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第十六話 美咲の夢

「正樹、見て! さっきの数学の時間に返ってきたの。私こんな良い点とったの高校に入ってはじめてよ。」


美咲はこの間の平常考査のテストで75点の答案がかえり、嬉しさのあまり正樹の教室まで押しかけていた。美咲が喜び勇んで入ってきたのに正樹は何事かと思ったが、事がわかると冷ややかに美咲に言った。


「何で俺に見せに来るんだよ。和明の所に行って礼を言うのが筋だろう。」


正樹の言葉に美咲は顔を曇らせて返事した。


「先に和ちゃんの所に行ったんだけど・・。」


「?」


「たくさん男の子が和ちゃんの側にいたから声かけづらくて・・。」


「ほんとに世話が焼けるな。ほら、一緒に来い。」


正樹は美咲を連れて少し離れた和明のクラスへと向かった。昼休みのせいか教室にいる生徒はまばらでその中に和明の姿はなかった。正樹は見知った男子生徒をつかまえ、和明の所在を聞いてみた。


「いつもの呼び出しじゃないか、そこの階段を下りていったから。」


体育館に向かう階段を指差して教えてくれた。正樹は美咲の困惑した顔を見て一瞬どうしようかと思ったが、結局そのまま階段を駆け下りて和明を探しに行った。


「ごめん、他に好きな人がいてるから、君の気持ちには応えられない。」


体育館の側の裏庭で和明と女子生徒が向かい合い、話をしていた。美咲はびっくりしてその場を離れようとしたが、正樹に腕をとられそのままその場に立ち尽くしていた。やがて女子生徒は立ち去り、和明が教室に戻りかけた時、正樹が声をかけた。


「和明、今ちょっといいか。美咲がおまえに話しがあるそうだ。」


和明はびっくりして二人の方に視線を向けた。美咲はさっきの二人の会話を思い出し、聞いてしまったことに罪悪感を感じていた。


「いつからそこに?」


「ご、ごめんなさい。立ち聞きするつもりはなかったんだけど・・」


「美咲、気にするな、いつものことだよ。それじゃ、俺は行くから。」


正樹はもと来た道を引き返していった。その場に二人だけが残り、気まずい空気が流れている。美咲はこんなとこまで連れてきた正樹に心の中で怒っていた。和明もばつが悪そうにあらぬ方向を向いている。


「あの、和ちゃん、もしかして怒ってる?」


「え?」


「あの、ううん、いいの。」


「何、話って。」


「あの、この間の試合惜しかったね。最後のロングシュートすごかった。観にいってとても楽しかった。」


「美咲の応援の声、聞こえたよ。ちゃんと届いた。ありがとう。」


和明はやわらかく微笑んで美咲を見つめていた。美咲も頬を赤くして笑った。


「和ちゃんのおかげで数学のテストうまくいったの。そのお礼が言いたくて。本当にありがとう。」


「いや、美咲が頑張ったからだよ。わからないとこあったらいつでも聞きにきて。いや、一緒に勉強しようか。水曜日は空いてないの?」


「い、いいよ、悪いし。和ちゃんの好きな人に一緒にいるところ見られたら、まずいじゃない。」


「別にまずくないよ。美咲、数学できないと困るだろう。理系に進むんだから。」


「へ?」


「違うのか?」


「何で理系に行くって知ってるの?」


「昔言ってたじゃないか。薬の研究して病気の人を助けるんだって。」


昔、祖父母がなくなった時、もっといい薬があれば助かったのではないかと子供心に思ったのだ。あの時、大きくなったら新しい薬を作るといった美咲の言葉を和明は覚えていた。


「覚えてたんだ、私が言ったこと。昔・・おばあちゃんがなくなった時、和ちゃんが言ってくれたでしょう。私が覚えていたらおじいちゃんもおばあちゃんもずっと覚えているって、私今も信じているのよ。」


「ああ、そうだな。今もきっと応援してくれてるよ。薬科に進むんだろう。しっかり数学もやっとかないとな。」


「そう、薬剤師の免許とって薬の研究者になろうと思ってる。和ちゃん、教えてくれるの?私のためにいいの?」


「ああ、一緒に勉強しよう。来年は三年だもんな、しっかりやらないと。」


和明は美咲の顔を優しい眼差しで見つめていた。薬科に進もうと具体的に考え始めたのは最近でまだ誰にも話していなかったのに、和明は昔自分が言ったことを覚えていた。昔から手を差し伸べてくれていた和明が、今でも変わらずにそこにいてくれる。美咲は嬉しさのあまり、目頭が熱くなって一筋の涙がほほを伝った。


「み、美咲、どうしたんだ? なんで・・。」


和明は急に泣き出した美咲に驚いて慌てた。いったいどうしたというんだ。


「ううん、なんでもない。和ちゃん、本当に昔と全然変わってないんだ。なんか、嬉しくて。もし、迷惑だったらすぐに言ってね。もし、和ちゃんに彼女ができたら私すぐに離れるから。」


「・・俺が好きなのは、・・」


和明は真剣な顔で美咲に何か言いかけたが、ちょうど昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴り、水曜日の放課後に図書室でと慌てて約束を交わした二人はそれぞれの教室へと向かった。



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