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第十五話 和明の誤解

バスケットの試合が始まった。中学の時のように正樹と和明が一緒に同じコートの中を走っている。二人の息は今でもぴったりで、ゴール下までパスをつなぎどんどん点数を重ねていった。昔はあの二人の間に自分も入っていたんだなとふと美咲は思う。昔も鈍くさかった自分のことだ。二人はきっと自分に気をつかって遊んでいたんだとコート内を自由に動き回っている姿を見てそう思った。美咲はぼぅっと試合を見ていると休憩のホイッスルが鳴り、急に我に返った。


「向こうのチームさすがに強いね。どっちが勝つかわからないよ。」


「え、ああ、そうだね。」


少しの休憩を挟んで試合は再開された。バスケットが強いと有名な高校相手に和明達も健闘している。両校の応援も白熱した試合にどんどん力が入っていった。どちらが勝つかわからないほとんど五分五分の試合に応援席も固唾を呑んで見守っている。美咲は和明の姿を追いかけ、頑張れと心の中で何度も繰り返していた。和明の所にボールが回り、正樹にパスしようとするが何人もの選手に阻まれうまくいかない。ドリブルの音が体育館内に響き渡っている。美咲は思わず立ち上がり、他の生徒と同じように叫んでいた。


「和ちゃん、頑張ってー!」


美咲の応援が届いたかどうかわからないが、和明はそのままジャンプしてかなり向こうに見えるバスケットへボールをシュートした。ボールは吸い込まれるようにかごの中へと落ちていった。一瞬の静寂の後、割れるような歓声が上がる。和明の肩をチームのみんなが叩き、成功を称えた。和明の嬉しそうな顔が美咲の目にも映る。試合を観に来てよかったと美咲は正樹に感謝した。


「結局負けちゃったね、もう少しだったのに・・。」


試合の帰り、美咲と久子はファーストフードのお店でハンバーガーをほおばっていた。


「そうだね、惜しかったね。たったの3ゴール差だもん。インターハイ候補によく健闘してたよ。すごいよ。」


「インターハイ候補?すごいとこと試合してたんだね。」


「美咲、知らなかったの?」


「うん、正樹も何にも言わなかったし。へぇ、すごいね。」


「正樹君、部員じゃないのに上手かったね。バスケやってたらかなりいけたんじゃない?」


「うん、たぶんね。でも今は美術部だから。」


二人はさっきの試合の興奮が冷めず、話に花を咲かせていた。とりとめのない話を繰り返しているうちに店の中へ見知った顔が入ってきた。正樹達が打ち上げのため、店の中へとクラブのみんなと入ってきたのだ。相田がいち早く美咲を見つけて嬉しそうに声をかけてきた。


「沢中、偶然だな。さっきは応援ありがとな。なぁ、ここにすわってもいいかな。」


相田は美咲達と後ろにいる正樹たちとを見合わせた。和明も後ろから入店し、美咲を見て目を見開いた。二年生ばかりバスケ部の男子生徒がどうしようかと立ちすくんでいた。その中に試合が始まる前に和明と話していたポニーテールの女の子の姿もあった。美咲は和明の側に立つその子の方に視線を向ける。正樹は和明の顔をちらっと見てから仕方ないというように美咲の側に立った。


「美咲、少し奥に寄ってくれ。おまえ、もうすぐ帰るんだろう。」


「えっ、ああ、うん。」


美咲は正樹に促されて出口に近いほうへ席を詰めた。


「正樹、美咲ちゃんに邪険にするなよ。まだ帰らないよな。」


相田に名前を呼ばれて美咲はびっくりして顔を向けた。正樹は相田のストレートな表現に苦笑するしかなかった。和明もこれぐらい素直になれば簡単なのに・・。思わずため息がでてきそうだ。和明もじっと相田の顔を直視している。他の部員も正樹に習い、順番に席についた。美咲の隣に正樹が並び、久子の隣に相田が座った。和明も仕方なしに、一番離れた席に座っている。それぞれが注文を決めてきてやっと席に落ち着いた。


「沢中、これから君のこと美咲ちゃんと呼ぶことにしたんだ。ここにいるお兄さんと相談してな。沢中が二人いるとややこしいだろう。」


美咲は相田の言葉にはにかんでうなづいた。確かにややこしいかもしれない。


「相田君、惜しかったね。もうちょっとだったのに。」


「まぁ、あれだけやりゃ十分だよ、なんせインターハイ候補だったからな。正樹も飛び入りにしちゃ上手かったもんな。なんでバスケに入らなかったんだ?」


「正樹、美術部に入ってるの。またこれがすごい下手くそで・・。中学の時はバスケやってたんたけどね」


「美咲、もういいよ。おまえ、まだ帰らないのか。」


「そうだね、もう帰ろうか。久子」


「まだいいじゃないか。それより、二人あんまり似てないな。そう思わないか、森野。」


「二卵性だからな。目元が似てるってよく言われるけど、どうかな。」


「うん、似てるよ。やっぱり兄弟だね。」


四人で話がどんどん進んでいった。はじめはその場が白けていたが、相田のいつもの気さくな雰囲気のせいか久子も緊張が解けて楽しく盛り上がっていた。遠めに美咲を見ていた和明は相田と楽しそうに会話している姿にいたたまれなくなったのか先に帰るといって店を後にした。正樹はその様子を見ていたが席も遠かったので、仕方なくその背中を見送った。その後を前の席に座っていたマネージャーの藤井理沙が追いかけた。


「寺西君、急にどうしたの?もう帰るの?」


「藤井さん、悪い。疲れたから先に帰らせてもらうよ。みんなによろしく言っといて。それじゃ。」


和明は走ってその場から離れていった。美咲の姿を体育館の中で見つけたときはとても嬉しかったが、相田と楽しそうに話す姿は見たくなかった。美咲が相田と付き合いだすのも時間の問題かもしれない。和明はスポーツバッグを反対の肩にかけなおし、駅への道を急いだ。



結局、美咲はその後正樹と一緒に家路を進んでいた。相田は名残惜しそうに美咲の方を見ていたが久子に引っ張られるように反対の駅のホームへと入って行った。


「正樹、頑張ってたね。試合観にいってよかった。楽しかったよ。」


「ああ、惜しかったな。もうちょっとだったんだけどな。最後の和明のシュート見たか、あれはすごかったな。美咲が応援に来てたからだな。」


正樹はからかうような視線を美咲に向けたが、いつもの反応は返ってこなかった。


「和ちゃん、何か元気なかったね。私、和ちゃんにこの間のテスト勉強のお礼言おうと思ったんだけど声かけられなかった。何か避けられてたのかな。」


「そんなわけないだろ。試合のことで緊張してたんじゃないか。それより、おまえ相田とえらく仲いいんだな。」


「ええ? そんなことないよ。席がとなりでよく話しかけられるからかな、全然気を使わないでいい人なの。ただそれだけよ。」


「向こうはそう思ってないみたいだけど。」


「ええ? 何言ってるの、いいかげんにしてよ。」


「ほんとにおまえのその鈍さは筋金入りだな。いい加減どうにかしてほしいんだが・・。」


「正樹、私のことバカにしてるの?」


正樹は大げさにため息をついて睨んでいる美咲の顔を一笑した。


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