テンプレ異世界冒険
冒険者に同行を頼まれた。
どうやら凧が巧く飛ばせないらしく、現地でレクチャーしてくれと言うんだ。
やはり町とか近くで飛ばすのは相変わらず禁止らしく、どうしても現地でやる必要があるんだけど、以前行った時にはどうしても飛ばせなくて、そのまま帰る羽目になったらしい。
それと言うのも途中に火トカゲの生息域があるらしく、そこを夜に通過するのでそう何度も行けない場所らしい。
なので次には確実に狩りがしたいので、頼むから同行してくれと言うんだ。
「そのトカゲの生息域って広いの? 」
「道は平坦だけど、やっぱり危険だからな、走って移動するんだが、お前走れるか? 」
これは魔導バイクの出番ですな。
「おお、そうか、それならいけそうだな」
ついでに荷物も載せられると告げると、是非そいつを乗って来いと言われた。
屋外には少し不安があったので、強化をしようと思い、魔石の追加が設置可能にすると共に、ライトの魔法が出る魔杖も用意して、必要で打ち出す事にした。
ハンドルに余計な物が付く事になりはしたものの、これなら夜でも安心である。
前方上にライトを発動し、勢いのままに漂うライトの下を走る方式だ。
本当は照らせるようにしたかったけど、ライトの魔法ってのはそんなもんじゃない。
斜めに打ち出せば少し上空を漂うように移動する魔法なんだ。
なのでその速度に合わせて移動するのが常で、前を照らしたりは出来ないんだ。
今度、照明器具も考えてみるかな。
例の学者さんに頼めば魔導具にしてくれるだろうし、また発案を持っていけば喜んで開発してくれるだろう。
あの人って発案は出来ないのに仕事は早くて確実なんだけど、学者ってインスピレーションが大事じゃないのかな。
まあ、オレがその逆だから、相性は良いんだろうけど。
◇
荷台も拡張して動力も強化して、夜でも走れる武器付きの魔導バイクが今、華麗に……空しい。
そういうのってノリが良い奴が近くに居ないと空しくなるんだ、単なる1人芝居みたいでさ。
それはともかく、冒険者の方々と共に、いよいよお出かけになる。
「おいおい、オレ達も乗れそうじゃないか? 」
はいはい、その為に拡張したんですよ。
「おっし、このまま直進だ。いけぇぇぇ」
調子が良いんだから。
「おいこれ、エールじゃねぇか」
ああ、オレのなのに、勝手に飲むなぁ。
端のほうに置いておいたオレのおやつを見つけられ、それと共にエールも見つけられて、今後ろでは宴会の真っ最中。
「お、何だこりゃ、やたら美味いぞ」
「これも、見た事がねぇが、こんなのあったんだな」
「こいつはオクトスっぽいが、味が付いてるぞ」
「どれどれ……ほお、こいつはイケるな」
依頼料割り増しだぁぁぁ。
◇
ああ、酷い目にあった。
「悪い悪い、ついな」
「よーし、ここで夜まで待機だ。今のうちに寝ておけよ」
どうやらもうじき火トカゲの生息域らしい。
遠くのほうで何か動いているようで、あれが火トカゲなのかな。
「あいつらはな、夜は動きが鈍くなるのを嫌がって、穴倉に潜って出て来ないのさ」
やはりトカゲの親戚のようで、変温動物なのかもな。
寒いなら自分が吐く火で温まれば良いものを、巧くいかないものだな。
「いやな、冬にはそうした行動をする奴も居るらしいぞ」
「そうそう、お互いに火を吹き合って温まるとか、オレ達だと丸焦げになりそうな話だが」
「その代わりにオレ達は直接暖め合うんだろうが」
「そう言う事を昼間に言うからアンタはモテないのよ」
「いや、そんなつもりじゃ」
「潜在的にスケベなのよ」
「うっく」
賑やかだな、眠れないぞ。
◇
「火蜥蜴も見えない午前零時♪」
「そりゃ何の歌だ」
「これから生息域を横断するって歌だ」
「即興かよ、やるもんだな」
いえ、単なる替え歌です。
「周囲には居ないようだな」
「何も聞こえない♪」
「良いわね、そういう才能があるってのも」
気を取り直して、いざ、行くぞ。
平坦な道を魔導バイクが走る。
周囲の警戒を冒険者に任せ、時々ライトの魔法を飛ばしながら。
そうして30分ぐらいで生息域を抜ける。
「あっさりね」
「いいなこれ、オレ達も欲しいよな」
「そうね、長距離なら別として、今回みたいなのには便利だわね」
「ギルドで売ってんのか」
「リースってのも良さそうだな」
「ああ、それが良いわ。別の町に移動する時には邪魔になりそうだし」
「魔導馬車ってのも出るらしいが」
「いやね、たまには休暇も取るんだけど、そういうのって管理も大変でしょ。盗られても困るから、そういうのは中々やれないの」
まだ社会に浸透してないから、それへの対応がやれないんだな。
でもそのうち、大陸中に浸透したら、それ用のパーキングとかも出来たりするんだろうし、それからでも遅くはないさ。
生息域を抜けたらひとまず朝まで休憩とばかりに、睡眠の続きとなる。
彼らは少ない睡眠だったのに、後は朝まで起きているとか。
ここはセーフティエリアっぽい造りになっていて、周囲には魔物避けの木が植わっている。
余程大型の魔物じゃない限りはやって来ないらしく、空からも滅多に来ないらしい。
そんなに女神の像って効果があるのかな。
「あれな、女神の像の頭の上にな、魔物避けの魔導具があるんだよ」
知らなきゃ良かった世界の真実。
なんだよ、神頼みじゃないのかよ。
つまり、神様ってのは向こうと同じく、概念的な存在なのかも。
じゃあオレの転移は偶発的なナニカだったのかも知れないな。
神が居ないのに神隠しって……
◇
成程、凧が飛ばない訳だ。
ちょうど飛ばす場所は盆地になっていて、風が全く無いんだ。
その代わり、そこから出ればかなり吹いているので、上空まで飛べば後は何とでもなりそうだ。
なので盆地の外で飛ばしながら盆地へと走り込む。
「ああ、そうすれば良かったのね」
なんでも盆地の外は戦いのに不利とかで、盆地の中で戦うのが常になっていて、外で凧を揚げて移動する発想が無かったらしい。
なので分かれば次はやってみるとばかり、鳥の魔物は順調に討伐されていく。
あいつらの頭の程度はかなり低いようで、凧に目を付けたら他には全く注意を見せないようで、地上近くにも平気でやってくるもんだから、あっさりと討伐されちまうんだ。
凧に書いたでかい目玉が良かったのか、実に注意を引いてくれるっぽい。
あれが気に入らなかった冒険者が真っ黒に染め上げた凧は、あんまり注意を引かなかったらしく、やはり目玉が正解なのだろう。
某社の凧は異世界でも人気です。
◇
帰り道に火蜥蜴を狩る事になり、遠くから見学しました。
火を吹くとは言うものの、大した威力じゃない。
燃えるタンを吐くような感じで、ペッと吐いたらそれが燃えている感じだ。
まあそれが人に当たれば、まるでナパームのような被害になるんだろうけど、その為に盾があるんだろうし、比較的あっさりと狩っていた。
「オレの盾が終わっちまった」
毎回、誰かの盾が犠牲になるらしい。
◇
「頑張って走ってねぇ」
そうなのだ。
あいつら、火蜥蜴を調子に乗って狩るもんだから、荷台は火蜥蜴だらけになっちまい、乗るスペースが無くなったので皆は走って移動している。
「おーい、もっとゆっくり走ってくれぇぇ」
残念だが、この乗り物は低速は不安定なのだ。
確かにトルクはあるけど、ある程度の速度は必要なのさ。
なんせクラッチも簡素な代物だから、一度繋いだらあんまり離したくないんだよ。
何度も連続で使うと壊れるかも知れないんだ。
だから一度繋いだらなるべく速度で調整するから、低速の走りは拙いんだ。
排気ブレーキはその為の措置なんだし、諦めてくれよな。
「先に帰っているから、後からのんびり来ればいいよ」
「そうか、なら、スラムの連中に解体頼めるか」
「ああ、話は付けておこう」
「頼むな」
のんびりしてたら腐っちまうだろうし、先に帰るが肉は諦めてくれよ。
さあ、臨時焼肉パーティだぜ。
◇
(あいつ、えらい勢いで帰ったな)
(腐敗を心配したのかも知れん)
(てこた、帰っても肉は)
(スラムの連中の腹の中かもな)
(はぁぁ、参ったな)
待ってろ、みんな。
腹いっぱい食わせてやるからよ。
雑魚なんて魔杖で撃退だ。
よーし、排除、いっけぇぇ……




