・・と、言った方が正しいだろう。
「ミハル姉さん、頼んだよ?」
そう、宿りし姉に託していたのだ。
もしもの場合、頼れるのは女神だけだと。
マリアとミハル、それにノーラとローラ姉弟が出発準備へと向かう。
<翔騎>格納庫に入った4人に、整備長が近寄ると。
「上空からの降下経験はあるな?」
訓練と実践で経験があるマリアとミハルだったが。
「この二人には少々きついかもしれんが。
まぁ、何とかなるだろう。二人がついていれば」
整備長は二人の魔鋼少女を信頼して言い切った。
ローラとノーラにはハングライダーなんてものに乗った事がある筈が無いから。
「あのぉ・・・どうやって降りるんですか?」
案の定、心細げにローラが訊いて来た。
「大丈夫だよローラちゃん。
マリアちゃんに任せておけばいいの、ねぇマリアちゃん?」
ミハルが事も無げにローラに答えると。
「そないな事言うて。ミハルの方は大丈夫なんかいな?」
マリアが、ミハルの背丈より幾分高いノーラをチラ見して訊く。
「うん!大丈夫だよ。イザとなったら振り落として着陸するもん」
「・・・マジかよミハル。振り落としたらアカンやろぉ?」
笑うマリアがノーラに聞こえるように話すと、案外ノーラには応えて無いようで。
「振り落とす?まぁ、着地出来るとこまで連れていかれたらな。
一人でだって母様を救出してみせるのら!」
対して気に留めて無いのか、判っていないのか。
大用なノーラらしい豪快な返事が返された。
「だ・・・そうで。
それならアタシも気が楽だから、ね。マリアちゃん?!」
ウィンクをマリアに。
ミハルが任せてよと胸を叩く。
「・・・十分心配やわぁ。
そやけど、ウチ等も手一杯やから。任せたでミハル!」
取り付いた整備員に装備を着けられて、マリアとノーラが降下口にと向かう。
「只今高度1000メートル。目標までの距離30キロ!
北東の風5メートルとしてランディングには注意されたし!」
「オッケィ!発進します!」
降下口にマリアとローラのペアが立つ。
「羽根展開!降下開始!」
整備員がブザーを鳴らすと、折り重なった二人の姿が消えた。
「ノーラさん、アタシ達も行きましょうか?」
ノーラと自分を繋いだワイヤーを確認して、ミハルが促すと。
「ちょっと・・・まさか。本当に飛び降りんのかノラッ?!」
「そうですよぉー、大人しくしててくださいねー(棒)」
やっと訳が解ったのか、ノーラが冷や汗を掻いていると。
「それじゃぁー・・・舌を噛まないようにしててくださいねー(棒)」
つんっとミハルがノーラを押し出す。
「え・・・にゃっ?!にゃんと?!」
既にノーラの足下が空中に代わっていた。
「ミハルっ!イッキマーす!!」
空中に躍り出たミハルとノーラが自然落下を始めた。
ハングライダーを展開し、目標の帝国学校を目指すのだった・・・
放たれた魔鋼の少女達。
彼女達が目指すのは人質の救出。
かくて、作戦は開始された。
マモルが願うのは4人の無事。娘の帰還・・・そして。
帝国学校に潜む闇。
彼女達、魔鋼少女の戦いが今、幕を切られる・・・
次回 魔王襲来 第1話
ミハルは無事に帰れるのか?ローラ達は母を取り戻せるのか?古来の力が目覚めんとしている!