終章
シャン・・・シャン、シャン・・・・
境内の社殿から、巫女の華麗な神楽舞いを演じる鈴の音が聞こえてくる。
白い小袖に緋色の袴。
襟には襦袢の赤が覗いている。
上着に千早を羽織って、赤い胸紐を結んでいた。
後ろ髪は長く絵元結にして垂らして、頭に天冠を頂く。
足は白足袋で、手には採り物として、五色布の神楽鈴を持っていた。
シャン・・・シャン、シャン・・・・
巫女の鈴音が邪気を祓い、周囲を浄化していく。
『楠公墓地』の楠の巨木が、静かな時を刻んでいる。
木々の葉が触れ合う音。
小鳥たちの囀り。
温かな木漏れ陽。
土と緑の香りが、心地良い。
その楠の巨木の下で、
女の子が、楠の大樹に寄り添う。
シャン・・・シャン、シャン・・・・
シャン・・・シャン、シャン・・・・
女の子が見つめる先に、どこまでも続く蒼い空が広がっている。
楠が逞しい枝を伸ばし、天へと届いていった。
楠が空に浮かんで、女の子は天へと昇っていく。
幸せそうに微笑んでいる。
巫女は、それに応えて舞い踊る。
そうだ、これが本当の世界なのだ。
素晴らしい世界が、ここに広がっていた。
愛真は、言っていた。
「この世界は素晴らしいよ」
「だからね。私は一生懸命に生きてきたんだよ」
どんなに辛くても、本当に素晴しいと感じられるように努力をしていたのだ。一生懸命に生きていく。そうすれば、この世界は素晴らしいものになる。
夜月は、悟った。
今まで何をしていたのだろうか。折角、愛真が悪魔を消滅させてくれた素晴しい世界なのに、何故一生懸命に生きて行こうとしなかったのだろうか。
「死んでも意味はあるんだよ」
「ミツキが覚えてくれているよ。一生懸命に生きていた女の子がいたってね」
「それで十分だよ」
そうだ。夜月が覚えている。愛真の笑顔。愛真の言葉。愛真の優しさ。そして、愛真の悲しみ。全部覚えている。
夜月の胸の中には、愛が満たされていった。もう時を戻る力なんか必要なかった。