十話
お金が貯まってくると、ある程度、欲しいものを買ってみようかという欲が出てきました。
まるで執筆部屋のようなセッティングを夢見ていました。
いろいろ買いそろえて、自分の妄想に近づけていきます。現実の齟齬にぶつかり、平気で計画が一ヶ月以上延びることもありましたが、気が向いたときでもいいから、と自分に言い聞かせてやり続け、完成形に近づきました。
これで、僕はいつでも自分の部屋でリラックスできます。
満足に落ち着いて、トイレの小休憩を挟みました。そのとき、親の部屋が目にとまりました。現実が、僕に追いつきました。
忘れていました。
僕は、いつだって、妄想と現実の齟齬が大きかったのです。
アルバイトの僕より稼いでいるはずの親の部屋は、僕よりみすぼらしかったのです。古い服、古いタンス、へこんだ畳、汚れた布団。ここ数年、何もかも買い換えてないと分かる有様です。
埃だってたまっていました。綿が巨大な塊を作っていました。
綺麗に整えていたのは、キッチンとリビングのみ。あとはぜんぶ、ほったらかし。
彼らのことですから、怠けているのではありません。
手が、回らなかったのです。
自分のことだから、と後回しになっているのです。
では、何のために、リビングやキッチンは綺麗なのでしょうか。客人のためもあるでしょう。それでも、僕は、彼らのやりたいことがわからないほど、鈍感ではありませんでした。
そうか。
と、腑に落ちて、自分がまた嫌いになりました。
いつだって、そこに僕が一緒にいました。
だから。だから。だから。
両親は、もう高齢になっていました。
あと五、六年で定年だと話していたのを覚えています。毎日、僕よりきつい仕事をして、お金だってあるはずのなのに、僕よりみすぼらしいのです。
お金は、どこにいったのでしょうか。
どこにかけているのでしょうか。
学生時代から迷惑ばかりかけて、外で少しだけ働けるようになって、うぬぼれていた自分が嫌になりました。
僕は、どこまで愚かなのでしょうか。
甘えが、自覚ないところまで行き着いた様が、この惨状を作り上げているのでしょうか。
大人になりきれていない自分が嫌いです。
子どものままの自分を殺したいです。
そう思っていながら、泣きたいほど悔やんでいながら。
どうしてでしょう。
僕は、それでも自分が苦しむ道だけは選べないでいました。
親の部屋の有様を見て、僕は立ち竦んでいましたが、そのまま部屋に戻ってしまうのです。自分の行動を改めもしませんでした。
わかっています。
こんな僕も、大嫌いで。
甘えてしまうのです。
今日は大笑いをしてしまいました。自分の部屋で、まるで執筆部屋のような完璧なものを見て。
笑って、嗤って、泣いて、泣きました。
愚か、愚か愚か愚か、愚か愚か。
僕は、屑です。もはや、モノですらないでしょう。
だから、ここになって、ようやくわかるのです。
僕が何を一生懸命作り上げていたのかを。
叶いもしない夢の幻を追って。
届きもしない未来に目が眩んだままでいて。
せっせとお金を作り上げたのは、理想の箱でした。
こう生きたい。
こうやりたい。
こう、死にたい。
僕は、ろくに努力もせず。
成果も出さず。
目標に繋げる苦労から逃げて。
自分の人生の完成形、その模造を作っていたのです。
誰か嗤ってください。
愚かだと罵倒してください。
お願いします。責めてください。許さないでください。
放っておかないでください。
無視しないでください。
どうか、どうか、どうか、どうか。
僕の背中を押してください。
こんな、甘えた現実から、本当のいるべきところへ。
どうか突き落としてください。
続きます。




