ファーガス=カルロス
「お前、誰だ?」
そんな言葉を目の前に浮いている小人に言った。
「我は、ファーガス=カルロスなのだー。」
子供っぽい無邪気な声だった。
「はぁ、そういうことをいってるんじゃなくてだな。お前みたいなやつがどうして俺の目の前にいるかっていうことをいってるんだよ。」
「我の名は、お前ではなく、ファーガス=カルロスなのだー。」
「そういえば、自己紹介してなかったな。俺は皐月蒼だ。」
「そうかー。皐月蒼殿であるかー。我が皐月殿の目の前にいる理由は、皐月殿たちを1ヶ月後に我らの国、マグナス国に転移させるという通知をしに来たのだー。」
俺は「はっ?何言ってんの?頭おかしいの?」っと思ったが、俺の前に現れたやつは俺が知らない生き物だし、わけわからんくて当たり前かと開き直ってしまった。
詳しいことは教えてくれるだろう。
そう思って質問をした。
「聞きたいことがたくさんあるんだけど、一つづつ聞くぞ。」
聞いたことをまとめると、マグナス国というのは俺たちが言う異世界という意味が近いらしい。
近いというということは完全に異世界ではないということだ。
さらに、1ヶ月後に転移させるのは、今から何をしても阻止することはできないらしい。
勝手に決めてもらわないでほしい。
できればそんな厄介事に巻き込まれたくないのだが矯正というのなら仕方ない。
1ヶ月後といっているが実際は月が変わる瞬間に転移されるらしい。
そして、なぜマグナス国にいかなくてはならないのかと聞いたところ、答えることはできないっと言われた。
だが、現実世界と深く関わっていると言った。
決して現実世界が悪くなることはないという。
さらに、異世界では課題を達成することで現実世界に戻れるらしい。
大きな課題と小さな課題の二種類が用意されているらしい。
小さな課題をクリアすると一時的に戻れるが、再び1ヶ月たつと新しい小さな課題が出され異世界に転移されるらしい。
異世界にいっているの期間は現実世界では時間が止まっているらしい。
そして、大きな課題をクリアすると完全に現実世界に戻れるらしい。
今から1ヶ月は準備期間らしい。
さて、何を準備するのだろうか。
「ところで、小さな課題と大きな課題はいつわかるのだ?」
「今から発表するのだー。皐月殿の最初の小さな課題は、パーティーメンバーを組むことなのだー。そして、大きな課題は、楽しむことなのだー。」
パーティーメンバーというのは異世界で作れることなのだろう。
そして、大きな課題はなんというかとてもおおざっぱである。
楽しいと思えばクリアになるのか?
規定がはっきりしてなくてクリア基準がわからない。
さらに、俺は人生は楽しくないと思っている。妙に教師くさいな。
「さらに異世界での職業を発表するのだー。皐月殿の職業は剣士なのだー。我と一緒なのだー。」
ファーガスは空中で一回転した。
どうやら一緒な職業になったことが嬉しいらしい。
この1ヶ月の準備期間というのは職業のスキル上げをするということはできないらしい。
スキル上げは異世界に行ってからしかできないらしい。
以上のことを踏まえると準備期間と言っているが準備することはほとんどない。
することといえば課題達成に向けて考えることと、異世界に行く人を探すことぐらいだろう。
後者ができれば幸いだがそう簡単にうまくは行かないだろう。
ということだから情報収集でもしよう。
「俺たちって言ってたけど俺以外に何人位転移されるんだ?」
「正確な数字は答えられないのだが、約40人位なのだー。」
「ファーガスはいつまで俺のそばにいるのだ?」
「大きな課題をクリアするまでなのだー。」
「故郷に戻らなくても大丈夫なのか?」
ファーガスは一回転した。
自分の心配してくれたことが嬉しかったみたいだ。
「家族に会えないのは寂しいのだが、皐月殿がいるから安心なのだー。」
「そうか。俺は今から勉強するからあまり騒がないでくれよ。」
「我の存在は皐月殿にしかわからないのだー。」
どうやら、家族に迷惑をかけるために騒がないでくれと言ったと勘違いしたようだ。
「そういうことではなくて、勉強に集中するためだよ。」
「そうであるのかー。」
俺は勉強し始めた。
するとファーガスが
「皐月殿は何を書いているのだー?」
と言った。
どうやら、ファーガスは文字がわからないらしい。
「マグナス国では文字が違うのか?」
「違うのだー。けど、皐月殿たちには翻訳されて見えるから問題ないのだー。」
異世界で文字か見えないかもしれないという不安は杞憂に終わった。
これがファーガスに出会ってからの最初の1日目だった。
4月9日。
今日から授業が始まる。
ファーガスには学校にはついてくるなと言ったが行きたいと言って頑固になっていたため同行を仕方なく同行を許した。
学校では話しかけるなと忠告したが、話しかけて来るだろう。
そんなときは無視すればいいだけだ。
話しかけてくる時点で迷惑なのだが。
今日は一時間目が始まると同時に席についた。
授業は真面目に受ける。
努力なしで学年一位の学力をとっているわけではない。
昼休みになった。
俺は茉莉花と授業中に約束をしていた。
「蒼くん。一緒にご飯たべよっ!」
もちろんそんなことを俺にいってくる人は一人しかいない。
南沢茉莉花だ。
もちろん断りたいところだが、そうさせてくれないのが茉莉花だ。
「食べるよね?」
断る。と言おうと思って茉莉花を見ると口元は笑っているが、目が笑っていなかった。
しかも、まだ何もいってないのに左腕握ってくるのやめてくれる!?
断るという選択肢は最初から存在しなかったようだ。
「人目のつかないとこだったらいいよ。」
譲歩した結論だ。
ファーガスは「この子めっちゃ可愛いのだー!」っと耳元でいっていたが無視した。
「まあ、いいけど。」
茉莉花はちょっと納得がいかないようだ。
もちろんこの会話は周りの人には聞こえていない。
茉莉花は他の女子たちから一緒に食べようと誘われていたがすべて断っていた。
もちろん俺は誘われることなんかない。
悲しい現実だ。
俺と茉莉花は別々に屋上に向かった。
理由は、一緒にいるところをみられたくないためである。
茉莉花は別に見られたっていいじゃんっていっていたが俺は全然良くない。
常葉高校は屋上は普段閉められているっと言われているが実は開いている。
鍵が壊れたままなのだ。
「なんで鍵壊れてること知ってるの?」
「入学式の日、普通に屋上使えると思って使ったからだよ。その後、オリエンテーションで屋上が使えないって聞いて驚いたんだけどね。」
「へぇー。ところでさ、今日、授業中ちらちら私の方を見て話しかけようとしてたけど、何話そうとしたの?もしかして告白?」
茉莉花はけらけらと笑う。
しかし、俺が話しかけようとしたのは本当のことだ。
茉莉花はたまに俺のことを少し見透かしているなー。
「茉莉花、1ヶ月後にマグナス国っていうところに転移するだろ?」
俺が言いたかったのはこのことだ。
なぜ、この結論に至ったのかというと一つ目は、約40人が転移されると言ったことだ。
俺たちのクラスは36人だ。
約40人といっても当てはまる。
二つ目は、課題と言っていたところだ。
ゲームでは、このようなことを課題と言わずに試練とかミッションとかいうことが多い。
課題ということは少ないだろう。
課題というと学校をイメージさせる。
しかも、大きな課題が妙に教師くさく感じた。
この時点では可能性に過ぎなかった。
それでも、茉莉花に一応聞いてみようとは思った訳だが。
間違っていても適当にごまかせばいいだけだし。
しかし、三つ目でほぼ確信した。
それは、茉莉花と朝話していたときだ。
ファーガスの存在は俺以外には見えたり、聞こえたりしないといっていた。
だが、ファーガスの同族ではどうだろうか?
同族では存在が見え、話ももちろん聞こえるだろう。
にもかかわらず、ファーガスはわざわざ耳元で「この子可愛いのだー!」と言っていた。
その時俺は茉莉花のことが可愛いと言っているのかと思ったが耳元でいう必要性は皆無だ。
よって茉莉花にもファーガスみたいな存在がいると予想したわけだ。
「えっ?なんで知ってるの?」
俺がこの結果になった理由を茉莉花にも言った。
ファーガスが茉莉花の小人を可愛いと言っていたことは伏せといてあげた。
「俺はクラスメイト全員が転移の対象だと思う。そこでクラスのみんなに言うか言わないかは茉莉花に任せようと思う。」
「口を挟んで悪いけどうちのクラスで選ばれたのはあなたたち二人だけよ。」
大人っぽい声がした。
目の前にいたのはピンク色の髪の毛をした小人だった。
さらに右手には杖を持っていた。
ファーガスが言った通り可愛かった。
俺は、可愛いというよりきれいだと思ったが。
「紹介が遅れたわ。私はマリッサ=カテリーナよ。あなたが私を見ているのは私があなたにみられることを許可したからよ。」
「マリ。急に出てきたら蒼くん驚くよー。」
マリとはマリッサの略称である。
「急に出るしか方法がないからしょうがないでしょ。」
「話戻すけど、クラスで選ばれたのはのは俺たちだけっていうのは本当なのか?」
俺は自分の予想が外れたと思わなかった。
選ばれた人に共通することは何だろうか。
適当に選ばれただけなのか。
いろいろ謎だが犯人には動機があるはずだ。
「そうよ。なんであなたたちが選ばれたのかは私も知らないわ。けど、あなたたちに1ヶ月の準備期間という名の猶予時間を与えてくれるからいきなり行くよりマシだと思うけどね。」
マリッサの言うとおりだ。
いきなり異世界に行くなんて勘弁だ。
さらに無理だと思っていた、異世界に行く人も発見することができたから良かった。
「あっ、蒼くん。蒼くんの職業って何?」
「俺は剣士だ。」
「そうなんだー。」
「「…………」」
数秒沈黙が続いた。
茉莉花は「何か言うことがあるでしょ。」みたいな顔をしているが何を言えばいいのだ?
「ねぇ、なんで私の職業のことは聞いてくれないの?」
茉莉花はとても不満げな声で言った。
「あー、分かってるから聞く必要ないかなーって…。」
「分かってるかるってなんで聞かないのよ。私が聞いたらあなたも同じように聞くのっ!わかった?」
「分かってるのに何で聞かなくてはいけないの?」っていうことは言えなかった。
そんなこと言ったらまた腕握られる。
怖い。てか、理不尽すぎない!?
ここは素直に受け取っておこう。
「分かった。」
「ならいいわ。ところで何で私の職業わかるの?聞くのが恥ずかしかったから思わず言い訳しちゃった?」
けらけらと笑う。
まあ、楽しそうでなによりだ。
「まあ、俺は分かったのは茉莉花の小人を見たからだよ。俺の職業も小人と同じ。っていうことは人間に付いている小人と一緒な職業っていうことだ。その事をふまえると魔術師?神官?と言ったところかな。」
「蒼くん頭良すぎない?私の職業は魔術師で合ってるわ。」
「一応、学年一位だからな」
「へぇー。一位はだてじゃないっていうことね。ついでに課題も共有しない?お互いの課題を手助けできるかも知れないわけだしね。」
「そうだな。俺の小さな課題はパーティーを組むこと。大きな課題はボスを倒すことだ。茉莉花はどうなんだ?」
俺は大きな課題は嘘をついた。
理由は二つある。
一つ目は、楽しむことと言っても冗談見たいにしか聞こえないだろう。
二つ目は、今は楽しんでないの?っと不安に思わせるからだ。実際、俺は人生を楽しいと思っていない。なぜ、茉莉花に不安に思わせたくないのかはわからないが、自然とそういう気持ちになってしまう。
そして、茉莉花にも同じことを質問することを忘れずにした。
怒られるの嫌だからね。
「そうなんだー。私の小さな課題は君と同じでパーティーを作ることだったよ!大きな課題も君と同じだったよ!」
「全員最初の小さな課題と大きな課題は同じなのかもしれないな。」
俺はこんなことを言ったが実際はそんなことはない。
小さな課題は一緒かもしれないが大きな課題は絶対にみんな一緒ではない。
茉莉花も大きな課題は嘘を付いている可能性がとても高い。
いや絶対嘘だろう。
嘘をついたのは何故かわからないが。
そして俺たち二人(小人二人も)と共に昼飯を食べながら異世界について話した。
すぐに昼休みが終わり別々の時間で教室に戻ることにした。
「じゃーねー。蒼くん。」
「ああ。」
茉莉花は屋上から降りていった。
降りていく姿が完全に見えなくなった。
「何故皐月殿は嘘をついたのだー?」
ファーガスはやはり気になったらしく質問してきた。
どう答えるか悩んだすえ、答えた。
「秘密だな。」
「ひどいのだー。ひどいのだー。」
ファーガスはしつこく聞いてきたがすべて無視した。
こんな会話が少し楽しいと感じてしまった自分に対して不思議に思った。