表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/12

十話

 お金が貯まってくると、ある程度、欲しいものを買ってみようかという欲が出てきました。


 まるで執筆部屋のようなセッティングを夢見ていました。

 いろいろ買いそろえて、自分の妄想に近づけていきます。現実の齟齬にぶつかり、平気で計画が一ヶ月以上延びることもありましたが、気が向いたときでもいいから、と自分に言い聞かせてやり続け、完成形に近づきました。


 これで、僕はいつでも自分の部屋でリラックスできます。


 満足に落ち着いて、トイレの小休憩を挟みました。そのとき、親の部屋が目にとまりました。現実が、僕に追いつきました。


 忘れていました。

 僕は、いつだって、妄想と現実の齟齬が大きかったのです。


 アルバイトの僕より稼いでいるはずの親の部屋は、僕よりみすぼらしかったのです。古い服、古いタンス、へこんだ畳、汚れた布団。ここ数年、何もかも買い換えてないと分かる有様です。

 埃だってたまっていました。綿が巨大な塊を作っていました。

 綺麗に整えていたのは、キッチンとリビングのみ。あとはぜんぶ、ほったらかし。


 彼らのことですから、怠けているのではありません。

 手が、回らなかったのです。


 自分のことだから、と後回しになっているのです。


 では、何のために、リビングやキッチンは綺麗なのでしょうか。客人のためもあるでしょう。それでも、僕は、彼らのやりたいことがわからないほど、鈍感ではありませんでした。


 そうか。

 と、腑に落ちて、自分がまた嫌いになりました。


 いつだって、そこに僕が一緒にいました。

 だから。だから。だから。


 両親は、もう高齢になっていました。

 あと五、六年で定年だと話していたのを覚えています。毎日、僕よりきつい仕事をして、お金だってあるはずのなのに、僕よりみすぼらしいのです。


 お金は、どこにいったのでしょうか。

 どこにかけているのでしょうか。


 学生時代から迷惑ばかりかけて、外で少しだけ働けるようになって、うぬぼれていた自分が嫌になりました。


 僕は、どこまで愚かなのでしょうか。

 甘えが、自覚ないところまで行き着いた様が、この惨状を作り上げているのでしょうか。


 大人になりきれていない自分が嫌いです。

 子どものままの自分を殺したいです。


 そう思っていながら、泣きたいほど悔やんでいながら。

 どうしてでしょう。


 僕は、それでも自分が苦しむ道だけは選べないでいました。

 親の部屋の有様を見て、僕は立ち竦んでいましたが、そのまま部屋に戻ってしまうのです。自分の行動を改めもしませんでした。


 わかっています。

 こんな僕も、大嫌いで。

 甘えてしまうのです。


 今日は大笑いをしてしまいました。自分の部屋で、まるで執筆部屋のような完璧なものを見て。

 笑って、嗤って、泣いて、泣きました。


 愚か、愚か愚か愚か、愚か愚か。


 僕は、屑です。もはや、モノですらないでしょう。

 だから、ここになって、ようやくわかるのです。


 僕が何を一生懸命作り上げていたのかを。

 叶いもしない夢の幻を追って。

 届きもしない未来に目が眩んだままでいて。


 せっせとお金を作り上げたのは、理想の箱でした。


 こう生きたい。

 こうやりたい。

 こう、死にたい。


 僕は、ろくに努力もせず。

 成果も出さず。

 目標に繋げる苦労から逃げて。


 自分の人生の完成形、その模造を作っていたのです。


 誰か嗤ってください。

 愚かだと罵倒してください。


 お願いします。責めてください。許さないでください。

 放っておかないでください。

 無視しないでください。


 どうか、どうか、どうか、どうか。


 僕の背中を押してください。

 こんな、甘えた現実から、本当のいるべきところへ。

 どうか突き落としてください。

続きます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ