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第十四話 応援してくれ

翌日、美咲は足の怪我のためいつもより早めに家を出た。一晩でだいぶ足の腫れはひいたがやはり歩くのが少しつらい。正樹がまた和明に送ってもらえといっていたがあまりにも悪いので、辞退した。いつもと同じように家から出て、坂道を下り、左に曲がろうとしたその時、後ろから声をかけられた。


「美咲、おはよう。」


振り返ると和明が自転車にまたがり美咲のほうに手招きしていた。美咲はびっくりして和明の顔を見ていたら、早く後ろに乗るようにと側へ来て促してくる。


「和ちゃん、どうして・・。いつから待ってたの?」


「少し前だよ。足、大丈夫か?」


「大丈夫だよ。腫れもだいぶひいたし・・。学校まで送ってくれるの?正樹が無理言ったんでしょう?」


「違うよ。自転車どうせ返さないといけないし、さあ、乗って。」


二人は自転車で、まだ通学時間には少し早い空いた道路を進んでいった。美咲は昨日、一緒に帰ったことも夢みたいだと思っていたのだ。また一緒に学校へ向かっていることが信じられなかった。


「和ちゃん、今度のバスケットの試合、正樹も出るんだってね。私、応援に来るように言われてるの。いっぱい学校の子、観に行くのかな。」


「ああ、正樹に無理に頼んだんだ。一人怪我で出られなくなったから.・・相田も試合に出るよ。」


「えっ・・。相田君?ああ、私同じクラスなの。そうか、相田君も出るんだ。」


美咲は知っている人の名前が出てきて、素直にうれしくなって声を上げた。自転車の後ろに乗っている美咲には、その時の和明の顔が沈んだのをうかがい知ることはできなかった。


学校に近づくにつれ、制服姿の人がちらほら見うけられる。美咲は和明の後ろに座っているのを見られるのが恥ずかしくなり、学校の手前で降ろしてもらおうと和明に頼んだが結局、門のところで自転車は止まった。何人もの生徒が不思議そうな視線を二人に投げかけていく。何の接点もなかった二人がいきなり自転車の二人乗りで登校する姿は、日頃から目をひいていた和明だけに学内のうわさにされるだろうことが容易に想像できた。

美咲はあわてて和明に礼を述べ、目を合わすこともなく生徒たちの間に紛れていった。


「おはよう、沢中さん、今日は早いね。さっき二組の寺西君と一緒に登校してたでしょ、いつから付き合ってるの?」


「違うわ。たまたま一緒になって足を痛めてたから送ってもらったたげよ。付き合ってなんかない。」


いつも話しもしたことのない学友から問いただされた。今日一日のうちに何回同じことを聞かれるだろうかと想像すると憂鬱になってきた。小学校の時にも和明とのことで冷やかされた。高校生になっても和明のすぐ側にいると周りに色々言われるのかと少し落ち込んでくる。


「美咲、おはよう。」


久子が美咲の姿を見つけて声をかけてきた。


「おはよう、久子。昨日はどうだった?正樹、ちゃんと数学教えてくれた?」


「うん、ありがとう。本当に嬉しかった。勉強は私かなり舞い上がっててよく覚えてないの。でも、これで十分。一生の思い出にするわ。」


「そんなオーバーな。また一緒に勉強すればいいじゃない。正樹に言っとくわ。」


「やめて、本当にいいの。正樹君も他に好きな人いてるわよ。私なんか迷惑なだけよ。」


「なんでそう思うの?正樹もまんざらじゃなかったと思うんだけど・・。そうだ、土曜日にバスケの試合があるの。一緒に観においでって正樹が言ってたから。一緒に行こう。」


二人は週末の試合を観にいくのを楽しみにしていた。




土曜日の朝、正樹が家を出るのを見送った後、美咲は久子と連れ立って隣町の高校へと向かった。体育館の中はたくさんの両校の生徒たちが応援に来ていた。バスケットボール部の面々が体慣らしにドリブルやシュートの練習をしている。その中に和明の姿を見つけた美咲は嬉しくなりとっさに声をかけようとしたが、急に声をひっこめた。おそらくマネージャーであろうか同じユニフォームを着てすらっとしたポニーテールのきれいな女の子が和明の側へと駆け寄ったのだ。美咲は二人から目が離せなくなった。その時、大きな声で美咲を呼ぶ声が聞こえてきた。


「沢中! 沢中、こっちだ。応援にきてくれたのか?」


同じクラスの相田卓真がコート内から大きな声で美咲の方に声をかけていた。その声に近くにいた正樹と和明がびっくりして振り返っている。


「ああ、悪い。おまえも沢中だったなあ。ややこしいな・・。美咲、しっかり応援してくれよ。」


相田は振り返った正樹の顔を見て、口角をあげ美咲の名前を呼び捨てで呼んでいた。あっけにとられた正樹に悪びれもせず笑顔を向けている。


「おまえたち、双子なんだよな。ややこしいから下の名前で呼ばせてもらうよ。美咲とは今隣の席なんだ。よくおまえのこと話にでてきて、一度話してみたかったんだ。」


屈託のない明るい相田に正樹は少し面食らったが悪いやつじゃなさそうだと思った。


「俺は別に呼び捨てでいいけど、美咲はちょっと・・。」


「そうか、なれなれしすぎるかな・・美咲ちゃんにするよ。彼女いい子だよな。結構狙ってるやついてるんだぜ。おまえも結構有名だもんな。今日は頼むぜ、寺西の推薦だから間違いないだろうけど。」


和明は憮然とした顔でコート内へ視線を向けていた。その横顔をチラッと見て正樹は相田に応対した。


「美咲と仲がいいのか?ちょっと鈍くさいだろう、あいつ。俺の妹にしてはキレが悪いな。」


「おまえ、自信家なんだな。同じ兄弟でもだいぶ性格が違うようだ。美咲ちゃんは、あのおっとりしたところがかわいいんだよ。おまえにはわからないのかもしれないが・・。」


正樹と相田がなにを話しているのかと美咲はじっと見ていたが、わからなかった。和明は美咲の方を振り返り二人の視線が一瞬あったが、美咲が手を振ろうとする前に逸らしてしまった。どうしたんだろう。和明の様子がいつもと違うような気がして美咲は落ち着かなかった。相田と話していた正樹も美咲の方を見やると隣にいる久子とも目が合った。正樹は軽く右手を上げると踵を返し、和明の肩をたたいて二人でコートの中央へと進んでいった。

 

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