テンプレ異世界道具
実は領主様に相談を受けたんだ。
小麦畑は毎年植えると収獲がかなり悪くなるので、何年か寝かせる必要があると言うんだ。
だからその効率が何とかならないかと聞かれ、輪栽式農法の事を話したんだ。
そうしたら馬の餌になるのならありがたいと、試しにやってみる事になったんだ。
早速にも寝かせてある畑にクローバーみたいなのを植えて、育ったら馬の餌にするらしい。
他にも羊みたいなのも居るらしく、そいつらの餌にも使うようで、何とかやれそうな感じだ。
それでひとまず様子を見ると、その話は終わったんだ。
それは良いんだけど、だからと言って宿屋住まいは不便だからと家を用意すると言われてもな。
オレは料理を作ってくれてそのまま食べるだけなのがありがたいし、部屋の掃除もやってくれるのがありがたい。
そんな宿屋で満足しているので、今更、自分で全部やる1人住まいは嫌なんだがな。
それとなく伝えたら人を雇えば良いと言われた。
だからさ、そういうのってプライベートが取れないだろ。
他人がうろうろしている中で眠るとか、やりたくないんだよ。
信用しない訳じゃなくて、落ち着かないんだよ。
それはまるで会社での仮眠の如く、周囲に人が居る環境では落ち着かない。
これぞ、ボッチ気質。
だからかつての同居人が気になって、東尋坊で……げふんげふん。
いや、別に突き落とした訳じゃないよ。
あいつの黒歴史をつらつらと宿で語っただけだ。
語るといつも暗くなるのを知っていて、東尋坊の旅館でそれを話したら、翌日居なくなっていただけだ。
だからあいつは行方不明な。
同棲相手が消えた事で何か言われたけど、勝手に消えたから男でも見つけたんじゃないかで終わらせた。
オレは結婚する気は無かったのに、しろしろと煩く言うから困っていたんだ。
だってさ、あっちが12才も年上だぜ。
当時は田舎から出て来た純真な田舎者で、あいつが親切にしてくれるからとそれに甘えてたけど、旦那候補のつもりで餌を蒔いていて、それに引っかかっただけだったんだ。
それからは流されるままに過ごして来たけど、あいつと結婚するつもりは最初から無かった。
なのに証書を役所から持ち帰って、書け書けと毎日煩いの何のって。
だから婚前旅行って誘って東尋坊まで行ったんだ。
後はあいつの黒歴史を宿で語れば暗くなり、放置して寝ていたら翌朝居なかったと。
婚前旅行なので同じ部屋は拙いと言い含め、別々の部屋だったから関連はバレてない。
もちろんアパートに戻ってしばらくして警察の取調べは受けたけど、そんなの知らないで終わらせた。
たまたま、同じ旅館だったみたいだけど、あいつが追い掛けてきた来たのかな、ってさ。
示し合わせたら同じ部屋になるはずだし、そいつはあいつに聞いてみないと分からない話だ、ってさ。
用意周到に極悪だよな、我ながら。
そんな事をしているからこうして、他の世界に流されたのかなぁ、島流しみたいに。
◇
領主差し回しは断れないらしい。
しかも、その住まいと言うのがスラムの一番端の家で、市民居住区の外れとも言える場所らしい。
だから市民ともスラムとも言える曖昧な場所の家を提示され、そこに住めと言われたんだ。
確かに流れ者だけど、家も買って市民になっているし、領主からの相談も受けたのに、どうしてそんな仕打ちなのかと少し悩んだものだ。
第一、その家と言うのは商業ギルドから物凄く遠いんだ。
それにまだ石鹸も大量にあるし、大金貨も何枚かは持っているのに、そんな場所に追いやられて盗られたらどうするつもりだよ。
そりゃ今のスラムの連中の中に悪い奴は見かけないけど、今後流れて来ないとも限らない。
保障の無い土地に資産を持って住むとか、まともな市民は絶対やらない事だ。
それをしろって何を考えているんだよ。
仕方が無いから資産の無い奴、つまりはケインに住まわせる事にした。
「金は出すから留守番な」
「いーのかよ、立派な家だぜ」
「構わないさ」
「おっし、今日から引越しだ」
そんな訳で、家を譲り受けたけど相変わらず宿屋住まいです。
◇
「お前、領主に家を貰ったのに住んでないらしいな」
「留守番を置いているよ」
「そうじゃなくて、住まないと要らないと言っているようなものだろ」
「うん、要らない」
「それは拙いぞ。今の領主様は話の分かる方だが、そういうのは嫌がるからな」
「オレは今の境遇に満足しているのに、どうしてわざわざギルドから遠い場所に住まないといけないんだ」
「遠いのか? 」
「東門の近くだ」
「ああ……それでか」
この町は海に面していて、山裾までの横に長い町なんだ。
だからこそ東門を出て凧を揚げたら、町近くで狩りになると領主が思ったのも道理だけど、西門から東門まではかなりの距離になるうえに、商業ギルドは海の近く、つまりは西門の近くにあるんだ。
オレは散歩なら東門近くのスラムまでは歩くけど、工房にもギルドにも遠い場所に住むつもりはない。
だから断ろうとしたのに、断れないから仕方なく、留守番を置いているってのに、それで拙いと言われてもな。
さすがに毎朝、門間馬車に乗るのも嫌だしさぁ。
「モンカン使うしかないな」
「毎朝あれに乗るの? 勘弁してよ」
「仕方が無いだろう。使わないとご不興を蒙るぞ」
どうしてなんだ。
オレもかつては押し売りの経験もあるが、押しあげとか困るんだけど。
一応受け取って使い回しているのに、本人が住まないとダメとか知らないよ。
「じゃあ剣とかもらったら誰かに渡したらいけないんだね」
「ああ、そう言う事になるな」
「しかも、使わないといけないと言われたら、魔術師は困るだろうな」
「まあ、そうなんだが、仕方が無いんだ」
どうにも抜け道は無いようで、仕方が無いから住む事にした。
とは言うものの、宿は相変わらず借りたままだ。
もうね、あそこは倉庫の代わりにするしかないよ。
財産が尽きるまで宿屋住まいにして、無くなったら工房に住もうと思ったのに、とんだお節介もあったもんだ。
そうと決まったら魔導スクーターの開発に入る。
うん、意欲は必要が元なんだな。
必要と思えば工作モチベーションがアップして、つらつらとアイデアが湧いてくる。
安定性の問題から3輪にするとして、熱の魔導具と水の魔導具を活用しての、蒸気発生を促せる。
蒸気式魔導スクーター3輪の作成開始である。
汽笛もやっちまうか。
◇
『ピポー……シュッシュッシュッシュッ』
それはまるで蒸気機関車の如く、街を走る不思議な乗り物。
毎朝工房までそれに乗って移動して、そこからは徒歩でうろうろする。
必要は発明の母とはよく言ったものだ。
宿の朝メシは欠かせないので、早朝の町に響く汽笛。
そのうちにギルドでその話を言われる事になる。
「アレ、出せないか? 」
「馬の生産者に悪いよ」
「だがな、馬要らずで移動出来れば、餌が要らないしよ」
「そりゃそうだけど、苦肉の策なんだよな」
「素直にモンカンを使わずに何とかしようと思ったんだろうが、そのせいで良い物が出来たじゃねぇか。高く買うから売っちまえよ」
確かに馬要らずなら冒険者にも受けるだろう。
しかもパーティで持てば荷物も載せられるし、でかいのを作ればメンバーも同乗できる。
それだけ素材が持ち帰れるし、魔物に追われても逃げる事も可能になるだろう。
怪我人の運搬も容易になるだろうし、行商人も欲しがるだろう。
良い事ずくめなのは分かってはいるが、オレから出すのは設計図だけだ。
つまり、自作しないと儲けにならないって事な。
トイレの件もだけど、自作するギルドの儲けは莫大らしい。
たった5パーセントのリベートでも、毎月大量に入金があるんだから、残り95パーセントはとんでもない額になっているはずだ。
それをまたやれと言うのか。
それぐらいならせめて儲けを山分けにしてくれよな。
それならすぐさま契約しても良いが、さすがにそれは無理だろうし、だったらどっかの商会と組んで、儲け山分けでやったほうがいい。
「ならな、8パーセントでどうだ」
つまり、トイレも同率も可能だったんだな。
なのにオレがあっさりと乗ったから、それだけギルドの儲けがでかくなったと。
「どっかの商会と組んで、儲け山分けでやるよ」
「12パーセント、これでどうだ」
「トイレもそれで良いのか? 」
「うっく、いや、それはな」
「あいつが出せるのにトイレはダメとか合わないだろ」
「はぁぁ、仕方が無いな。トイレも増額するから、何とか受けてくれんか」
「今後も含めて同率で15パーセント」
「それはさすがにきついぞ」
「トイレの時とは違って、今回は設計図がちゃんとある」
「あれの設計図があるのか」
「特に駆動部分は設計図が無いと作れないぞ」
「魔導具なのか」
「ああ、魔導具専門の学者さんに協力を願ってな、何とか完成したんだ」
「仕方が無いな。トイレは12パーセントで今後も同率だが、そいつだけは15パーセントにしてやる」
ここいらが潮時か。
どのみち工場でも無い限り、大量生産はやれないんだし、誰かに委ねるのも仕方が無いんではあるんだよな。
ただ、これは学者に支払った額が半端ない上に、それの権利も買い取ったから大赤字なんだ。
だから自分で大量に作ってみたかったんだけど、やっぱり個人工房には限りがある。
なのでどっかの商会と組んでやろうとしただけで、ギルドがどうしてもと言うなら仕方があるまい。
つくづくでかい組織には勝てないな。